合格発表

12月14日(水)

今学期もあっという間に期末テストまで1週間となってしまいました。クラスで試験範囲を発表しましたが、各学生がどこまで実力を伸ばしたのだろうかと思うと、不安に駆られる面もあります。

私を不安に駆り立てる学生の1人、Eさんは、昨日学校を休みました。担任のM先生にも連絡がなく、こちらから電話をかけても反応しませんでした。おとといが受験校の合格発表でしたから、落ちたショックで引きこもっているのではないかとも思いました。

そのEさん、今朝は遅刻ギリギリでしたが、教室に駆け込んできました。暗い顔をしているわけでもなく、授業には集中しているように見受けられました。課題プリントを配ってやらせている間に、Eさんのところへ行ってこっそり聞きました。

「昨日はどうしたんですか」「ちょっと頭が痛かったです」「おととい合格発表だったけど、どうだった?」「合格しました」「こらっ! それを早くM先生に言わなきゃダメだろう」

などというやり取りの結果、ちゃっかり合格していたことが判明しました。入試前に手取り足取り指導したわけではありませんが、少なくとも担任教師に報告するのが常識でしょう。このクラスの学生は、根っからの悪人はいませんが、Eさんみたいに大事なところが抜けているパターンが多いです。

夕方、ミーティングをしていたら、M先生に電話がかかってきました。Tさんからで、合格の報告でした。こういう義理堅い学生もいます。Tさんはクラブ活動もしていますから、教師との接触が多かったという面もあるでしょう。Eさん、Tさんのほかにも、結果待ちの学生がいます。学期末まで、学生をどつきながら情報を集める日々が続くことでしょう。

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早朝の電話

12月13日(火)

朝8時ごろ、Mさんから電話がかかってきました。「先生、かかっちゃったみたいです」と、苦しそうな息遣いで感染宣言。詳しく話を聞くと、熱があるようです。まず、検査をしてもらうよう指示を出しました。Mさんは先週末S大学に合格しました。そのS大学の入学手続きに必要な日本語学校の書類はどう申請すればいいかと、聞かれました。これからしばらく学校へ来られないとなると、そういった心配もしなければなりません。来週が手続き締め切りだそうですから、落ち着かないでしょう。こちらは、KCPのホームページ経由で申し込めますから、そう指示しました。熱があっても、パソコンの操作ぐらいはできるでしょう。

そういえば、昨日、校舎内でMさんにばったり出会ったので、「おめでとう」「ありがとうございます」なんてやり取りをしました。1mぐらいは離れていたし、お互いマスクもしていましたから、たとえMさんが陽性でも、濃厚接触者にはなりません。

あの尾身さんですらなっちゃうんですから、Mさんのような一般庶民がかかっちゃうのもしかたのないことです。でも、Mさんは今学期初めまでは入学以来の出席率が100%でした。10月に交通事故にあい皆勤が途切れ、そして今回です。お祓いでもしてもらったほうがいいかもしれません。

Mさんと同じ学期に入学したYさんが今月初めに帰国しました。Yさんは来日早々体調を崩し、とうとう復活できませんでした。初級のオンライン授業で受け持った時は、Mさんよりもよくできました。そんな学生が帰国しなければならなくなったと思うと、残念でなりませんでした。親元を離れての一人暮らしには、トラブルがつきものです。小さなつまずきが大きく膨らんでしまいがちです。Yさんのことを思うと、Mさんも気がかりです。せっかくつかんだ合格を無駄にしないように、きちんと治してもらいたいものです。

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脱スパイラル

12月12日(月)

Sさんがまた遅刻しました。朝一番でテストがあったにもかかわらず、来たのは授業の後半からでした。朝のテストは授業後に追試という形で受けて帰りましたから、テスト回避のために遅刻したのではありません。もっとも、その追試の成績が不合格でしたから、週末にきちんと勉強したとも思えません。

Sさんは新入学の学期、どうしても受験講座を受けたいと言って、わざわざコースを変更しました。ずいぶんやる気のある学生だと思って見ていました。6月のEJUでは、日本語・読解で最高点を取り、上位校に手が届きそうな成績を挙げました。しかし、日本語しか受けていなかったため、この成績で受験できる大学は限られます。そういう大学でも、合格を1つ確保してくれればと思っていました。7月のJLPT・N1にも合格したあたりまでは、順調な留学生活でした。

ところが、先学期あたりからだんだん様子がおかしくなってきました。遅刻や欠席が増え、理由を聞くと試験勉強だと言います。最近は不安で眠れないとも言い始めました。今は、生活のリズムが完全に崩れてしまい、何事にも力が入らない様子です。授業中の発話や例文、作文などのアウトプットは、典型的なできない学生のものになってしまいました。

今のSさんは、学校の勉強も受験勉強もどちらも手につきません。そして、ついついアニメなど自分の好きなことに時間を費やしてしまい、気が付くとさらに焦りが募ってしまいます。どんどん深みにはまり込んでいきそうな感じがします。どこかでこの負のスパイラルを断ち切らないと、どうにもならないまま受験シーズンを終えることにもなりかねません。

現時点での期待は、11月のEJUの結果です。Sさん自身の予想よりも好成績だったら、潮目が変わるのではないかと望みをかけています。

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すごい歴史のある駅舎

12月10日(土)

朝ご飯を食べながら、旅番組(の録画)を見ていました。レポーターがあるローカル線の駅に降り立ち、「うわー、すごい歴史のある駅舎ですね」と言いました。その瞬間、私は強烈な違和感に襲われました。テレビ画面には木造の古くて格式のありそうな建物が映っていましたから、それを見れば誰だって歴史を感じさせられます。実際、明治時代に開業した時の駅舎ですから、100年余りの歴史があります。

私の違和感の根幹は、レポーターの言葉を「“すごい歴史”のある駅舎」と受け取ったところにあります。“すごい歴史”ってどんな歴史なんだろうという方向に考えが進んでしまったのです。それゆえ、歴史の内容などお構いなしのレポーターの番組進行についていけなくなったというわけです。

“すごい”は、形容詞です。その“すごい”という形は終止形または連体形です。レポーターが発した“すごい”は、“歴史”という名詞の前に置かれていますから、連体形だと考えられ、“すごい歴史”で名詞句を形成しています。これが私の受け取り方でした。

しかし、レポーターは“すごい”を形容詞として使っていません。“歴史のある”にかかる言葉、連用修飾語として用いています。すなわち、“すごい”を副詞として使っています。この“すごい”の副詞的用法、本来の形容詞としての用法よりはるかに広まっています。私が見ていた場面だって、レポーターが「すごく歴史のある駅舎ですね」と言っていたら、逆におやっと感じる人が結構いるんじゃないでしょうか。

でも、「Aさんはすごい背の高い人ですね」だったら、違和感はかなり弱まります。“背の(が)高い”の結びつきが強力で、“背”そこからだけを取り出すことができないからでしょう。“歴史の(が)ある”は、“歴史”だけを分離できる程度の結合の強さなのです。

では、「Bさんはすごいお金を持っている」はいかがでしょう。みなさん“大金持ち”と受け取るでしょうね。「Cさんはすごい車を持っている」はどうですか。車の所有台数が多いのではなく、一度見たら絶対に忘れられないような特徴的な車を(おそらく1台)持っていると考えるほうが普通だと思います。これも、“お金を持っている”は一語のごとく振る舞えるのに対して、“車を持っている”は、“車+を+持っている”と分解するほうが自然だからです。

ちょっと学生に試してみたくなりました。

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しりとり脳

12月9日(金)

宿題として出す漢字パズルの解き方を説明する都合上、しりとりを知っているかという流れになりました。クラス全員がきょとんとしていましたから、しりとりを教えました。ねこ―こども―もり―りんご―ごご…などと学生からあがった言葉をホワイトボードに書いていくと、「ごご」のように同じひらがなが2つ続くなど、次の人も同じ音から始まる言葉を探さなければならないパターンがウケました。笑いのツボは意外なところにあるようです。

しりとりのルールがわかり、宿題のやり方がわかったところで、今度はクラス全体にしりとりの次の言葉を聞くのではなく、学生ひとりひとりに言わせました。前の学生がどんな言葉を出すかわかりませんから、普通の授業以上の緊張していたようでした。

すると、意外なことに、授業中は何を聞いても答えられず、中間テストは散々な成績だったRさんがすぐに反応するんですねえ。他の学生の分もボソッと答えているのです。Rさんよりずっと優秀な成績のJさんは、「うんてん」なんて「ん」で終わる言葉をつい口走っていました。読解や文法の時間には頼りになるNさんも、「こっかい」と聞いて「かいぎ」と、漢字しりとり的な続け方をしてしまいました。Rさんはそんな時にも「いま」などと冷静に単語を選んでいました。

成績的にはRさんといい勝負のEさん、Tさんあたりは、やっぱりさっぱりでした。それを思うと、Rさんにはしりとり脳が備わっているのかもしれません。ここをつついてRさんの成績を伸ばせないものかと思いながら授業を終えました。Rさん、にこにこしながら、元気よく「先生、さようなら」とあいさつして帰っていきました。

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3人そろって

12月8日(木)

授業後、Xさん、Yさん、Zさんの3人を残しました。みんな、出席状況に問題があります。Xさんはアルバイトのしすぎです。もちろん、留学生に認められたアルバイトの上限時間・28時間は守っていますが、疲労が回復せずに遅刻欠席が増えています。Yさんは夏ごろ大騒ぎしてビザ更新したのに、その後の出席率が思わしくありません。昨日も休みました。Zさんは“大学院の出願準備”という理由での欠席が増えています。やはり、昨日も休んでいます。

各人それなりに理由があります。受験期が迫り、精神的に不安定になりよく眠れないという要素も加わって、生活のリズムが乱れてしっています。私たちKCPの教職員はすぐそばで見ていますから、同情もすれば、全面的ではないにせよ、理解もできます。しかし、ビザがかかわってくると、同情や理解は全く得られません。出席率という数字がすべてと言ってよいでしょう。3人は、その辺を甘く見ているような気がしてなりません。

また、Yさんは「病気」と言えば大目に見てもらえると思っているようですが、これも違います。学校を休まなければならないほどの病気なら、国へ帰って治せと言われてしまうでしょう。日本での留学に耐えられるだけの体力をつけてから戻ってこいという発想です。

そういった話を15分くらいしました。YさんとZさんには月曜日にも話していますが、効き目が薄いようなので、再度ということになりました。最後に、「私から皆さんに注意を与えるのは、これが最後です。次に私が皆さんを呼ぶのは、退学届を書いてもらう時です」と、脅し30%、現実70%ぐらいの言葉で締めくくりました。大遅刻で10:45からの後半の授業しか出ていないUさんも捕まえておけばよかったかな。

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火がつかない?

12月7日(水)

「Dさんはこういうふうに言っていますが、Cさんはどう思いますか」「じゃ、Cさん、次の段落を読んでください」「3番の答えは、Cさん、ホワイトボードに書いてください」

…などというように、Cさんは指名されるたびに、周りの学生に聞きます。そして、何か答えたり教科書を読んだりします。おそらく何もわかっていないのだろうと思います。先学期のテストでぎりぎり合格点を取りましたから今学期このクラスにいますが、本当はこのクラスにいてはいけない学生なのです。

端的に言ってしまえば、聞き取りができないに違いありません。教師の指示や質問がわからないから周りに聞き、授業中の教師の説明がわからないから授業についていけず、クラスが何で盛り上がっているかわからないからみんなが笑っているときにあちこちきょろきょろするのです。

大学院の入試の準備をしていると言っていますが、日本語教師の発話も音声として耳から入って来ないとなると、入試の面接をパスするとは到底思えません。Cさん自身は自信を持っているようですが、その自信の源を見てみたいです。カラ元気ならぬカラ自信ではないかと思っています。

おそらく、初級のオンライン授業の時にいい加減な受け方をしてきたのでしょう。教室だったら声を出して教科書を読ませられるけれども、自分の部屋だったら読むふりだけだったとか、教師の目が届かないのをいいことにぼんやり話を聞いていたとか、そういうことの積み重ねが、ここへきて表れているのです。また、そういう授業の受け方が癖になって、もう直らないのでしょう。

最大の問題点は、Cさんにお尻に火がついている感覚がないことです。

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どうなる?

12月6日(火)

このところ、進学相談が増えています。進学相談で一番困るのは、自分の置かれた状況をきちんと把握していない学生です。学力的な状況がまるでわかっていなかったり、“3月までしかいられない”という法律的な制約を理解していなかったり、計画性のなさや立てた計画の無謀さに思い至らなかったりなど、周りで見ているほうがどうにかなってしまいそうな学生がおおぜいいます。

Aさんは学期が始まってほどなく、私に志望理由書のチェックを依頼してきました。約束した日はとうに過ぎていますが、私と顔を合わせても元気よく「先生、おはようございます」とあいさつするだけです。Bさんには志望校の候補をいくつか提案しました。しかし、その後どうなったかわかりません。もう1年KCPにいるといううわさもあります。Cさんには身の程知らずの志望校に対してダメ出しをしました。でも、志望校を変更したという話は伝わってきません。このままでは3月いっぱいで帰国でしょう。

Dさんはすでに合格していますが、日本語の勉強がおろそかなままです。「よく面接を通ったね」と言いたくなるような発話力ですが、それを少しでも進歩させようという気持ちが感じられません。進学したら、同級生にも先生にも相手にされないよ、向こうは日本語の先生じゃないんだから。

親ともめているという学生も何人か。Eさんはどうにか親の許可を取り付けたようですから、前に進めそうです。ようやく本番を迎えられます。しかし、Fさんの親御さんは今までにも意見をころころ変えていますから、油断はできません。進んでいいのかどうなのか、確信が持てません。

年内にもう少し目鼻を付けたいのですが、どうなることでしょうか。

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知りません

12月5日(月)

読解の時間。本文に出てきた単語の意味を確認しました。「“仕事観”って、何ですか、Lさん」と、一番後ろの席で怪しい動きをしていたLさんを指名すると、「知りません」という答えが返ってきました。これをお読みの皆さんが教師だったら、どうお感じになりますか。ほとんどの方がカチンとくるのではないでしょうか。まあ、予習をしてこなかったことに対してカチンとくることは当然として、それ以外にカチンとくる要因は何でしょう。

これは、「知りません」と「わかりません」の違いにあります。「“仕事観”って、何ですか」「わかりません」だったら、カチンの度合いも低かったと思います。

この場合の「わかりません」は、“考えたけれども答えが得られませんでした”という裏側の意味を隠し持っています。曲がりなりにも考えたのですから、しかたがないやという気になります。

しかし、「知りません」は、「情報を持っていません」と主張しているにすぎません。私の質問に対して考えもせずに情報の有無で答えたことに対して、カチンときたのです。読解のテキスト中の言葉なのですから、及ばずながらも考えろと言いたくなります。

日本語学校には、こう答えてしまう学生がおおぜいいます。教師は、自分の頭の中にある自動翻訳機で「知りません」を「わかりません」に置き換えて、腹を立てる前に意味を理解してしまいます。授業を早く進めたいならこれでいいですが、来年進学するつもりでいるLさんには、一言モノ申さずにはいられませんでした。大学の先生にそんな答えをしたら、その授業の単位は絶対にもらえないぞと脅しておきました。へそを曲げる教授がいても、全く不思議ではありません。

「知りません」と口走りそうな面々が、必死にメモを取っていました。

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教室回り

12月2日(金)

残念なことに、休み時間に少なからぬ学生が少し離れた駐車場まで遠征し、タバコを吸って、吸殻をポイ捨てしていました。近隣住民からの通報もあったので、学生の一団がニヤニヤしながら学校に戻ってくるのを見かけたO先生が学生の来た道をたどっていくと、駐車場に行きつきました。そこに吸殻が大量にたまっていましたから、証拠物件の押収も兼ねて、掃除もしてきました。

その証拠物件を持って、吸ってきた学生がいそうなクラスを回って、注意してきました。初級クラスには各国語の通訳もつけて、趣旨の徹底を図りました。どのクラスの学生も神妙な顔つきでこちらの話を聞いていましたが、本当に話の効き目があったかどうかは、来週になってみないとわかりません。来週も大差がなかったら、何か別の方法を考えなければなりません。

KCPの近くには、おおっぴらにタバコが吸えるところはありません。学校にいる時間帯は、タバコは吸えないものと思ってもらいたいです。タバコを吸うことによって、受動喫煙はもちろんのこと、吸殻の処理などによっても、周りに迷惑が掛かります。授業中に教師が乱入して無関係な話を聞かされた非喫煙者は、たとえトータルで5分ほどであったとしても、教育の機会を奪われたのです。しかも、証拠物件の吸殻が発するあの独特な悪臭までかがされて…。露骨に顔をゆがめて鼻の前で手を振っていた学生もいました。タバコが吸いたいと思ったら、そんな迷惑になど一顧たりともしないのでしょう。

そもそも、他人の敷地に入ることも、そこでタバコを吸うことも、吸殻を捨てることも、すべて法律違反か新宿区の条例違反です。触法学生は、除籍処分の要件に該当します。そうなったら、日本で進学も就職もあったものではありません。喫煙学生に猛省を促したいです。

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