手間がかかります

2月6日(月)

授業が終わると、まず欠席者への連絡をします。メールを確認すると、朝の時点で連絡がなく欠席したLさんとSさんからメールが入っていました。2人とも欠席の理由は寝坊だそうです。目覚ましが鳴らなかったとか聞こえなかったとか言っていますが、単なる怠け病でしょう。Lさんは今年の進学をあきらめ、Sさんは進学が決まり、両名とも緊張感がどん底の状況です。本当は出席率が危ないのですが、何度注意しても糠に釘です。それでも、返信メールで一言文句を垂れておきます。

Wさんからは何の連絡もありませんから、電話をかけました。しかし、出ないし留守電にもならないしで、連絡が付きませんでした。すぐにメールを送りました。こちらもしばらくは何のイベントもない学生で、中だるみ状態です。すでに24年度入学の戦いは始まっているんですがね。

これら連絡の前に、教室で先月派手に休んだKさんとGさんに説教をしています。Zさんは用事があるからとすり抜けていきました。

こうしたことに、30分ぐらいの時間を費やしました。学生の欠席は、遠慮会釈なく教師の時間を奪っていきます。こうした後ろ向きのことに時間を使いたくはないんですがね。

そうしているうちに、Cさんが進学相談に来ました。先週、数学はできないけれども、情報系の学部に進みたいと言っていました。検索のヒントを与えておいたところ、自分である程度調べて、私の意見を聞きに来たというわけです。Cさんが挙げた大学は有名校ばかりではなく、滑り止めも考えられていて、バランスが取れていました。もういくつかの大学を紹介して、Cさん自身に調べて考えてもらうことにしました。

こちらも30分ぐらいの時間を使いましたが、後味がさわやかでした。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

心の鬼

2月3日(金)

節分の日は、かつては赤坂の日枝神社の豆まきを見に行ったものですが、日枝神社は今年も豆まき中止です。手近なところで午前中に豆まきをしている神社仏閣は少なく、今年は節分の翌日は立春ということで、春を探しに新宿御苑巡りをすることにしていました。しかし、日中も日が照らず、気温も上がらず、受験生に風邪をひかせては取り返しがつきませんから、教室で過ごすことにしました。

私のクラスでは、各人の心の鬼を発表してもらうことにしました。怠け心、傲慢さ、ゲームで派手に課金してしまうことなどといういかにも心の鬼といった回答が多かったです。その中で、Nさんは「自信がありすぎること」と答えました。

授業中のNさんは几帳面にノートを取っており、指名するとやや小さめの声で答えます。とても自信があるような答え方には見えません。でも、本人としては自信過剰なんですよね。確かに、Nさんの志望校はK大学をはじめ、超一流校ばかりです。冷静に見て、今のNさんでは、K大学には手が届かないでしょう。それでも受かると思っているとしたら自信過剰でしょうが、そういう自分自身を自信過剰だと評価しているのなら、謙虚なものではありませんか。一体、どちらなのでしょう。

受験生の心は不安定なものです。ある日自信過剰でも、翌日はそのすべてを失っていることだってあります。教室では表情を変えないNさんですが、私たちのうかがい知らないところで大きな波にもてあそばれているのかもしれません。

こういうことがわかったのも、福の神のお力でしょうか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

手がかからない作文

2月2日(木)

昨日のクラスの作文を採点しました。このクラスはさすが上級だけあって、初級・中級クラスのように、文字は日本語だけど文は日本語じゃないというような作文はありません。頭をかち割って中をのぞいてみたいというような、超ユニークな発想をする(論理が三段跳びしているような)学生もいません。そういう意味で、楽をさせてもらっています。

でも、逆に、こういう考え方もあるのかと感心させられる作文にも出会えません。昨日の作文も、評価Bがやたら多くて、評価基準を変えようかとも思っています。受験勉強で飼いならされて、無難な文章を書くようになってしまったのでしょうか。だとしたら、悲しすぎます。

確かに、作文を書く前に、テーマについてグループに分かれて話し合わせました。友達の考えに刺激を受けて、弁証法的に議論の質が上がればと思ったのですが、アウフヘーベンには至らなかったようです。逆に、みんながどんぐりレベルで均質化してしまった感があります。

普段の授業での議論が足りないのかなとも思います。議論に乗ってくるのは限られた学生で、Cさんに至っては何を聞いても首を振るばかりです。そういう学生に無理やりしゃべらせるのはよろしくないというムードが社会的に強まってきていますから、こちらも引いてしまうんですよね。

とりあえず、B評価はB評価として、しばらく寝かすことにします。来週の月曜あたりに見たら、別の姿が見えてくるかもしれません。語彙や文法の間違いが少なかったからBは取れているという面もあります。直す手間が少なく、わりと早く採点が終わったという点も、学生たちに感謝しなければなりませんね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

また休みました

2月1日(水)

Yさんがまた休みました。授業後電話をかけましたが、出ませんでした。おとといの私の授業も休みましたが、その時は電話には出ました。精神的に参っているようでした。

Yさんは有名大学に進学すると言って、去年の4月に入学しました。最初のつまずきは数学でした。文系志望ですが国立を狙うということで数学も勉強し始めましたが、だんだん手が回らなくなり、夏までに撤退しました。数学よりも総合科目に注力し、私立のいいところに入るという手は、多くの先輩がやってきました。

夏を過ぎたあたりから、授業中の内職が激しくなりました。机の上に堂々と総合科目の参考書を出し、教師と衝突することも目立ってきました。焦りが募ってきたのでしょう。でも、このあたりからYさんの日本語力は、読解力に偏りだしました。話す力がある点が、Yさんが同じレベルの学生より勝っている点でしたが、それがだんだんそうでもなくなってきました。内職のおかげ(?)で読む力は伸びているようでしたが、授業中に教師の話を聞かず、教師からも相手にされなくなってきましたから、話す力は伸び悩んでしまったのです。

受験した大学に落ち、精神的に追い詰められていきました。そうすると内にこもってしまって、負のスパイラルに陥ってしまったようです。教師とつながっていたいような、放っておいてもらいたいような、微妙な心境なのだと思います。もはや有名校もへったくれもなく、入れるところに入るという考えになっています。どこか1校でも合格すれば気分が大きく変わるのでしょうが、それができないからこそつらいのですよね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

ごがつようか

1月31日(火)

上級クラスで、ニュースのディクテーションをしました。その中に「コロナ、5月8日に5類感染症に…」というのがありました。これが、とんでもないことになってしまいました。学生の答えを見ると、5月8日派と5月4日派が拮抗していました。元々あまり出来のいいクラスではありませんから、何名かは苦戦するだろうなと顔を思い浮かべていました。しかし、思いもよらなかった学生まで間違えていました。そんなこんなで半々になってしまいました。

そもそも、“4日”と“8日“は、初級のディクテーション問題です。上級の学生がこんなところでつまずいていてはいけません。でも、このクラスの学生は、学校以外で日本語に触れていない節があります。国の友だちと暮らし、国のコミュニティーを通して情報を得、国の言葉に包まれて生きていたら、日本語を聞き取る耳など育つわけがありません。自動翻訳信者だったら、もはや日本語は必要ありません。

だいたい、このニュースは大きく扱われましたから、それを全然知らないという方がおかしいです。知っていれば、“4日”なのか“8日”なのかはわかるはずです。私の発音が悪くて“よっか”と聞こえても、“ようか”と修正できるでしょう。国のニュースは見逃さなくても、日本のニュースは全く無視しているに違いありません。

答え合わせの後、思わず説教モードになってしまいました。さすがに「よっか、ようか、とおか」などという発音練習まではしませんでしたが、このままこの学生たちを世に解き放っていいものやらと、心配になりました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

スマホを見る

1月30日(月)

Pさんがまたスマホを見ています。読解問題のプリントを配ると、普通の学生はわからない単語を調べるためにスマホを取り出します。スマホに頼りっきりでテキストを読むのはあまりほめられたことではありませんが、それでもまだ理解の範囲内です。しかし、Pさんはプリントそっちのけでスマホに集中します。スマホ依存症と言って差し支えないでしょう。

Pさんは漢字の読み書きが極端に弱いです。上級の読解となると、漢字で書かれた単語がわからなかったら、手も足も出ません。単語を調べると言っても、ほとんどすべての漢字の言葉を調べなければなりませんから、いくらスマホの使い方に習熟していると言っても、それにかかる時間は半端じゃありません。だから、最初からあきらめてしまっているのです。

じゃあ、そんなPさんはどうして上級クラスにいるのでしょう。ひとえに、聴解力と話す力のおかげです。日本語を聞いて理解する力は他の学生よりも強いですから、教師の話を理解するのはクラスメートよりも速いです。理解したことや自分の意見を話す力も標準以上ですから、一見するとできる学生なのです。読んで書くテストは下手をすると初級以下かもしれませんが、理解力はどう考えても上級です。

現に、読解試験のない大学に合格しています。その大学の合否判定基準がどうなっているかわかりませんが、面接時の受け答えが高く評価されたに違いありません。最近KCPから進学者がいなかった大学に入ってくれたことはうれしいですが、入ってからどうなるか非常に心配です。

Pさんみたいな学習者は、日本語スタンダードのどこのレベルに入れればいいんでしょうかね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

今学期は忙しい

1月28日(土)

今学期は受験講座のほかに、上級の1レベルと選択授業1クラスの授業を全面的に作り上げていかなければなりません。卒業・進学の学期ですから、JLPTのN1の問題集なんかやったところで、学生にとってはありがたくも何ともありません。「進学してから役に立つ授業」を目標に、無い知恵を絞っています。

読解は、市販の教科書も使っていますが、“今”の日本を感じてもらうために、新聞やら動画やらにも触手を伸ばしています。学生たちの興味を引きそうな話題で、少し気合を入れれば読める難しさで、読んだ後で意見交換ができそうな内容で、などと注文を付けていくと、そうそうたやすく手に入るものではありません。

選択授業は、先週この稿で取り上げたとおり、学生に日本の観光ガイドを作ってもらいます。どこかのサイトの丸写しでないものを作らせるには、ターゲットとした観光地に興味を持ち、多角的に調査し、その結果をまとめ上げるという活動が必要です。これには、まず、きっかけを与えなければならないと思い、そのための資料作りをしました。日本国内の地理に関しては、私は1都1道2府43県すべてに足を踏み入れたことがありますから、ある程度のネタは持っているつもりです。いかにしてそのネタに学生を食いつかせるかが主戦場です。

授業に加えて、進路が決まっていない学生を志望校に送り込むという仕事もあります。むしろ、こちらのほうが重要かもしれません。週が明けたらこちらのテコ入れもしていかねばなりません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

辞書だって

1月27日(金)

漢字の読みの問題で、「犯人グループは地下に潜った」という例文が出てきました。クラスの学生たちは、当然のごとく読めました。

「Aさん、犯人グループはどうしたんですか。何をしたんですか」と聞くと、Aさんは、「地下に入りました」と答えました。他の学生たちも、「うん、そうだね」という雰囲気でした。「犯人たち、地下鉄に乗ったんですか。新宿駅の地下で買い物か食事したんですか」と追い討ちをかけると、ようやくクラス全体が、犯人グループはただ単に地下へと移動したのではないと気付いたようでした。

ここまでみんな「地下に潜った」をスルーするクラスも珍しいですが、どのクラスでも字義通りに受け取って平気な顔をしている学生は少なくありません。漢字の問題ですから、読めさえすればいいと思うのでしょうか。機械的に読み方を調べてふりがなを書いただけでは、上級の予習としては不十分です。視野を広く持ち、読み仮名を振ったら文を読み返し、文全体の意味を考えるくらいはしてほしいです。ほんのちょっと気を回せば、「地下に潜る」が慣用表現であることぐらい、ピンと来るはずです。

そういうことができる学生は上級になってからも実力が伸び続け、形式的に漢字の読み方を書いて済ませてしまう学生は伸び悩むのでしょう(そういえば、この「伸び悩む」も、「背が伸びて大人になったので人生について悩むようになった」とかと、ずいぶん大げさな解釈をした学生がいました)。読解も同様で、単語の意味を調べただけで勉強したような気になっている学生が目立ちます。辞書だって、読み方や単語の意味よりも高等なことを調べてもらいたいと思っていますよ、きっと。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

漢字テストの結果

1月26日(木)

木曜日のクラスは、先週も今週も漢字テストがありました。このクラスは中国人学生が主力ですが、漢字テストの好成績者は、2回ともアルファベットの国やハングルの国から来た学生でした。もちろん、中国人学生も何人かは満点近い成績を挙げます。しかし、そういう学生は少数派で、箸にも棒にも掛からぬ不合格点が成績簿のそこかしこに散らばっています。

最大の原因は、勉強せずにテストを受けることです。35点とかという学生が、家でまじめにテスト勉強をしてきたとは到底思えません。Sさんのようにすでに進学先が決まっていて、あとは4月になるのを待つばかりという学生のモチベーションを高めるのは、東大に入るより難しいです。

それから、漢字は意味さえわかっていればそれで十分だという考えの持ち主が多いことです。EJUの読解の点数が聴解・聴読解に比べてやたらに高い学生は、こんな発想だと思います。確かに、漢字は表意文字ですから、読み手に意味を伝えることが主たる働きです。漢字テストの成績の悪い学生は、読み方は二の次だと思っているのではないでしょうか。しかし、そんな発想では、日本人とコミュニケーションが取れません。Sさんのように、もう消化試合だと思っている学生が、こういう安易な考えをしがちです。スマホの翻訳機能で世渡りができると思っているのかもしれません。

漢字が障壁となって日本への留学が進まないと言われることがよくあります。これは欧米の学生を念頭に置いた意見ですが、中国の学生にも当てはまります。Sさんが進学先で日本人の学友と談笑している図が、思い浮かびません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

窓を閉める

1月25日(水)

寒い1日でしたね。朝、マンションの外に出たら、寒さが頬に突き刺さりました。那覇を除く都道府県庁所在地の最低気温が氷点下になったそうです。昨日のクラスのディクテーションで「今期最強寒波到来」なんてやりましたが、まさにその通りになりました。

水曜日のクラスは外階段わきの教室ですから、私はいつも外階段で行き来します。通常、廊下の外階段側の扉は、換気のため少し開けてあります。しかし、今朝は、2か所で扉が閉められていました。扉に挟む木片が、外階段側にむなしく転がっていました。ラウンジで朝ご飯を食べていた学生たちはよほど寒かったんでしょうね。

教室の窓も、“ピッタリしまっていない”という程度でした。授業開始の9時ごろはまだ氷点下で、その寒さのせいか、今朝は遅刻が多く、私が教室に入ったときはいつもよりさらに人数が少なかったです。ベッドから抜け出せず、うちから出られずという感じだったのでしょう。教室に駆け込んで人心地という顔つきでした。

ニュースによると、東京近辺以外は全国各地大変なことになっているようです。関東平野を取り囲む山々が季節風をブロックしてくれるおかげです。そういえば、受験で関西へ行っているQさんは無事でしょうか。交通機関が乱れているという話ですが…。

午後は面接練習と受験講座。どちらも冷え切った教室でするのはかないませんから、早々に暖房を入れておきました。少し開けておいた窓は、私が改めて教室に入ったときには、しっかり閉められていました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ