気の迷いをなくせ

2月5日(水)

久しぶりに推薦書を書きました。昨日、私が担任をしているクラスのHさんから頼まれたのですが、ゆうべはドライアイがひどくて書く気になれず、今朝、授業の準備を終えてから取り掛かりました。しばらく書いていなかったのですぐに筆が進むだろうかと心配していましたが、書き始めたら1行目が終わるころにはペースを取り戻していました。自転車と同じで、体で覚えているんでしょうか。

HさんはKCPに入学してからN2とN1に合格しました。これは、「志願者Hは、当校入学以来、精力的に日本語の習得に努め、JLPTのN2、N1にも合格するなど、順調に日本語力を伸ばしてきた」なんていうふうに推薦書に反映させました。これでペースをつかみ、クラブ活動で活躍したことも書き、読み手にHさんの特徴が見えてくるような推薦書の下書きができました。

これをすぐ清書するかというと、1日置いておきます。明日の朝読み直して違和感がなかったら、本物の用紙に丁寧な字で清書します。こういうのは、書き上げた余韻に浸りながら読み直したって、文章のアラは見えてきません。そういう熱が冷めて、公平かつ冷静に文章を見つめられるようになってからでないと、本当の意味でのチェックはできません。でも、1晩おいてから読み直すと、新しいエピソードを付け加えたくなることもしばしばです。

さて、明日の朝はどんな気持ちでこの下書きを読むのでしょう。あまり迷わずに仕上げたいですが、Hさんはまじめないい学生だけに、推薦書にとっては余計なことを思い出してしまうかもしれません。

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欲張らずに

2月4日(火)

今学期の選択授業・小論文は、課題について調べる時間を与えています。だから、先週この稿に書いたRさんのようなことも発生しうるのです。しかし、根拠のある意見を書いてほしいので、時間を決めてスマホで調べてもらっています。

本気で取り組んでいる学生は、決められた時間内で調べ物は済ませ、あとは書くことに集中します。そこまでの本気度がない学生は、漢字を調べるとかなんとか言い訳しつつ、スマホを手にします。こちらも、そういう怪しげな学生は名前を控えておきます。

先週登場のRさんはその怪しげ組のメンバーでした。授業終了15分前には、もう書き上げているふうでした。私が原稿用紙を取り上げて読むと、心配そうな顔でこちらを見上げていました。AIに頼った形跡はありませんでしたが、間違いが多かったですね。「友達に読んでもらいなさい」と言って原稿用紙を返すと、それは恥ずかしいのか、自分で読み返していました。

チャイムが鳴ってもSさんは原稿が仕上がらず、5分ほど書き続けてから提出しました。「先生、私は書くのが遅いです。どうしたら時間内に書けますか」と聞いてきました。「Sさんは調べたことを全部書こうとしているんじゃないの?」と答えると、「はい」とうなずきました。「それじゃあ、書けないよ。調べたことの中からどれか1つにポイントを絞らなきゃ」とアドバイスすると、「1つにするの、難しいです」と辛そうな表情で訴えてきました。

でも、ここで欲張ってはいけないのです。論点を1つに絞ることは、論旨を明確にすることにつながります。筆鋒鋭く読み手の心に突き刺さる文章は、何でもかんでもという考え方からは生まれません。

Sさんの小論文はまだ読んでいませんが、なんだか楽しみです。

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継続は難しい

2月3日(月)

また、Tさんが休みでした。Tさんは入学式のお手伝いをしてくれたり、初級の学生と教師との間の通訳を買って出てくれたりと、非常に学校に協力的な学生でした。しかし、このところ、欠席が続いています。

Tさんは、日本で進学するつもりでKCPに入学しましたが、いろいろな事情から、結局、アメリカに留学することに方針転換しました。英語がよくできるということもその理由の1つです。そう決めたあたりから、どうも様子がおかしくなり出しました。授業に出てくれば、積極的に参加するし、クラスを引っ張るし、授業の核になってくれます。Tさん自身も得るものが多いことでしょう。

しかし、出て来なかったらどうしようもありません。授業後に電話をかけても、お話し中で理由すら聞けませんでした。緊張の糸が切れてしまったのでしょうか。日本から離れるのですから、日本語の勉強に身を入れる気をなくしてしまったのでしょうか。いずれにしても以前のTさんからは変わってしまったようです。

この稿で、進学先が決まって気が緩んだ学生の例をいくつも書いてきました。最初から怪しい学生もいましたが、“えっ、Xさん、あなたが?”と叫びたくなるような学生が休み始めることもたびたびありました。Tさんもその仲間に入ってしまったのかと思うと、残念でなりません。同時に、何かをやり遂げるというのは、実に難しいものだと思わずにはいられません。どういう指導をしてくれば、こうならずに済んだのでしょう。答えは容易に見つかりそうもありません。

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推薦の重み

1月31日(金)

Aさんは、去年の秋に指定校推薦でB大学に合格しました。指定校推薦の出席率の基準が90%でしたが、Aさんは92%ぐらいでそれをクリアしました。しかし、毎年95%以上の学生を推薦してきましたから、Aさんには指定校推薦の書類を渡す際に、くどくくどく、これ以上出席率を下げることのないようにと、くぎを5本ぐらい刺しておきました。

しかし、合格証を手にしてからのAさんはちょくちょく遅刻や欠席を繰り返し、出席率が90%を割り込む月が多くなりました。はたから見ている限り、気が緩んでいるように感じられました。そして、今月は、病気になってしまったこともあり、出席率が50%となり、入学からの出席率も90%を割り込んでしまいました。

にもかかわらず、来月末のバス旅行に行かないと言い出しました。学校行事に必ず参加することも、指定校推薦の際の条件です。バス旅行に行かないということは、その分出席率も下がります。バス旅行は朝から夕方までですから、2日分の出欠席になりますから、下がり方が大きいのです。

授業後、Aさんを呼び出しました。Aさんはバス旅行に行けない理由を丁寧に説明すればわかってもらえると思っていた節がありました。こちらはAさんが何か言い出す前に、データを示して現在の出席率が推薦基準以下であることを伝えました。学校推薦基準に満たないので、B大学に合格取り消しとされても文句は言えません。

また、推薦を受ける際に、Aさんは、出席率95%以上を維持する、卒業まで模範生でい続ける、これが守れなかったら推薦を取り消されても異議はないといった誓約書にサインしています。

そういったことを伝えると、Aさんは黙り込んでしまいました。うつむいたまま何もしゃべらなくなってしまいました。私も黙ったまま待っていると、「うちに帰ってよく考えます」と涙声で言って、職員室を後にしました。私も、月曜日まで待つことにしました。

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若干回復

1月30日(木)

朝、9時3分前ぐらいに教室に入ると、すでに登校していた学生は10人弱。このクラス、私が担任をしていますが、旧正月の昨日はクラスの半数が休みました。それから考えると出足がいいのかもしれません。

その後、パラパラと学生が来て、9時ちょうどには過半数になりました。さらに、5分遅刻ぐらいの学生が2、3名いて、どうにかまともな授業ができる学生数になりました。2名は一時帰国中、1名は両親が来日し、自分の進学先の京都で家探し。さらに1名は病欠という連絡が授業前に届きました。昨日に比べたらだいぶ改善しました。

日本語プラスに来たSさんに聞くと、Sさんのクラスでも昨日は大勢休んだそうです。Sさん自身は休むなど全然思いもせず、平日は学校へ行って勉強するという、ごく当たり前の生活を繰り返しただけでした。周りの学生があまりにみんな休むので、びっくりしたそうです。

昨日の私のクラスは最上級クラスでした。欠席3名でしたが、うち2名は進学にかかわるよんどころない事情での欠席でした。1名だけが、前の晩に飲み過ぎたのでという、旧正月がらみの欠席でした。

毎年感じることですが、日本の生活により深くなじんでいる学生ほど、旧正月に休むことはありません。昨日の最上級クラスはその一例です。私のクラスは、上級の一角とはいえ、まだまだなんですね。

国の風習を忘れてしまえと言っているのではありません。それは大切にすべきです。しかし、それを所かまわず振り回すのは、ちょっと違うんじゃないんでしょうか。

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ミスがなくて暗雲が垂れ込める

1月29日(水)

「先生、Rさんの出席成績証明書のコメント、お願いします」と、T先生が書類を持ってきました。Rさんの今学期の担任はT先生ですが、まだ付き合いが浅く、先学期の担任の私に書いてほしいということでした。Rさんは、H専門学校に出願するそうです。

外部に提出する書類には、なるべくいい言葉を書いてあげたいです。推薦書ほど立派な話を書き連ねる必要はありませんが、先学期のRさんの姿から輝くエピソードを見つけてあげたいです。

確かに進級はしましたが、かろうじて合格という成績でした。宿題はよく忘れたし、授業中のタスクも出さなかったことがたびたびありました。スマホも手放しませんでしたね。それでも1度だけグループ活動でリーダーっぽい役を担ったことを思い出し、それをネタにどうにか書き上げました。

その直後、昨日の選択授業で書かせた小論文の採点をしました。偶然にも、Rさんのが一番上に載っていました。読んでみると、語彙や文法のミスはほとんどありませんでした。しかし、授業で触れた小論文の型は全く無視していました。また、Rさんの意見は述べられておらず、毒にも薬にもならない一般論が書かれていました。

やらかしてくれたなと思いました。昨日の課題をAIに考えてもらい、その回答をそのまま原稿用紙のマス目に埋めていったのでしょう。Rさんが知っていたとは思えない文系や語彙が随所に、適材適所に使われていました。時々、濁点が落ちていたり、漢字の字形がわずかに違っていたりしました。

H専門学校は、就職はいいです。それは、厳しい指導に裏打ちされているからです。たかだか原稿用紙1枚半の文章をAIに頼ってしまうのだとしたら、Rさんはこの学校で生き残れるでしょうか。出席成績証明書のコメントを書き直したくなりました。

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暖簾に腕押し

1月28日(火)

出席を取り終わって連絡事項を伝え始めた頃に、最近休みが目立つCさんがそっと教室に入ってきました。そして、教卓から一番遠いところに席を取りました。Cさんは目立たないところに座ったつもりだったのかもしれませんが、教師からは実によく見えるのです。その後の授業でCさんはあまり気合が入っていなかったことも、実によくわかりました。

火曜日の後半は選択授業で、クラスの学生はバラバラになります。Cさんは私が担当する小論文のクラスです。先週は欠席だったので、今週が初授業です。「先週欠席した人には、先週のプリントをあげます。小論文の書き方のポイントが書いてありますから、よく読んでください」と言うと、先週の欠席者が次々と手を上げましたが、Cさんは無反応。

今回の課題の説明をし、「さあ書いてください」となったのですが、Cさんは何もしませんでした。原稿用紙を持っていなかったのです。こういう場合、付近の学生に声をかけて原稿用紙を分けてもらうものなのですが、Cさんは何もしませんでした。何か動きを見せるかと思ってしばらく待ちましたが、何もしようとしません。ついに根負けし、「1階で原稿用紙を買ってきなさい」と促しました。

原稿用紙を買いに行ったにしては戻りが遅いなと感じ始めた頃、ドアがノックされました。開けると、事務所のRさんがいました。「先生のクラスの学生さんが原稿用紙を買いに来たんですが、現金の持ち合わせがないんです。どうすればいいですか」。言葉を失ってしまいました。Rさんが「下で余っている原稿用紙を渡しましょうか」と言ってくれたので、お言葉に甘えることにしました。

戻ってきたCさんは課題に取り組みましたが、全く筆が進みません。終業のチャイムが鳴りましたが、ほんの数行しか書けませんでした。それを提出して帰ろうとするCさんを引き留め、事情聴取。

(タブレットで出席率データを見せながら)「今月の出席率は50%ですよ」

「はあ…。でも、まだ、1月は終わっていません」

「1月はあと3日だよ。全部出席したって、出席率80%になんか、なるわけないでしょ」

「……」

「どうしてこんなに休むんですか」

「やる気が出ないんです」

「やる気が出ないんだったら、国へ帰って、現地募集する日本の大学に出願したらどうですか」

(嫌な顔をしながら)「……」

(入学からの出席率データを見せながら)「こんな出席状況のままじゃ、ビザは絶対に出ませんね。やっぱり帰国するのが一番いい方法だと思います」

「……」

といった調子で、返答に困ると「……」を繰り返すCさんでした。私の言葉も、どれだけ響いたかわかったもんじゃありません。今までに他の先生から同じ話を何回もされているのですから。

さて、明日の教室にCさんはいるのでしょうか。

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ある帰国

1月27日(月)

「先生」と呼び止められて振り向くと、Oさんがいました。「明日から2月4日まで、一時帰国します」と言いながら、一時帰国届を出してきました。理由欄には、旧正月を家族と一緒に過ごすためと書いてありました。

学生が一時帰国することには、法律上の問題はありません。ですから、Oさんのようにきちんと届を提出してきたら、原則として受理します。しかし、学期中に1週間以上にわたって一時帰国するというのは、日本語を学ぶものとしていかがなものでしょう。

たしかに、OさんはすでにA大学に合格し、入学手続きも済ませていますから、卒業式までKCPに通う以外にすることがありません。それゆえ、一時帰国しようというのでしょう。しかし、Oさんのコミュニケーション力、特に話す力には大きな疑問符が付きます。このままA大学に進学したら、さぞかし苦労することでしょう。

初級の学生には、よく、「国へ帰ると日本語の力が元に戻っちゃうよ」などとよく言います。実際、期末テスト直後に帰国して、始業に直前に戻ってきた学生が、全然話が通じなくなっていたというケースは枚挙にいとまがありません。Oさんは上級の学生ですが、その話し方には危うさが色濃く感じられます。また、Oさんが進学することになっているA大学は、誰でも入れるようないい加減な大学ではありません。よく面接が通ったねと言いたくなるくらいです。それゆえ、なおさら、大学に入ってから困らないようにと言いたくなるのです。

私以外のOさんを知る教師はみんな心配していますが、Oさんの心はもう日本にはありません。来月5日に顔を合わせたときにOさんの日本語力が落ちていないことを祈るばかりです。

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ノート

1月24日(金)

今学期の選択授業・身近な科学は、授業の最初に白い紙を渡し、それにノートを取ってもらうことにしています。そして、授業の最後に、授業をよく聞いていれば、きちんとノートを取っていれば必ず解けるクイズを出します。

このクラスには、上級1期目の学生から、4月期から上級に在籍している学生までいます。同じ上級とはいえ、日本語力にはだいぶ差があります。しかし、こうしてノートを取らせてみると、より上のレベルの学生がより上手にノートが取れるとは限らないことが見えてきます。そして、ノートが取れている学生は、概してクイズの成績がいいです。私のクイズは、ネットで調べても答えが見つからない問題ばかりですから、授業をきちんと聞いて、それを記録に残すことができる学生がいい点数だというのは、妥当な結果です。

最上級クラスのAさんやBさんは、あまり点が伸びませんでした。授業中はうなずいていましたから、よく理解できているのだろうと思っていたら、そうでもありませんでした。上級1期目のCさんは、細かくノートを取っていました。私が見てもよくわかる形でまとめられていました。こういう人は頭脳明晰なんだろうなと思いました。

身近な科学の学生たちは、ほとんどが4月から進学します。日本人の学生に伍して大学や大学院の授業を受けるとなると、ノートがきちんととれるかどうかが運命の分かれ目になるでしょう。卒業生へのはなむけの授業のつもりでやっています。春にはありがたみを感じてくれるかな…。

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拒否!

1月23日(木)

出席を取り、連絡事項を伝え、明日の選択授業の案内を該当者に配り、読解の授業を始め、語句の説明のため板書して学生の方に向き直ると、ついさっきまでいなかったGさんが何事もなかったかのように席に着いていました。このクラスの教室は教卓から離れたところにドアがあるため、教師が遅刻の学生に気づかないこともあるのです。

そのGさん、「先生、すみません。遅刻しました」でもなく、フードをかぶったまま下を向いています。おそらく、スマホをいじっているのでしょう。授業に参加する意思はなさそうでした。私がGさんの机に近づいても、全く動ずるところはありませんでした。

このクラスに入るのは今学期初めてでしたが、今までに入った先生方からGさんのうわさは耳にしていました。どの先生も手を焼いているご様子でした。これじゃあ、手の差し伸べようもありません。“構うな!”オーラを四方八方に発散し、周りの学生にも声をかけるなと体を張って訴えているように見えました。

Gさんは今までに何校か受験に失敗しています。日本語力的にGさんよりも劣る学生が同じ大学に受かったのにGさんが落ちてしまったのは、このコミュニケーション拒否とも言える態度が災いしていることは疑いありません。でも、先学期担当した先生によると、本人はこれを認めようとしていないとのことです。

このGさんをどう指導していくか難しいところですが、もう1人、Jさんも同様の学生です。そのJさんは欠席でした。電話をかけても出ませんでした。難問山積です。

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