10年後

8月15日(金)

「あなたは仕事を選ぶうえで、何を重視しますか」というテーマで、学生たちに話し合ってもらいました。意見を聞くと、第一はやはり給料。自分の興味に合う仕事も人気がありました。ワークライフバランス、やりがいなどという意見もありましたが、多くの学生の票を集めるには至りませんでした。

その次に、10年後、どんな仕事をしてどんなポジションにいるかという話をしてもらいました。給料を重視するのですから、課長とか研究リーダーとか、そこそこのポジションについているという答えが出てくると思いきや、働きたくないとか、仕事はロボットやAIに任せるという学生が、国籍に関係なく多かったです。

要するに、楽にお金を稼ぎたいのでしょう。大学を出たら必死に働いてお金をためて、そのお金を投資して、10年後は配当か何かで暮らすという、昔なら不労所得と蔑まれた働き方が輝いて見えました。

もちろん、発言の通りの暮らしをする(できる)学生はいないでしょう。あくせく働きながら2035年を迎えるというのが実際の姿ではないかと思います。でも、上述のような理想を持っていることは確かです。

私の若い時はどうだったかなあと思い出すと、学生時代に10年後の自分の姿を明確に描いていたとは言えません。でも、ドラえもんの道具に仕事を任せて自分は遊んでいるという近未来は考えていなかったと思います。早いうちに引退して好きなことをして人生を楽しむという道も考えないわけではありませんでしたが、実現可能性は低いだろうと思ってました。

そして、現実は、10年後どころか40年後も楽隠居には程遠い暮らしをしています。学生たちも、たぶんそうじゃないかな。だから、仕事は本気で選ばなきゃダメなんですよ。

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趣味日本語学習

8月14日(木)

授業後にクラスの学生の進路に関する面接をしました。

Cさんは、日本で進学も就職もせずに帰国すると言います。現在、リモートでしている仕事があり、国でそれを続けます。日本語の勉強は趣味だそうです。だから、入試に向けての読解や聴解などは、自分の必要とするないしは欲する勉強ではないので、あまり気が進みません。JLPTも、すでにN2に合格しており、日本で就職するつもりはないのでN1は不要であり、進んで取り組もうとは思いません。

趣味で語学を勉強するなんて、そして上級レベルまで上達するなんて、何とうらやましいことでしょう。そういう学習者を集めて授業ができたら、教師にとってもさぞかし楽しいことでしょう。でも、残念なことに、KCPは日本で進学する留学生のための学校であり、時には無理に知識を詰め込んだり、時には同じような練習を何回も繰り返したり、学習者にとってはつまらない授業もしなければなりません。楽しい日本語ではなく、苦しい日本語に陥っていることもあります。できないことをできるようになるまでさせるなんて、苦しい日本語の極致です。

Cさんは帰国したらどんな形で日本語と付き合っていくのでしょう。日本のドラマやアニメを見るなど、娯楽の日本語を追求するのでしょうか。日本語で思考回路を回してみて、新たな気付きを得ることだってあるかもしれません。これは発見の日本語かな。いずれにせよ、テストの点数に一喜一憂する受験の日本語とは大きく違います。

Cさんは、いい趣味を持っています。

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母は強し

8月13日(水)

レベル1の漢字の授業で「毎」を教えました。中国語では、下半分が“母”ですから、学生たちがよく間違えます。ですから、声を張り上げて「中国の学生、よく見て」と言ってから、ホワイトボードに大きく「毎」の字を書き、注意すべきところを赤で強調しました。これだけ印象付ければ“母”を書く学生はいないだろうと思って学生の教科書をのぞき込むと、Sさんは練習問題の答えにしっかりと“母”を書いていました。

レベル1の学生に私の日本語が通じなかったのか、脳にもペンを持つ指先にも深く刻み込まれた記憶と習慣の影響から逃れるのが難しいのか、ごく自然に“母”になってしまうんですねえ。中級・上級になっても尾を引き続けるのですから、記憶と習慣が主因でしょう。「毎」は作文や例文で何回直したかわかりません。これに限っては、中国人以外の学生の方が、正答率が高いと思います。

正直に言って、「毎」の下半分が“母”でも「毎」と認識できます。「苺」の下半分が“毋”でも「苺」と認識できます。だから、上記私の指導は重箱の隅的こだわりに過ぎないのかもしれません。でも、“末”と“未”も、“己”と“已”も、“申”と“甲”も、“礼”と“札”も別字です。もちろん、“母”と“毋”も別字です。入試の漢字の書き取りでこれらを取り違えたら、文句なし×です。重箱の隅的こだわりが利いている場合もあるのです。

ちなみに、「毎」を漢和辞典で調べてみると、“髪飾りをつけて結髪した婦人”を表した象形文字だそうです。とすると、中国の漢字(日本の旧字体)が本来の姿と言えます。

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最後まで

8月12日(火)

中間テストがありました。レベル1は会話の中間テストもあり、先学期に続いて試験官を務めました。レベル1のしかも前半が終わったばかりですから、話せることはそんなに多くありません。

でも、「お国はどちらですか」ぐらいはわかりますから、それを聞きました。「中国です」と答えれば○ですが、「お国は中国です」だったら×です。「学校はどちらですか」「学校はKCPです」は○なんですがね。

それに続けて、「いつ、日本へ来ましたか」と聞くと、すぐに「七月に来ました」と答える学生もいる一方で、指折り数えて「ななげつです」と言ってしまう学生もいました。さらに日にちまで答えようとして、やはり指折り数えたあげく、「七月ごっか」などと間違ってしまう学生も数人。

もちろん、中には、「夏休みは鎌倉へ海を見に行きます」と、授業で習った表現を応用して答えた学生もいました。結構意外な学生もそんな答えをしていたのは、習ったばかりで忘れる前だったからでしょうか。

でも、一番差が付いたのは、「じゃあ、これで会話テストを終わります」と言った後の態度でした。逃げるように席を立つ学生、ぴょこんと頭を軽く下げる学生、「フーッ」と大きく息を突く学生、「ありがとうございました」と言ってから立ち上がる学生、十人十色でした。こちらが終了宣言をした後ですからこの部分は採点対象外ですが、やっぱり印象が違いますね。

これと似たようなことを、上級の学生が入試の面接の場でやっていないとも限りません。面接練習の場で、要指導です。

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筆鋒鋭く

8月9日(土)

火曜日に行った選択授業・小論文の中間テストの採点をしました。5日のこの稿にも書きましたが、グラフから何かを読み取って小論文にまとめるタイプから、グラフなしの問題に変更しました。問題の説明をした時点で学生たちは喜んでいましたが、それが文章にも現れていました。

グラフ読み取りの問題に比べて、学生の文章が生き生きとしています。筆(シャープペンシル?)の勢いが全然違います。600字という制限を大きく超える大作を著した学生も少なくありません。その大作も、水太りで字数だけ増えたのではなく、筋肉太りですから読みごたえがあります。

私が取り上げた題材が学生たちにハマった面もあるようです。ある事件に関する意見を求めたのですが、意見がほぼ真っ二つに分かれました。学生たちにとって、議論のしがいがあるトピックだったようです。この選択授業の初回に説明した小論文の構成に則り意見を述べてくれた学生が多かったです。

学生たちは、頭の中で考えたことを原稿用紙の上に表すことに関しては、かなりの能力を有していることがよくわかりました。しかし、しかるべき根拠を示して議論を展開するとなると、まだまだだと思わざるを得ません。根拠がないので、文末が「~だろう/かもしれない/ではないかと思う」など、断定を避ける表現が目立ちます。

ここを鍛えておかないと、本番の入試の小論文で痛い目に遭いかねません。EJUの記述試験なら、根拠なしでも点が取れますが、“いい大学”の小論文は、それでは勝てません。やはり、グラフで鍛えていくのが、今学期後半の小論文の課題です。

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7ミリの雨

8月8日(金)

午後、日本語プラスの授業をしていたら、窓の外が暗くなってきました。そして、数分のうちに、音を立てて雨が降り出しました。「あんたたち、傘、持って来た?」と聞くと、学生たちは不安そうに首を振りました。

授業を進めて、最後に練習問題を配り、もう一度外を見てみると、青空から日が差しているではありませんか。通り雨、夕立、いずれにしても短時間のうちに雨は上がってしまいました。

授業を終えて外階段に出ると、いくらか涼しさを感じました。気象庁のデータで調べてみると、練馬のアメダスでは、13:00に32.5度だったのが、13:30には20.7度と、11.8度も下がりました。この間、7ミリの雨が降りました。気温の低下は、気化熱によるものでしょう。また、13:27に北北東の風17.9メートルの最大瞬間風速を記録しています。練馬は、小ぶりの嵐だったのでしょう。

その後、練馬は雨雲が遠ざかるとともに気温が上がり、17:20には30.2度となっています。7ミリの雨が全部蒸発し、周りから熱気が入り込んできたのでしょう。湿度は67%で、雨が降る直前の47%からだいぶ上がっています。蒸し暑さが戻ってしまった感じがします。

昨日が立秋ですから、すでに“暦の上では秋”ですが、そんな表現がむなしく感じます。最低気温が20.7度ですから、「最低気温が25度以上の日」という熱帯夜の定義に照らし合わせると、8月8日は熱帯夜にはなりません。しかし、“日没から翌日の日の出までの最低気温が25度以上”と定義し直すと、昨晩も今晩も熱帯夜になりそうです。

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みんなで早起き

8月7日(木)

アメリカの大学のプログラムで来ている学生の面接をしています。プログラムの都合で中間テストまでで帰ってしまうので、会話力テストの面もあります。

アルファベットの国出身の人たちばかりですから、漢字に苦労するのはしかたありません。しかし、Rさんは漢字が大好きだと言いました。そして、かなり分厚いノートを見せてくれました。細かい字でびっしり日本語の文が書いてありました。毎日、大量の日本語を書いているようです。これなら漢字の読み書きもできるようになると思いました。そのRさんでさえ、“大好き”の前に“難しいけど”という一言がありました。とはいえ、漢字の基礎、漢字に対する勘は十二分に身に付けていることでしょうから、これからも順調に力を伸ばしていけますよ。日本語の文を書いて覚えたということは、日本語の文構造に対する感覚も養われているに違いありません。こちらも大きな宝物です。

アメリカは日本ほど鉄道が発達していませんから、東京へ来て、生まれて初めて電車に乗ったというような学生も今までにいました。今回の学生たちも、それに近い状況でした。しかも、住んでいるところが混むことで有名な路線の沿線です。「朝、学校まで、どうですか」と聞くと、「7時半ごろ学校に着くようにしていますから、あまり混んでいません」という答えが、異口同音に返ってきました。どうやら、自然発生的にオフピーク通学をしているようです。私もオフピーク派ですから、この辺の気持ちはよくわかります。

調べてみると、オフピーク通学の学生たちの出席率は100%でした。早く学校に着いて、2階のラウンジで勉強していると言っていましたから、今朝、こっそりのぞきに行きました。いました。朝ご飯をつまみながら、漢字テストか何かの勉強をしていました。きっといい点が取れたのではないかと思います。早起きは三文の得です。

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グラフは嫌い?

8月5日(火)

選択授業の小論文は、中間テストをしました。今学期の前半はグラフを読んで小論文を書くということを目指してきましたが、先週の小論文は書けている学生が少なかったですから、中間テストは別の題材にしました。

書けていない原因として、まず、全体的にグラフが読めていないという点が挙げられます。2つのグラフを組み合わせて何か情報を得るということをしてもらいたかったのですが、その域に達している学生は少なかったです。個人作業にせず、数人で話し合わせてから書かせればよかったのかもしれません。三人寄れば文殊の知恵といいますから、額を集めて議論すると、面白い見方ができたのではないかとも思っています。

このまま中間テストでもグラフにこだわったら赤点続出になりかねないと思い、普通の問題に差し替えました。そう宣言した時、表情が明るくなった学生が3人ぐらいいました。グラフって、そんなに嫌なのでしょうか。大学や大学院に進学したら、文献を読むたびにグラフにぶち当たります。そのグラフから筆者の言わんとするところを読み取り、自分の研究に役立てていくということの連続です。その準備段階として、こういう企画を立てたのですが、すべってしまったようです。

来週の火曜日は選択授業以外の各科目の中間テスト、その次の週は夏休みですから、その間に態勢を立て直して夏休み明けの選択授業を迎えたいです。そして、期末テストでは、何とかグラフを読み取って書く小論文を出題したいものです。

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就活戦線

8月4日(月)

Aさんは日本での就職を目指しています。国でも働いていたことがあり、その時の経験も生かして、ITの営業職を第1志望としています。大学院は英語で通しましたから、語学的にも即戦力と言えるでしょう。しかし、現時点ではまだ行けそうな手ごたえは得られていません。

Aさんが言うには、自分の日本語力がその主因だという分析です。聴解力に自信がないので、毎日1時間ぐらいポッドキャストで耳の訓練をしています。その訓練の成果が少しずつ出始めていると言っていました。しかし、それだけでは足りないとAさんは思っています。

そこで、BJTの勉強をしてみてはと勧めてみました。BJTとは、Business Japanese proficiency Testのことであり、なぜか漢字能力検定協会が主催しています。試験結果によって、J5からJ1+まで、受験生のビジネス日本語能力が6レベルに判定されます。

これを受験して、例えばJ1などと判定されていれば、就職試験で多少は有利になるでしょう。しかし、BJTの勉強を通して、仕事で使う日本語や、日本における仕事の進め方なども知ることができます。これは、JLPTの勉強などでは身に付けられません。そういった力、日本社会の常識も自分のものとしたうえで会社とコンタクトを取っていけば、今までよりは有利に話を進められるのではないでしょうか。

KCPから直接就職した卒業生も、日本の会社特有の仕事の進め方が壁になっているようです。そのため、優秀な日本語能力を有していても、なかなか独り立ちできないこともあるようです。

Aさんは努力家ですから、こちらのヒントをきっと有効に活用してくれるでしょう。いい話が聞けるまで、もう少し待ってみることにします。

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東京は降ったけど

8月2日(土)

東京地方は台風のおかげで、昨日から今朝にかけて26.5ミリの雨が降りました。しかし、北陸や東北の日本海側の米どころは、極端な少雨に見舞われています。先月の降水が平年の8%などというところもあります。今年も秋以降に米不足が発生するかもしれません。旱に不作なしとは言うものの、穀倉地帯全体に慈雨が降らないとなれば、他地域が豊作でも追いつくものではありません。秋以降が気がかりです。

去年の米価高騰は、流通の目詰まりが原因だという説がありました。しかし、詳細に検証していくと、目詰まりはどこにも起きていなかったそうです。単に市場に出回るコメの量が少なかった、足りなかっただけだそうです。そうなると、今年はすでに備蓄米を放出していますから、去年以上にコメが足りなくなるおそれがあります。おにぎりが高級料理になる日も近いかもしれません。猫まんまを猫に食べさせるなんてもってのほかなどということにもなりかねません。

私はパンでも麺でも何でも食べますが、白いご飯を口に入れ、いつまでも噛み続けていると、だんだん甘くなってくる感覚は、白飯ならではのものでしょう。それが味わえなくなるというのは、寂しい限りです。あまりお行儀よくありませんが、1食に1回はやっていますから。

日本はコメだけはたくさんあると信じていたのですが、米蔵の床は案外脆弱だったようです。石破さん、この問題をうまくさばいたら、あなたは吉宗に匹敵する為政者ということになるんですよ。参院選での汚名を雪ぐためにも、ぜひともどうにかしてください。

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