現状打破

9月10日(火)

Fさんは来春大学進学を狙っている学生です。志望校としてH大学、O大学、Y大学を挙げましたが、出願締め切り日も試験日も合格発表日も、何も調べていませんでした。しかたがないので、一緒にネットで調べました。しかし、その結果をメモするわけでもなく、「はあ」とか言いながら画面を見ているだけでした。

6月のEJUの成績も、あまりパッとしませんでした。Fさんの成績で合格の可能性があるのは、上記3校のうちO大学だけです。そういうことを伝えても、さほどショックを受けた様子は見られませんでした。

毎日、学校以外で勉強している時間を聞くと、たったの1時間でした。この時間でKCPの授業の予復習と受験勉強までしていると言います。これでは、していないのに等しいです。

だから、中間テストも目を覆わんばかりの成績でした。教科書を見ていいから間違えたところを直せと言って、しばらく経ってから見に行くと、教科書を見ても正答にたどり着けていませんでした。

Hさんも来週大学進学組です。しかし、こちらは志望校についてきちんと調べていて、出願が一番早いのはK大学で、来週からだとわかっていました。B大学は小論文があるから自信がないなど、独自試験の科目まで押さえていました。

中間テストは、Fさんよりはいくらか点を取っていますが、多少ましだという程度です。Hさんの問題点は、間違えたところをみんなケアレスミスだとしてしまっている点です。確かにそういう誤答もありますが、大部分はポイントをつかんでいないから犯した間違いです。この点を直視しない限りは、これ以上伸びないでしょう。

Fさんは、まず、現状の無気力状態から脱することが必要です。Hさんは最後まで確実に勉強する癖を身に付けなければなりません。2人とも、どうにかして思考回路をつなぎ直さないと、卒業式の頃でも無所属新のおそれがあります。

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6割

9月9日(月)

金曜日に出した宿題を集めました。提出率は6割。金曜日の授業中に口頭でも伝え、板書もしたし、授業後にメールで改めて連絡しました。だから、金曜日に欠席したRさんも提出しました。その一方で、金曜日はしっかり出席していて私の話を聞いていたはずのMさんやCさんが提出しませんでした。

提出しなかった学生は、今学期の宿題提出率が押しなべて低いです。Mさん、Cさんに至っては、27%です。よく見ると、今回の宿題を提出したかしないかは、ものの見事に今までの提出率で二分されました。提出した学生は提出率上位、提出しなかった学生は提出率下位で、逆転現象は全くありませんでした。

提出した学生は、授業の予習課題なども毎回きちんとやっています。それに対して、MさんやCさんは、そちらもいい加減です。当然、成績も推して知るべしです。この調子でいくと次学期に進級できるか危ないですが、授業態度を見ても、宿題提出率からも、そういう危機感を持っているとは思えません。

宿題提出率、予習課題実施率と成績が比例するかというと、必ずしもそうとは言い切れませんが、グラフ化すると相関係数が高いのではないかと思います。やる気のある学生、きちんと勉強している学生は力を伸ばし、そうではない学生は伸び悩んでいるという、実にまっとうな結論が得られます。

私が受け持っているもう1つのクラスでも同様の傾向が見られます。こんなことはわざわざ調べるまでもないことであり、予習をしろ、宿題を出せと言い続けてきた私たち教師は決して間違っていなかったというわけです。この簡単な原理を、どうすれば学生に浸透させることができるのでしょうか。それが問題です。

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口を大きく

9月7日(土)

今年は、昨年あたりと比べると、指定校推薦の枠を利用する学生が多いです。先週から今週にかけて、指定校推薦を希望する学生の面接をしました。推薦してもらおうというくらいですから、基本的には“いい学生”です。また、H大学やK大学など、上位校への推薦を狙っている学生は、KCPでの成績もそれなり以上です。

しかし、面接の場では、Sさんを除いて話す力に不安を感じました。何も考えていないわけではありませんが、頭の中身がスムーズに口から出てこないのです。非常に堅苦しい表現になったり、直接言えば一言か二言で済むのに山手線を逆回りするかのような遠回りの言い方をしたりして、テンポよく面接が進むことはほとんどありませんでした。しかも発音が悪いと来ていますから、私のような、日々KCPの学生の超下手な日本語を聞いて訓練されている者なら聞き取れますが、そうでない方は理解不能に陥ってしまいます。

Fさんはその最たる例で、私と一緒に面接官を務めたG先生は何を言ってるかさっぱりわからなかったとおっしゃっていました。言っている内容は、志望理由も将来の計画も、実にすばらしかったです。しかし、それが面接官に伝わらなかったら、何も言わないのと同じです、

そんなわけで、今週は授業後にあちこちで面接練習が行われていました。Fさんなどは、発声練習が必要でしょう。口を大きく開けて1音1音はっきり発音するところから始める必要があるでしょう。ほかの学生も、頭と口を結ぶ神経を太くして、考えたことが口から流れ出るような感じにまで訓練しておいてもらいたいです。

Fさんたちの本番の面接試験は、今月末から来月初めにかけてです。大いに期待していますから、しっかり練習してくださいね。

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読み書きができても

9月6日(金)

漢字テストがありました。毎度のことですが、読み書きの問題は比較的できますが、教科書に出てきた漢字熟語の使い方となると、とたんに正答率が落ちます。正答率が落ちない学生は、日々の授業の予復習を欠かさず、勉強した熟語を例文や作文などで使ってみようという姿勢の持ち主です。

フランス語は、使用頻度の高い単語を1000語知っていれば、約80%理解できるそうです。2000語なら90%だそうです。これに対し日本語は、上位1000語で60%、2000語でも70%弱という話です。90%理解しようと思ったら、1万語ぐらい知っていないといけないようです。日本語は単語の数が多い言語なのです。

だから、授業でも、学生の理解語彙をちょっとでも増やそうと心がけています。そして、それを無理やりにでも使わせて、使用語彙に格上げさせようとも試みています。しかし、テストの結果を見る限り、これらが実を結んだとは言い難いのが現状です。

午後はEJU日本語の強化クラスを担当しました。読解でも聴解・聴読解でも、本文に書かれている言葉やスキットで使われた言葉が、選択肢中では言い換えられている例が多数あります。最低でも理解語彙を増やしておかないと、“いい学校”に手が届く成績は得られません。クラスの学生たちは、その言い換えに気づかなくて苦戦していました。

学生は、漢字以外にも覚えなければならないことがたくさんあり、時間も脳みその空き容量も余裕がないのかもしれません。でも、この秋に鍛えて語彙の壁を乗り越えない限りは、光明が見えてきません。

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つゆわ

9月5日(木)

中級クラスの作文の採点をしました。自分の意見を文章にする練習段階ですから、目から鱗が落ちるような、コペルニクス的発想の転換が伴うような、あるいは感涙あふれるような作文は期待していません。誤字脱字があり、文法が間違っていて、不自然な語彙の使い方が随所に見られ…というのが普通です。こちらもそういう作文を読むのだと覚悟を決めて臨みます。

Jさんの作文は、文法の間違いはありませんでした。中級レベルの学生にしては高度な単語をたくさん使っていました。“秩序を保つ”とか“集団意識”とか、“軽減する”とか、いつ覚えたのだろうという語句が続々と出てきました。しかし、意味がさっぱりわかりませんでした。そして、肝心のJさんの意見は、最後の3行ぐらいにしょぼしょぼと書いてあるだけでした。

中級クラスでは、作文の際に、用いた漢字に読み仮名を振らせています。Jさんの作文は、増強が“そうきょう”になるなど、読み仮名が間違っていました。また、名詞止はするなと言ったのに、数か所ありました。さらに、賛成の“賛”の下半分が貝ではなく見になっているといった、微妙な漢字の間違いもいくつかありました。

ほかの状況から見ても、ネットのどこかのページを写したか、AIに相談したかではないかという疑いが濃厚です。この作文を書いた日は、私の授業の進め方が悪く、時間が十分に取れず、時間内に書ききれなかった学生には宿題としました。Jさんも宿題組でしたから、何らかのアシストを頼った可能性は否定できません。ほかにKさんも“露わ”の“露”に“つゆ”と読み仮名を付け、“つゆわ”なる新語を発明しています。これもかなり怪しいです。

JさんやKさんが本当にネットやAIを頼ったとしたら、それはカンニングに等しい行為です。確かに、私にも上述のような落ち度がありました。カンニングしたくなるような状況を与えてしまいました。今回は確たる証拠がありませんから、自分の意見が述べられていないので大幅に減点するということにしました。

明日はこの作文を返却し、新しい課題で作文を書いてもらいます。今度はこんなことが起きないようにしなければなりません。

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発想の転換

9月4日(水)

「Gさんの行きたい大学は?」「東大です」「6月のEJUは?」「受けませんでした。11月に頑張ります」「東大だと、ほとんど1問も間違えられないよ」「はい、わかっています。だから、毎日午後1時半から9時半まで塾で勉強しています」「点数を増やすための勉強も必要だけど、1問も間違えないようにするには、間違いを減らす、なくす訓練の方がそれ以上に必要だよ。学力じゃなくて、集中力、注意力の問題なんだ」

学生面接の場で、Gさんとこんなやり取りをしました。Gさんが考えているような最難関の大学を狙おうとすると、EJUでの1問のケアレスミスが命取りになりかねません。また、GさんはEJUの数学や理科は易しいと言っています。しかし、そう言いのけた学生が実際に取った点数がかろうじて平均点を上回る程度だったという例は、枚挙にいとまがありません。KCPの学生の通弊かもしれませんが、詰めが甘い学生が多いです。だから、間違いを減らす・なくすという発想を持たなければならないのです。

練習問題を解いて答え合わせをして、答えが間違っていたことがわかった時、多くの学生が“これは勘違い・ケアレスミスだから、実質的に○だ”というような反応を示します。全然わからない問題ではないから、この問題にはもう触れなくてもいいとして、ほったらかしにしてしまいます。これでは間違いは減りません。どこで勘違いを起こしたのか、なぜ“ケアレス”に陥ってしまったのか、そこをつぶすのが間違いを減らす勉強なのです。

CさんもSさんも、“ああ、わかったわかった”組です。力がないわけではありませんが、6月のEJUで力が反映された点数が取れたかというと、ぜんぜんそんなことはありません。口を酸っぱくして間違いを減らせと言ってきましたが、通じませんでした。Gさんも同じ組だったら、東大はせせら笑いながらGさんを切り捨てるでしょう。

まだ2か月ありますから、今舵を切りなおせば、どうにか間に合うでしょう。問題は、どうすれば学生たちの発想を変えさせられるかです。

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映像を見ながら

9月3日(火)

火曜日は、午前の授業が終わると進学の授業があります。進学までのスケジュール管理とか、出願に必要な書類とか、志望理由書の書き方とか、受験科目そのものではなく、全体共通の諸々の事項を扱ってきました。9月に入り、試験日の早い大学の本番が近づいてきましたから、今週は面接の受け方を勉強しました。

ちょうどうまい具合に、日本人の高校生向けですが、面接試験の入室から退室までの一連の動きをまとめた動画を発見しましたから、それを教材として使わせてもらいました。面接の受け方を文字にして配っても、学生はこちらが意図したとおりに想像してくれるかどうかわかりません。映像ならそういう誤解が少ないだろうと思っていましたが、適当なものが見つかりませんでした。昨日の夜、ようやく、学生たちが理解できて、しかも参考になる、ほどほどの長さの動画が見つかりました。今朝、大急ぎでパワーポイントも作り、お昼の授業に間に合わせました。

試験日が比較的近い学生は、やはり真剣に見ていました。年末ないしは年が明けてからと考えている学生は、まだ他人事みたいな顔をしていました。本当は全然他人ごとではないんですがね。

動画を見終わり、まとめのパワーポイントで復習をし、じゃあ実際にやってみましょうとういことで、Aさんを受験生役に指名しました。予想通り、ボロボロでした。教室への入り方がいい加減だったり、お辞儀がぎこちなかったり、所作だけが原因で落とされることはないにしても、ちょっといただけない内容でした。

「来週はみんなにやってもらいますからね」と、予告とも脅しとも取れる言葉で授業を終わりました。

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快晴なのに

9月2日(月)

久しぶりに青空が広がりました。校舎の前から空を見上げてもビルの谷間の狭い範囲の空しか見えませんが、気象庁が観測した日照時間を見ても、雲一つない青空だったことがわかります。全国的に見ても、局所的に雷雲が発達した地域はありますが、一日中雨だったところはなかったようです。

しかし、KCPの中には暗雲が垂れ込めた学生がいました。

先週のこの稿に登場した、調理の専門学校に進むつもりのWさんは、日本語は心配ありませんが、数学(算数)は全く自信がありません。先週の専門学校フェアの際にも、簡単な計算問題ができなかったら、日本語ができても落ちるかもしれないと言われました。調理なら、塩分濃度の計算ぐらいはしなければなりませんからね。そこで、先週末、私に練習問題を作ってくれと頼んできました。というわけで、練習問題を作り、今朝、クラスの先生を通して渡してもらいました。

授業後にWさんが職員室に飛び込んできました。「先生、こんな問題、絶対無理です」と訴えてきました。“こんな問題”といっても、「税抜き1,645円の食料品は、税込みでいくらですか“ぐらいのレベルです。もちろん、食料品の税率8%は示してあります。その場は家でゆっくり考えろとなだめて帰しましたが、本当にこの程度の問題ができなかったら、食塩水の濃度計算など、はるかかなたの問題でしょう。

そのあと、S大学の指定校推薦応募者のEさんの面接をしました。「あなたの行きたい大学、学部、学科の名前を言ってください」と聞くと、「S′大学のT学部のUがつかです」と答えました。そもそも大学名が不正確だし、学部名は言葉足らずだし、学科名に至っては間違っているうえに“がつか”ですよ。思わず、「がっか。小さい“つ”」と直してしまいました。それには目をつぶって質問を続けても、さっぱり話がかみ合いませんでした。Eさんは7月のJLPTでN2に合格したのですが、その片鱗も感じさせない答えっぷりでした。

私が2人の相手をしているころ、東京は雲ひとつない青空で、最高気温34.1度を記録しました。

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熱帯化

8月31日(土)

台風10号は、潮岬の沖から、三重県、滋賀県、福井県方面に北上しそうな予報が出ています。関東地方へは来ずに低気圧になりそうです。しかし、雨を中心とした影響は、数百キロ離れた関東地方にも及び続けるようです。直撃こそ免れそうですが、油断はできません。

台風10号の元になる熱帯低気圧が生まれたのは、私が福岡を歩き回っていた21日でした。発生の頃は、26日か27日に関東地方を襲うようなことが言われていましたから、福岡のホテルで休校するかどうか判断しなければならないかもしれないと覚悟をしていました。帰りの飛行機が飛ぶかどうかまで心配しました。

しかし、当の台風はのんびりちんたら迷走し出し、九州の南へと向かい、上陸したのは、おととい、鹿児島県薩摩川内市でした。その後も千鳥足の歩みで今に至っています。夏休みが1週間遅かったら、ホテルに缶詰めになっていたかもしれません。

このような台風の進路も地球温暖化の影響だそうですが、私が注目しているのは、日本近海で熱帯低気圧が発生していることです。日本付近においては、寒気と暖気が衝突して発生する温帯低気圧は、四季を問わず佃煮にするほど生まれていますが、高い海水温を必要とする熱帯低気圧は、そう簡単に生まれるものではありませんでした。それが気安く発生するようになったということは、海水面が熱くなっているということです。また、最近頻発しているゲリラ豪雨は、夕立ではなく、熱帯のスコールを思わせます。

仕事の合間に空を見上げると、雲がけっこうな速さで流れていました。今は風も弱く雨も降っていませんが、まだまだ気を抜くわけにはいきません。

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質問魔

8月30日(金)

現在中級レベルのWさんは、専門学校に進学して調理の勉強をするという目標がしっかりと定まっています。おとといの専門学校進学フェアでも、志望校のブースでずいぶん長い時間話を聞いていました。

今の自分の日本語力では専門学校の授業についていけないと感じていますから、クラスの中で一番よく勉強しています。十二分に予習をしてきて、わからなかった点をガンガン質問します。毎日、10時半の休憩時間になると、質問事項を書き連ねたメモ帳を手に教卓まで来ます。Wさんの質問は、教師の気が付かない、学習者ならではの視点に基づいていますから、質問されるこちら側も勉強になります。それをヒントに、急遽授業の内容を組み換えることもあるくらいです。

また、Wさんは、間違いを恐れずに、習ったばかりの語彙や表現をどんどん使って話をしたり例文や作文を書いたりします。そういうのを見ると、単に誤用を指摘して直すだけでなく、上級で勉強するより高度な日本語に書き換えることもあります。時には、解説も加えます。Wさんならこれをしっかり受け止めてくれるだろうと思えますから、こちらもやる気が湧いてきます。

その一方で、Wさんが質問している間、一生懸命スマホを見ている学生もいます。授業中にされた質問には、クラスの全学生がわかるように答えます。それを聞かないことは、日本語力を伸ばすチャンスを自ら捨てていることになります。耳がこちらに向いていないのですから、聴解力が付かないのも当然です。

専門学校の出願は、9月早々に始まります。Wさんは第1期に出願する気満々です。

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