暗記で終わらせずに

11月7日(月)

EJUまで1週間を切り、学生たちは追い込みにかかっています。理系志望のCさんも、この1年間の集大成とばかりに、問題を解いたりそれに必要な知識を確認したりしています。ところが、気になることが1つあります。Cさんは公式を覚えることに力を注ぎすぎている点です。どうしてその公式が出てきたかよりも、その公式を丸覚えすることに命をかけているきらいがあります。

確かに、公式を覚えれば、そして正しく使えれば、物理などは問題が早く解けます。しかし、その公式がどういう背景でどういう道筋で導き出されたかを知らなければ、物理を真に理解したことになりません。また、テストでは点が取れて進学もできるかもしれませんが、進学後に大いに苦労することでしょう。苦労するくらいならまだしも、考えることを強く要求される大学の授業についていけなくなるおそれもあります。

公式を覚え、それを使って問題を解くことは、極端なことを言えば反射神経の世界です。しかし、科学の研究は実験と考察の積み重ね、それを論理的にまとめ上げる作業です。新たな公式を生み出す仕事かもしれません。これは、反射神経とは対極にある世界です。ひらめきは必要ですが、それは暗記した公式からは得られません。

そうはいっても、この期に及んで「この公式の裏側にはこんな理論があって…」などと悠長なことはやっていられません。Cさんに公式の暗記をさせてしまった一因は、これまで理科を見てきた私にあります。忸怩たる思いでCさんの公式暗記を黙認するほかありません。

公式とは先人の研究がもたらした珠玉の一滴です。それを暗記という短期記憶にとどめるのではなく、それにまつわる諸々のことどもを知り、長期記憶として頭に刻み込み、それを土台に新しい科学を切り開いていってもらいたいです。これこそが、科学の発展に貢献することなのです。

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