組み合わせ

9月20日(土)

毎学期実施している上級の実力テストの採点をしました。私のクラスは、予想通りというか順当にというか、授業の時に“こいつできるな”と思った学生が好成績でした。欠席がちな学生や、出てきてもぼんやりしているような学生は、悲惨な成績でした。

この実力テストは、進級の可否には関係ありません。来週の期末テストでしかるべき点数を取れば、実力テストの結果が悪くても進級できます。1つ上のレベルではなく、もう1つ上のレベルに飛び級したらどうかと声をかける時などに参考にします。もちろん、次の学期の教材選定や授業の進め方の決定の際も判断材料の1つにします。

期末テストは、授業で取り上げたことが理解できたかどうかを見るテストです。まじめに出席し、教師の話をよく聞き、グループワークなどにも積極的に参加してきた学生が、点が取れるようになっています。実力テストは、学生にとって初見の文章から問題が作られます。ですから、まじめに出席していなくても点が取れることだってあります。

学生の日本語力をより正確に表しているのは、実力テストでしょう。じゃあ、実力テストの成績順にクラス編成すればいいかというと、そういうわけでもありません。やっぱり、クラス内にも多様性が必要です。同じタイプの学生ばかりだったら、刺激に乏しいクラスになってしまいます。

そういう意味では、今の私のクラスはほどほどに成績もキャラクターも人生経験もばらついています。グループ活動をすると、学生たちは毎回“へーぇ”と感じさせられているようです。

とはいえ、このクラスも解体しなければなりません。どんな組み合わせにしたら、学生たちに新しい“へーぇ”を配給できるでしょうか。

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秋初日

9月19日(金)

すっかり秋めいちゃいましたねえ。今朝の最低気温は18.6度で、東京の気温が20度を割ったのは3か月ぶりだとか。また、日中の最高気温は26.3度でしたが、この前の日曜日は最低気温でさえ26.6度でした。昨日まで生暖かかった外階段の金属製の手すりも、12:15に授業が終わって1階へ降りて来る時でも触るとひんやりしました。

気象庁の観測データを細かく見ていくと、昨日の午後3時頃を境に、南ないし西寄りの風だったのが、北ないし東寄りの風に変わりました。ほぼ同時に、それまで北陸地方の沿岸にあった前線が、関東南岸にまで南下しました。東京の気温は、10分間で2度余り下がり、その後も下がり続けて、秋に突入しました。同じころ、大阪でも20分で4度下がりました。秋の空気が入り込んだのです。

急に涼しくなったせいかどうか知りませんが、毎朝早く登校してラウンジで勉強しているSさん、今朝はのどが痛いとのことで、かすれた声で「おはようございます」と挨拶していました。私の教室では、暑がりのCさんがエアコンを強くすると、寒がりのLさんは比較的気温の高い窓際でも震えていました。クラスのみんなが一致団結してエアコンがんがんなら話は簡単なのですが、こういう微妙な気温の時期は、室温のかじ取りが難しいです。

先日のこの稿で、“10月1日に衣更えができるだろうか”と書いてしまいましたが、この調子だと滝のような汗を流しながらスーツ姿という最悪の事態には陥りそうにありません。予報によると、真夏日は復活しても、熱帯夜は打ち止めのようです。

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明るい顔

9月18日(木)

Hさんが今学期で退学します。帰国して、国で勉強して、大学受験の際は短期ビザで来日するそうです。出席率があまり芳しくなく、出席しても机を枕に寝ていることがたびたびありました。すでに上級まで来ていますから、ここで退学したとしても学び残したことはさほど多くないはずです。

退学届けを出した報告に来たHさんの顔つきが今までになく明るくすがすがしく、私たち教師から、何で休んだんだとか、授業中に寝るなとか、どうして宿題をしてこないんだとか、小言を言われ続けてきた毎日が、よほど重苦しかったのでしょう。そういうのから解き放たれればのびのびと勉強ができ、受験にもプラスに作用するかもしれません。

そう考えると、日本語学校の教師なんて、因果な商売です。本人のためと思って注意したり指導したりしても、それが裏目に出ることが稀ではありません。授業の時にHさんの笑顔を見たかったですが、教師としての務めを果たそうとすると、それがかなわないんですよね。

留学ビザの制度や留学生入試の仕組みを基準に考えると、やっぱり学生には厳しく当たらなければなりません。普段優しく接していても、最後の最後には真反対の態度を取らざるを得なくなります。それなら日々悪役を続ける方がましでしょう。

私の方も、もうHさんと対立する必要がないと思うと、肩の力が抜けました。期末テストまであと3回しか授業がありませんが、何とかKCPはあなたの敵ではないんだよ、退学してもいつでも力になるよとメッセージを送りたいです。

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会話テスト不合格

9月17日(水)

レベル1は、今、授業中に会話テストをしています。1日に2ペアぐらいずつ、その場で課題の絵を見せて、会話を作り発表してもらいます。課題の絵と言っても、学生にとっては初めて見る絵ではなく教科書に載っている絵ですから、手も足も出ないなどということはありません。教科書丸暗記を披露するのではなく、自然な会話を聞かせてほしいのです。さらに、教科書にはないオリジナリティーが加わっていれば、高得点につながります。

こういう仕組みなら、誰でも好成績が挙げられそうですが、そうは問屋が卸しません。Fさんはその典型です。テストではそこそこの点を取るのですが、話すことに関してはからっきしだめです。授業中に自ら進んで発言することはなく、例えばます形を与えてて形を言わせるなどというのをやらせてみても、まともに答えられたためしがありません。指名されて漢字教科書の例文を読むのが精いっぱいの所です。

そのFさんの会話テストがありました。ペアの相手はTさんでした。昨日会話テストだったのに休んでしまったという負い目があるのか、Fさんをたきつけて会話を盛り上げようとしますが、Fさんにはそう簡単に火が付きません。結局、Tさんの闘志(?)が空回りして終わってしまいました。私の採点は、Tさんは合格点、Fさんは甘くつけても合格点には届きませんでした。

KCPでは会話を重視していますから、このままでは、Fさんは進級できないかもしれません。でも、進級させたら上級になっても話せない学生を生み出すことに直結してしまいます。面接試験が重視される留学生入試においては、非常に不利であることは言うまでもありません。でも、おそらく、Fさんには危機感などないんですよね。

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依存症悪化

9月16日(火)

「先生、Yさんなんですが、今朝の漢字テストの最中、ずっとスマホをいじっていたんです」と、授業担当のT先生から報告がありました。「でも、漢字を調べているようでもなかったんですよ。なんか違うことをしているみたいで…」と困った顔をされていました。

Yさんは私の授業の時にもそうでした。他の学生がみんな課題に取り組んでいる時に、貧乏ゆすりをしながら、SNSをやっているのか動画を見ているのか、下を向きっぱなしでした。注意すると一瞬やめるのですが、私が目を離すや否や、またスマホを見始めるのです。その課題について答えを求めても、当然答えられません。「あなたはこの授業時間中、結局、何をしていたのですか」と聞いたら拗ねてしまったらしく、その後私を避けるようになりました。今学期の初めは、こんなにひどくはなかったんですがねえ。

「先生、Gさんはどうにかなりませんかねえ。授業の最初にスマホをかばんにしまわせたんですが、いつの間にか出していじってるんですよ。もう、私の手には負えません。来学期は数学を取りたいと言っても取らせないでください」。数学の授業から戻ってきたS先生も訴えます。以前はそれほどではなかったのですが、Gさんもいつの間にかスマホにどっぷり漬かってしまいました。

この2人は、どう考えてもスマホ依存症です。このままでは、EJUや入学試験の最中にスマホを手にしかねません。1時間以上にわたる試験時間中スマホを我慢できたら、2人にとっては奇跡です。さらに悪いことに、こういう学生が学校全体で増えているようなのです。授業のあり方自体を変えなければならないかもしれません。

スマホなしでも平気な私には、YさんやGさんの気持ちを理解することは不可能かもしれません。そうすると、対策を立てても効果があるかどうかわかったものではありません。う~ん、頭が痛いです。

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若者は暗記?

9月12日(金)

日本語プラス生物が終わると、「先生、ちょっと聞いてもいいですか」とYさんが質問に来ました。「先生、これも暗記しなければなりませんか」と、自分で買った資料集の表の中にある単語を指さします。老眼を凝らしてよく見てみると、光合成色素の一種でした。もちろん、知らないよりは知っていた方がいいですが、大学受験の段階では知らなくても支障のないものでした。「東大を受けるなら覚えたほうがいいかもしれないけど、EJUのレベルなら知らなくても関係ないよ」と答えると、「そうですか」とにっこり笑っていました。

「塾の先生が暗記しろと言ったので…」とYさんは付け加えました。塾の先生はだいたい大学生です。その光合成色素はその先生の研究分野に深くかかわっているのかもしれません。思い入れが強すぎて、うっかり「暗記したほうがいい」と言ってしまったんじゃないかとも思いました。

学問には何も考えずに暗記しなければならない、少なくとも暗記したほうが効率がいい事柄もあります。でも、理想は何回もお世話になっているうちに自然に覚えてしまったというパターンです。受験生なら、練習問題をたくさん解いているうちに頭に染みついてしまったといったところでしょうか。そう考えると、Yさんが示した単語は、頭に染みつくほど問題集に登場するとは思えません。

物覚えが悪くなり、暗記を避けたい気持ちになっているからかもしれませんが、気安く暗記で物事を解決しようという考えには素直に賛成できません。その事柄の周囲との連携や、背景まで理解することが第一です。Yさん、暗記の生物じゃ、大学に入ってから苦労しますよ。

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病気の学生

9月11日(木)

日本語プラス物理の時間。「じゃあ、この例題をやってください」と言って、モニターに例題を映し出し、教室内を見て回っていると、Gさんがスマホを手にしました。「EJUではスマホは使えませんよ」と注意しても、「計算するだけですから…」とスマホを手放そうとしません。その問題、スマホのおかげでGさんは正解でした。

「次はこちらです」と別の例題を出し、しばらくすると、「先生、これはスマホでは解けません」とGさん。先ほどの問題に比べると、問題文から作られる方程式が多少複雑です。でも、1次方程式ですから、理系の受験生にとっては楽勝のはずです。Gさんが言いたいのは、未知数を求めるために式を変形するのにスマホの計算機が使えないということです。

他の学生が解き終わったようなので、解説を兼ねて楽な計算法を説明しました。「ここで4と4.2はだいたい同じと考えて、消してしまいます」と言ったら、すかさずGさんが「先生、それじゃ答えが違っちゃいます」とクレームをつけました。「もう少し話を聞いてください」となだめて説明を続けました。そして、最終的には正解の選択肢に近い数値を出しました。「EJUだったらこの程度の計算で十分です。今の私のやり方なら、スマホは要らないでしょ」と言っても、Gさんはどことなく不満げでした。

EJUの物理の計算問題は、概算ができればいいのです。せいぜい上2桁の計算で十分です。概算で出した数値に一番近い数値の選択肢を選べば、だいたいそれが正解です。だから、4と4.2を同じとみなしてもどうにかなってしまうのです。そういう計算の工夫をせずに計算機に頼って答えを出そうとしていると、本番ではひたすら筆算を続け、時間を浪費します。スマホに頼り切った頭では、筆算に時間を要することは火を見るより明らかです。

こういうずるい計算は、数字に対する勘を養うのに役立ちます。数字に対する勘が働くかどうかは、研究者にとってもエンジニアにとっても、必要欠くべからざる感覚です。そういうことを言い続けて、すでにレモンを10個一気食いしたぐらい口が酸っぱくなっているのですが、Gさんには伝わらないようです。

他の先生の話だと、他の授業時間でもGさんはすぐスマホに手を出すそうです。数字の勘を養うよりも、スマホ依存症を治療するほうが先のようです。

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まだまだ夏ですが

9月9日(火)

九月九日、重陽の節句、菊の節句です。しかし、そんな雰囲気は微塵も感じられず、日中は太陽パワー全開です。10月1日から衣更えの予定ですが、本当にできるんでしょうか。

そして、帳尻を合わせるかの如く、冬が駆け足でやってくるのでしょう。11月にはコートを着込むことになるとしたら、秋はひと月ほどにすぎません。となると、秋は味わうのではなく単なる通過点になってしまいます。今年の中秋の名月は10月6日だそうですが、それまでにススキは穂を出すのでしょうか。

季節の歩みは牛歩のごとくですが、受験カレンダーはトントンと進んでいます。明日とあさってはSさんがK大学の大学院を受験します。YさんはH大学の出願に使う出席成績証明書を申し込みました。先学期受け持ったUさんはあちこちの大学に出願しているようで、時折相談に来ます。金曜日には指定校推薦の校内面接第2弾が控えています。まだ暑いからと言ってのんびり構えていては、受験戦争に負けてしまいます。

日本語プラスの時間に、Rさんの模擬面接をしました。受験日の一番近いRさんを、他の学生の見本にしようという算段です。先週予告しておきましたから準備してきたのでしょうか、こちらの質問にすらすら答えてくれました。文法や言葉の使い方などのミスが全くないわけではありませんでしたが、誤解が生じるような間違え方ではなく、スムーズなコミュニケーションができました。見ていた学生のいいお手本になりました。本番もこのくらいやってくれたら、合格の可能性がぐっと高まります。

東京の日没は17:58でした。太陽運行の上での秋は、着実に訪れています。

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メール2通

9月8日(月)

昨日の夕方、家でメールをチェックしていたら、Yさんからメールが届いていました。さっそく読んでみると、1週間ばかり一時帰国して休養すると書かれていました。

Yさんはクラスの中で活発に発言し、クラスをリードするような存在でした。それが、メールによると精神的に参ってしまい、しばらく休みたいと言います。私には見えないところで苦労・苦悩していたようです。授業中の威勢のよさも、そうすることで精神的な落ち込みを防ごうとしていたのかもしれません。虚勢を張っていたと言ってしまえばそれまでですが、Yさん自身、どうにか自分で処理しようと思っていたのでしょう。

今朝、学校へ来てからメールを見ると、Zさんからメールが来ていました。読んでみると、今学期で退学し、帰国すると書いてありました。確かに、先月初めに面談した時、帰国するかもしれないと言っていました。メールには必要最小限のことしか書かれていませんでしたから、なぜ進学をあきらめるに至ったとか、そもそも本当に進学をあきらめたのかなどはわかりません。でも、状況証拠から見ると、何らかの理由で日本留学を断念したことは間違いないところです。

残念ながら、日本での進学を夢見てKCPに入学した学生が、全員その夢をかなえられるわけではありません。挫折する学生もいます。Yさんは進むか退くかの瀬戸際に立っています。私にはYさんを励ますことぐらいしかできません。帰国を決めたZさんに対しては、これからの幸せを祈ることだけでしょう。自分の無力さを呪います。

明日はZさんのクラスに入りますから、出席していたら詳しい話を聞きます。

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獅子ほどではありませんが

9月6日(土)

レベル1は日本語を勉強し始めて日が浅い学生が多いですからやむを得ないのかもしれませんが、テストをすると助詞を見落として誤答をしていると思われる例が目立ちます。例えば、

しゅくだいは、ボールペンを(     )でください。

という問題に、「かかない」と答えてしまうのです。空欄の前の助詞が「で」ならそれで正解ですが、この問題では「を」ですから、「つかわない」などにしなければなりません。

「ボールペン」は筆記用具ですから、「つかいます」と「かきます」だったら、「かきます」の方が親和性が高いです。だから、「かかない」したくなる方が自然だとも言えます。そういう気持ちに耐えて、助詞「を」をしっかりと目に焼き付けて、ここは「かかない」ではないと判断する…というようなステップを踏んで、正解にたどり着くわけです。思考回路の自然な流れにあえて逆らった先に正解があると言ってもいいかもしれません。

そういう不自然な思考を求めるから悪問だと言いたいわけではありません。「ボールペンでかかないでください」は、その日の授業で勉強したことの確認テストなら適しています。もう一段階上の、多少の応用力も見るのなら、「ボールペンでかかないでください」は易しすぎます。こういうテストで×を食らって、痛い目に遭い、悔しい思いをし、助詞にも目を光らせなければならないということも身に付いていくのです。

千尋の谷に我が子を突き落とす獅子ほどではありませんが、初級の先生も時には厳しく学生に当たるのです。

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