みなさん、ご卒業、ご修了、おめでとうございます。
1年の終わりは12月31日、大みそかです。暦の上ではそうであり、社会全般にそう認められています。でも、私にとっての1年の終わりは、卒業式の日です。もっと正確に言うと、卒業式で学生たちに証書を渡し終えた瞬間です。最後の学生が証書を受け取り、四谷区民センターの大ホールのステージから降りて行った時、何はともあれ1年が終わったという感慨に浸ります。
そういう意味で、今年は1年の終わりが不完全です。2019年度の残骸を抱えたまま、4月からの2020年度を迎えそうです。何より、みなさんに直接お会いしてご挨拶の言葉を申し上げられないのが、残念でなりません。
さて、本日、こうしてKCPを巣立っていかれるみなさんは、大半が日本で進学なさると思います。KCPに入学した時に思い描いた通りの進路に進めましたか。そういう人はごく限られているでしょう。中には、4月からの進学先は仮のもので、こっそりもう1年勉強して、来日当初の目標を達成しようと考えている方もおいでだと聞いています。
私は、与えられた環境がどうであれ、その中で最善を尽くすように考え、動くべきだと思っています。環境の悪さを嘆くだけでは、進歩も改善もありません。下手をすると、破滅に向かって一直線に落ちていくことにもなりかねません。そうではなく、何がどれだけ足りないのかを把握し、その環境を自分の理想に近づけるためには何をどうすればいいか、建設的に考えていくことこそ大切なのです。
KCPの卒業生の中で、たくましいなと感じさせられる人は、みんなそういう発想をしています。足りない部分を補う努力をすることはもちろん、次善、三善の策を考え出し、1ミリでも望ましい方向に進もうと動いています。その積み重ねが、国にいた時に考えていた姿とは違うかもしれませんが、1人の社会人として尊敬される人物へと、その人を導いてきたのです。
これは、みなさんがどこにゴールを設定しているかにかかってくる問題です。相撲の世界には、「3年先の稽古をしろ」という言葉があります。「今日した稽古(練習)の効果は、明日すぐに現れるわけではない。しばらく時間が経ってから形になるものだ」という意味です。将来の収穫を期待して、種をまき、水をやり続けると言った方がわかりやすいでしょうか。みなさんは、すでにKCPで1年後、2年後に役に立つ勉強として、日本語を学んできました。進学したら、5年後、10年後、20年後にも朽ちることのない頭脳を築いていってください。就職する方も、さらに長期的な視座を持って、自分の今の仕事を位置付けて、歩み始めてください。
みなさんの人生の新しい門出としては実にふさわしくない世界情勢ですが、これもいつの日か笑って思い出話にできることでしょう。そういう話をしに、たまにはKCPへ姿を見せに来てください。
本日は、ご卒業、ご修了、本当におめでとうございます。
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