朝の出来事

9月20日(火)

朝、仕事をしていたら、電話が鳴りました。

「はい、KCP地球市民日本語学校でございます」

「Dと申しますが、おはようございます」⇒KCPには電話口で名乗らない学生が多いですが、Dさんは挨拶までしてくれました。クラスまで言ってくれたら完璧ですが、まあ、十二分に合格点です。

「Dさん、おはようございます。どうしましたか」⇒朝かかってくる電話は、たいてい欠席連絡です。お腹を壊したか、頭が痛いか、それとも熱を出したのでしょうか。

「先生、学校はいつも通りですか。授業はありますか」⇒??? 私は、タイミングがよかっただけかもしれませんが、傘を差さずに学校まで来ましたよ。今、学校の前を通った人も、傘を差していません。

「はい、いつものように9時に来てください。Dさんのところ、電車が止まっていますか」⇒台風は関東平野のはるか北側を通過中。風も吹いているし、雨もまた降りだすことでしょうが、電車が止まるほどひどくなるとは思えません。でも、局地的には大雨になっていたり、Dさんの住んでいるところが低地だったりしたら、登校するのが困難かもしれません。

「あ、いいえ、どうでしょう。調べてみます」⇒要するに“あわよくば臨時休校”って考えだった???

「ま、とくにかく、学校は普通にあります。9時から授業をしますから、電車が止まっていなかったら、遅刻しないように学校へ来てください」⇒当然、こういう結論になりますよね。

「はい、わかりました。どうもありがとうございました」⇒こういう挨拶は、しっかりできるんですねえ。そこがDさんの日本語力、コミュニケーション力の高さです。

Dさんは、遅刻もせずに、ちゃんと出席しました。

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ああ言えばこう言う

9月17日(土)

受験講座EJU日本語が終わって職員室に戻ると、KさんからB大学の面接の想定問答がメールで届いていました。今週の月曜日に1回目の指導をして、それを踏まえて訂正した原稿です。

読んでみると、確かに私の注意したことが反映されていました。ホームページやパンフレットに書かれていることをそのまま引き写すのではなく、自分なりに咀嚼解釈して、「私はその内容をこのように受け取りました」という形にまとめるよう指導しました。ご丁寧なことに、Kさんが参考にしたホームページが貼りつけてありました。しかし、文言を少しいじっただけで、そのページでB大学やKさんの志望学部の先生方が言わんとしていることを理解しているとは言い難いです。そもそも参考にすべきところを間違えているという例もありました。

上級の学生にとっても、志望校が発信している情報を受け取って、必要なところを選び出して、読んで理解して、その内容を要領よくまとめて文章化するというのは、かなりの難題です。でも、それをどうにかしないと、志望校に手が届きません。Kさんが狙っているB大学は、今までにKCPの学生が何人も跳ね返されています。いい加減な答え方では望ましい結果が得られないことは明らかです。

結局、Kさんの想定問答に手を入れるのに、午後の時間のほとんどを使ってしまいました。それでも、意味不明で理解不能、手の施しようのない答えがいくつかありました。でも、このくらいの方がいいのかもしれません。これはあくまでも“想定”問答集です。B大学の面接官が絶対聞いてくる質問ではありません。また、完璧な答えだと、頑張り屋のKさんはそれを暗記しようとするのが目に見えます。暗記は緊張に弱いものです。緊張して頭が真っ白になったら、何も出てきません。また、“想定”外の質問が来ると、脆くも崩れ去る懸念があります。そう思うと、抜け落ちがあるくらいでちょうどいいのかもしれません。Kさんにも、直せとは指示しませんでした。

試験日までひと月ほどあります。これからどう展開するでしょう。

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初めての面接練習

9月16日(金)

午前中の授業が終わってすぐ、Wさんが面接練習に来ました。Wさんは来月早々、T大学を受験します。半月ちょっと時間がありますが、初めての面接試験なら、このくらいの準備期間が必要です。

Wさんは担任のM先生から面接でよく聞かれる質問集をもらい、それに対する回答を持って来ました。ひとつひとつのQ&Aはそれなりに成り立っていますが、全体を通して見てみると脈絡がありません。また、Wさんが志望する学科にはいくつかのコースがありますが、それに関する言及も全くありません。まさかコースに気付いていないのではと思って聞いてみると、さすがにそんなことはありませんでした。しかし、質問集に学科の下位分類のコースに関するQがありませんから、Aも用意していません。聞いても、ぶっきらぼうにコース名を言うだけです。

こういう学生は毎年いますから、しかも最初の面接練習ですし、驚きもしませんでした。Wさんにはどうしてそのコースに進みたいのか、きちんとまとめておくように指示を出しました。ここで何かを語ると、T大学を選んだ理由や将来設計についての質問への答えにも影響が出てきます。こういうあたりに、Wさんが質問のつながりを考えずに答えを作ってしまった弱点が見えてしまいます。

そんな指摘をしているうちに、Wさん自身も自分の答えに足りないものが見えてきたようです。ここまでくれば、面接全体を通したストーリーも、何を中心に訴えるかも、自分で考えられるでしょう。連休明けにまた練習することを約束して、Wさんは帰って行きました。

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学生の食生活

9月15日(木)

学期末が近づくと、アメリカの大学のプログラムで来ている学生へのインタビューテストがあります。その学期に習った文法や単語が使えるか、それまでに勉強した事柄を組み合わせてまとまった話ができるか、こちらのナチュラルスピードについてこられるか、コミュニケーション力はどうかなどということを、話をしながらチェックします。しかし、私にとってこのテストの一番の楽しみは、学生の生活の一端を知ることです。

Eさんは料理には自信を持っています。しかし、今住んでいる寮はキッチンが狭いので、その料理の腕が発揮できません。やむを得ず、コンビニ弁当が食生活の中心です。「Eさんが作った料理とコンビニで買ったお弁当と、どちらがおいしいですか」と聞いてみました。「コンビニのお弁当はいろいろありますが、私の料理の方がおいしいです」とちょっと誇らしげに答えました。今はお好み焼きに挑戦していますが、きれいな形にならないと嘆いていました。たこ焼きもよく食べるそうです。

Gさんは、朝、ポテト料理を40分ぐらいかけて作ります。このポテト料理は絶対おいしいのだそうですが、どんな料理かは、まだ初級のGさんには説明できませんでした。日本の料理では、カツ丼やカレーがおいしいと言っていましたが、アメリカ人のGさんから見ると、カレーは日本料理何ですね。「納豆は食べられますか」と聞いたら、「食べようと思いましたが、ダメでした」と、鼻をつまんで答えてくれました。

2人は今学期が終わったら帰国します。またたこ焼きを食べに、納豆に再挑戦しに、ぜひ来てもらいたいです。

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お昼の公演でみんな好演

9月14日(水)

お昼に、演劇部の発表会がありました。出し物はアラジン。演劇の公演を想定して設けたステージではありませんから、照明もよくないし、マイクも音を十分に拾っているとは言えません。でも、演劇部の面々は、アラジンっぽい衣装に身を包み、精一杯声を張り上げ、体を大きく動かし、ステージの端から端まで使って、日ごろの練習の成果を見せてくれました。

私のクラスのCさんやLさんも、午前中の授業で指名した時の蚊の鳴くような声とは打って変わって、講堂の内番後ろで見ていた私にも聞こえる声でセリフを言っていました。発声練習もしているのかどうかわかりませんが、マスク越しでもよく通る声でした。なんだ、大きな声も出せるんじゃん。

30分近い公演でした。出演したどの学生も、けっこうな量のセリフをこなしていました。授業中はつっかえつっかえ教科書を読んでいるかもしれない学生たちが、演技をしながらよどみなく話しているじゃありませんか。よどみがなさすぎて、セリフが上滑りしていた場面もありましたが…。ステージに立ったりマイクを握ったりすると人が変わるという例はよく聞きますが、演劇部の面々は好ましい方向に変わった観たようです。こういう経験が、学生の自信を生み出してくれればと思っています。

ステージが終わった後、演劇部全員で写真を撮っていました。マスクを外したら、自然に笑顔が浮かんできたようです。指導をしてきたN先生も、昨日までの心配げな表情が嘘のような晴れがましい顔で隅に立っていました。

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体が資本

9月13日(火)

Pさんがまた受験講座を欠席しました。Pさんは先学期から理科系の受験講座を取っています。先学期はEJU直前講座が中心だったので難しかったようですが、11月のEJUに向けて再スタートを切った今学期は、基礎の部分から始めたこともあって、どうにかついてきていました。しかし、夏休み明けぐらいから欠席が続いています。

先週の金曜日の授業後、Pさんが受付へ来て、私を呼びました。話を聞くと、最近体調が悪くて、午前中の日本語の授業に出るのがやっとなのだそうです。受験講座がある午後は、家で体を休めているとのことでした。Pさんの場合、受験講座への出席は、在籍管理上の義務ではありません。出欠状況が入管報告事項となっている日本語の授業を優先するのは、理にかなっています。

とはいえ、体力的に日本語の勉強でいっぱいいっぱいというのであれば、ちょうどあと2か月後に迫ったEJUが心配です。Pさんは、金曜日に私に事情説明した話し方からしても、日本語の力はある程度以上備わっています。EJUでもそこそこ以上の点が期待できますし、面接試験で落とされることもないでしょう。むしろ、コミュニケーション力を高く評価されると思います。しかし、理科系の科目は、先学期からあまり進歩がないとすると、心細い限りです。妥協して来年4月に進学するか、もう1年勉強して初志貫徹するか、厳しい選択を迫られそうです。

感染して入院という事態にこそ陥っていませんが、体力的にはそれよりもひどい状況かもしれません。欠席する時には義理堅く連絡してくれるPさんに、何とか救いの手を差し伸べたいのですが…。

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素晴らしい学生ですか

9月12日(月)

水曜日の会話の授業で、学生たちの自己PRをさせようと思っています。入試の面接試験で時々聞かれ、聞かれた学生が意外と困るのがこれなのです。自己PRの出来不出来が合否に大きく響くことはないでしょうが、他の試験科目や書類審査で甲乙つけがたいとなれば、これが運命の分かれ目にならないとも限りません。

面接試験は自分を売り込む機会です。“私はこんな素晴らしい学生です”ということを面接官に向かってアピールする場です。面接官に好ましい印象を残す、自分を覚えてもらうということに主眼を置いて、答えていくのです。面接官に忘れ去られてしまったら、合格から遠ざかってしまいます。

面接官にとって聞くに値する素養や経験や性格を有していても、受験生の側にそれを伝える力がなければ、そういうものを持っていないのと同じです。せいぜい15分ほどの入学試験の面接試験で受験生のすべてを知るのは不可能です。だからこそ、訴えるポイントを知っておくべきなのです。

また、 “この受験生が入学したら、自分たちはどんなことをしてあげられるだろうか、何を教えていけばいいだろうか”ということを考えながら面接していると言っていた先生もいらっしゃいました。とすると、自己PRとまではいかなくても、自分の思いを伝えることぐらいできないと、最悪の場合、“この受験生に何をしてあげられるかわからないから、不合格にしよう”などということにもなりかねません。

水曜日の事前課題プリントを作りました。明日、配ってもらうつもりです。

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何が売れるでしょう

9月10日(土)

「輸出産業は円高で経営が苦しくなっているので、為替を円安に誘導する」などということが、昭和末期か平成初期の、“Japan as No.1”のころにはよく言われました。事実、円高不況というのがあり、数字の上では確かにそうなのですが、自国の通貨が強いことのどこがいけないのだろう、わざわざ自国の通貨を弱くする必要があるのだろうかなどと、経済のよくわからない私はそう思っていました。強い円のおかげで、外国に対して意味も根拠もない優越感に浸っていただけかもしれませんが。

政府と産業界の“努力”が実って、半導体も電気製品も自動車も、バンバン輸入するようになりました。それに代わる産業が国内で生まれたかというと、アニメなどのコンテンツとインバウンドの観光業ぐらいでしょうか。しかし、観光業はこの2年余り、目に見えないほどの大きさのウィルスにやられっぱなしで、全く振るいません。世界中のだれひとり予測できなかったこととはいえ、実に脆弱な基盤の上に立っていたものです。

今、日本を代表する産業って何でしょう。サブカルは産業って呼べるのかなあ。日本留学は知識や技術の輸出を考えられないこともありませんが、日本を支える産業とは言い難いです。それに、日本の国が弱ってしまったら、前途洋々たる若者は寄り付きませんよ。“円安をフルに活用して、日本で遊んじゃおう!”なんていう人たちが中心になっちゃうかもしれません。

1ドル150円が目の前です。ロシアのルーブルに対してすら安くなっているそうじゃありませんか。こうなったら、大昔に1ドル250円で作ったトラベラーズチェックが日の目を見る日が来ることを楽しみに待つほかありません。

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偉大な方が

9月9日(金)

エリザベス女王が亡くなりました。在位70年、96歳の大往生です。英国のみならず、世界に君臨していたと言ってもいいくらい、王様らしい王様でした。おそらく、今年最大の世界のニュースとなるでしょう。

40年近くも昔、当時は卒業旅行という言い方はしていませんでしたが、就職直前にヨーロッパへ行きました。この中に女王様がお住まいなんだなあと思いながら、観光客らしくバッキンガム宮殿の衛兵の交代を見ました。私と同年代のダイアナ妃よりも、女王を最初に思い浮かべました。

そのダイアナ妃を始め、女王は多くの王室の方々に先立たれました。また、王室が、日本の皇室とは比べ物にならないくらい強い批判にさらされることもありました。ダイアナ妃の死に対して冷たすぎるなどというのもその一例です。でも、顔色一つ変えず公務をこなしたり世界各国を訪れたりされる姿に、なぜか安心感を覚えました。

そして、女王ご自身が見送られる日が来てしまいました。葬儀は、慣例に従えば18日だそうです。こちらは堂々の国葬です。英国民の4人に3人が女王を支持しているとかですから、英国民誰もが、世界中の人々が、国葬の日に衷心から冥福をお祈りすることでしょう。

こんな国葬の見本みたいなのを見せつけられてしまうと、岸田さん、いよいよもって分が悪いですね。死者を冒瀆するつもりなど毛頭ありませんが、エリザベス女王と比べたら、安倍さんも色が褪せてしまいます。しめやかで厳かであろう女王の国葬の翌週ぐらいに、反対の声の中、ろくに黙祷もしてもらえない国葬だと、安倍さんもかえって成仏できないのではないでしょうか…。

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少なくなりました

9月8日(木)

あちこちから入手した進学データを加工編集しています。もう出願の季節ですから、早く進めなければなりません。細かな分析をしているときりがありませんから、まずは必要最小限の加工をして、データを見やすい形にし、先生方に進路指導の際に使っていただこうと思っています。

そうやって手を付けてみると、留学生の数が減ったんだなあと実感させられます。例えば6月のEJU日本語の受験者数は13,560人で、全盛期の半分ほどです。11月のEJUの応募者数でも22,000人弱ですから、元に戻ったとは言い難いです。入国規制が緩和されましたが、それで解決できるほどの問題ではありません。

K大学の方が入試の説明にいらっしゃいました。EJUの基準点は変わっていませんから、留学生の数が減ったからと言って、大学に入りやすくなりそうだというわけでもありません。そりゃそうでしょうね。日本語が通じない留学生を入れても、他の学生の邪魔にしかなりませんからね。

毎年、受験シーズンが進むにつれて“〇〇大学△△学部は入りやすい”というような怪情報が流れ出します。昨シーズンは入管の特例措置が発表されたためか、怪情報に惑わされた学生はあまりいなかったようですが、今シーズンは特例措置はないでしょうから、どうなるでしょう。こちらもしっかり目を光らせていなければなりません。

お昼過ぎに、卒業生のHさんが来ました。D大学に進み、今はR大学の大学院修士2年生で、博士課程はK大学に進学しようと考えているそうです。Hさんの時代は学生がたくさんいて、授業時間以外は面接練習をしていたような気がします。そういえば、Hさんにもデータを見せながら、あなたの持ち点でD大学なら勝負できそうだとか、滑り止めはE大学でどうだとか、そんな話もしましたね。

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