あるgive up

5月30日(月)

昼休みにSさんが私の所へ来ました。Sさんは今学期の新入生で、つい先日、ようやく来日したばかりです。受験講座を取っていますが、6月のEJUは受けません。数学の授業がわからないというのが相談内容です。

今学期の受験講座は、6月のEJUに照準を合わせています。ですから、ゼロからの学生向けというよりは、一通り勉強していることを前提とした内容です。そのため、Sさんには難しすぎたのでしょう。

聞いてみると、Sさんの志望学部は文学部です。ということは、国立を目指さない限り、EJUの数学は不要です。同じ文科系でも経済学部などならいざ知らず、文学部なら進学後も数学を使うということはほとんどないでしょう。それに加え、Sさんは国の高校で数学は苦手だったそうです。受験講座の数学の勉強が、大きな負担になっていると言います。それなら、無理して数学の勉強をすることはありません。数学の勉強時間を総合科目に振り向けた方が、望ましい結果に近づきます。

そういうアドバイスをすると、Sさんは重石が取れたかのように、表情が柔らかくなりました。しかし、数学を捨てたということは、勝負できる科目が少なくなったということです。その科目でより一層高得点を取らないと、Sさんが考えている大学は入れてくれないでしょう。総合科目に注力するということは、背水の陣を敷くということを意味します。180点ぐらいを目標にしてもらわなければ困ります。

私個人としては、Sさんに数学の勉強を続けてもらいたいです。数学を勉強しておけば、将来、きっと世界が広がります。でも、いやでたまらない勉強を無理にさせることでSさんをつぶしてしまってはいけません。そういう目でSさんの今後を見守っていきます。

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アラームのあとで

5月28日(土)

朝からけたたましい警告音が何度も鳴り響きました。初夏の日を受けて校舎内に入ると、髪や服やかばんなどが部分的に37.5度以上になり、温度センサーに引っ掛かってしまうのです。コンビニや喫茶店で買って持って来た飲み物が反応することもあります。教師はきまり悪そうに持ち物を衝立の向こう側に置いて、入り直していました。受験講座を受けに来た学生も、ほぼ全員がアラームにびっくりしていました。日陰で服や体を冷ましてから再挑戦する学生も。10時少し前に玄関の外に出て空を見上げると、かなりの高度にお日様がいました。

その10時から、新入生のウェルカムパーティーがありました。今回は、今までとは違って、上級の在校生に声を掛けて来てもらいました。そして、新入生というか、最近来日したばかりの学生たちと数名ずつのグループになって、留学の心得を伝えたり、日常生活のアドバイスをしたりしてもらいました。

グループを作る前に一言ずつしゃべってもらいましたが、みんな日本語がうまいですねえ。まあ、そういう学生を選んではいるんですがね。学生の話す力が落ちているんじゃないかと危惧していましたが、この学生たちならどこへ出しても通用するでしょう。

グループで話し始めると、話が止まりません。新入生側は聞きたいことがいっぱいあり、在校生側は語りたくてたまらないのですから。レベル1の新入生も、及ばずながら日本語で話そうとしていたのがほほえましかったです。こういう経験が、弾んだ会話ができるようにもっと勉強しよう練習しようという意識向上につながるのであれば、まさに一石二鳥です。

予定をずいぶんオーバーしてしまいましたが、みんな満足そうでした。そして、ほぼ真上からの日差しを浴びながら帰って行きました。

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5倍、8倍、10倍、12倍‥‥

5月27日(金)

私のうちの近くにあるドラッグストアAは、税抜き100円ごとに1ポイントもらえるポイントカードを発行しています。これは普通のことですね。私もそのカードを作りました。Aは、時々ポイント10倍セールをします。そうすと、私のようなけちんぼは、10倍セールの日を狙って買い物します。何が何でもAで買わなければならないものもなければ、急にAで売っているものが必要になることもありませんから、10倍セールの幕が出ていたらAに入ってみるのです。仕事帰りにふらっと立ち寄って、これはと思うものがあれば買います。

ところが、去年、Aは10倍セールをやめてしまいました。その代わり、8倍セールと5倍セールを始めました。10倍だとポイントをあげすぎて、もうからなくなったのでしょう。私はAに寄らなくなりました。10倍セールの存在を知っていますから、8倍や5倍で買うのは忌々しい感じがします。うちの近くには、AのほかにドラッグストアBや、ホームセンターCもあります。マスクなら、スーパーDにも置いてあります。

私みたいな客が多かったのか、いつの間にかAは10倍セールを復活させました。幕が新しくなったような気もします。入ってみると、以前と同じようににぎわっていました。そういえば、1割引きの日が、月に1日から3日に増えていました。

そして、3月ごろでしょうか、なんと、Aの店先に12倍セールの幕が出ているではありませんか。10倍では客が戻ってこなかったのでしょうか。12倍の日に店をのぞいてみましたが、ほしい物は特になく、何も買いませんでした。こうなると、15倍セールを期待したくなります。

こんなことをしている人が多いから、日本の景気って良くならないんですね。でも、本格的なインフレが来そうだと聞くと、15倍どころか20倍セールまで待ちたくなります。岸田さん、こんな私は非国民ですか。

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話しながら

5月26日(木)

今年のアートウィークの目玉は、似顔絵コーナーです。美術系の大学・大学院への進学を目指す学生が似顔絵師となって希望した学生の似顔絵を描くのです。

Hさんはその似顔絵師の1人です。待ち構えていたところへCさんが来ました。アクリル板の向こう側にCさんを座らせ、小ぶりのスケッチブックを広げて描くのですが、世間話をしながらなんですね。縁日なんかでお店を開いている絵描きさんと同じ雰囲気でした。話に夢中になっているからなのか、絵を丁寧に描いているからなのか、時間はかかっていましたが、出来上がった似顔絵は、Cさんの特徴を余すところなく捕らえていました。「Cさん、悪いことできないね。Hさんの絵はモンタージュ写真よりよくできているから、それ、貼り出されたら一発で捕まっちゃうよ」なんて、言われていました。

Tさんは、盛るのが上手です。こちらは捜査には使えませんが、描いてもらった女子学生は、みんな喜んでいました。瞳がキラキラした似顔絵を見ている学生の瞳が、本当にキラキラし始めました。Tさんもまた、世間話をしながらでした。お客さんとやり取りしているほうが、特徴をつかみやすいんでしょうかねえ。あるいは、コミュニケーションを通して、お客さんのいい顔を引き出しているのかもしれません。

芸術家は、やっぱり、人の心をつかまないと、人の心を動かす作品は創作できないのでしょう。HさんとTさんは、そんな術が自然と身についているのかな。私みたいな芸術性のかけらもない者のうかがい知れない何かを持っているのですよ。

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勝つためには

5月25日(水)

EJUまで1か月を切っていますから、受験講座も追い込みです。EJUの理科系の科目は、どれも問題数が多いです。1つ1つの問題は難しくないのですが、数をこなさなければなりませんから、問題全体の難易度は決して低くはありません。また、物理や数学は計算量も結構あります。それを決められた時間内に処理して答えを出すとなると、それなり以上の実力が必要です。

受験講座を受けている面々は、スピードがまだ足りないようです。制限時間内にすべて答えるというところにまでは至っていません。ですから、できる問題を確実にものにしていくようにと学生に言っています。1番の問題から順番に解いていくのが常道なのでしょうが、やさしい問題、得意分野の問題から取り組んでいくことが、点を伸ばすことにつながります。最後のほうに解ける問題があったのに、時間がなくて手を付けられなかったとなったら、実力を発揮したことになりません。それは残念過ぎます。

また、わからない問題にいつまでも関わっていてはいけません。あきらめることも肝心です。東大みたいなところを目指すなら1問たりとも落とせませんが、そうでなかったら何問か捨てることだって場合によっては必要です。1問捨てることで2問拾えるのなら、そうすべきです。横綱相撲が取れるほどの実力がなかったら、けれんみを出すことだって考えなきゃ。

何の戦略も戦術もなく戦場に立ったら、右往左往しているうちに、得るものもなく戦いが終わってしまいます。志望理由書や面接などで多少盛るのと同じだと考えれば、気も楽になります。

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テーブルを挟んで

5月24日(火)

5月も下旬となれば、かなり高い位置から日が差してきますから、ビルの谷間にあるKCPの校庭も、昼は太陽光の恵みにあずかることができます。半袖だと風が肌寒く感じることもありますが、日が当たっていればそんなことなど忘れさせてくれます。このところ、校庭で勉強する学生が出てきました。うちで宿題をするよりも図書室で教科書を広げるよりも、校庭のほうが気持ちよく、はかどるのかもしれません。

談笑している学生もいます。校庭のテーブルにはいつの間にか椅子が2脚ずつ配置され、授業後のひと時を過ごすにはうってつけの場所となっています。去年は椅子を1脚ずつにして、学生同士が集わないようにしていました。それを思うと、笑い声こそ聞こえてきませんが、テーブルの周りでいかにも楽しそうにしている学生たちが現れたのは、日常復帰への第一歩か二歩です。

このところ、屋外などではマスクを外そうという動きが少しずつ出てきました。談笑だとマスクを取るわけにはいきませんが、校舎の外ならもっとはしゃいでもいいのかなあと思います。今までの自分の世界よりも広い世界から来た友人と知り合うことは、留学の主要な意義の一つです。2階のラウンジではしてほしくないですが、校庭はどんどん活用してもらいたいですね。

ある程度の新規感染者を出しつつも、日々の活動を可能な限り元に戻していくという流れができつつあります。この流れが滞ることなく太くなっていってほしいです。最初はほんのちょっとの間だけ我慢すればと思っていたのが、もう3年目ですからね。

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たたずむ

5月23日(月)

今週は、アートウィークです。腕に覚えのある学生が、作品を展示したり演奏などを披露したりしてくれます。去年はなかった、クラブ活動の発表も予定されています。

展示会場で作品を見てみると、私の知っている名前もいくつか。Aさんってこんな趣味を持っていたのか。Bさんの感性はなかなか鋭いなあ。Cさんは芸術系志望だから、これくらいは当然かな。…などと、勝手な感想を抱きつつ、鑑賞させてもらいました。

私には芸術的素養というものが欠如していますから、絵を描くとか写真を撮るとか動画をつくるとか、そんな活動は一切しません。でも、ほかの人の力作を見るのは好きです。私の「素晴らしい」と、多くの人たちの「素晴らしい」とが一致するかどうかはわかりませんが、私なりのポイントで芸術作品や文化財を見てきました。

そういったものを見てしばらくその前から動けなくなったのが、ルーブル美術館のモナ・リザと、吉野の金峯山寺の金剛蔵王権現です。モナ・リザは、ルーブルの中では小さい部類に入る絵ですが、オーラというよりは引き付けて放さない何物かを強く感じました。金剛蔵王権現は、青い仏像です。数年前の御開帳で見て、その前に座り込んでしまいました。何かを願ったり祈ったりするのではなく、ただその前から離れがたかったのです。

そんな私の目で見て、じっとたたずんでしまったのが、Dさんの写真とEさんの絵です。この手の作品をもっと見てみたいなあと思いながら、会場を後にしました。明日もまた、見に行くつもりです。

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季節外れの卒業証書

5月20日(金)

夕方、卒業証書を渡しました。もちろん、5月20日などという中途半端な時期に卒業する学生はおらず、今年の3月の卒業生でもありません。なんと、2年前の学生です。

2年前の3月は海外からウィルスが入ってきて感染が広がり始めたころです。卒業式は中止になり、日時予約制で学校へ来た卒業生に証書を渡していました。「不要不急の外出は避けましょう」という時期でしたから、学生たちには無理に証書を取りに来いとは言っていませんでした。そのため、取りに来る時機を逸してしまった学生もいました。そんな1人のSさんに渡したというわけです。

Sさんは進学先を卒業し、明日、一時帰国するそうです。3年ぶりに家族に会って充電したらまた日本に戻ってきて、仕事を始めると言っていました。国へ帰る前に証書をもらってけじめをつけようという気持ちが、Sさんの心の中にあったのかもしれません。

バタバタしているうちに過ぎてしまった2年ですが、Sさんのような若者にとっては重い意味を持つ2年だったはずです。現に、どうにか日本語が使えるだけだったSさんが、仕事を始めるだけの能力実力技術力を付けたのですから。そして、一時帰国してすぐに戻って来られるくらいにまで、海外との行き来が復活しつつあるというのも、驚きであり、うれしくもあります。

2年前に職員室の片隅で証書を渡した卒業生たちは、どんな学生生活を送ったのでしょう。専門学校や大学院に進んだ学生たちは、Sさんと同じ立場です。苦しみながらも新たな道を歩み始めていると信じたいです。

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EJUじゃなくて

5月19日(木)

理科系のGさんは、6月のEJUも受けますが、現時点で第一志望の大学の入試は、EJUが不要です。日本人の受験生と同じ試験を受けて、同じ合否基準で判定されます。共通テストは不要で、独自試験で合否が決まるようですが、外国人留学生にとってはかなり難関です。

理科系ですから、独自試験は数学や理科です。筆記試験ですから、マークシート方式のEJUとは問題の作りが違います。一問一答とか、誘導に従っていけば答えにたどり着くとかいった問題ではなく、自分で論理を作り上げていかないと答えに到達しません。そうすると、EJU対策だけでは不十分です。数式を変形したり、化学反応式を書いたり、日本語で書かれた長い問題文を読み解いたりしなければなりません。

最近、留学生入試ではない入試を通って大学に入る留学生が増えています。Gさんのように、志望校の志望学部学科に留学生入試が設定されていない場合もあれば、留学生入試にはつきものの面接試験を避けるために一般入試を選んでいることもあると聞いています。しかし、Gさんは日本語を話す力は十分にありますから、それを活用しない手はありません。

ですから、志望校の入試方式を詳しく調べるように指示を出しました。私が受験生だったころとは違って、今は大学1年生の半分かそれ以上が一般入試以外の方式で入っています。Gさんの特色が生かせる入試方式がないとも限りません。少しでも有利な戦場で戦うことも、受験に勝ち抜くには必要なことです。

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マイナスがプラスに

5月18日(水)

「先生、受付にいるの、Kさんですよ、3年前にS大学に入った。ちょっと話を聞いてやってくださいよ」と声を掛けられ、受付のカウンターの外側に立っている人に目をやりましたが、見覚えがありません。3年前なら、名前は忘れても顔ぐらいは覚えているものですが…。「50キロやせたんだって」と言われ、半信半疑のまま受付へ向かいました。KCPにいたころのKさんは、100キロ超え(肥え?)でした。

「先生、お久しぶりです」という声は、確かにKさんのものでした。しかし、KCPの校舎内で会っているからKさんの声だと判断したのであり、街角で同じように挨拶されたら、名乗ってもらわない限り、絶対にKさんとはわからないでしょう。マスク以前の学生ですから、マスク顔はなおのことわかりません。

Kさんは就活の最中です。数十社にエントリーシートを送り、すでに何社も面接を受けています。まだ内定をもらうには至っていません。留学生にとっては、かなり厳しい就職戦線だそうです。1社からではなく複数社から内定をもらっておかないと、会社側の都合で内定が消えてしまうことがあるので安心できないとも言っていました。

KCP在学中はマイペースでわがままな一面もあったKさんですが、そういうところからは脱皮したようです。50キロ減も節制のたまものです。子どもだったKさんが、大人になったということでしょうか。オンライン面接でも、日本人に伍してグループ面接でも、何でもこなしているというKさんに、頼もしさを感じました。

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