必死に聞く

12月19日(火)

午前中は養成講座の授業でした。落ち着いた雰囲気の中で、日本語教育の歴史を語りました。歴史となると脱線ネタがたくさんあります。しかし、午後の予定を考えると力をセーブしておく必要があったので、ほどほどのところで抑えておきました。

午後は、代講で初級クラスに入りました。会話のテストをしました。普段受け持っていないクラスですから、学生の顔と名前が一致しません。ですから、ロールプレイをしている様子は録画しておき、本来の授業担当のY先生に見ていただくことにしました。そう伝えると、学生も安心したようでした。

その場でペアを発表し、課題を与え、セリフを書き、それを練習し、そして発表という段取りです。ペアと各ペアの課題を発表すると、教室中が喧騒に包まれました。会話”テスト“ですから、教師を利用するのはご法度です。私は教室中をうろちょろ歩き回って、母語で相談していないか監視します。喧騒の中でも日本語以外の言葉は耳に違和感が残りますから、案外わかるものです。“Aさん、国の言葉が上手になりますよ”というと、学生は恥ずかしそうに下を向いて、再び顔を上げた時から日本語に切り替えます。

さて、発表です。自然な発話をしてもらうため、ノートやメモを読み上げるのは禁止です。そうすると、文法がまだそんなに複雑ではないこともありますが、多くの学生が自然な発話に近づきます。このクラスも、自分たちが作ったストーリーを、情感を込めて演技してくれました。観客側の学生も、友達の演技を少しでも理解しようと、真剣に耳を傾けていました。

発表は時間を10分オーバーしました。それだけ長く会話を続けられるようになったと評価したいです。学生たちには、その点は褒め、今のうちから日本語を日本語で聞き、日本語で考え、日本語で反応するように、要するに、母語を介在させるなとアドバイスしました。今のうちからそういう訓練を積んでいけば、上級になるころには素晴らしい日本語話者になっているはずだと励ましました。

授業が終わったら、やっぱりexhausted状態でした。

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12月18日(月)

9時のチャイムが鳴り終わり、「おはようございます。では、出席を取ります」と宣言した時には、Jさんの姿はありませんでした。全員の名前を呼び終わる少し前に教室に入ってきたので、かろうじて遅刻は免れました。やけにさわやかな顔をしていたので、週末の入試面接はうまくいったんだろうなと思いました。

JさんはR大学の面接で痛い目に遭っています。機先を制されたというのか、調子を狂わされたというのか、とにかく緊張させられっぱなしで、まるで実力が破棄できずに面接が終わってしまいました。話すことにかけては相当な自信を持っていたJさんですが、天狗の鼻を折られた感じでした。

ですから、その次のO大学の面接は、同じ轍を踏まないようにと、慎重に準備を進めていました。先週の金曜日に、面接の最終チェックということで、こういう場合はどう答えたらいいかなど、私にあれこれと質問してきました。私は、JさんのR大学でのことを考え、面接官のペースに乗せられるなとアドバイスしました。

その甲斐があったのかどうかはわかりませんが、私に向かって親指を立てて、「先生、今度は手ごたえがありました」とにこやかに報告してくれました。もっとも、授業が始まっていましたから、Jさんばかりをかまっているわけにはいきませんでしたが。

これから先も、G大学やK大学を受けると言っています。年が明けたらそれらの大学の出願があります。もう慣れていることでしょうから、私が世話を焼く必要はないと思います。こちらも、試験本番直前に面接練習の相手をするくらいでよさそうです。

O大学の合否は、年内ギリギリにわかります。

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レオナルドダビンチ

12月15日(金)

昔、会社勤めをしていたころ、私の課長が「便利屋をバカにしたらいかん。どんなことを頼まれてもそこそここなさなければならんのだから、それなり以上の能力を持っているってことなんだ」と言っていました。課長の上司である部長は、何かというと課長に仕事を命じていました。他にも課長はいたのに。課長が命じられた仕事の一部は、私のところに流れてきました。その際に、上述のような、愚痴とも余計な仕事を命じる言い訳ともつかぬ、うがった見方をすれば私を便利屋にしようと教育しようとしていたのかもしれない言葉を私に掛けたのでした。

午前中の授業が終わって、明日大阪の大学の面接試験を受けに行く学生に最終の指導をしていたところに、急な代講を頼まれました。面接指導が終わり、レベル担当のF先生から簡単な説明を受け、漢字の教科書を持ってそのまま教室へ向かいました。今日案も何もあったもんじゃありません。

代講の場合、学生の顔も名前も満足に知らないクラスに入るのが普通ですから、本来の先生ほど授業をスムーズに進められません。でも、だからと言って、授業の質を落とすわけにもいきません。特に、今は学期末ですから、次回以降の授業で挽回という手は使えません。

私は、一番下から一番上まで、各レベルで1学期を通して教えたことが何回かあります。ですから、「教科書のこのページ」と言われれば、どうにかできます。ここが、便利屋の面目躍如のところです。日本語授業に加えて、理科や数学までやっているのですから、まぎれもない便利屋です。

「便利屋」という言葉にはネガティブなニュアンスが伴いますが、「万能の巨匠」だと思えば立派なものじゃありませんか。私は、この仕事を楽しんでいます。

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志望理由書と学習計画書

12月14日(木)

MさんはK大学への出願準備を進めています。午前の授業後、志望理由書と学習計画書を見てほしいと、私のところへ来ました。志望理由書と学習計画書は、A4・1枚の願書の一部分に設けられたあまり広くない空白に記入することになっていました。

Mさんは、志望理由書は思うところがたくさんあるようで、私の老眼にはかなり厳しい細かい文字ですき間なく書かれていました。国で働いた経験からこういう学問が必要だと痛感し、それが勉強できるK大学を志望するに至ったということがよくわかりました。

一方、学習計画書は、私にも読めるサイズの字でしたが、講義名をそのまま書いたようで、志望理由書ほどの熱意は感じられませんでした。“計画”という言葉に惑わされて、何年生で何の授業を取るという羅列に終わってしまったようでした。

全体として、志望理由にある、Mさんが必要としている学問と、それをどのように勉強していくかという学習計画とが結びついていない感じがしました。志望理由書はMさんにしか書けない内容でしたが、学習計画書は誰にでも書けるものでしかありませんでした。

Mさんが語りたいことは、志望理由にあります。しかし、このままこの願書を提出すると、面接での質問が学習計画に集中するおそれがあります。それはMさんにとっては不本意でしょうから、志望理由書と学習計画書を有機的に関連付けるよう指導しました。

K大学にしたら、学習計画書には、講義名ではなく、こんなことを学びたいと書いてもらった方が、Mさんをどう育てるかという道筋が立てやすいでしょう。大学は、何を教えたらいいかわからない学生ではなく、自分たちの教育によって成長した姿の見える学生を合格者として選ぶものではないでしょうか。

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通訳

12月13日(水)

今学期、毎週水曜日の夕方は、初級の学生向けに大学進学そのものについての授業をしてきました。日本の大学の特徴とか、大学の留学生入試の仕組みとか、面接や志望理由書についてとか、大学進学の準備を始めたばかりの学生が知らないことを話してきました。

初級の学生が相手ですから、私が普通にしゃべったのでは話が通じませんから、毎週上級の学生に通訳を頼みました。自分も経験者ですから、パワーポイントを見ただけで話の内容がだいたい見当がつきます。だから、通訳の長さからすると、おそらく私の言葉になにがしか付け加えてくれていたものと思われます。

私の日本語を国の言葉にしてくれるだけにとどまらず、初級の学生からの質問を日本語にして私に伝えてくれます。そういう形で初級の学生たちと私とをつないでくれます。実に心強い援軍です。初級で入った学生が、通訳する側に立っている姿を見ると、立派になったなあと思わずにはいられません。

上級の学生は午前授業ですから、夕方まで学校にいるというのは、授業後図書室などで勉強している学生か、ラウンジあたりで友達とおしゃべりしたりタブレットかパソコンを見たりしている学生か、そんなあたりです。そういう学生を捕まえて通訳を頼むと、結構快く引き受けてくれます。

上級の学生にとても、通訳ができるということは、自分の日本語力に自信を持つきっかけになるのではないでしょうか。頼む立場としても、授業中ろくにしゃべらず、スマホばかりいじっている学生は敬遠します。話せても、こちらの話を聞こうとしない学生も、ご遠慮申し上げます。通訳に選ばれた時点で、コミュニケーション力が保証されたのです。

今学期話を聞いていた学生たちが、来年のこの学期、通訳する側に回っていてもらいたいですね。

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12月12日(火)

今年の漢字は「税」に決まりました。日本漢字検定協会のコメントによると、1年を通して増税の議論が行われたこと、インボイス制度導入、ふるさと納税のルール厳格化など、税にまつわる話題が絶えなかったから選ばれたのだそうです。私の感覚だと「税」よりも「暑」ですがね。

今年の漢字を募集しているころにはあまり騒がれていなかったかもしれませんが、パーティー券の売り上げキックバックによる裏金は、安倍派だけで5億円にも上るそうです。自民党全体では一体いくらになるのでしょう。この裏金も、広い意味では脱「税」でしょう。

安倍派の5億円、自民党の?億円は、「裏」金と言われるくらいですから、何に使われたかは全然わかりませんし、今後明らかになるとも思えません。どうせ世の中の役には全く立たない、ろくでもないことに使ったのでしょう。裏金作りに励んだとされる面々の写真は、顔つきが悪いですね。わざとそういう写真を選んでいるかのようです。中でも、2000万円を受け取ったとされる橋本聖子参議院議員は、スピードスケートや自転車でオリンピックに出ていたころのさわやかさのかけらも感じられない顔になっていました。

何億円か、あるいはもう1桁上のお金があれば、貧困家庭を何世帯救えるでしょう。給料が低くて人手不足に陥っている介護施設に回せば、多くの介護する人される人が幸せになれるでしょう。こんなこと、あの顔つきのみなさんの脳裏は一瞬たりともかすめなかったのです(法律的に難しいのかもしれませんが)。

もうかっている企業が自民党のパーティー券を買い、自民党がふるさと納税的な発想で集めたお金を上述のようなところに配り、返礼品は自民党のパーティーでも岸田さんのありがたいお話…というのはいかがでしょうか。

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上手です

12月11日(月)

学期末が近づくと、アメリカのプログラムできている学生の面接(発話力テスト)があります。午前の授業後、2人の学生の面接をしました。

Rさんは日本で就職しようと考えています。だから、選択授業も私のクラス、ビジネス日本語を取っています。ビジネス場面で使われる日本語は特殊な表現が少なくなく、言外のニュアンスまで汲み取らなければならないところが難しいようです。リップサービスかもしれませんが、私の授業も役に立っているとのことでした。

Cさんは専門学校に進学し、そこを卒業後、やはり日本で就職ということも考えています。専門学校のプログラミングの模擬授業に参加したら、やっていることが簡単すぎたので、コンピューターグラフィックスに専攻を変えたそうです。相当できるのでしょうか。

2人とも最上級レベルの学生ですから、私が無茶苦茶な語順で話しかけてもきちんと内容を把握し、しかるべき返答をしてくれました。さすがと思いました。うっかりすると、日本人の友だちを相手にしているような感じでしゃべってしまいます。誤用が全くないとは言いませんが、日本語教師でなければ気づかないと思われる軽微なものしかありませんでした。TOEFLのスピーキングでも、多少の間違いがあっても満点が取れるそうですから、この2人の私の評価は満点にしました。Rさんなんかは、満点以上の点数をあげてもいいくらいでした。

2人に共通している点は日本への好奇心の強さです。単に日本の文化が好きだというにとどまらず、自ら動いてその“好きだ”という気持ちを満たそうとしています。それも、ネット検索で満足するのではなく。こういう点を、レベルの下の学生たちに残していってもらいたいです。

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「ば」考

12月9日(土)

夜になると随所でイルミネーションがきらめき輝き、それにスマホを向ける人たちは、美しさに酔うというよりは、獲物get!といった顔をしています。そんな人たちを包むように、街にはクリスマスソングが流れています。

毎年繰り返される光景ですが、毎年気になることがあります。それは、「ば」です。

クリスマスソングの定番「恋人がサンタクロース」の歌詞には「ば」がたくさん出てきます。“今夜8時になればサンタがうちにやってくる”“大人になればあなたもわかる”“明日になれば私もきっとわかるはず”…という具合です。

日本語文法では、一般に、確定条件においては、前件を「ば」ではなく「たら」で表すとされています。「ば」は仮定条件で使うと、どの文法書にも書かれています。「駅に着いたら連絡します」は〇だけど、「駅に着けば連絡します」だと、駅にたどり着けるかどうかわからないような感じがしませんか。

「恋人がサンタクロース」の歌詞はいかがでしょう。“大人になればあなたもわかる”は、わかるための条件が大人になることだとも受け取れるので、ぎりぎりセーフかもしれません。でも、“今夜8時になればサンタがうちにやってくる” “明日になれば私もきっとわかるはず”はそういう見方もできません。とはいうものの、聞き慣れてしまったからなのでしょうが、さほど強い違和感もまたないのです。みなさんはいかがでしょうか。

養成講座の初級文法では、確定条件には「ば」は使えないと言い切っていますし、レジメにも明記してあります。「恋人がサンタクロース」は偉大なる反例なのですが、なぜ変な感じがしないのか、そこが気になっているのです。

うちの前のショッピングモールは、今夜も「恋人がサンタクロース」を流していることでしょう。それを聞きながら、「ば」に違和感がないことに違和感を抱きつつ、足早に通り過ぎるのでしょう。

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上の空

12月8日(金)

9時5分前ぐらいに教室に入り、タブレットのwi-fi接続確認など諸々の準備をし、9字のチャイムが鳴り終わると出席を取ります。クラス全員の名前を呼び、顔を見て出欠を記録していくと、9時2分か3分ぐらいまでかかります。全員の出席を取り終わるか終わらないかのタイミングで、Lさんが駆け込んできました。ギリギリセーフということにしました。

連絡事項を伝え、授業を始めると、Lさんはいつになく落ち着きがありません。クラスの議論には加わらないし、教科書も見ているのかいないのかよくわからないし、時々スマホをいじっているみたいだし、明らかに心ここにあらずでした。授業の最後に、授業で扱った単語や表現を使って例文を書いてもらいました。Lさんも出しましたが、休憩時間にチェックすると、こちらの指示をまるっきり聞いていないようでした。

後半は選択授業で、Lさんは私のクラスにはいませんでした。しかし、授業後、忘れ物を取りに来たLさんを捕まえました。そして、「あんた、私の話、全然聞いてなかったでしょう」と追及すると、「先生、ごめんなさい。△▼X〇◆☆…」と訳のわからないことを言って、脱兎のごとく帰ってしまいました。

Lさんの周りの人の話を総合すると、どうやら入試の発表があったのか、午後からあるのかだったようです。受験シーズンには時折みられるパターンです。もし、発表があったのだとしたら結果が気になるところですが、現在まで何の連絡もありません。入試発表の場合、“便りがないのは悪い証拠”ですから、どうやら期待はできないようです。

月曜日は、慰めの言葉をかけるところから始まるのかな…。

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最後の1万円札

12月7日(木)

国、ヘアターバン、現金、動物実験、結婚、単一機能のアプリ、手紙、差別待遇、人種、インスタント食品、ジェンダー社会規範意識、時計、使い捨ての漆器、軍事武器、欲張り。これらは何だと思いますか。

月曜日、「なくてもいいもの」というテーマで作文を書いてもらいました。その作文で学生たちがとりあげたものです。中には、「なくてもいいもの」というより、「あってほしくないもの」「なくしていくべきもの」とした方がいいものも含まれていますが、学生たちは上述のものが現代社会には不要だと考えているようです。

複数の学生が取り上げたのが、現金でした。自分の国ではキャッシュレス化が進み、日本では現金しか受け付けない店も珍しくないことに驚いたと書いた学生もいました。財布が必要なこと、その財布がすぐ重くなることが嫌だという意見もありました。

振り返ってみると、私も現金はあまり使いません。買い物や食事をしてもICカードかクレジットカードで支払う場合がほとんどです。もしかすると、今週はまだ現金を使っていないかもしれません。でも、現金は好きです。もらったときのありがたみが違います。

来年夏に、新札が発行されます。渋沢栄一が1万円札です。聖徳太子、福沢諭吉に続き、3代目のお札の顔です。聖徳太子から福沢諭吉に変わったときは、まだ学生でした。たまたま発行初日と研究室のパーティーが重なり、気を利かせた参加者が回避を新札出払ってくれたおかげで、その日のうちに新札を拝むことができました。

でも、学生たちが言うように、キャッシュレス化が進んで現金の流通量が減っていくと、渋沢栄一の1万円札が最後の1万円札になるかもしれません…。

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