大丈夫は大丈夫じゃない

6月19日(月)

瞬間、私は目を開けた。そうだ。これは全部夢だったのだ。もったいない気持ちだが大丈夫だ。

先週の作文の時間は、創作的な文章を書かせました。Mさんの作品は後半に入るまで非常にテンポよく進んで、思わず引き込まれました。最後が「夢」というのもベタな終わり方ですが、私はそれ以上に「大丈夫」に引っかかりました。この「大丈夫」が気の利いた言葉だったら、ベタな終わり方を補うこともできたはずです。しかし、最後の最後で「大丈夫」という安易な言葉を選んでしまったため、なんともやりきれない、もって行き場のない中途半端さが残る結末となってしまいました。

このように、安易な言葉を使うと安易な結論となり、文章全体を安っぽくします。「いい」とか「大丈夫」とかはその典型です。話す時でもこういう言葉を多用されると、何だか雑な感じがしてきて、話している人自体の人格を疑いたくすらなります。

そういう意味で、私は、中級以上では、自分のクラスの学生には「いい」とか「大丈夫」のような、便利すぎる言葉気安く使うなと言っています。こういう言葉は意味が広いですから、なんとなくプラスの意味だということを示すのには適していますが、ピンポイントで鋭く描写するには向きません。

ところが、町を歩くと「大丈夫」が氾濫しています。街まで出ずとも、学校の中も「大丈夫」だらけです。語彙が乏しい初級の学生との意思疎通においては、「大丈夫」は有力な武器です。サバイバルジャパニーズとしての「大丈夫」まで否定するつもりはありません。しかし、そうじゃない場面においてまでも多用するのはいかがなものかと思います。私は「大丈夫」以外に表す言葉がないかどうかよく考えて(聞き手の日本語力も勘案して)、どうしてもという場合以外、「大丈夫」は使わないようにしています。

Mさんは次の学期は中級に進級するでしょう。中級の教室で会ったときにこのような文章を出してきたら、遠慮なくガバッと減点してやります。

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