7月11日(火)
朝7時前、何気なく玄関の外に目をやると、学生と思しき見慣れぬ男の人が立っていました。玄関を開けると、何も言わずにぬっと校舎の中に入ってきました。新入生だろうと思い、2階のラウンジへ連れて行き、ドアの鍵を開けて「ここでしばらく待っていてください」と招じ入れると、これまた無言でラウンジに入っていきました。
在校生なら、玄関を開けるか開けないかのうちに「先生、おはようございます」か「どうもありがとうございます」でしょう。来日間もない新入生は、頭ではそういう日本語を知っていたとしても、それが適切な場面ですぐに口から出てこないものです。午前クラスだということは、全然日本語が話せないレベルではないはずですが、彼は国で話す訓練をほとんどしてこなかったのでしょう。
9時になって、今学期初めての授業の教室に入りました。「おはようございます」とクラス全体に声をかけると、少し恥ずかしそうな小声の「おはようございます」がたくさん返ってきました。これもまた、いつもの始業日の風景。そして、よく見ると、教卓のまん前に今朝の彼が座っているではありませんか。
教師の板書は几帳面に書き写しているようだし、提出してもらった書類の文字も丁寧で読みやすいものでした。日本語をきちんと勉強していることがうかがわれました。でも、話す力はどうなのだろうと、ちょっと怖い気もしましたが、何回か彼を指名して答えさせました。すると、まあまあきれいな発音をするではありませんか。
彼は潜在的には力を持っていることは確かなようです。しかし、しゃべらなかったらその力は認められることはありません。この彼の力をどうやって引き出し、進学につなげていけばいいでしょうか。早くも大きな宿題を抱えてしまいました。