連帯感

4月25日(木)

今学期の日本語プラス理科の各科目は、毎回宿題を出し、その答え合わせをしながらEJUの範囲を復習していくという形で進めています。EJUの直前までに全体をカバーし、最後の1、2回は過去問を通しでやってみようと考えています。

木曜日は物理です。Oさんはきっちり宿題をしてきました。時間はかかったけど最後までやったと言って、宿題用紙を見せてくれました。Sさんも、学校でもらったもの何でも突っ込んでいるのではと思われるファイルから、しわくちゃになった宿題用紙を引っ張り出しました。Mさんは真っ白に近い宿題用紙を机の上に置いて、私を見つめました。Kさんはやけに硬い表情でした。できなかったのかもしれません。

答え合わせは、全部についてやっていると時間が足りませんから、今回のテーマである力学の要点を解説するのにちょうどいい問題や、学生が知らないと思われる解き方がある問題や、学生がつまずきそうな問題や、先週教えたテクニックを使う問題や、要するに教えるのに都合のいい問題に絞りました。

宿題をきっちりやって来たOさんは質問します。しかし、発音が悪くてその質問の意図がなかなかつかめませんでした。質問内容は急所を突いており、Oさんの質問を起点に授業を広げられました。MさんやKさんにも良い影響を与えたことは確かです。それだけに、発音の悪さが気になります。口頭試問で苦労しそうな気がしました。

Sさんはくちゃくちゃの紙を出したわりには鋭い質問をしてきました。私が説明を省略しようとした問題について質問し、やはりクラス全体に盛り上げました。思ったより理解が進んでいる感じがしました。

出席したメンバー間には無言のうちに同じ道を進む者同士の絆みたいなものが生まれたように見受けました。今年のメンバーは、思ったより期待が持てそうです。

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3月中旬並み

4月24日(水)

寒かったですね。最高気温は夜中に記録された16.5℃で、最低気温14.4度は日中に記録されました。本来なら最高気温が出る時刻の14:24です。日中の最高気温が14度台というのは、3月中旬です。40日ほど気候が後戻りしてしまったことになります。

私なんか、今週から夏のスーツを着始めましたから、うすら寒くてかないません。ひざ掛けでどうにかしのいでいます。しかし、学生の中には半袖で平気な顔をしているつわものもいます。先生たちから「寒くないの?」などと声をかけられていましたが、それが楽しみというか、「ぜんぜん」とかって自慢げに答えたくてしょうがないといった風情でした。そう答える自分を誇らしく思っているのでしょう。風邪をひいて休むなどということさえなければ、半袖短パンでもいいでしょう。見ているこっちが寒くなってしまいますが。

先週は夏日も記録したのに、このところ最高気温が平年値を下回る日が続いています。しかし、明日は26度、あさっては28度と、また夏日になるという予報が出ています。気温が激しく上下すると、体調を崩す学生が出てきます。せっかく好スタートを切って新学期の勉強を始めたのに、熱を出して欠席したのがきっかけでつまずいてしまう学生が必ずいます。ここのところの寒さがそんな学生を生み出すのではないかと心配しています。半袖の学生も、ほどほどにしておいてもらいたいです。

今年も中間テストの翌日からクールビズを予定しています。そのころには、半袖でも鳥肌が立つこともなくなっているでしょう。

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聴解のメモ

4月23日(火)

聴解問題をするときに学生にメモを取らせ、終了後にそのメモを提出してもらいました。

Sさんは実に丁寧にメモを取り、スクリプトの要点を余さずとらえていました。スクリプトを見ながら書いたのではないかというくらい完璧でした。思わず五重丸をあげてしまいました。Aさん、Hさん、Gさんなども、必要なことは書かれていました。このくらいのメモが取れるなら、JLPTやEJUの問題も恐れることなどありません。

その一方で、Kさん、Cさん、Jさんあたりは、本人がこのメモを見ても、何もわからないのではないかという代物でした。まるっきり聞き取れていないわけではないのでしょうが、このメモを基に何かするのは不可能でしょう。どこまで問題が解けるのか、心もとない限りです。

日常生活で聞いたことをその場でメモすることはあまりないでしょう。紙にメモしなくても、頭にメモできれば聴解問題ぐらいなら何とかなるかもしれません。でも、頭にメモできる内容は、思っているよりも少ないものです。10~11桁の電話番号はどうでしょう。私は自信がありません。相手の言わんとしていることを少しでも深く理解するには、誤解を減らすには、メモは不可欠だと思います。

つまり、日常生活をより充実したものにするには、聞いたことをメモすることが大きな役割を果たします。その延長線上にテスト問題があると考えてもいいと思います。そう考えると、Kさんたちは日本で生活を続けていくという観点からも心配です。他のクラスにもこういう学生がいるでしょう。そういう学生たちを、卒業するまでにどのように鍛えていけばいいでしょうか。

それ以上に、岸田さん、あなたは森さんに会ったときに、メモを取らなかったんですか。それで事情聴取したつもりなんですか。

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目標に向けて

4月22日(月)

昼休み、Dさんが日本語プラスについて相談に来ました。先週1週間理科系の科目に出席して、理科の選択科目を物理と化学にしたいと言います。Dさんは機械工学に進みたいと言っていましたから、妥当な選択です。さらに、その機械工学よりも、建築に進みたいとも言ってきました。

建築には、大きく分けて、デザイン系と構造系があります。デザイン系は、その名の通り、外観や内装などのデザインを専門とします。構造系は耐震建築など、建物の建て方の根本を学びます。そのどちらかと聞くと、Dさんはデザインをやりたいと言います。デザインと言っても、ただ絵を描けばいいというわけではありません。使いやすい建物、住みやすい家を設計することが主たる仕事です。そのためには、人間工学、建築物の素材、地質や気象に至るまで、幅広い勉強が必要です。おそらくDさんはそこまで考えていないでしょう。

志望校を聞いてみました。すぐにT大学の名を挙げました。超有名校ではありませんが、手堅い感じがします。誰かから教えてもらったのかもしれませんが、Dさんにとっては手の届きそうな目標になるでしょう。今後、もう1校か2校付け加えておいた方がいいです。Dさんは出席率がいいですから、指定校推薦という目もあります。そのあたりは、私も相談に乗るつもりです。

Dさんのほかにも、進学先をどうするか、いい意味で悩み始めている学生が出てきました。学校全体が6月のEJU、さらにその先の入学試験に向けて動いているのだとしたら、今年の学生たちには期待が持てそうです。

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大変身

4月20日(土)

お昼過ぎ、トイレに行こうと職員室から出たら、「すみません。F先生がいますか」と声をかけられました。どこかで見たような顔なんだけれども、私が知っているその顔の持ち主は、こんな調子で話しかけてくるキャラじゃありません。人違いかなと思って、「先生、学生ですよ」とF先生を呼び出しました。

ロビーに出るや、F先生、「Yさん、元気だった?」と、つい数秒前、私が頭の中で否定した卒業生の名前を呼ぶじゃありませんか。F先生を目にしたYさんも、にこやかな表情になりました。Yさんってこんな笑顔になるんだと、F先生の影からYさんの顔をしげしげと眺めてしまいました。

Yさんは、今年B大学に進学しました。KCP在学中のYさんは、出席率も悪く、成績も振るわず、いわゆる問題児でした。いつも眉間にしわを寄せ、日本語に自信がないせいか、ほとんどしゃべりませんでした。進学についても高望みを続け、F先生をさんざん悩ませました。卒業式の頃に、第3志望ぐらいのB大学にどうにか滑り込みました。

まだ1か月足らずですが、B大学での留学生活は楽しいようです。好きな勉強をしていますから、笑顔も湧き上がってくるのでしょう。「すみません。F先生『が』いますか」と言ってしまうあたり、日本語はまだまだですが、自分から日本語を発するようになったのですから、大進歩です。B大学では日本人の友達もできたと言っていましたから、日本語を話す力もこれからぐんぐん伸びることでしょう。

KCPを訪ねて来てくれたということは、Yさんの心に余裕が生まれたということです。順調な滑り出しと言っていいでしょう。今週は忙しくて私の方に心のゆとりがなくなっていましたが、明るく輝いているYさんを見て、少しリフレッシュできました。

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実力の偏り

4月19日(金)

今学期の日本語プラスEJUは、6月の本番を目指して実力をつけていくことに集中します。そのため、プレースメントテストを行い、その結果を見てクラス分けをします。受講希望者が最上級クラスからレベル3まで広がっているということもあります。しかし、レベルで機械的に分けると、下のレベルなのにテクニックで点を稼いでしまう学生や、その逆に上のレベルなのに要領が悪くて点が取れない学生などがいて、学生の実力を引き上げられないおそれがあります。そんな意味からも、プレースメントテストで様子を見ていきます。

さて、そのプレースメントテスト。最初にやった聴解・聴読解の時点で怪しい雰囲気が。几帳面にメモを取る学生がいる一方で、ボーッとしている学生もいました。全くメモを取らないのに成績がよかった学生は、数年前に卒業したKさんだけです。Kさんは聴解の天才だったかもしれません。問題にじっと耳を傾け、正解が流れるや迷わずチェックを入れました。それでいて間違いがほとんどないのです。どうしてそんなによくできるのかと聞いてみましたが、笑ってごまかされてしまいました。

残念ながら、目の前の学生たちは、Kさんの足もとにも及ばないようでした。メモを取らない学生は、メモを取る必要がないのではなく、メモを取る能力がなかったのです。解答用紙を見たら、1つの解答欄に2つも3つもマークしてありました。どの選択肢も正しいように聞こえてしまったのだとしたら、重症です。

読解は時間切れが数名。Sさんは最後の7問が空白でしたが、答えた問題で間違えたのは1つだけでした。速読の訓練をすれば、大いに期待できます。一方、Dさんは、読解の解答欄は真っ白でした。Nさんは最後まで答えましたが、正解は数えるほど。2人とも、漢字が読めなくて正解が選べなかったのでしょうか。

採点してみると、予想通り受講生間にかなりの差がありました。しかも、聴解ができない学生、読解ができない学生、入り乱れています。どんなクラスを設定すればいいか決めるのは、大仕事になりそうです。

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自転車通学

4月18日(木)

「大学には、自動車・オートバイで通学してはいけない」という本文に対して、「学生は大学まで歩いて来なければならない」という選択肢があったとしたら、みなさんは〇にしますか、×にしますか。

Pさんは〇にしました。ところが、正解は×でした。「自動車・オートバイは通学に使えないけど、自転車は乗ってきてもいい」と説明すると、「私の国では、大学の寮に住んでいる人以外で自転車で通学する人は0.00001%ぐらいしかいません」と、納得がいかない様子でした。

かつては、坂の街・長崎は自転車がない街として有名でした。しかし、昨今は電動自転車が普及し、市街地のいたるところにある急坂をものともせず、市民の足として定着しているようです。長崎に限らず、坂の多い街でも自転車は住民に愛用されるようになりました。

Pさんの語るところによると、Pさんの国には一般庶民が自転車に乗る習慣がないようです。スーパーマーケットにも、駐車場はあっても、駐輪場はないそうです。東京のような大都市で、駅前にもちょっとしたお店にも区役所のような公共機関にも、駐輪場・駐輪スペースがごく当たり前にあるのに驚いたと言っていました。

もしPさんの言っていることが本当だとしたら、この問題は読解の問題として適切でしょうか。日本人にとっても若干トリッキーな感じがしないでもありません。自転車という乗り物は知っていても、それを通学に使うという発想自体がない人々は、筆者または作問者の意図をつかむことなどできません。文化の違いが読解を妨げていると言ってもいいでしょう。

だとしたら、私が今まで作ってきた読解問題の中にも、好ましくない問題があったかもしれません。恐ろしいものです。

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運命の61日後

4月16日(火)

6月のEJUまでちょうど2か月――と進学指導の時間に言ったら、授業に出席していた学生たちは、一様に驚いた顔をしていました。6月16日(日)が試験日ですから、61日後です。

この学生たちは、ほぼ全員、来年4月の進学を目指しています。確かに、大学に入学するのは1年後です。しかし、入試は秋ごろ行う大学が多く、年内に合格発表のところは、ほぼ11月のEJUの成績は利用できません。ということは、6月のEJUがラストチャンスだとも言えます。61日後に運命が決まってしまいかねないのです。

こちらも、3月になっても進学先探しに右往左往したくはありません。早く安心したいものです。でも、1年後のことが2か月後に決まってしまうとなると、腕組みをしたくなります。

大学進学を目指す多くの留学生は、日本の高校3年生よりいくらか年上です。その分大人だということにもなりますが、それは数字の上の話に過ぎません。留学生は、未知の国へ来て、生活に慣れるのにも時間を費やしています。もう少し迷う時間を与えてもらってもばちは当たらないでしょう。志望理由書や面接練習などでそれらしい学修計画や将来設計を書いたり話したりさせていますが、どこまでが心の底からの声でしょう。

学校推薦型入試などによって、日本の高校生の進路決定が早まってきたという話をよく耳にします。大学や学部や学科をどこまで理解して受験するのでしょう。学生の確保は大学運営の至上課題だとも言われています。そんなことが起点になって日本の将来を担う若者の人生が歪められたとしたら、本末転倒です。

ほかの国はどうなのでしょう。もっと余裕のある留学生受け入れスケジュールのような気がします。走りながら考えることも必要でしょうが、走る前に目標を定めて見据える時間も欲しいです。

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自由の国?

4月15日(月)

先週、外階段とそれに続く物置の屋根に吸殻が落ちていました。発見場所から考えて、KCPの学生が捨てたものと思われました。同じ日に、近所の方からKCPの学生が外でタバコを吸っているという苦情が来ました。学校近辺を警戒していたところ、Aさんが吸っているのを見つけ、すぐに捕まえました。調べると、Aさんは未成年でした。

たばこに関するトラブルが相次いだので、その翌日、全校学生に向けて喫煙に関する注意の放送を流しました。このところしばらく喫煙が問題になることはなかったのですが、卒業生が抜けて新しい学生が大勢入ってきたため、また元の状態に戻ってしまったのかもしれません。それゆえ、かなり厳しい言葉で放送の原稿を作りました。

週が明けました。また路上喫煙者が捕まりました。休み時間にいつもの喫煙所へ行ったら満員だったので、外で吸ったと言い訳をしていました。満員だったら吸わないで学校に戻るという考えは、かけらも浮かんでこなかったのでしょうね。この学生にとって、先週の放送は何の歯止めにもなりませんでした。善悪の判断もできなくなるということは、重度のたばこ依存症と言うべきでしょう。

数年前には、「日本は自由の国だから何でも許されると思った」と言った学生もいました。大きな勘違いもいいところです。日本には言論の自由や職業選択の自由はありますが、喫煙の自由はありません。昭和は喫煙者が大手を振って闊歩していましたが、令和は喫煙者の喫煙権は無視される時代です。

これは日本に限ったことではなく、世界的な潮流です。学生の母国でも同様であるに違いありません。それにもかかわらず好き勝手にたばこを吸ってしまうような学生には、まず、目を大きく開いて自分の周りを見渡してもらいたいです。喫煙がどれだけ忌み嫌われているか、それを知ることが留学の第一歩でしょう。

先週から今週にかけての喫煙者に、猛省を促します。

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好スタート

4月12日(金)

新学期が始まり、1週間が過ぎました。見慣れぬ顔があちこちでおしゃべりしたりお菓子を食べたりラウンジや図書室で勉強したり、学校に新しい風を吹き込んでいます。初級はもちろんのこと、上級までどのクラスにも新入生が入り、在校生も影響を受けているようです。

今週の出席状況を見ると、先学期は出席率が低くて要注意リストに載っていた学生の多くが、休むことなく学校へ来ているようです。教室にいる方が珍しいくらいだったTさんやDさんも、毎日出席しています。Rさんは1日だけ欠席してしまいましたが、先学期までのように休み癖がついてガタガタに崩れるということにはなっていません。新年度になり、入試本番に向けて気が引き締まっていることもあるでしょうが、新入生からの刺激もかなり効いていると見る方が自然です。

昨日とおとといは、初級レベルの学生向けに日本語強化のオリエンテーションがありました。とても活気がありました。新入生の意欲に在校生も引っ張られて、初級全体にやる気モードが漂っているように感じました。おかげでこちらの見込みを大幅に上回る登録者数で、教室をどうしようかとうれしい悲鳴を上げています。

出席率が下がってしまったTさんやDさんやRさんも、新入生の時期がありました。その頃は在校生に喝を入れる側だったはずです。その後どこかで何かにつまずいて、先生からにらまれる存在になってしまったのです。今学期の新入生がそうならないように、過保護じゃいけませんが、つまずきの元はできるだけ取り除けてあげたいです。

Tさんたちも、理想に近い形で再スタートが切れました。この好調さを持続して、志望校の合格証をつかんでもらいたいです。

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