ひらがなが書けなくても

4月20日(金)

Iさんは私が毎週金曜日に担当している初級クラスの学生です。先週は教卓のすぐそばに座っていましたが、今週は教卓から一番遠い窓際の席でした。先週はとにかく声が小さいという印象しかなかったので、教室の一番奥に座っているIさんを見て、声が聞こえるだろうかと心配になりました。

チャイムが鳴り出席を取ると、Iさんは大きな声で返事をする代わりに、思い切り右腕を真上に伸ばして存在をアピールしました。指名すると、教卓からでもかろうじて聞き取れる声でしたから、先週よりは大きな声を出しているようでした。ペアワークも楽しそうにこなしていました。少しずつ学校とクラスになじんできたのでしょう。

しかし、Iさんの課題は声が小さいことだけではありません。ひらがなカタカナも怪しいのです。みんながほぼ満点を取った語彙テストでも、合格点に遠く及ばない成績でした。その再試を授業後にしました。勉強はしてきたのでしょうが、できませんでした。答えを見ると、長音が特に弱いようです。「きょしつ」「デパト」ですからね。

再試でも間違えた問題は、その正答を5回書かせました。Iさんはそれを嫌がらず、おざなりではなく丁寧な字で書いていました。自分でも自分の状況を認識し、そこから何とか脱却しようとしていることがうかがわれました。長音が弱いということをIさんがわかる範囲の日本語で伝えると、真剣に耳を傾け盛んにうなずいていました。

レベル1の最初の10日ぐらいで再試を重ねるとなるとふてくされてしまう学生もいます。しかし、Iさんはどうにかはい上がって、国で思い描いた道に進もうとしています。Iさんと同じような学生でも殻を打ち破って大きく伸びた例も少なくありません。再試後の課題を出して帰る時のIさんの目からは、強い意志を感じました。Iさんがこの目を持っているうちは、私もIさんの力になってあげようと思いました。

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