入学式挨拶

みなさん、ご入学おめでとうございます。世界の各地からこのように多くの方々がKCPに入学してくださったことをとてもうれしく思います。

今年に入ってから、円安の影響もあり、訪日旅行客数が大幅に増えています。このままいけば、今までの最高記録、2019年の約3200万人を上回るだろうと言われています。その訪日旅行客が大勢訪れるところといえば、金閣寺や日光東照宮のような有名な神社仏閣、東京・渋谷や大阪・ミナミのような大都市の繁華街、姫路城や兼六園のような有名建造物や公園、富士山や瀬戸内海などの景観の素晴らしいところ、全国各地の博物館や美術館などでしょう。あるいは、博多どんたく、青森ねぶたといった有名なお祭りを見に行く旅行客も多いのではないでしょうか。

旅行に来たのなら、そういったものを見て、おもしろかった、びっくりしたで十分です。何かを体験して楽しかった、日本料理はおいしかったというだけで満足してしまって構いません。しかし、今ここにいらっしゃるみなさんは、短い方でも2か月間、日本に滞在するのです。長い方なら、KCPで勉強して、大学に入って、さらに大学院に進学して…と考えると、10年単位の年月を日本で過ごすことになります。1週間かそこらで帰ってしまう旅行客と同じ次元で喜んでいるばかりでは、日本に住む、日本で暮らす人としては、内容が薄いと言わざるを得ません。

そもそも、みなさんは日本へ勉強に来ているのですから、勉強を最優先に考えてください。それと同時に、“日本で”勉強するという意義も忘れてはいけません。日本語の勉強は、日本でなくてもできます。現に、約127万人に及ぶ昨年のJLPT受験者の2/3近くが、海外で受験しています。何百万人という人々が、日本の外で日本語を勉強しているのです。みなさんもその一員でした。しかし、みなさんは、決して安くはない渡航費とKCPの授業料を支払って、これから日本で勉強しようとしているのです。

つまり、みなさんの場合、日本でしかできない勉強をし、単なる旅行者とは違った経験をして初めて、この留学が有意義なものとなるのです。日本で進学して、日本で就職して、日本をベースにして生きていこうという人生設計の人なら、なおのこと物見遊山の人と同じ調子で過ごしていてはいけません。

では、日本ならではの勉強や体験とはどんなものでしょう。まず、今すぐできることは、日本人の先生と触れ合うことです。録音された教材ではなく、生身の日本人が話す日本語を味わってください。そして、できれば、日本語教師以外の日本人と話してください。私たち日本語教師は、耳に自動翻訳装置がついていて、変な発音、おかしな文法でも、その人が伝えようとしていることを理解してしまいます。また、目の前の外国人の日本語力を即座に判定して、そのレベルに合わせた日本語を話します。しかし、普通の日本人は、そんなことはしてくれません。そういう人とコミュニケーションが取れるようになることが、みなさんが目指すべき目標ではないでしょうか。

また、この後で紹介されると思いますが、KCPはクラブ活動に力を入れています。そこで苦労しながら、日本語で意思疎通を図る訓練をしてみてください。通じそうで通じないもどかしさを乗り越えた時に、みなさんの前に新たな大地が広がるのです。

そして、自分らしい日本を見つけてください。ガイドブックやどこかのサイト、SNSなどに紹介された日本には、多くの観光客が押し寄せています。東京スカイツリーに上って東京の街を見下ろすのも、話の種に1度ぐらいはいいでしょう。でも、みなさんはそれで終わってはいけません。例えば、スカイツリーの足もとにはいくつかの川が流れています。その川に沿って歩いてみると、みなさんが知らなかった東京の一面が見えてきます。そういう、誰かの経験をなぞるのではない、みなさん独自の経験を積み重ねていってほしいのです。

いかがでしょうか。多少なりとも留学の道筋が見えてきましたか。私たち教職員一同は、みなさんの留学生活をより充実したものにするためのお手伝いなら、喜んで致します。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

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