明日の今頃は

6月18日(土)

明日に今年1回目のEJUを控え、今学期最後の受験講座の授業をしました。EJU日本語の読解と聴解の問題をやりました。この期に及んで何か教えるとか、語彙や文法を覚えさせるとか、そういうことはしません。“本番前日だから休む”ではなく、“普段と同じように登校する”という、平常心のようなものを持ってもらいたいと思っていました。

でも、そんな精神論だけでは戦時中の竹やり訓練みたいになってしまいますから、私の思考回路を披露することにしました。学生の目の前にある問題を私が解いた時、どこを読み、何を考え、どう推論し、答えに至ったかを説明してみました。学生は、思ったより感心しながら聞いていました。

読解問題を解くにあたっては、最初から最後までベターッと読んで選択肢を選ぶだけが能じゃありません。受験のテクニックを使って解いた問題もあれば、筆者の論理を読み取って答えを導き出した問題もあります。老獪なと言いましょうか、学生たちにはちょっとまねできない手を使うことだってあります。

本当は、1行目から最終行まで、文章をじっくり味わった上で問題に向かってほしいです。しかし、それでは40分間に25問を“処理する”のは難しいでしょう。そう。まさに処理です。文章の内容について深掘りしたり、関連事項に当たったり、想像力をたくましくしたりすることなく、問に対してまっすぐ向かっていくことが求められます。

EJUの読解の過去問の原典を探し出して、それを上級クラスの教材として使ったこともあります。味読し、議論し、その文章でたっぷり楽しませてもらいました。案外読み応えのある文章を使ってるんですよ、EJUは。来学期になるか、その次の学期になるかわかりませんが、いつか、また、そんな授業をしてみたいです。

授業終了時に、「明日の今頃は、もう日本語の試験は終わってるのかな」と言ったら、学生たちははっとしたような顔になりました。ご健闘をお祈りいたします。

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多様性

6月17日(金)

おとといに続いて、アメリカのプログラムで来ている学生へのインタビューをしました。

Pさんは去年からオンラインでKCPの授業を受けていましたが、時差の関係で苦労が多かったです。だから、どうしても日本で授業が受けたくて、今学期来日しました。日本語の勉強は、文法は難しいですが、漢字は街なかにあふれているので、それを見ながら勉強するのが楽しいと言っていました。何より、日本人と話すのが好きで、あちこちで話しかけているようです。カタコトより多少ましかなという程度ですから、話し掛けられた日本人も、同情と言いましょうか、やさしい気持ちになるようです。

絶対値で評価したら、Pさんの発話力はまだまだです。聞き手の”同情“に頼らなければ、コミュニケーションを取るのは難しいでしょう。しかし、待ちの姿勢ではなく、何でも吸収しようという気持ちも強いです。このままいけば、JLPTのN1合格とか、EJUの日本語で高得点とかというのとは違った方向で日本語力を高めていけるでしょう。まあ、Pさん自身はN1合格を目標としているようですが…。

KCPの強みは、こういう学生もいるところです。みんながみんな大学院や大学や専門学校への進学を目指すのではなく、そういうのとは違う座標軸、評価基準を持った学生も机を並べているのです。Pさんは進学希望の学生たちを、素直に“すごい”“よく勉強している”と感心しています。進学希望の学生も、Pさんから刺激を感じてもらいたいところです。実際、こういう学生から何かを感じ取れた学生は、充実した留学生活が送れるとともに、日本語の実力も大きく伸ばしました。

Pさんが本当にN1を目指すのなら、来年は上級です。最近も、Gさん、Bさんなど、アルファベットの国からの学生が上級まで到達し、クラスに活気を与えていました。Pさんにもそういう存在になってほしいと思いました。

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モニターの中の若者たち

6月16日(木)

来学期の学校行事に関連して、現在、1階の受付前の大型モニターには、過去のスピーチコンテストのダイジェスト版映像が流れています。スピーカーだけでなく、応援の様子も入っています。何年前かわからないくらい昔の映像も含まれていますから、懐かしい顔も時々出てきます。ここに映っている(元)学生たちは、今、どこで何をしているのでしょう。どこで何をしていてもいいですが、できれば日本語を使って幸せに暮らしていてほしいものです。

一説によると、日本で進学した留学生のうち、卒業できるのは6割ほどだとのことです。残りの4割は、理由は各人各様でしょうが、中途退学しています。もちろん、専門学校や大学に在籍し勉強しながら受験準備をして、次の年に“もっといい大学”に進学した学生も少なくありません。経済的理由で帰国を余儀なくされた学生も、毎年一定数はいることでしょう。一番悲しいのは、日本語力不足で退学せざるを得なくなったというパターンです。

大学などはそんなことにならないように、入学試験の時点で面接やら小論文やらで受験生の日本語力をチェックしています。しかし、“対策”が進みすぎると、入試の時点ではなく、入学後に挫折が待ち受けています。進学したら日本語と真正面から向き合う時間なんか、そうたやすく取れません。だから、日本語学校にいるうちに、進学してから困らないだけの日本語力を付けておかなければならないのです。私たちがいくら言っても、この単純な事実が学生たちに伝わらないんですねえ。

映像の中で、マスクをせずに、語り、訴え、主張し、何かを伝えようとしていた学生たち、縦横無尽にステージ上を動き回っていた学生たちが、そのはつらつとしたパワーを進学先でもいかんなく発揮し、“6割“の関門を突破したと信じたいです。

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新しい食生活

6月15日(水)

学期末が近づくと、アメリカの大学のプログラムで来ている学生への発話力テストがあります。それぞれの学生のレベルに合わせて質問に答えさせたりまとまった話をさせたりしながら、文法や語彙の定着具合や発音などをチェックします。テストと言いつつも、雑談の中からそういった力を測っていきます。

Jさんは自炊をしています。日本料理が作れるというので何が作れるか聞いたら、カツ丼という答えが返ってきました。カツ丼が日本料理かなあと思いながらも、ハンバーグやスパゲティを食べてきた人から見たら、ご飯粒の上にしょうゆ味のたれがかかった料理は、十二分に日本料理何だろうと納得することにしました。

Rさんは全く料理をしません。毎日、コンビニ弁当でお腹を満たしています。国にいた時は、仕事をしながらお菓子を食べるのが食事代わりでした。不健康なにおいがプンプンしますが、目の前のRさんは顔色もよく、私の質問に積極的に答え、弱々しい感じはしませんでした。

さて、この2人、食生活が正反対でした。Jさんは朝ごはんと昼ごはんをしっかりとり、晩ごはんは食べないことが多いと言っていました。宿題をしたら、そのまま寝てしまうそうです。一方、Rさんは、朝はコーヒーだけで、昼は抜き、晩ごはんをたっぷり食べます。その晩ごはんが、コンビニ弁当なのです。夜食も少々とのことでした。

2人とも、お金がないわけではありません。Rさんなんか、ゴールデンウィークにしまなみ海道でサイクリングをしたくらいですから。最近の若者は、1日3食じゃなくても平気なのでしょうか。食事は集約して、自分のしたいことに時間を振り向けようとしているのかもしれません。すると、料理をしないRさんなんか、口が寂しくなったらサプリなんて方に進むんでしょうかねえ。

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未納

6月14日(火)

急激に進んだ円安やらロシアのウクライナ侵攻やらの影響で、中小規模の100円ショップが閉店に追い込まれているそうです。取扱商品全般の仕入れ値が上がって、100円で売っていては商売が成り立たなくなってしまったそうです。飲食店も原材料費高騰で、値上げに踏み切るところが増えています。

そんな中、Kさんが来学期の学費をまだ納めていません。KCPは学費の値上げはしていませんが、アルバイトをしているKさんには、諸物価の上昇は相当痛いようです。もしかすると、Kさんのアルバイト自体も危うい状況かもしれません。時給が下がるということはあまり考えられませんが(というか、最低賃金付近でしょうから、下がりようがないとも考えられます)、時間数を削られることはあり得ます。そうすると、ぎりぎりのところで生活しているKさんにとっては辛いでしょう。さらに、病弱なKさんはアルバイトを休んでいるかもしれません。担任の先生によると、成績も思わしくないようです。Kさん、八方ふさがりの感すらあります。

Kさんは挫折してしまうかどうかの瀬戸際に立たされています。せっかく嵐のような2021年を乗り切ったのに、思いもよらぬ経済情勢、世界情勢の余波をかぶって沈没してしまっては、泣くに泣けません。根がまじめなKさんですから、私たちも何とか助けてあげたいです。しかし、私たちにできることは限られています。

毎月100万円ものお小遣いを国からもらっている議員さんたちには、こういった留学の苦労などわからないでしょうね。票につながらない留学生のために汗をかこうなど、微塵も思っていませんよね。

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来学期に向けて

6月13日(月)

来学期から受験講座を受けたいという学生が、授業後に相談に来ました。こういう学生に対しては、厳しいことも言うようにしています。単に志望校へのあこがれだけで勉強を始めても、合格できるものではありません。何でも勉強しようという意欲は認めますが、意欲だけで入れてくれる大学はありません。また、歯を食いしばって勉強しても、成績が伸びないことだってあります。私には「絶対合格させます」などと言い切る自信も度胸もありません。結果が伴わないことだってあり得るのです。

しかし、受験講座に申し込んだ学生には、懇切丁寧に指導し、親身になって相談にも乗ります。今までのデータを駆使し、勝てる勝負の場を示して、その学生の希望に最も近い道を選ぶお手伝いをします。出願校が決まったら、出願書類の書き方から面接試験の受け方まで、きっちり面倒を見ます。授業よりもむしろこちらのほうを十二分に利用活用してもらいたいとさえ思います。

いちばん困るのが、何もかも自分の独断でやってきて、失敗を重ねたあげく身動きが取れなくなり、最後に泣きついてくるパターンです。時期も遅いし、これまでの経過も詳しくはわからないし、条件的に非常に厳しいです。尾羽打ち枯らした様子を見ると、助けてあげたいのはやまやまですが、すでにこちらの手駒もない頃だと、学生自身にとって不本意な進学を勧めざるを得ないこともあります。今からこちらに相談を持ち掛けて来てくれれば、このような事態に陥ることはないでしょう。

相談に来た学生は、申込書を持って帰りました。こちらも、そろそろ、来学期以降の構想を、学生の動向に基づいて、具体化していかねばなりません。

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a+b

6月10日(金)

Dさんは理科系の受験講座を受けています。今学期はEJU直前ですから、授業の中心は過去問を解くこととその解説です。そのDさんから、今週の数学の時間に扱った過去問について聞かれました。

「先生、この問題、式の変形のしかたはわかりました。でも、どうしてここでa+bを求めるんですか」

寅さんじゃありませんが、「そいつを聞いちゃあおしめえよ」という感じの質問です。はっきり言って、その問題でa+bを求める必然性は全くありません。単に、受験生が正確に計算できるかどうか、基本的な式の誘導法を知っているかどうかを見るための問題です。それ以上の意味があるとは思えません。確かに、あるロジックに従って式を変形していく力は数学の勉強を進めていくのに必要不可欠です。しかし、それをあからさまに試験問題にするのは、いかがなものかと思います。

a+bを求めると、その計算をした受験生に何か得るものがあるかというと、せいぜい正解だった時の得点だけでしょう。Dさんは、問題を解くことで新しい事実が浮かび上がってきたり、結果を見て感心したり感動したりしたかったのでしょう。「へーぇ」がほしかったのだと思います。

しかし、この問題のa+bにはそんなストーリー性はなく、そういう点では教科書の練習問題と何ら変わるところがありません。Dさんはその無味乾燥さに疑問を抱いたのかもしれません。

私はDさんの感覚を評価します。解いていて楽しい問題、答えではなく結論を知りたくなる問題、苦労して解いた後に達成感や充実感が味わえる問題、そういった問題が若者の勉強意欲に火をつけ、その若者を成長させるのです。これこそが学問の原動力です。Dさんは、そんな高みに立ちたかったのでしょう。残念ながら、このa+bを解いたところで、Dさんの求める満足感は得られません。

「何でa+bを計算しなきゃなんないんだろう」などと考えていたら、EJUで点は取れません。でも、Dさんの頭には、EJUの点数では代替しえないすばらしい発想が宿っています。それを大切に育てて磨いて、いつかは発現させてもらいたいです。

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伝わってほしいけど

6月9日(木)

木曜日の夕方は、初級の学生への進学授業です。日本の大学に進学するにはどんな準備が必要か、いくらぐらいお金が必要か、どんな勉強をしておかなければならないか、そんなことを中心に話しています。私の話す日本語と日本語で書かれたパワーポイントでは、初級の学生には通じませんから、通訳にも入ってもらっています。

話しながら教室を見渡してみると、私の話を聞こうとしている学生とそうでない学生と、如実に分かれます。聞く気のある学生は、私の日本語を聞き取ろうとし、少しでもわかればうなずき、最後に通訳で内容を確認しているようです。日本語を聞こうとしない学生は、通訳の先生の言葉にだけ耳を傾け、内容を理解しようとしています。

私の話から直接でなくても、私の伝えようとしたことが伝われば、この授業の目的は一応達せられたことになります。しかし、それは形の上だけ、機能面の話に過ぎません。日本語のまとまった話を聞いて理解する訓練を、初級のうちから始めておいてもらいたいのです。初級の先生が話す、語彙コントロールの十分利いた日本語ではなく、難しい単語がふんだんに織り込まれた話から、自分に関わりのある事柄を、初めのうちは断片的でもいいですから、つかみ取る訓練をしてもらうのも、隠れた目的です。

こちらも、学生たちにどうしても知っておいてほしいですから通訳を付けていますが、通訳の話す学生自身の母語に頼り切られてしまうのは、面白くないです。せっかく日本で対面授業を受けているのですから、そのメリットを最大限享受してもらいたいです。

気が付いたら、今学期の木曜日は、あと来週だけです。学生たちは、多少は私の日本語が聞き取れるようになったのでしょうか。

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不正発覚?

6月8日(水)

一橋大学の留学生入試で不正があったと報じられています。SNSを利用して外部に送って解答を依頼したのですが、依頼された方が怪しいと思って大学に連絡したとのことです。

つまり、大学側は不正を発見できなかったのです。ということは、同様の不正が一橋大学以外で発生していても全く不思議ではないということです。いや、発生していたと見る方が自然でしょう。その不正がうまくいったかどうかというよりも、不正を試みる、不正に頼る留学生受験生が地下に潜んでいそうだということの方が、重大であり、嘆かわしいことです。

せっかく岸田首相が「留学生は日本の宝だ」と言ってくれたのに、こんなことをしていたら「日本のごみ」と言われかねません。すでにネットではその類の発言が載っています。留学生への風当たりが強くなったり、そういう世論に合わせて留学生支援策が後退したり…ということになったら、留学生が生きにくくなってしまいます。

こういう不正を予期したかのように、6月のEJUの注意事項が、かなり気合の入ったものになっています。初めて読んだ時は、ここまで事細かに指示するかと思いましたが、こういう不正の横行を防止するには、そのぐらい厳しい規制を設ける必要があります。EJUも不正のうわさが絶えませんからね。

でも、不正をしてまで一橋大学に入ったとして、その留学生は幸せなのでしょうか。学力的に高下駄を履いたままで、周囲の優秀な学生に伍して一橋クラスのハイレベルな授業についていけるとは思えません。入学後も不正を働きまくって卒業する気だったのでしょうか。

取りあえず、試験会場に入れてもらえないとか、途中でつまみ出されたとかという学生を出さないよう、しっかり指導していきます。

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健康の源

6月7日(火)

午後3時ごろでしょうか、Xさんの姿を見かけました。「体調、良くなった?」「はい、どうにか」。実は、昨日の朝、Xさんから学校に電話が掛かってきました。

「はい、KCP地球市民日本語学校でございます」「おはようございます。もしかすると、金原先生ですか」「はい、そうですが、あなたはだれですか」「Xです。すみませんが、M先生はいらっしゃいますか」「はい、少々お待ちください」「はい。M先生を呼んでくださってありがとうございます」

その後のM先生とXさんのやり取りを聞いていると、どうやらXさんは体調がイマイチですが学校に出てこようとしているようでした。M先生に説得され、結局休むことに。きっと、進学フェアで志望校の話を聞きたかったのでしょうね。でも、こういう時期ですから、少しでも体調が悪かったら休んでもらっています。

「はい、どうにか」と答えたXさんの顔色はよく、声もしっかりしていました。100%ではないにせよ、体調も回復したのでしょう。それに比べて、昨日の進学フェアの会場にいたHさんはなんだかむくんでいました。前から大きかった体がさらに一回り膨らんだ感じがしました。ジャージがはちきれそうでした。聞くところによると、Hさんは何かというとすぐ休んでいるとか。骨と皮になっているよりはましかもしれませんが、見たところ締まりがなく、不健康な感じがしましたねえ。あの体をスーツに包んだとしても、面接官に与える印象は芳しくないでしょう。

Xさんは校舎の掃除のアルバイトをしています。夕方、ぱきぱき働いてゴミ捨てなどをしてくれました。体を動かすことをいとわないところが、Xさんの長所であり、少しの病気ぐらい跳ね返してしまう原動力になっているのです。Hさんにも見習ってほしいですね。

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