動画を見る

9月11日(月)

上級のクラスでは、可能な限りニュースなどの動画を見せています。映像や字幕を補助にしてそこで何が語られているかを理解し、キャスターやコメンテーターの言葉をその場で聞き取ってもらうようにしています。最近のニュースや、読解教材に関連した動画などを使っています。

「じゃ、動画を見てください」と言って流し始めると、クラス内は大きく2つに分かれます。興味深げに動画に注目する学生と、息抜きのチャンスとばかりにスマホを取り出すグループとです。後者の人々にこそ耳の訓練をしてもらいたいのですが、なかなか思い通りに動いてくれません。

こういった学生たちは、概して受験勉強以外に興味を示しません。「読解のテストで動画が流れるわけでもないし」という考えなのか、一心不乱に下を向いて親指を動かします。動画が終わってからその内容に関して質問しても、当然のごとく答えられません。

動画を見せるのは、耳の訓練のためばかりではありません。社会性を持ってもらいたいからです。文法や読解の問題には答えられるけれども、そこから一歩外れてテキストの内容に関して質問されるとしどろもどろというのでは、真の意味で上級の実力を持っているとは言いかねます。

JLPTのN1かN2に合格するのが留学目的だというのであれば、それでもいいかもしれません。しかし、語学なんて使い倒さなければ意味がありません。動画を見てその内容について議論したり自分の意見を文章にしたりすることができて初めて、日本語を勉強した意義があるのです。

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アンケートに答える

9月9日(土)

先週のことでしょうか、卒業生のEさんから、卒業研究でアンケート調査をしているので、それにこたえてほしいと声をかけられました。アンケートフォームを見ると、“はい/いいえ”で答えたり、1から5とか7とかまでの数字を選んだり、あるいは四択など、各種質問が入っていました。アンケート全体の組み立て、質問のしかたなどは、研究室の先生かだれかに教えてもらったのでしょう。似たような質問がいくつかあったのは、回答者がいい加減に答えていないかチェックするために違いありません。プロが見たら、よくできた構成になっているのだと思います。

でも、質問文まではチェックしなかったのかなあ。間違いとまでは言えませんが、こなれていない日本語がいくつかありました。引用して説明したいのですが、下手なことをするとこのアンケートに悪影響を及ぼしかねませんから、それはやめておきます。

逆の見方をすると、このアンケートは、Eさんが練りに練って作り上げたものだとも言えます。研究室の教授や先輩方の力を借りず、また。AIにも質問文を考えさせず、Eさん自身が考え出したのです。夜遅くまで文面を考えているEさんの姿が目に浮かびます。だからこそ、こちらも真剣にアンケートに答えました。

自分が教えた学生だからというひいき目がたっぷり入っていますが、私はEさんのアンケートをこのように評価しました。しかし、来年同様のアンケートが卒業生から届いたとしたら、きっと非の打ち所のない日本語で書かれた質問文になっていることでしょう。もちろん、そのアンケートにも答えますが、どんな気持ちで答えるかなあ…。

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台風欠席

9月8日(金)

授業数分前に教室に入ると、学生がわずかに5人。荷物が置いてある机が2つありましたからそれを加えると7人になりますが、まだ半数以下です。チャイムが鳴っている最中に学生がドドトっと駆け込んできて、かろうじて半数を超えました。

私のクラスに限らず、今朝は遅刻が多かったようです。確かに台風が近づいてきていて、雨脚が強かったです。でも、傘が役に立たないほどではありませんでした。風も吹いていました。でも、人や物が吹き飛ばされるほどではありませんでした。計画運休という噂のあった東海道新幹線も平常運転でした。羽田発着の航空便もダイヤに大きな乱れはありませんでした。にもかかわらず自主休校を決め込んだ学生があちらこちらにいたようです。

こういう学生は、休むきっかけを見つけるのに必死です。私のクラスのZさんは12時まで寝ていました。Yさんに至っては、堂々と台風のためと言います。Wさんは、電話にすら出ません。遅刻してきたTさんだって、理由になりそうな理由なんかありません。気の毒だなと思ったのは、登校途中に足を滑らせて転んで服を汚してしまい、さらに膝を擦りむき、家に戻ったFさんぐらいでしょうか。WさんやYさんは、出席率に問題があります。雨どころか、槍が降っても来なければならない学生たちです。

どの学生にも、進学や勉強について厳しく指導してきました。それが嫌なんでしょうかねえ。だとしても、それは逃げです。台風の日に休むのは、雨宿りに過ぎません。台風が過ぎ去ったら、またそういったことに真正面から向き合わなければならないのです。

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違い

9月7日(木)

午後からレベル2のクラスの代講でした。つい先日、私が教えているレベル1のクラスの学生もいろいろなことが言えるようになったとこの稿に書きましたが、やっぱりレベルの学生たちは一段上です。レベル1の学生たちに比べて3か月長く勉強しているだけあって、複雑な文法も知っていれば、日本語に対する勘も鋭くなっています。こちらの話の通じ具合が全然違います。名詞修飾が既習ですから、話す際の制約がかなり緩くなっています。何より、冗談と冗談でないことの区別がつくようになっているところが、私のような無駄話の多い教師にとっては、教えていて面白みのあるところです。

私のレベル1のクラスにも、次の学期にレベル3に上がろうと考えてそのための勉強をしている学生がいます。その学生が、あと1か月後にこのクラスの学生たちに交じって勉強するのかと思うと、それが本当にその学生のためになるだろうかと、少々心配になります。レベル2では、大事な文法を数多く勉強します。それを独習するとなると、練習が足りなくなるおそれがぬぐえません。レベル2の学生たちは、そうやって険しい岩場をよじ登ってきたからこそ、冗談も理解できるのです。

授業の後半は作文でした。そんな学生たちも、文章を書くとなるとまだまだという感じがします。「3か月東京で住んでいます」「日本は楽しいの国です」などという、レベル1の文法の間違いが至る所に見られました。授業で習った文法が定着し正しく使えるようになるまで、2学期ぐらい要するものです。書き上げたつもりになっている学生の作文を読み、そんな間違いを見つけて、「はい、レベル1」と言って指摘する、意地の悪い教師になりました。

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次第?

9月6日(水)

「しだい、しょうきぼこうをちゅうしんにはんすうちょうがていいんわれ。ていいんはふえたがにゅうがくしゃはへる」という音声を聞いたら、みなさんはどんな文を思いう浮かべますか。

私大、小規模校を中心に半数超が定員割れ。定員は増えたが入学者は減る――とするのが常識的な線でしょう。大喜利的には他の答えもあるかもしれませんが…。

上級クラスでやっているニュースの見出しのディクテーションでこれをやったところ、学生たちはみんなとんでもない文を書いてくれました。

まず、“しだい”は、ほとんど“次第”でした。これは理解できないこともありません。でも、“次第”は“次第に”とか“~次第だ”という形で使われますから、ここでは“次第”ではないことは見当が付くのではないでしょうか。

“小規模校”も、私が指名したWさんは“小希望校”と書きました。それでも、学校のことを意味しているとは理解していますから、それだったら“次第”をどうにかしてほしかったですね。

Wさんは、“半数超”は無事通過しましたが、“定員割れ”は“店員割れ”でした。“店員は増えたが入学者は減る”と書きましたが、この文の意味をどのように理解したのでしょう。

さらに、Wさんがホワイトボードに書いた文をそのまま写している学生もいました。「次第、小希望校を中心に半数超が店員割れ。店員は増えたが入学者は減る」という文に、笑い一つ起きませんでした。

結局、どんなニュースやら誰もわからず、私が解説しました。正解を見たらみんな「あー」となりましたが、上級でもこんないい加減な聞き取りをしているのでしょうか。

日常生活レベルなら問題はないはずですが、これでは少し硬い話題になるとついていけないでしょう。進学後に受ける授業は、こういった文の連続です。

また、学生が私たち教師の話にうなずいていても、その理解度はこんなものかもしれません。こちらも油断せずに、慎重に確認を取りながら話をしていかなければなりません。

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電気をつけます

9月5日(火)

レベル1も3か月目に入ると、すでにいろいろなことを勉強していますから、一見(一聞?)上手な日本語が話せるようになります。例えば、レベル1の最初の自己紹介は、「トーマス・エジソンです。アメリカから来ました。どうぞよろしく」程度ですが、今なら、「トーマス・エジソンです。アメリカのメロンパークから来ました。毎日、いろいろなものを発明していますから、とても忙しいです。家族は、妻と子供が3人います。今、アメリカに住んでいます。…」ぐらいはいけちゃいます。

そんな自己紹介をしてもらいました。中には「小岩で住んでいます」などという、初球の学生が犯しがちなミスをやらかす学生もいましたが、概してよくできたと思います。昨日この稿で面接練習の際に発音が悪くて困ったという話を書きましたが、このクラスの学生はそんなことはありませんでした。レベル1は日本語を話すのが楽しくてしょうがないのですが、レベルが上がるにつれてだんだん飽きてきてだんだんしゃべらなくなり、それに伴って発音が悪くなってしまうのでしょうか。

その後、昨日の宿題を回収しました。習った単語・文型を使って例文を書いてくるというものでした。例えば「~方」が課題だったら、「この漢字の読み方を教えてください」とかと書いてくれば〇です。

集めた例文を見てみると、「つけます」の例文として「電気をつけます」「エアコンをつけます」など、最低限の構造のものが目立ちました。自己紹介に比べると貧弱すぎます。せめて、「暗いですから電気をつけます」「暑いですからエアコンをつけましょうか」ぐらいは書いてほしいところです。

そうです。初級のうちから複文を考える癖をつけておかないと、中級・上級になったとき、作文で苦労します。それはすなわち、入学試験で苦戦するということにほかなりません。せっかく初級に入っているのだからと、力こぶをこしらえて添削しました。

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初練習

9月4日(月)

午後、レベル3・4の学生の初面接練習に付き合いました。志望校の受験日が目前に迫っているのではなく、入試の面接の模擬体験をする授業で、面接官を務めました。

面接の受け方に関する基本的な講義を受けた後で、面接官の数に分かれて各教室へ。私のところへは4人の学生が来ました。

まず、Fさん。「どうして本学を志望しましたか」「経営を勉強しますから」というような、さっぱりかみ合わない問答を繰り返しました。そのうち、背筋が丸くなり、緊張していることが手に取るようにわかりました。

Eさんは「次は私」と勢い良く手を挙げたものの、面接の答えはFさんと違った意味でひどいものでした。「大学で自然と環境と動物のぼうこうを勉強したい」と言われたら、みなさんはどう受け取りますか。あれこれ聞いていくと、“ぼうこう”とは“保護”のことでした。これ以外にも発音が悪くて何を言っているかわからない場面がいくつもありました。

「本学で何を勉強しようと思っていますか」「文化です」と答えたきり、口をつぐんでしまったのはRさんです。しかたがいので、「文化といっても幅が広いですが、その中で特にどんな文化を勉強したいんですか」と聞くと、「いろいろな文化です」と、これまた新しい情報が全くない答えが返ってきました。

最後のHさんはファッションクリエーションを勉強したいとのことなので、「今のあなたの服装は、どんなところがおしゃれですか」と聞いてみました。レベル3・4の学生には難しいかなと思いましたが、Hさんは一言も説明できませんでした。初回とはいえ、これでは困りますねえ。

担当のO先生からは、面接の厳しさを味わわせてほしいと言われていましたが、その役目は果たせたと思います。私以外の先生が担当だった学生たちも含めて、その多くが何らかの形でこれから受験します。実際に出願し、面接日が近づいてから行う面接練習の際には、受け答えがずっと上手になっているでしょうが、こちらもさらに厳しい質問をします。それに耐えてやっとどうにか競争に勝てるのです。次に会う時までの成長に期待しましょう。

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のんびり留学

9月1日(金)

「私は国で悪い学生でしたから日本へ来ました」とJさん。高校の成績が悪く、国では大学に入れそうもないので、親から日本へ送り出されたと言っています。だから、日本で大学進学を目指しますが、何が何でも“いい大学”に入ろうとは思っていません。東京を離れて、のんびり勉強したいそうです。

そんな調子ですから、進学に関してはまだ何もしていないのかと思いきや、この前の学期休みに池袋で開催された、全国の大学が集まる留学生進学フェアに参加したそうです。そこでのんびり勉強できそうな大学をいくつか見つけてきたとのことですから、準備はのんびりというよりは周到に進めているようです。現に、M大学、O大学という名前がJさんの口から具体的に出てきました。そのどちらも、東京から遠く離れ、東京では有名ではありませんから、Jさんの本気度はかなり高そうです。

本人が本気でも、親が口出ししてきて、その本気の火を吹き消してしまうことがよくあります。でも、Jさんのご両親は、そんなことなさそうです。「国であきらめられていますから、日本でどんな大学に進学しても親は文句なんか言いません。大喜びです」。いい親御さんを持ったようです。

また、Jさんは、近所のお年寄りと仲良くなって、ファミレスで食事しながらお話をしているそうです。お年寄りが安保させていた犬の種類が、Jさんが国で飼っていたのと同じだったことから縁ができました。そのお年寄りにすると、孫をかわいがるくらいの気持ちなのでしょうか。ここにも、がりがり受験勉強をしないでのんびり留学しようというJさんの考えが見えます。

何だか、私まで留学したくなってきました。

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相談事

8月31日(木)

このところ、「EJUの点数が足りないんですが…」という相談がよく来ます。それなり以上の成績だった学生は、私になど相談せずに自分の行きたいところに出願するでしょうから、必然的に、不成績だった学生や、そういう学生の相談を受けた教師が私の周りに集まるわけです。

入学したばかりの初級の学生や、今まで好き勝手なことばかりしてきた学生が思わしくない成績表を見て頭を抱えるのは、ある意味しかたのないところです。後者は自業自得と言ってもいいでしょう。しかし、きちんと勉強してきた学生が平均点にも及ばぬ点しか取れなかったとなると、どうにか救いの手を差し伸べたくなります。

11月に勝負をかけることもそうですが、今の持ち点で受けられるところ、勝ち目のありそうな大学を探さなければなりません。EJU不要の入試方式がある大学が見つかれば、まずそこを考えます。データを見て、EJUよりも大学の独自試験を重視していそうな大学にも、目を付けておきます。そういった大学の中から、その学生の個性に合い、人生を豊かにできる勉強ができそうなところを選びます。

さらに、6月のEJUを受けませんでしたという学生もいます。Lさんもその1人です。6月のEJUの出願はKCP入学前でしたから、私たちの指導が行き届きませんでした。しかし、11月も、日本語しか出願しませんでした。文科系志望の学生にとって、絶望的なピンチです。総合科目は、受験することに意義があるのです。たとえ最低点でも、受けたという事実が必要な大学が少なくありません。「冗談でもいいから総合科目も」と言い続けてきたんですが、Lさんには届いていなかったんですね。

明日から9月、留学生入試のシーズンです。

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自己表現

8月30日(水)

午前の授業の後で、指定校推薦の面接をしました。指定校推薦に応募してきた学生が、推薦するにふさわしいかどうか、学校内で審査するための面接です。

Sさんは超級レベルの学生ですから、日本語には全く問題がありません。自然な話し方ができます。学力的にも優れていて、難関のH大学に志願しました。ところが、その志望志願した理由を聞くと、とたんに視線が天井を向いてしまいました。と同時に、機械が話しているかのごとき口調になりました。暗記したことを尾のまま話しているのが手に取るようにわかりました。話している内容は立派なものですが、心ここにあらずという感じがありありとうかがえました。

緊張していたこともそうですが、間違えてはいけないという意識があまりに強いと、こうなってしまいます。今回は学校の中での面接であり、私たち面接官側も学生をよく知っていますからこれでもいいですが、H大学の面接試験でこれをやったら、いかに指定校推薦とはいえ、落とされてしまうかもしれません。これから試験日まで、しっかり訓練する必要があります。

続いてOさんの面接をしました。Oさんも上級とはいえ、Sさんと比べると力の差があります。H大学ではなくB大学の指定校推薦を狙っています。人柄は校内で一番かもしれませんが、話す力には“?”が付きます。入学試験は人柄まで見てくれません。学校から提出する書類で訴えることはできても、面接の受け答えがおぼつかなかったら、確実に落とされます。Sさんの後だっただけに、Oさんのたどたどしさが目立ってしまいました。こちらも、特訓の上で本番に臨んでもらうことになります。

KCPは決していい加減に選んで指定校推薦の学生を選んでいるわけではありません。2名とも、H大学やB大学で勉強したい気持ちには、並々ならぬものがあります。それを伝える手段が面接試験の場しかないとなると、苦戦を余儀なくされます。それを乗り越えるトレーニングを、これから課していきます。

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