辞書だって

1月27日(金)

漢字の読みの問題で、「犯人グループは地下に潜った」という例文が出てきました。クラスの学生たちは、当然のごとく読めました。

「Aさん、犯人グループはどうしたんですか。何をしたんですか」と聞くと、Aさんは、「地下に入りました」と答えました。他の学生たちも、「うん、そうだね」という雰囲気でした。「犯人たち、地下鉄に乗ったんですか。新宿駅の地下で買い物か食事したんですか」と追い討ちをかけると、ようやくクラス全体が、犯人グループはただ単に地下へと移動したのではないと気付いたようでした。

ここまでみんな「地下に潜った」をスルーするクラスも珍しいですが、どのクラスでも字義通りに受け取って平気な顔をしている学生は少なくありません。漢字の問題ですから、読めさえすればいいと思うのでしょうか。機械的に読み方を調べてふりがなを書いただけでは、上級の予習としては不十分です。視野を広く持ち、読み仮名を振ったら文を読み返し、文全体の意味を考えるくらいはしてほしいです。ほんのちょっと気を回せば、「地下に潜る」が慣用表現であることぐらい、ピンと来るはずです。

そういうことができる学生は上級になってからも実力が伸び続け、形式的に漢字の読み方を書いて済ませてしまう学生は伸び悩むのでしょう(そういえば、この「伸び悩む」も、「背が伸びて大人になったので人生について悩むようになった」とかと、ずいぶん大げさな解釈をした学生がいました)。読解も同様で、単語の意味を調べただけで勉強したような気になっている学生が目立ちます。辞書だって、読み方や単語の意味よりも高等なことを調べてもらいたいと思っていますよ、きっと。

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漢字テストの結果

1月26日(木)

木曜日のクラスは、先週も今週も漢字テストがありました。このクラスは中国人学生が主力ですが、漢字テストの好成績者は、2回ともアルファベットの国やハングルの国から来た学生でした。もちろん、中国人学生も何人かは満点近い成績を挙げます。しかし、そういう学生は少数派で、箸にも棒にも掛からぬ不合格点が成績簿のそこかしこに散らばっています。

最大の原因は、勉強せずにテストを受けることです。35点とかという学生が、家でまじめにテスト勉強をしてきたとは到底思えません。Sさんのようにすでに進学先が決まっていて、あとは4月になるのを待つばかりという学生のモチベーションを高めるのは、東大に入るより難しいです。

それから、漢字は意味さえわかっていればそれで十分だという考えの持ち主が多いことです。EJUの読解の点数が聴解・聴読解に比べてやたらに高い学生は、こんな発想だと思います。確かに、漢字は表意文字ですから、読み手に意味を伝えることが主たる働きです。漢字テストの成績の悪い学生は、読み方は二の次だと思っているのではないでしょうか。しかし、そんな発想では、日本人とコミュニケーションが取れません。Sさんのように、もう消化試合だと思っている学生が、こういう安易な考えをしがちです。スマホの翻訳機能で世渡りができると思っているのかもしれません。

漢字が障壁となって日本への留学が進まないと言われることがよくあります。これは欧米の学生を念頭に置いた意見ですが、中国の学生にも当てはまります。Sさんが進学先で日本人の学友と談笑している図が、思い浮かびません。

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窓を閉める

1月25日(水)

寒い1日でしたね。朝、マンションの外に出たら、寒さが頬に突き刺さりました。那覇を除く都道府県庁所在地の最低気温が氷点下になったそうです。昨日のクラスのディクテーションで「今期最強寒波到来」なんてやりましたが、まさにその通りになりました。

水曜日のクラスは外階段わきの教室ですから、私はいつも外階段で行き来します。通常、廊下の外階段側の扉は、換気のため少し開けてあります。しかし、今朝は、2か所で扉が閉められていました。扉に挟む木片が、外階段側にむなしく転がっていました。ラウンジで朝ご飯を食べていた学生たちはよほど寒かったんでしょうね。

教室の窓も、“ピッタリしまっていない”という程度でした。授業開始の9時ごろはまだ氷点下で、その寒さのせいか、今朝は遅刻が多く、私が教室に入ったときはいつもよりさらに人数が少なかったです。ベッドから抜け出せず、うちから出られずという感じだったのでしょう。教室に駆け込んで人心地という顔つきでした。

ニュースによると、東京近辺以外は全国各地大変なことになっているようです。関東平野を取り囲む山々が季節風をブロックしてくれるおかげです。そういえば、受験で関西へ行っているQさんは無事でしょうか。交通機関が乱れているという話ですが…。

午後は面接練習と受験講座。どちらも冷え切った教室でするのはかないませんから、早々に暖房を入れておきました。少し開けておいた窓は、私が改めて教室に入ったときには、しっかり閉められていました。

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テスト結果

1月24日(火)

受験講座理科の新規受講生がじわじわと加わってきたので、授業を先学期からの継続生にばかり合わせるわけにもいかなくなってきました。そこで、受講生全員にテストをしました。新しい学生だって、国の高校で理科を勉強してきています。忘れている部分はあったにしても、まるっきり何もわからないとは考えられません。継続生だって、今まで勉強したことをすべて身に付けているとは思えません。これから先、どこを重点的に教えていけばいいか、それを知るためのテストです。

手っ取り早いので、EJUの化学の過去問を拝借しました。私が作った模範解答もありますから、試験後に解説するにしても容易に対応できます。授業では、化学は1セット(20問)30分以内に解けと言っています。しかし、今回はEJUの問題に向かうのが初めての学生もいますから、EJU本番の理科の試験時間・80分の半分、40分を与えました。

継続生は、先学期のうちに化学の範囲の半分ほどを勉強していますから、40分では時間が余るかなと思いました。しかし、余りませんでした。新規の学生は、何もわからずあっさりギブアップしてしまうのではないかと心配していました。しかし、杞憂でした。

授業後、学生たちの答えをチェックしてみると、新しい学生はまぐれ当たりとしか思えないような点の取り方でした。継続生は、それよりはましでしたが、年末に教えたところの問題は、ほぼ全滅でした。新規受講生に対して、思ったより差が付きませんでした。私の教え方がまずかったのでしょうか。

どうやら、継続生も1から出直しのようです。レベルが合ってよかったとも言えますが、どんぐりの背比べでは困るんですよね…。

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人口減少

1月23日(月)

先週発表された、中国の人口が減少に転じたというニュースの新聞記事をもとに、読解兼日本事情的な授業をしました。中国の学生が多いクラスなので、日本での報道ではうかがい知れない実情がわかるのではないかと期待もしていました。

このニュースについて解説している動画も見せました。学生たちは思ったより真剣に見ていて、意見や感想を述べてくれました。こういう報道は多少センセーショナルな方向に傾きがちなのですが、学生たちの話を聞くと、必ずしもそうではないようです。結婚にお金がかかりすぎるなどというあたりには、盛んにうなずいていました。

中国以外の学生も含めて、将来子供を持つことについて聞いてみると、子供をたくさん作りたいという声は聞こえてきませんでした。子育てにはお金がかかることは承知しており、子育てのために自分の生活レベルを切り下げるのは嫌なようです。

では、少子高齢化にはどのように対処すればいいかと、グループで考えてもらいました。中には、打つ手なしという結論に至ったグループもありました。大半のグループは経済的な支援を挙げていました。これなら各国がすでに何らかの形で取り組んでいます。しかし、華々しい成果は現れていません。

学生たちは、自分の国ではごく平均的な若者でしょう。とすると、学生たちの国々も日本も、人口減少、少子高齢化に歯止めがかかりそうもありません。そういった中での留学というのは、自分の価値を高めるためなのでしょうか、自己実現を考えているのでしょうか。学生たちは、50年後の世界をどう描いているのでしょうか。

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安全運転

1月20日(金)

Sさんはこれから何校か受験します。去年のうちに滑り止めのつもりで受けたT大学に落ちてショックを受けていましたが、ようやく立ち直ってきました。どうにか春までに行き先を決めて、3月にKCPを出ようと考えています。授業後、そのSさんの面接練習をしましt。

一度落ちているからでしょうか、答えがすべて安全運転でした。当たり障りのない答えで、内面を面接官役の私に見せることはありませんでした。Sさんでなくても誰でも答えられるものばかりで、Sさんの特徴が全く感じられませんでした。これでは面接官の印象に残らず、落ちること請け合いです。

SさんはT大学に落ちたあたりから、メンタル面が崩れてきました。不安で眠れないとか、だから遅刻欠席が多いとか、授業中も受験勉強が気になって問題集をやってしまうとか、入学したばかりの頃の、やる気にあふれたはつらつさが消えてしまいました。外見も、いかにも寝起きといった風情で登校してきます。

また、Sさんは結構滑らかにしゃべれてしまいますから、安全運転の答えがなおのこと形式的に聞こえてしまいます。面接という火の粉を振り払っているだけという感じを、面接官に与えてしまうような気がします。滑らかすぎて余計なことも言っていました。

以上のようなことをフィードバックしたかったのですが、Sさんのメンタルを考えると、とても伝えられませんでした。ですから、自分を売り込むことに力を入れてほしいとだけアドバイスしました。試験日まで時間がありますから、まだ面接練習のチャンスはあります。少しずつレベルアップしていきましょう。

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例文の間違い

1月19日(木)

他の学校のことはよくわかりませんが、KCPは授業中に割とよく例文を書かせます。授業時間が足りなくなってしまったら、宿題とすることもあります。「学生に習った文法や語彙、表現を使うチャンスを与える」などと言ったら恩着せがましいですが、教わった言葉は使ってみないと定着しないものです。また、教師側としては、自分の教え方の反省材料にもなります。

「水と学生は低きに就く」とは、孟子の言葉をもじった格言(?)で、私も学生の頃よく先生に言われました。どうやらKCPの学生もこれのようです。提出された例文の中に似たようなものが何人かから出てくることがあります。私が目を離したすきに、習ったばかりの文法表現や語彙をスマホで検索して、見つかった例文を書き写すか名詞をちょこっと替えて書いているのでしょう。だから、濁点が抜けていたり、スマホのフォントっぽい漢字が書かれていたり、いじって個性を出そうとしたのが裏目に出て変な例文になったりすることがよくあります。

MさんとNさんとLさんが、よく似た例文を出してきました。「机の上にゴミやら教科書やらがごちゃごちゃ置いている」といった文です。「机の上はゴミやら教科書やらが散らかっている」ぐらいでしょうかね、自然な表現にすると。日本人が作った例文ではないと思います。“ごちゃごちゃ置いている”なんて、初級か中級の学習者の犯しやすい間違いです。ということは、3人の母語で書かれたサイトでこの例文を見つけたのでしょう。つまり、全く日本語の勉強になっていないというわけです。

さて、こいつらをどうやっていじめてやろうかな。

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30秒前精神?

1月18日(水)

今学期私が持っているクラスの学生たちは、みんなスリルを味わうのが好きなようです。8:55ぐらいに教室に行っても誰もいないということすらありました。私はタブレットの接続具合を確認したり、授業で使う資料を画面に出す準備をしたりしたいので、授業が始まる5分前ぐらいには教室に入るようにしています。その時に誰もいないとか、いても1人とか2人とかというと、学生が来るんだろうかと心配になってきます。

でも、毎日、8時59分30秒あたりから、学生が怒涛のごとく押し寄せます。そして、始業のチャイムが鳴り、出席を取っている最中にもなだれ込み、出席簿上遅刻扱いにならずに済む学生がほとんどです。出席を取り終わった時点で遅刻・欠席の学生は、せいぜい2人ぐらいとなります。

綱渡り常習者のLさんは、丸ノ内線沿線に住んでいます。最寄駅8:41発の電車に乗れば教室に9時ちょうどに着くと計算しています。しかし、うちを出るのがほんのちょっと遅れ、その電車を逃すと次の電車は8:44発となり、教室着が9:03で、惜しくも遅刻です。8:41発に乗れても、その電車が微妙に遅れればアウトです。どうしてもう1本前の電車に乗らないのかと聞いても、Lさんは頭をかくばかりです。

他の学生も似たり寄ったりでしょう。時間の観念がないわけではなく、むしろありすぎるからこそ、9時ピッタリに滑り込むのです。じゃあ時間の無駄遣いをしていないのかと言ったら、間違ってもそんなことはありません。せめて、その時間の観念を5分早めてもらいたいです。

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どこへ行きたい?

1月17日(火)

今学期は上級の選択授業も担当します。私がやるのは、留学生目線の日本の観光ガイドを作ろうというプロジェクトです。日本の観光ガイドを作るには、まず、日本を知らなければならないということで、初回は日本の紹介をしました。

日本は島国ですが、これをお読みの皆さんはいくつぐらいの島があると思いますか。学生に聞いたら、30とか50とか、よほど思い切った学生で200などという答えでした。島の定義のしかたにもよりますが、間違ってもそんな少数ではありません。だいたい7000だと言ったら、全員が驚いていました。30なんて、佐渡島、淡路島など、有名な島だけでもそれぐらいになっちゃいますよ。

次は地方の名前、都道府県名です。地方の名前は、中部地方と中国地方で考え込んでいる学生が目立ちました。都道府県名は、関東地方と京都大阪あたりはできましたが、それ以外は北海道沖縄を除いて出来が悪かったですね。

都道府県名が全部出そろったところで、行ったことがある都道府県を聞いてみました。南関東と京都大阪奈良が多く、それに北海道が続く感じでした。他は1人か2人でした。遠出を控えろと言われ続けてきましたからしかたない面はありますが、学生の行動範囲はあまり広くありません。がっかりだったのは、行ったことがある県として埼玉を挙げた学生が約半数だったことです。先学期、川越であんなに盛り上がったのに…。あの日は、ちょっと遠いところまで行ったけど、そこが埼玉県だったとは思わなかったというところでしょう。

最後に、行ってみたい都道府県を挙げてもらいました。すると、沖縄北海道が票を伸ばしました。近畿地方も人気がありましたが、兵庫県はパッとしませんでした。どうやら、神戸と兵庫県が結びつかなかったようです。中国四国九州中部東北も、ごく少数の学生が支持しただけでした。

要するに、知らないから行きたいとも思わないのです。「進学先として地方の大学も考えろ」と指導しますが、地方がどんなところか知らなかったら、学問する場として選ぶはずがありません。この辺を是正していくのも、この授業の役目だと思って、今学期取り組んでいきます。

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85%

1月16日(月)

午後、F専門学校の留学生担当の方が学生募集の説明にいらっしゃいました。KCPからも毎年のように進学している学校ですから、どこの学科が定員になったという情報以外、取り立てて新しい話はありませんでした。募集を打ち切った学科も「ぜひ学生を送ってください」と言われた学科も、恐らくそうだろうなという感じでした。年が明けても定員になっていない学科は、学生募集にテコ入れしないと3月までに定員を埋められないかもしれません。今週はこのF専門学校のほかに、もう1校来校予定があります。

「出席率の基準はどの辺でしょうか」と聞いてみると、「出願資格は“80%以上“となっていますが、今は90%以上が常識でしょうね。85%でも印象は悪いですね」という答えが返ってきました。F専門学校は学生募集にテコ入れを始めたようですが、出席率に関しては妥協するつもりがないようです。出席率85%だったら、面接で休んだ理由を聞くとも言っていました。

こちらも、そうやすやすと妥協してほしくはありません。留学ビザは勉強するためのビザですから、出席率80%=欠席率20%では留学ビザで日本にいる意味がありません。出席率80%とは、平日5日のうち1日休んでいるということです。つまり、週休3日です。仕事なら段取りを上手につければそれも可能でしょうが、語学の勉強で週休3日はいただけません。

夕方、週休3日でアルバイトに精を出している学生が叱られていました。この学生も日本で進学するつもりのようですが、受け入れ先がこんなことを考えているなんて、気づいていないでしょうね。

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