最後の1万円札

12月7日(木)

国、ヘアターバン、現金、動物実験、結婚、単一機能のアプリ、手紙、差別待遇、人種、インスタント食品、ジェンダー社会規範意識、時計、使い捨ての漆器、軍事武器、欲張り。これらは何だと思いますか。

月曜日、「なくてもいいもの」というテーマで作文を書いてもらいました。その作文で学生たちがとりあげたものです。中には、「なくてもいいもの」というより、「あってほしくないもの」「なくしていくべきもの」とした方がいいものも含まれていますが、学生たちは上述のものが現代社会には不要だと考えているようです。

複数の学生が取り上げたのが、現金でした。自分の国ではキャッシュレス化が進み、日本では現金しか受け付けない店も珍しくないことに驚いたと書いた学生もいました。財布が必要なこと、その財布がすぐ重くなることが嫌だという意見もありました。

振り返ってみると、私も現金はあまり使いません。買い物や食事をしてもICカードかクレジットカードで支払う場合がほとんどです。もしかすると、今週はまだ現金を使っていないかもしれません。でも、現金は好きです。もらったときのありがたみが違います。

来年夏に、新札が発行されます。渋沢栄一が1万円札です。聖徳太子、福沢諭吉に続き、3代目のお札の顔です。聖徳太子から福沢諭吉に変わったときは、まだ学生でした。たまたま発行初日と研究室のパーティーが重なり、気を利かせた参加者が回避を新札出払ってくれたおかげで、その日のうちに新札を拝むことができました。

でも、学生たちが言うように、キャッシュレス化が進んで現金の流通量が減っていくと、渋沢栄一の1万円札が最後の1万円札になるかもしれません…。

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通訳とは

12月6日(水)

今学期、水曜日の午後は初級の学生を対象に、進学の授業をしてきました。進学の授業とは、日本語やEJUの科目を教えるのではなく、日本の大学入試・大学進学の基礎知識を学んでもらう授業です。例えば、出願に必要な書類、EJUのしくみ、面接の内容、志望理由の書き方、合格後の入学手続きといった事柄を扱ってきました。毎週聞いてもらえれば、留学生入試の概略がわかってきます。

初級の学生が相手ですから、通訳が必要です。その通訳は、上級の学生に頼んでいます。Kさん、Sさん、Tさんなどが引き受けてくれました。私の日本語よりもだいぶ長く話していますから、きっと自分の経験も加えて、私の言葉をより実感の伴う話にしてくれているのでしょう。こういう通訳は、機械翻訳やAIにはできないと思います。

聞いている初級の学生たちも、通訳の学生の言葉を待ち構えています。学期末が近づいた今なら、初級とはいえ、私の言葉もだいぶわかるようになってきたと思います。こちらも語彙や文法を調節して、また板書やジェスチャーも交えて、少しでも初級の学生に伝わるようにしているつもりです。でも、通訳の学生が話す自分たちの母語のほうが、理解が深まるに違いありません。だから、信頼しきった眼で通訳の学生を見つめ、その声に耳を傾けるのです。

通訳の学生も、どこかいい気分なのでしょうね。1時間近く拘束されるのですが、授業が終わり、私が「どうもありがとう」と声をかけると、満足気に笑みをたたえて、「ありがとうございました。先生、さようなら」と返してくれます。この授業の時は、初級の学生も上級の学生も私も、効率性とは違った次元に生きているのです。

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10分遅延

12月5日(火)

月初めは、前の月の出席率が悪かった学生が欠席理由書を書く時期です。Rさんもその1人で、授業後に職員室に連れて来られました。担当のK先生は、欠席・遅刻した日付が記入された欠席理由書をRさんに渡して、欠席・遅刻をした理由を書くようにと言っています。しかし、Rさんはこの日とこの日とこの日と…は電車が遅れたから遅刻ではないと訴えています。

毎月の出席率が素晴らしくいい学生がある1日についてだけそう主張するなら、本当に電車が遅れたのだろうと信じられます(もっとも、そんな学生は欠席理由書など書きませんが)。しかし、Rさんは、上述のように“この日とこの日とこの日と…”と、何日も電車が遅れたと言っています。ということは、Rさんが通学に使っている路線はよく遅れるということで、その遅れを見越して家を早く出るなどの対策を取るべきです。K先生もそう説き聞かせようとしています。しかし、RさんはK先生の日本語がわからないのか、わかっていながら無視しているのか、自分の言い分を繰り返します。まあ、本当のところは寝坊でしょうがね。

最近は遅延証明書も電子的になり、スマホの画面を見せてくる学生が増えました。黄門様の印籠よろしく、「控えろ」と言わんばかりです。でも、ほとんどが5分遅れとか10分遅れとかです。1時間に1本しか来ない土地ではなく、東京ですよ。丸ノ内線なんか2分おきぐらいに走っている時間帯です。8:30に駅に着いたら8:20の電車が止まっていたというだけです。いつもより多少混んでいるかもしれませんが、乗り込めないほどではないでしょう。8:30には電車に乗っていなければならないのに、駅に着いたのが8:40で、10分遅れの8:30の電車に乗って、10分遅れで教室に入ってきたのです。遅延は電車ではなく、学生自身です。

Rさんは、結局、欠席理由書を書いたようですが、どんな理由をつけたのでしょう。この欠席理由書、入管への提出書類の一部なんですよ。

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ただでは起き上がるな

12月4日(月)

SさんがA大学に落ちたと、担任のT先生に泣きついていました。本人は受かるつもりでいたようですが、現実は甘くなかったようでした。これから受験可能な大学を探し出して、大急ぎで準備しなければなりません。

学生にも楽天家と悲観主義者がいます。Sさんは前者だったようで、受けただけで受かった気になっていたみたいです。しかし、何かが足りなくて、落とされたのです。おそらく、Sさん自身が思っているよりも、Sさんに日本語力は高くなかったのでしょう。筆記試験が悪かったのか、面接でうまく答えられなかったのか、そこまではわかりませんが、楽勝と思っていた大学に落とされてしまったわけです。それを知った瞬間、楽天家Sさんは悲観論者となり、何をどうしていいのかわからなくなってしまったように見えました。

「受験ぐらい何とかなるよ」というぐらいの気持ちでいないと、受験生の精神は持たないでしょう。しかし、それが許されるのは、勉強してきた学生です。しかし、Sさんは根拠のない楽天家でした。勉強不足がたたって、この結果を生んだのです。「もっと勉強しろ」とは、入学以来ずっと言われ続けてきているはずです。「そんなに頑張らなくてもA大学ぐらい受かるよ」という希望的観測が、見事に打ち砕かれました。

Sさんに限らず、人間はだれしも痛い目に遭わないと教訓が得られない生き物です。教訓を次に生かせるかどうかで、その人の真価が見えてきます。T先生に泣きついたSさん、あなたの人間力が測られるのは、これからの受験ですよ。

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初面接練習

12月1日(金)

中級の進学授業で、面接練習をしました。25年入学の学生も多いので、本番直前の面接練習というよりは、授業で教えてもらったことの実地訓練といったところです。

私の受け持ちは、Oさん、Kさん、Sさん。まず、Oさん。一目で緊張していることがわかる顔つきで、こちらの質問に必死に答えようとしますが、話がなかなかかみ合いませんでした。次はKさん。3人の中で日本語が一番上手でしたが、手が常に動き続け、緊張による落ち着きのなさが丸見えでした。最後はSさん。声が小さく早口で、答えをなるべく簡潔にすませてしまおうという魂胆がビンビン伝わってきました。

面接がいかに緊張するものかということを学生に実体験させることが主目的でしたから、十分成功と言えるでしょう。事前に答えを暗記しても本番ではあまり役に立ちそうにないということは、わかってもらえたのではないかと思います。

いつも思うことですが、私ぐらいで緊張していてはいけません。確かに、私はOさんたち3人のクラスの先生ではありません。しかし、学校内でちょくちょく見かけています。Oさんのクラスには、ついこの前、代講で入りました。そんな有利な条件でも緊張するのです。ましてや、初対面の先生方がずらりと居並ぶ本番の面接では、脈拍も血圧も200を超えてしまうのではないでしょうか。

もう1つ気になったのは、「失礼しまーす」というような、文末の“まーす”です。だらしない感じがして、私は好きになれません。ということは、同年代の面接官も同様だということであり、好印象にはつながりません。短くきびきびと“ます”と言い切るように指導しました。

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隠れた有名人

11月30日(木)

半月ぶりぐらいに養成講座の講義をしました。クラス授業や日本語プラスと違って不定期ですから、連続する時もあれば間が空くこともあります。次回は12月半ば、また半月ぐらい間隔があります。

今回もいろいろなことをしゃべりましたが、can-do statementsについても触れました。これは、日本語教師にとってはタン塩とかスパナとかと同じくらい当たり前の言葉ですが、受講生はじめ一般の方々にとってはなじみの薄い言葉です。この稿をお読みのみなさんも、おそらくそうでしょう。

can-do statementsとは、「学習者がこのレベルまで勉強したら、こういうことができる」というのをまとめたものです。「中級まで勉強したら日本語のニュースが聞き取れます」なんていう感じで書かれています。英語をはじめ、外国語を勉強している方は、通っている学校などで見たことがあるかもしれません。

can-do statementsは、一見日常生活と直結しているとは言い難いのですが、実はその精神は私たちの生活の中に隠れています。例えば、「1歳ならもう歩けますね」「5年生か。じゃあ1人で旅行できるね」「この契約が取れたら、山田君を課長にしよう」なんていうのも、can-do statementsの応用と言えるのではないでしょうか。

「3割で50本打てたら、大谷は来年もMVPだろう」などとスポーツ選手やタレントや作家などを評価したり期待をかけたりするのもこのグループでしょう。ここまで考えると、can-do statementsはタン塩やスパナどころか、みそ汁やドライバーぐらいありふれているのかもしれません。

そんな話も交えながら、講義を進めました。

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素晴らしい学生

11月29日(水)

授業後、Aさんの面接をしました。Aさんは今学期の新入生で、毎日非常に熱心に授業に参加しています。そのAさんがどんな考えを持っているのか、私たちの授業にどんなことを望んでいるのか、そんなことも探ってみようと面接に臨みました。

Aさんは、日本では進学しません。国で大学院に進学します。ちょうどギャップイヤーのような時間を利用して、あこがれていた日本に留学しました。ですから、日本での生活を精いっぱい楽しもうとしています。授業後の生活の様子を聞くと、友達と食事に行ったり、初級レベルの休み時間にラウンジで待ち構えて初級の学生たちとおしゃべりしたり、時には昼カラオケにも興じています。「クラスの学生は?」と聞くと、「みんな優しいです」と答えていました。今のところ、東京の空気が乾燥し過ぎていて風邪気味なのを除けば、ほぼ満点の留学生活ではないでしょうか。

勉強について聞くと、始業日にもらった文法や語彙の問題などは、もうすべてやってしまったそうです。読解の教科書も、授業で取り上げたものはもちろん、興味を持った文章はどんどん読んでいます。「Aさんは勉強が好き?」という問いには、間髪を入れずに「はい」という答えが返ってきました。勉強が嫌いなくせに大学や大学院に進学しようともくろんでいる学生たちとは正反対です。

読解の教科書は1回読んだだけでほぼ理解できるとのことですから、もともと頭がいいのでしょう。しかも勉強が好きで、どんどん先回りするのですから、成績がいいのも当然の結果です。好奇心も強いので、学校外でも毎日新発見の連続に違いありません。教師にとっては理想的な学生です。

でも、喜んでばかりはいられません。教師としては、Aさんの学力をさらに伸ばし、好奇心も満たすような授業が求められます。来週は何を出せばいいのかな…。

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あちこちのクラスで

11月28日(火)

午前中は中級クラス、午後は初級クラスの代講に入りました。代講は決して嫌いではありません。日本語プラスなどを通して知っている学生の実態が見られたり、以前教えた学生のその後を知ることができたり、隠れた才能を見いだせたり、あるいは悪名がとどろきわたっている学生の現状を観察できたりなど、通常クラスの授業をしているだけでは得られない情報が得られたり、思わぬつながりができたりするからです。

午前中の注目は、Kさんです。日本語プラスでは地頭の良さを見せていますが、日本語の授業ではどうなのでしょう。ランダムに指名しても答えられるし、全体に問いかけた時にも口火を切ってくれるし、日本語クラスでも活躍しているようです。仲のいい友達とのおしゃべりが少々気になりましたが…。また、Dさんは日本語プラスのときよりもしゃべれるのにちょっと驚きました。

4月期に教えたPさんとSさんは、相変わらずやる気があるのかないのかわからない授業態度でした。Sさんは隣のRさんがスマホいじりに熱中するとつついていましたが、自分だってスマホを決してしまおうとしません。全く変わりませんね、半年前と。

午後のクラスには、先学期教えたJさん、Lさん、Hさんがいます。漢字が弱かったJさんは、指名するとやっぱり漢字が読めませんでした。よく宿題を忘れていたLさんは、漢字の宿題をやってきていませんでした。Hさんの字の汚さも、全く変わっていませんでした。でも、Jさんの会話力はピカ一だったし、Lさんの勘の良さも健在だったし、Hさんのひたむきさは、教師としてはうれしいものです。

今学期は代講要員的な面もありますから、これからもあちこちのクラスに入ることでしょう。入ったクラスごとにそのクラスの飾らぬ姿を見せてもらうことにします。なんだか、水戸黄門の諸国漫遊みたいになってきました。

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欠席者多数

11月27日(月)

足のケガで受けられなかった中間テストの追試を先週の金曜日に受けると言っていたKさんでしたが、金曜日は欠席でした。その日は連絡が取れず、週末も行方不明のままでした。今朝も教室にはいませんでした。こりゃあ自宅訪問かなあと思っていたら、休み時間後にひょっこり現れました。教室に入るとすぐにマスクをしましたが、またすぐ外して鼻をかみました。月曜日の後半は作文ですが、作文を書きながら、ポケットティッシュ1個を丸々使い切るほど鼻をかんでいました。

授業後に確認を取ると、やはり金曜日から風邪で寝込んでいたとか。アルバイトもすべて休んだと言いますから、相当ひどかったのでしょう。30日に志望校の出願締め切りがあり、その出願について聞きたいことがあるので少し無理して出てきたそうです。

Kさん以外にも、Aさんもあまりたちのよくない咳をしていました。先週1週間欠席していたJさんは復活しましたが、マスクをしていました。おどろおどろしい病名の書かれた診断書を提出してきました。そのほか、欠席したCさんに電話をかけると、Cさんとは思えないような声が返ってきました。Mさんも同様です。電話線を伝わって菌がやってくるんじゃないかというような咳もしていました。Yさんはお腹を壊したようでした。他のクラスも、こういった欠席者が多かったようです。

私も確かに風邪をひきましたが、学校を休む手前で踏みとどまりました。どうして学生たちは踏みとどまれないのでしょうかね。無理のしかたがわからないのかもしれません。こういう経験を通して健康の大切さを身にしみて感じてもらうのも、留学の成果の1つだと思うほかありませんね。

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みどりの窓口閉鎖

11月25日(土)

先日、所用があり、JRの有楽町駅を通りがかりました。すると、「有楽町駅にはみどりの窓口はございません」という大きな張り紙が目に留まりました。大阪まで新幹線などといった指定席券は券売機で買える、割引切符も券売機で対応可能、どうしても窓口で買いたい人は東京駅か新橋駅へ行ってくれ、という意味のことが書かれていました。

感染症対策の在宅勤務で、都心の駅は乗降客数が減りました。それでも有楽町駅は20万人を数えます。そういった多くの利用客がいる駅からも、みどりの窓口は消えているのです。もっとも、今はスマホやパソコンから指定券の予約・購入ができ、一部はチケットレスで改札を通過できます。ですから、みどりの窓口の需要が減っていることもまた確かです。

そうはいっても、有楽町駅は銀座の最寄り駅であり、最近激増している外国人観光客も数多く利用しているはずです。そういった人たちは、券売機を操作して指定券などが買えるのでしょうか。

夏休みに四国へ行ったとき、JR松山駅のみどりの窓口で、わずか30秒足らずの用事のために、20分以上も待たされました。窓口は2つ開いていましたが、1つは日本人が複雑な切符を作ってもらっていて、もう1つは外国人が窓口の係員と相談しながら指定席の予約をしてもらっているようでした。銀座あたりを歩いている外国人観光客で駅員と相談したい人は、みんなJTBみたいな旅行代理店か東京駅に回るのかな。

10年ぐらい前は、松山駅のみどりの窓口は2つではなかったように思います。JR四国もJR東日本も、最近の経営状況はよろしくないという噂ですから、人減らしに励んでいるのでしょうか。単なる人減らしなら、経営が回復したら元に戻る可能性もあります。しかし、人手不足のためだったら、有楽町にみどりの窓口が復活する目はなく、松山駅だって窓口が1つに減らされるかもしれません。

駅員さんに限らず、近ごろ至る所で働き手がいないという話を聞きます。運転士がいないからバスが減便されたとか、医師不足で地方の中核病院の診療科が閉鎖されたとか、80歳を超えた介護士が在宅介護に回っているとか、大阪万博だって建設業界の人手不足のために開催が危ぶまれています。働き方改革で働き手がさらに必要なのに、募集してもさっぱり集まらないという現象が、全国的に見られます。

日本語教育業界も人が足りません。ご興味のある方、ぜひどうぞ。

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