そうまでして?

6月9日(木)

KCPは、校舎・敷地内全面禁煙です。喫煙所はもちろんのこと、灰皿すら置いていません。タバコを吸いたい人は、付近の喫煙所へ行くか、学校にいる間は我慢するか、どちらかです。

付近の喫煙所と言っても、学校のすぐ隣などにはなく、歩いて数分かかります。ですから、15分の休憩時間内にタバコを吸おうとすると、走って喫煙所へ行って、大急ぎで吸って、また走って戻ってくるという感じになります。そんなではあまりにあわただしく、タバコ本来の“一息つく”には程遠いです。それでも吸いに行く人がいますが、タバコを吸ったことのない私など、何のために吸うのだろうと思ってしまいます。

走ろうが何しようが喫煙所まで行って吸って授業開始までに戻ってくるのなら、正当な行為です。誠にお恥ずかしい話ですが、最近、学校至近の喫煙所ではない場所でタバコを吸う学生が後を絶ちません。多くが駐車場などの私有地に無断で入り込み、一服に及んでいます。これは住居不法侵入であり、立派な犯罪です。

捕まった学生たちは、日本人もそこで吸っていると不満げに言います。でも、それは、犯罪の真似をしてもいい、模倣犯は許されると言っているのに等しく、言い訳にも理由にもなりません。

昨日も5人の学生が捕まりました。昼休みに、その5人への締めの説教をしました。次に同じことをしたら即刻退学だと通告しました。夕方、その学生たちの反省文を読みました。喫煙所が遠いとか、早くタバコが吸いたかったとか、要するに学校が何回も繰り返してきた喫煙に関する注意を軽視していたのです。「二度としません」という言葉が躍っていましたが、どこまで信じられるでしょう。しばらくは、この学生たちをマークしていきます。

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欠席するおそれがあります

6月7日(水)

朝、授業の準備をしていると、Tさんからメールが届きました。「昨日の食べた料理のせいで、お腹が痛くなって、寝られなくなりました。今日クラスを欠席するおそれがあります。」と書いてありました。

これを文法の時間に習った通りに素直に解釈すると、「欠席するかもしれない/欠席する可能性がある」となるでしょう。でも、常識的に考えて、Tさんは欠席届のつもりでこのメールを送ったことは明らかです。その証拠に、この文に続いて「ごめんなさい」という言葉がありました。KCPは欠席を厳しくとがめますから、思わず謝ってしまったに違いありません。

「~せいで」「~おそれがある」は、今学期クラスで勉強した文法表現です。Tさんは、おそらくお腹の痛みに耐えつつ文法の教科書を見ながら、その2つの文法を組み合わせて、このメールを作成し送信したのでしょう。それが、この文法を教えた私たち教師への礼儀であり、恩返しでもあると思っていたかもしれません。「お腹が痛いので学校を休みます」で十分なのにこんな文面にしたのには、そんな心情が隠されているような気がします。

Tさんのメールは、欠席届としてはふさわしくないですが、習ったばかりの文法を果敢に使おうとした点は評価してあげられます。向こう傷ですから、名誉の負傷です。翻訳ソフトが作った文よりは、よっぽど血が通っています。

メールの返信には「お大事に」としか書きませんでした。そんなところで文法の講義をしたら、腹痛に加えて頭痛まで抱えてしまうことになりかねません。明日、Tさんが元気になって学校へ来たら、特別講義をしてあげましょう。

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失脚

6月6日(火)

上級クラスで「失脚」という単語を扱いました。学生に意味を聞くと、「やめること」という答えが返ってきました。確かに、「汚職がばれて、社長が失脚した」という文なら、「~社長がやめた」でも意味は通ります。ところが、学生に書いた例文の中に、「解決策が完全に失敗して、課長が失脚した」というのがありました。やはり、失脚するのは社長であり、課長が失脚するなんておこがましい感じがします。ですから、失脚する人はある程度の地位、トップかそれに近い人物である必要があります。

辞書で失脚を調べてみると、だいたい「失敗して、それまでの地位・立場を失うこと」とまとめることができます。でも、これだと課長も失脚していいことになります。失脚には、「権力者がその権力を失う」とういイメージが伴うような気がします。それも、「権力争いに負けて」とか、「高い地位にふさわしい仕事がうまくいかなくて」とか、「下の立場の者からの信頼を失って」とかという要素も含まれているのではないでしょうか。

そうすると、学生の例文「首相の長子は不正な行為で失脚した」はどうでしょう。首相官邸でどんちゃん騒ぎをしたり、外国で公用車を使ってお土産を買いに行ったりして、秘書官更迭という罰を受けたことを指すことは明らかです。しかし、首相秘書官が失脚に値する地位かというと、どうでしょうか。次期首相が約束されていたのなら失脚でもいいと思いますが、実際の首相長男氏はそれほどの地位だったかなという気がします。いや、首相の周りでは「失脚」と言っているのかもしれません。

学生の例文を読むまでは、「失脚」という言葉についてこんなに深く考えたことはありませんでした。また、学生に勉強させてもらいました。

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マスクなし

6月5日(月)

昨日は1日中全くマスクをしませんでした。第1回の緊急事態宣言が出される前以来ですから、3年3か月ぶりか4か月ぶりでしょう。電車にも乗ったし、お店にも入ったし、ごく普通に生活しましたが、朝から夜までマスクなしで通しました。

今年3月から、マスクは本人の自由意思となりました。でも、私はマスクをしてからというもの風邪をひかなくなったというマスクの効用も実感していましたから、マスクを外すことには慎重でした。最後までマスクをし続けるのではないかという予感もしていました。

とはいうものの、やっぱりマスクは鬱陶しいですね。マスクを外して歩くさわやかさには勝てません。最初はちょっぴり罪悪感もあったのですが、今は咳やくしゃみでもしない限り、そんなものは感じません。

さて、午後から年に1度の校内進学フェアがありました。昨年まではマスクはもちろんのこと、フェイスシールドやアクリル板も繰り出したこともありましたが、今年はマスクなしの大学が過半でした。大学や大学院の授業も、同じようにマスクなしでやっているのかなと思いました。私は、外ではマスクなしでも、授業では大声を張り上げてしゃべりますから、一応マスクをしています。

マスクに関しては学生たちの方が保守的なようで、ノーマスクの大学担当者対マスクをした学生という図式が多かったように見受けられました。私のクラスのMさんはマスク派でしたが、数校のブースを回って資料を集めていました。いわゆる有名校ばかりではなく、堅実なところの話もしっかり聞いたようです。先学期受け持っていたKさんは女子大に興味を持っていると言っていましたが、その通りに女子大の話を真っ先に聞いたようです。

この学生たちが受験の本番を迎えるころには、マスクなしがさらに浸透していることを願っています。

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七冠誕生

6月2日(金)

昨日、藤井聡太六冠が名人位を獲得し、七冠になりました。14歳でプロ棋士になった時からずっと注目され続け、順調に力を伸ばして次々とタイトル戦を制し、最高のタイトルとされる名人位も手にしたのです。秋に予定されている王座戦に勝てば、八冠独占となります。

その藤井新名人、まだ20歳です。KCPの学生たちと同年代です。身を置く世界がまるっきり違いますから、直接比較するのは無意味です。でも、飽くなき向上心だけはKCPの学生たちに見習ってもらいたいです。

藤井新名人は、勝負が終わった後の感想戦が長いそうです。感想戦とは、今指し終わった将棋を、対局した2人が最初から振り返り、重要な局面でどんな指し方があったか研究する場です。勝っても負けても、ここでこう指していたらどんな変化が生まれたか、最善の手筋は何だったのか、そういったことを時間の許す限り追究することが、新名人の力の源なのでしょう。

AIが将棋名人を破ってから数年になりますが、新名人は、そのAIすら思いつかなかった(計算できなかった)素晴らしい手を繰り出すこともしばしばだといいます。天賦の才もさることながら、上述のような向上心こそが、AIをも上回る頭脳を作り上げているのです。

今の学生たちは、概して勉強時間が足りません。1日わずか1時間か2時間の勉強で、有名校を並べ立てた志望校に入れると、本気で思っているのでしょうか。テストを返却すると点数だけ確認して鞄にしまい込んじゃうようだと、先行き見通しは暗いです。

新名人はプロ棋士230名の頂点に立ちましたが、KCPの学生だって、せめて10人の中の1番にならなければ、頭の中に思い描いている夢を実現させることは難しいです。教師に尻を叩かれたら、素直に慌てて勉強してほしいです。

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あんたのための授業だよ

6月1日(木)

文法テストの成績が全体的に思わしくなかったので、テストのフィードバックをしました。単なる答え合わせではなく、「こういう考え方をするから、この答えは〇だけど、この答えは×です」「こういう間違え方は-1点、こういう間違え方はー2点です」というような説明をしていきました。

すると、100点を取ったYさんや95点のNさんは、説明に使った例文などを一生懸命ノートに写していました。フィードバックを聞く必要などほとんどないのですが、私の言葉から1つでも何かを得ようとしている様子がうかがえました。

その一方で、58点のSさんは船頭さんになり、50点のJさんはよそ見をしており、Cさんに至っては欠席です。「あんたたちのために授業の予定を変えてフィードバックしているんじゃないですか!」と言ってやりたいところですが、惜しくも不合格だったLさんやTさんが真剣なまなざしをこちらに向けていますから、説教は封印しました。

できる学生はより一層できるようになり、できない学生はどんどん落ちていくとうい構図が明確に表れていました。最近受け持ったクラスは、どれもこの二極化が顕著な気がします。ちょっと前までは、成績下位の学生でもなんとか這い上がろうという気概が見られたものですが、今はそういった闘争心が見えてきません。

その点、日本語プラスの物理や化学の学生は、今はできないけれども何かをつかんで浮かび上がろうとしています。過去問シリーズに入ってから、質問が多くなりました。大化けするんじゃないかと、ひそかに期待しています。6月は、EJUの月です。

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1対1

5月31日(水)

読解の授業をしている最中、ちょうど10時にHさんが教室に入ってきました。遅刻の理由を聞くと腹が立つに決まっていますから、授業に支障を来さないように、そのまま空いている席に座らせました。その後、授業終了まで、Hさんはごく普通に授業を受けました。

遅刻の理由を尋ねなかったのは、腹が立つからだけではありません。実は、授業後にHさんの面接をすることになっていたので、その時にじっくり聞けばいいと思ったからです。

中間テストの結果を見ながらの面接ですが、Hさんはその結果が全科目不合格と、悲惨を極めています。その中の文法を、教科書やノートを見て間違えたところを直しなさいと指示を出しました。普段の授業態度からするといい加減に直すのではないかと思っていたら、教科書をあちこちめくりながら真剣に取り組んでいました。

しばらく経ってHさんの直した答えを見ると、だいたい合っていましたが、一部はどう直していいかわからないようでした。そういう問題について、ヒントになる教科書のページを示すと、それをもとに自分で答えを書いていきました。それでもわからないところは、私が解説を加えました。

クラス授業ではあまりやる気を見せないHさんが、1対1だと非常に真剣になり、どんどん質問するほど積極的になりました。Hさんの別の一面を見た気がしました。クラス20人の中の1人ではやる気が起きないけど、教師を独り占めできるのなら勉強の意欲が湧いてくるのでしょうか。

それは結構なことですが、毎日Hさんのためだけにこういう授業をするわけにはいきません。もしかすると、Sさん、Yさん、Cさんなど、成績が振るわない学生たちはみんなそうなのでしょうか。この学生たちを全員救おうと思ったら、教師は体がいくつあっても足りません。

1対1の指導なら、教師の言葉を自分事ととらえられるものの、20人のクラス授業では、それが他人事に聞こえているに違いありません。そうでなかったら、勉強に関する注意がこんなにも学生に響かないことはありません。私が受け持っているもう1つのクラスでも同じような空気を感じます。

さて、Hさんの遅刻の理由ですが、目を覚ましたら天井にゴキブリがいるのを見つけ、それを退治するのに時間がかかったからだそうです。やっぱり聞くんじゃありませんでした。

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実感できない

5月30日(火)

上級クラスのNさんは、美術系の大学進学を目指す学生です。第一志望校はA大学で、今度の日曜日に体験授業に参加します。A大学は体験授業参加型の入試がありますから、このまま順調にいけば合格の可能性は高いです。また、中間テストではどの科目もクラス平均以上の成績を挙げました。授業中はおとなしいですが、どんな課題にも真剣に取り組む様子がうかがわれます。

そんなNさんの面接をしました。授業後、毎日、図書室で6時まで予復習をすると言いますから、学業に対する姿勢には問題ありません。EJUが終わったらアルバイトを始めると言っていますが、Nさんならアルバイトにのめりこんで勉強がおろそかになることはないでしょう。

私が聞きたい話はだいたい聞き出せたので、最後に「ほかに何か質問はありますか」と聞きました。すると、「最近、自分の日本語力が伸びているか心配になります」と言い出しました。確かに、Nさんは地味なタイプの学生ですが、授業中の発言はいつも的確です。私が受け持っている中級クラスの一番優秀な学生と比べても、はっきり力の差を感じます。だからこそ、A大学の合格可能性が高いと言えるのです。

でも、実力の伸びが実感できないという気持ちも理解できます。レベル1や2の頃は、授業前にはできなかったことが、授業後にはできるようになっているということの繰り返しです。それゆえ、力が付いたことは学生自身にもよくわかるはずです。これが中級以上になると、そういう劇的な違いを感じる機会が非常に少なくなります。Nさんもそういう段階に至っているので、不安なのです。

もちろん、Nさんのようにまじめに勉強している学生の力が伸びていないなどということはありません。今学期だって、ディベートの授業を通して話す力をつけています。それを実感させられないのは、私たちの力不足です。励ますだけではなく、話せたとか読めたとか、具体的な形で学生に体感させたいものです。

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パソコンが壊れた?

5月29日(月)

先週、今年の1月に買ったパソコンが、突然電源が入らなくなってしまいました。こういう時は電源ボタンを長押ししてみるのが常道ですからそうしてみました。しかし、何の変化もありませんでした。前のパソコンを処分せずにとっておいたので、とりあえずそれを使って急場をしのぎました。

そして、昨日、メーカーのサポートセンターに電話を掛けました。日曜日の午後ですから、きっと長い時間待たされるだろうなと思いながら音声ガイダンスに従って1とか2とか入力していくと、わりとすんなりオペレーターにつながりました。

「お待たせしました」の「おま」ぐらいで“あ、この人、外国人”とわかり、しかも国籍まで見当がついちゃいました。外国人となると、早口でまくし立てても通じません。せいぜい中級クラスの学生向けの話し方で、「先週の木曜日から電源が入らないんですが、どうすればいいでしょうか」と聞きました。

「そのことについて、何かお心当たりはありますか」と、おそらくはマニュアル通りの質問がありました。「いいえ、全くありません」と答えてしまってから、“全く”よりも“全然”のほうがよかったかなと思い直しました。でも、通じたようで、その次の質問を繰り出してきました。

結局、私がしたよりもずっと長い時間の長押しをしたら、どうにか復旧しました。そう告げると「そのほか、お聞きになりたいことはありますか」と、これまたマニュアル通りらしき確認。「おかげさまで問題は解決しました。どうもありがとうございました」と答えると、一瞬、間があきました。ちょっと難しかったかな。

パソコンの細かいところの動作チェックをしながら、あの人はどんな日本語教育を受けてきたのだろうと思いました。発音はイマイチですが、やり取りのシチュエーションが限られるという面もあるでしょうが、聞き取りはきちんとできました。上級の力があると思ってもいいような気がしました。

ウチの学生も、専門知識があれば、このくらいの受け答えができるでしょうか。背後から日本人の声が聞こえましたから、サポートセンターは日本にあるのかもしれません。日本で働くとは、こういうことも含まれるのです。私のような素直な客ばかりとは限りませんよ。

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備えてますか

5月27日(土)

昨晩は帰り支度を始めたころに地震がありました。職員室にいた教職員全員が「あ、地震」となりましたが、誰の電話にも緊急地震速報が入らず、大した規模ではないということもすぐわかりました。

ネットを見てみると、千葉や茨城では震度5強だったと報じられていました。この地域では、半月ほど前にも同じような規模の地震がありました。群発地震というほどではないのでしょうが、少々気になる動きです。

学校を出ると、街の中は異常なしでしたが、丸ノ内線・銀座線はところどころ徐行運転でした。千葉方面に向かう鉄道は、運転見合わせだったようです。

家の中も、本棚の本が飛び出したなどということもなく、異常なし。いつものようにお風呂に入ったりネットを見たりして寝ました。夜中に余震もなかったのでしょう。今朝も、いつもの時間に目を覚ましました。

学生はどうだったんでしょうね。土曜日は学生が来ませんから直接話は聞けませんでしたが、「困った」という電話もかかってきませんでしたから、おそらく何事もなかったのだと思います。

でも、1階であれだけ揺れを感じたのですから、教室はもっと揺れたのではないでしょうか。授業中だったら、学生たちは大騒ぎだったに違いありません。

「地震雷火事親父」と言われます。地震は人がよって立つ地面そのものが揺らぐのだから、怖いものの第1位なのだと何かで読んだことがあります。確かにそうですね。地震は突然襲ってきて逃げようがありません。

とすると、地震慣れした東京の人間よりも、地震のたびにビクついている学生たちの方が、人間として、生物として、まっとうなのかもしれません。私なんかはいつも大笑いしていますが。

でも、怖がるくせに備えはしないんですよね、学生たちは。来週は、授業でそんなあたりをつついてみましょうか。これから長い日本での留学生活では、地震と共存ですからね。

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