入学式挨拶

みなさん、ご入学おめでとうございます。世界のいろいろな地域からこのように多くのみなさんがこのKCPに入学してくださったことを非常にうれしく思います。

みなさんは、日本は初めてですか。外国での生活は初めてですか。一人暮らし、親元を離れての生活は初めてですか。食事を作るのが初めてだという方もきっといることでしょう。初めてづくしで不安を抱えていたとしても、不思議ではありません。また、どうすればいいかわからないことに直面することもきっとあるに違いありません。そんな時、どうしますか。

日本語に自信がない初級の方は、周りの人に助けてもらうことが多いでしょう。多少なりとも日本暮らしをしてきた人の経験や知恵を借りて問題を解決することは、みなさんに経験や知恵を貸してくれる人たちも通って来た道です。日本で暮らし始めてから日が浅いみなさんが恥ずかしく思う必要など、全くありません。私たちKCPの教職員に助力を求めることもあるでしょうが、私たちはそのためにいるのですから、困った時は遠慮なく相談に来てください。

自分ひとりの力で何とかしようと思う人もいると思います。独力で難題を解決した時の達成感、それを通して得られた自信、自分の将来に対して見えてきた希望、そういったものは何物にも代えられません。果敢に挑戦して勝利を手にしたのですから、堂々と胸を張っていいと思います。みなさんを日本へ送り出したご両親をはじめご家族が一番望んでいることは、きっとこういうことではないでしょうか。

とはいうものの、他人に頼ってばかりでは、自分自身の成長につながりません。毎度毎度先輩や友だちに通訳してもらっていたら、その人の日本語力、コミュニケーション力は伸びません。自分の国のコミュニティーの中でしか生きられない人になってしまいます。内弁慶的な人間になっては、大きな成長は望めないでしょう。KCPを卒業して進学なり就職なりしたら、他人に頼れる場面はぐっと減ります。KCPにいるうちに、自立の訓練もしておくことが必要です。大人への階段を上がっていかなければならないのに、踊り場で足踏みしているようでは、留学で得られる成果もわずかなものにしかなりません。

また、逆に、何でも自分で解決しようと思うあまり、泥沼にはまってしまってにっちもさっちもいかなくなった例も、数多く見てきました。もっと早く頼ってくれれば助けてあげられたのに、と思うこともしばしばです。周囲のアドバイスを無視して自分の考えを押し通したあげく、失敗に失敗を重ね、心身ともに疲弊してしまった学生もいました。勇猛果敢と猪突猛進は、紙一重なのです。病気になっても病院へ行かず、こじらせてしまったなどというのも、こういった例の一つと言っていいと思います。

何事もバランスが肝心です。みなさんは、短い人で3か月、長い人で1年半、このKCPに在籍します。その間にできるだけ大きな成果を手にしようと思ったら、時には誰かの力を借りることも必要です。また、独力でなしうる領域を広げておくことも大切です。大して考えもせずに問題集の答えを見てわかった気になってはいけません。同時に、解けない問題を前に腕組みをしているだけでは、何も得られません。答えを見て解き方を身に付け、次に同じような問題に出合った時に独力で解けるようになっていれば、実力が伸びたと言えるのです。

私たち教職員一同は、みなさんが頼ってきたら喜んでお力になります。しかし、時には「そんなこと、自分でしろ」と言うかもしれません。その言葉の裏には、今私が述べたような考えがあるのです。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

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