大差

12月20日(火)

K先生がお休みだったので、最上級クラスの代講をしました。最上級クラスともなれば、長期間在籍している学生も多いですし、学校内のイベントでもけっこう活躍していますから、有名人が多いです。私の場合は、それに加えて受験講座で接点がある学生もいます。そんなわけで、コンスタントに授業に入っていたわけではありませんが、ほとんど何となく顔と名前が一致する学生たちでした。

さすがに最上級クラスで、誰を指名しても読解のテキストなどがスラスラ読めます。「声高」とか「喧騒」とか、特殊な読み方をする単語や見慣れない漢語は読み間違えたり立ち止まったりしましたが、それ以外はつっかえることはありませんでした。そうそう、意外に「種明かし」が読めず、意味もわかりませんでした。

私が担当している、上級でも下の方のクラス(の下の方の学生)は、うっかりするとカタカナ語でも間違えて読みますから、それとは大違いです。おそらく、文章を見ている範囲が違うのでしょう。私のクラスの学生は、極論すれば、テキストの文字を1つずつ拾い読みしています。だから、どこが単語の切れ目、意味の切れ目なのかわからずに読んでいます。それに対し、最上級クラスの学生は、少なくとも内容把握をしながら読んでいます。だから、次にどんな単語が現れるかある程度は予測がつき、その予測範囲内の単語が出てきたら、スムーズに読めるというわけです。

この両方のクラスの学生は何が違うのかと言えば、理解語彙の数です。読んでわかる、聞いてわかる単語の数の差が、読み方のスムーズさの差になって現れ、同時に読解力の差にもなっています。文章も、2~3行まとめて目を走らせていることでしょう。こうなると、私なんかの読み方とあまり変わりません。

どうやって鍛えれば、私のクラスの学生たちは、最上級クラスの学生たちに近づくのでしょうか。

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せつない(?)恋心

12月19日(月)

Jさんはアメリカから来たレベル1の学生です。

「クリスマスは国へ帰りますか」「いいえ、帰りません」

「じゃ、クリスマスは寂しいですね。1人でメリークリスマスですか」「いいえ、彼女と一緒です」

「あ、いいですねえ。楽しいクリスマスですね」「はい」

と、笑顔を見せました。

Jさんの彼女もレベル1で、英語が話せないそうです。「Jさんも彼女も日本語を話しますか」と聞くと「はい」という答えが返ってきました。2人の共通言語は日本語ですから、そうなっても不思議はありません。

でも、今は多種多様な、私など想像もつかないようなアプリが出回っていますから、そういうのをフル活用して意思疎通を図っているのかもしれません。Jさんがスマホに英語で気持ちを打ち込むと、それを彼女の国の言葉に翻訳して、メールか何かで送り、それを読んだ彼女がその逆をしてJさんに思いを伝える――というようなやり取りを繰り返すのでしょうか。残念ながら、Jさんの日本語力ではどんな“会話”を交わしているのかわかりませんでした。

上級クラスの語彙の授業で“せつない”を扱いました。辞書の説明をそのまま伝えても、例文を考えて状況や心情を想像させても、“せつない”の根幹をなす部分を伝えるのは難しいです。Jさんたちはどうなのでしょう。自分の言葉で愛を語っても通じないことにもどかしさやせつなさを感じているのでしょうか。見つめあうだけで心が満たされるのでしょうか。それともアプリか何かを介した語らいで幸せを感じているのでしょうか。

いずれにしても、2人で楽しく幸せなクリスマスが過ごせるよう祈るばかりです。

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クリスマスは家族と

12月17日(土)

学期末が近づくと、アメリカの大学のプログラムでKCPに留学している学生の会話テストがあります。私も毎学期試験官として数名の学生のお相手をします。昨日はMさんとJさんのテストを受け持ちました。

私の場合、ごく普通の会話をしながら学生の力を見ていきます。発音やイントネーションはもちろんのこと、こちらの言葉をきちんと聞き取って理解してしかるべき応答ができるか、今までに習った文法や単語をどれだけ正確に適切に使えるか、そして何より、会話が弾んでいるかが大事な点です。

昨日の2人に共通していたことは、21日の期末テストが終わったらすぐ帰国して、クリスマスは家族と一緒に迎えるという点です。クリスマスはどうするかと聞いたら、喜々としてクリスマスの計画を話してくれました。Jさんは、日本で買いそろえた家族へのクリスマスプレゼントまで詳しく教えてくれました。

もちろん、2人とも1月11日の始業日までに日本へ戻ってきます。去年は、そんなに簡単に国の出入りができませんでした。日本にいる学生たちは、オンラインクリスマスが精一杯でした。今年は緩和のおかげで、航空券はきっと高いのでしょうが、家族とおいしい料理を食べたり、プレゼントの交換をしたりすることができるようになりました。もちろん、感染状況に関しては油断できませんが、だいぶ以前の状態に戻ってきたのではないかと感じさせられました。

2人とも、クリスマスのおかげで会話が弾み、テストは高評価です。特にMさんはミスがほとんどありませんでした。Mさんの町もJさんの町もホワイトクリスマスのようですから、美しい景色とやさしい家族に癒されてきてください。

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受かっても頭が痛い

12月16日(金)

RさんはT大学の大学院に受かりました。はっきり言って、日本語がよくできる学生ではありませんから、担当教師一同、合格を危ぶんでいました。もし落ちていたら、地獄の日々を歩む羽目に陥っていたかもしれません。きっと、研究計画書が素晴らしかったのでしょう。

さて、そのRさんのクラスでディクテーションをしましたが、Rさんはペンが動きません。他の学生は、間違いはあっても何か書いていましたが、Rさんは番号しか書けませんでした。続いて内容把握の聴解問題をしましたが、こちらもさっぱりでした。

T大学の大学院は、決していい加減な大学院ではありません。きちんとした学生選抜をしているはずです。でも、Rさんの聴解のできなさ加減を見ていると、進学後、授業についていけるだろうか、教授をはじめ研究室の人たちとディスカッションができるのだろうかと、心配にならずにはいられません。

今までのRさんを見ると、選択肢の問題はどうにか点を取ります。しかし、聞いたことを文字にするとか読んだ内容を要約するとかとなると、神通力が薄れてしまいます。だから、大学院でやっていけるだろうかと懸念を抱いてしまうのです。大学院で必要な日本語力は、どう考えても4択問題の解き方ではありませんから。

そうはいっても、合格した限りは最低2年間、講義を聞いたりレポートを書いたり、周りの方たちと議論を戦わせたり、研究計画によってはフィールドワークをしたりしていきます。卒業式まで残り3か月ほどですが、少しでもそういった研究生活にたえられる日本語力をつけていってもらいたいです。

落ちたらもちろん、受かっても心配、因果な商売です。

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雑談の中に

12月15日(木)

学期末になると、次の学期から受験講座を受ける学生に向けて、説明会を行います。対象者の大部分が初級ですから、普段顔を合わせる機会がない学生が多いです。

Aさんは、東京の冬はとても寒いと言います。広東から来たそうですから当然ですね。今朝の東京の最低気温は3℃、練馬は0.8℃でした。広東は、どう考えてもそこまで下がらないでしょう。それに、東京の家の造りは、広東同様、夏の暑さをどうにかしのぐことを第一に考えられています。ですから、エアコンで冷暖房完備となっても、冬は寒いのです。少なくとも、北海道の家の中のように、冬は半袖などということはありません。

そんな雑談をすると、へーえという顔をします。初級の教室だと、教科書の範囲から大きく踏み出した日本語を使うことはあまりありません。クラス全体をついてこさせるとなると、東京の家の造りはあまりいい話題ではありません。しかし、受験講座となると、教科書や教室の日本語を応用して、広範な話題について吸収したり自ら発信したりする必要に迫られます。東京の家の造りは、その第一歩でしょう。

Bさんは実によくしゃべります。初級なら、クラスで一番かもしれません。そうなると、ちょっと込み入ったことを話させてみたくなります。また、普通の日本人の話し方の、文法だけやさしいバージョンで話しかけて、ほんの少し、上級会話を味わわせてみたくもなります。Bさんは、ちゃんとついてきました。受験講座の先生の話を理解するんだったら、これくらいこなしてもらわないとね。

進学しても困らない日本語力というと、こんな実戦日本語力とでもいうような、聞いたり話したりする力も必要です。EJUなどでいい点数を取らせるだけが受験講座ではありません。

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合格発表

12月14日(水)

今学期もあっという間に期末テストまで1週間となってしまいました。クラスで試験範囲を発表しましたが、各学生がどこまで実力を伸ばしたのだろうかと思うと、不安に駆られる面もあります。

私を不安に駆り立てる学生の1人、Eさんは、昨日学校を休みました。担任のM先生にも連絡がなく、こちらから電話をかけても反応しませんでした。おとといが受験校の合格発表でしたから、落ちたショックで引きこもっているのではないかとも思いました。

そのEさん、今朝は遅刻ギリギリでしたが、教室に駆け込んできました。暗い顔をしているわけでもなく、授業には集中しているように見受けられました。課題プリントを配ってやらせている間に、Eさんのところへ行ってこっそり聞きました。

「昨日はどうしたんですか」「ちょっと頭が痛かったです」「おととい合格発表だったけど、どうだった?」「合格しました」「こらっ! それを早くM先生に言わなきゃダメだろう」

などというやり取りの結果、ちゃっかり合格していたことが判明しました。入試前に手取り足取り指導したわけではありませんが、少なくとも担任教師に報告するのが常識でしょう。このクラスの学生は、根っからの悪人はいませんが、Eさんみたいに大事なところが抜けているパターンが多いです。

夕方、ミーティングをしていたら、M先生に電話がかかってきました。Tさんからで、合格の報告でした。こういう義理堅い学生もいます。Tさんはクラブ活動もしていますから、教師との接触が多かったという面もあるでしょう。Eさん、Tさんのほかにも、結果待ちの学生がいます。学期末まで、学生をどつきながら情報を集める日々が続くことでしょう。

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早朝の電話

12月13日(火)

朝8時ごろ、Mさんから電話がかかってきました。「先生、かかっちゃったみたいです」と、苦しそうな息遣いで感染宣言。詳しく話を聞くと、熱があるようです。まず、検査をしてもらうよう指示を出しました。Mさんは先週末S大学に合格しました。そのS大学の入学手続きに必要な日本語学校の書類はどう申請すればいいかと、聞かれました。これからしばらく学校へ来られないとなると、そういった心配もしなければなりません。来週が手続き締め切りだそうですから、落ち着かないでしょう。こちらは、KCPのホームページ経由で申し込めますから、そう指示しました。熱があっても、パソコンの操作ぐらいはできるでしょう。

そういえば、昨日、校舎内でMさんにばったり出会ったので、「おめでとう」「ありがとうございます」なんてやり取りをしました。1mぐらいは離れていたし、お互いマスクもしていましたから、たとえMさんが陽性でも、濃厚接触者にはなりません。

あの尾身さんですらなっちゃうんですから、Mさんのような一般庶民がかかっちゃうのもしかたのないことです。でも、Mさんは今学期初めまでは入学以来の出席率が100%でした。10月に交通事故にあい皆勤が途切れ、そして今回です。お祓いでもしてもらったほうがいいかもしれません。

Mさんと同じ学期に入学したYさんが今月初めに帰国しました。Yさんは来日早々体調を崩し、とうとう復活できませんでした。初級のオンライン授業で受け持った時は、Mさんよりもよくできました。そんな学生が帰国しなければならなくなったと思うと、残念でなりませんでした。親元を離れての一人暮らしには、トラブルがつきものです。小さなつまずきが大きく膨らんでしまいがちです。Yさんのことを思うと、Mさんも気がかりです。せっかくつかんだ合格を無駄にしないように、きちんと治してもらいたいものです。

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脱スパイラル

12月12日(月)

Sさんがまた遅刻しました。朝一番でテストがあったにもかかわらず、来たのは授業の後半からでした。朝のテストは授業後に追試という形で受けて帰りましたから、テスト回避のために遅刻したのではありません。もっとも、その追試の成績が不合格でしたから、週末にきちんと勉強したとも思えません。

Sさんは新入学の学期、どうしても受験講座を受けたいと言って、わざわざコースを変更しました。ずいぶんやる気のある学生だと思って見ていました。6月のEJUでは、日本語・読解で最高点を取り、上位校に手が届きそうな成績を挙げました。しかし、日本語しか受けていなかったため、この成績で受験できる大学は限られます。そういう大学でも、合格を1つ確保してくれればと思っていました。7月のJLPT・N1にも合格したあたりまでは、順調な留学生活でした。

ところが、先学期あたりからだんだん様子がおかしくなってきました。遅刻や欠席が増え、理由を聞くと試験勉強だと言います。最近は不安で眠れないとも言い始めました。今は、生活のリズムが完全に崩れてしまい、何事にも力が入らない様子です。授業中の発話や例文、作文などのアウトプットは、典型的なできない学生のものになってしまいました。

今のSさんは、学校の勉強も受験勉強もどちらも手につきません。そして、ついついアニメなど自分の好きなことに時間を費やしてしまい、気が付くとさらに焦りが募ってしまいます。どんどん深みにはまり込んでいきそうな感じがします。どこかでこの負のスパイラルを断ち切らないと、どうにもならないまま受験シーズンを終えることにもなりかねません。

現時点での期待は、11月のEJUの結果です。Sさん自身の予想よりも好成績だったら、潮目が変わるのではないかと望みをかけています。

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すごい歴史のある駅舎

12月10日(土)

朝ご飯を食べながら、旅番組(の録画)を見ていました。レポーターがあるローカル線の駅に降り立ち、「うわー、すごい歴史のある駅舎ですね」と言いました。その瞬間、私は強烈な違和感に襲われました。テレビ画面には木造の古くて格式のありそうな建物が映っていましたから、それを見れば誰だって歴史を感じさせられます。実際、明治時代に開業した時の駅舎ですから、100年余りの歴史があります。

私の違和感の根幹は、レポーターの言葉を「“すごい歴史”のある駅舎」と受け取ったところにあります。“すごい歴史”ってどんな歴史なんだろうという方向に考えが進んでしまったのです。それゆえ、歴史の内容などお構いなしのレポーターの番組進行についていけなくなったというわけです。

“すごい”は、形容詞です。その“すごい”という形は終止形または連体形です。レポーターが発した“すごい”は、“歴史”という名詞の前に置かれていますから、連体形だと考えられ、“すごい歴史”で名詞句を形成しています。これが私の受け取り方でした。

しかし、レポーターは“すごい”を形容詞として使っていません。“歴史のある”にかかる言葉、連用修飾語として用いています。すなわち、“すごい”を副詞として使っています。この“すごい”の副詞的用法、本来の形容詞としての用法よりはるかに広まっています。私が見ていた場面だって、レポーターが「すごく歴史のある駅舎ですね」と言っていたら、逆におやっと感じる人が結構いるんじゃないでしょうか。

でも、「Aさんはすごい背の高い人ですね」だったら、違和感はかなり弱まります。“背の(が)高い”の結びつきが強力で、“背”そこからだけを取り出すことができないからでしょう。“歴史の(が)ある”は、“歴史”だけを分離できる程度の結合の強さなのです。

では、「Bさんはすごいお金を持っている」はいかがでしょう。みなさん“大金持ち”と受け取るでしょうね。「Cさんはすごい車を持っている」はどうですか。車の所有台数が多いのではなく、一度見たら絶対に忘れられないような特徴的な車を(おそらく1台)持っていると考えるほうが普通だと思います。これも、“お金を持っている”は一語のごとく振る舞えるのに対して、“車を持っている”は、“車+を+持っている”と分解するほうが自然だからです。

ちょっと学生に試してみたくなりました。

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しりとり脳

12月9日(金)

宿題として出す漢字パズルの解き方を説明する都合上、しりとりを知っているかという流れになりました。クラス全員がきょとんとしていましたから、しりとりを教えました。ねこ―こども―もり―りんご―ごご…などと学生からあがった言葉をホワイトボードに書いていくと、「ごご」のように同じひらがなが2つ続くなど、次の人も同じ音から始まる言葉を探さなければならないパターンがウケました。笑いのツボは意外なところにあるようです。

しりとりのルールがわかり、宿題のやり方がわかったところで、今度はクラス全体にしりとりの次の言葉を聞くのではなく、学生ひとりひとりに言わせました。前の学生がどんな言葉を出すかわかりませんから、普通の授業以上の緊張していたようでした。

すると、意外なことに、授業中は何を聞いても答えられず、中間テストは散々な成績だったRさんがすぐに反応するんですねえ。他の学生の分もボソッと答えているのです。Rさんよりずっと優秀な成績のJさんは、「うんてん」なんて「ん」で終わる言葉をつい口走っていました。読解や文法の時間には頼りになるNさんも、「こっかい」と聞いて「かいぎ」と、漢字しりとり的な続け方をしてしまいました。Rさんはそんな時にも「いま」などと冷静に単語を選んでいました。

成績的にはRさんといい勝負のEさん、Tさんあたりは、やっぱりさっぱりでした。それを思うと、Rさんにはしりとり脳が備わっているのかもしれません。ここをつついてRさんの成績を伸ばせないものかと思いながら授業を終えました。Rさん、にこにこしながら、元気よく「先生、さようなら」とあいさつして帰っていきました。

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