地図がほしいです

10月5日(水)

朝、誰もいない職員室で物理の問題を解いていると、「スミマセン、エーゴ、ワカリマスカ」と声をかけられました。顔を上げると、いかにもアルファベットの国から来ましたという男性がカウンターの向こうに立っていました。筆談もできるようにペンとメモ用紙を持ってカウンターへ行って話を聞くと、彼は10月の新入生で、1キロほど離れたホテルから歩いてきて、東京の地図がほしいということがわかりました。彼のスマホは地図が出てこないので、原宿や渋谷やいろいろなところへ行くので地図を買いたいとのことでした。彼が持っていたホテルからここまでの地図の上に紀伊国屋を示し、開店は10時だと教えてあげました。「ドモアリガト」と笑顔で去っていきました。

文章にすると長くなりますが、この程度の英会話なら今の私でもできます。かつては英語で日本語を教えていましたが、今は英語を話すのも、こんなシチュエーションで年に数えるほどです。日本語教師は、きちんとした日本語を話すことが本務で、それ以外の言語を使うのはサービスだなんて、言い訳していますけど…。

今朝の彼にしてみれば、日本語では自分の意志の1%も表現できないでしょうが、英語なら、受け取る側の能力に大いに問題はあるものの、伝えたいことの大半は伝えられると思ったのではないでしょうか。そして、地図が手に入る場所を知るという、私が思うに彼の最大の目標は達せられたと思います。

この、自分の思いを伝える術があるという感覚は、異国の地においては非常に大きな安心感をもたらします。共通言語がボディーランゲージだけというのは、心細いものです。

明日は、新入生のプレースメントテストがあります。心細さを感じている人たちが大量にやってきます。言葉の面ではどうすることもできませんが、せめて心を目いっぱい開いて、新入生の心を少しでも和らげてあげたいです。

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