5月23日(火)
インターネットの報道によると、韓国の最強棋士イ・セドル九段を破ったAIのアルファ碁が、中国の最強棋士カ・ケツ九段を破ったそうです。日本でも、先月、将棋のコンピューターソフトPONANZAが佐藤名人を破りました。つい数年前までは、囲碁や将棋の世界でコンピューターが人間に勝つのは不可能に近いか、遠い将来のことだと言われていましたが、あっという間に人間を負かす実力を備えるまでに成長してしまいました。囲碁でも将棋でも、もうトップ棋士といえども、AIには勝てないでしょう。
将棋の世界では、14歳の中学3年生の棋士藤井四段がデビュー以来18連勝を飾っていて、まだまだ記録を伸ばしそうな勢いです。非公式戦ですが、第一人者の羽生三冠をも破ってもいます。このまま進めばタイトル戦の挑戦者となることも夢ではなく、挑戦者となったらタイトル保持者を破り、タイトルを奪取することも十分ありうるという意見も聞かれるようになりました。
この2つは、どちらも新鋭が強豪を破った「事件」ですが、藤井四段のほうは明るい論調で報じられているのに対し、アルファ碁やPONANZAのほうは何がしかの恐怖とともに語られているように感じられます。人間が人間に敗れるのは新旧交代の一環であり、新しい王者への賞賛がどこかにあります。ところが、人間がAIに負けたとなると、人間の人間たる所以である頭脳が否定されたとも受け取れます。また、藤井四段は目に見える生身の人間ですからどこかに安心感がありますが、AIは目に見えない存在ですから漠然とした恐怖感があるのかもしれません。まあ、コンピューターソフトなんて、われわれ一般庶民にとっては幽霊みたいなものですからね。
幽霊に人間の尊厳が侵されると考えると、背筋に寒気を感じます。今、KCPで勉強している学生たちは、これからこういうヌエみたいな存在と戦い続けていくことになります。私たちの世代までは“協調”で済ませられましたが、シンギュラリティが具体的に日程に上りつつある今は、時には正面から立ち向かわなければなりません。そのとき、日本語は学生たちにとって武器になるのでしょうか。私は、日本語という学生たちにとっては外国語をマスターした経験こそが、この戦いにおける矛にも盾にもなると思っています。