Monthly Archives: 12月 2024

Tシャツにジーンズ

12月13日(金)

Eさんはアメリカの大学のプログラムで留学してる学生です。このプログラムには、毎学期、オーラルテストがあります。授業後、Eさんにそのオーラルテストをしました。

私のオーラルテストのやり方は、自然なやり取りをしながらその学生の話す力を見極めていくというものです。Eさんは最初緊張していたようでしたから、クラスの先生の名前や、その先生方の中でだれが一番面白いかとか厳しいか、気楽に答えられて、でもその答えの中に文法力や語彙力が垣間見られるような質問をしました。

はじめは言葉を探しながら答えていたEさんでしたが、次第に即答に近くなってきました。口に潤滑油が回ってきたのでしょう。じゃあちょっと込み入った質問をということで、KCPでの勉強が終わったらどうするか聞いてみました。ファッション系の専門学校に行きたいそうです。続いて、アメリカではなく日本でファッションの勉強をするのはどうしてかと問うと、アメリカのファッションは簡単すぎるのだそうです。

アメリカ人は1年中Tシャツにジーンズ、寒かったらパーカーを着るだけだけど、日本にはきれいなファッションがたくさんあるのだそうです。確かに、私の周りのアメリカ人学生、特に男性は、冬でもTシャツにジーンズです。今年の3月に卒業したJさんは、まさにEさんの言う通りでした。薄っぺらいパーカーしか着ていないくせに風邪で休むとは何事かと激怒したこともありました。アメリカ人の修正だったんですね。

Eさんは日本人と変わらない服を着ていましたが、これは友達の誕生パーティーに着ていくくらいの服なのだそうです。おしゃれな服をいっぱい着たいから日本へ来たのであり、将来は自分でそういう服を作って、原宿あたりで売りたいと夢を語ってくれました。

気が付いたら、Eさん、最初のたどたどしい話し方が嘘のように、よくしゃべっていました。オーラルテスト、十二分に合格点です。

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久しぶりのお茶

12月12日(木)

久しぶりにお茶室に呼ばれました。このところ、お茶会に来てくださいと声をかけていただいてもお断りせざるを得ない学期が続いていました。たぶん、今年初めてではないかと思います。

誘ってくれたのは、私の初級クラスの学生Jさん。午後クラスの授業が終わった5時半ごろからでしたから、こちらも日本語プラスが終わっており、時間の都合がついたというわけです。Jさんは今学期で帰国します。3か月間茶道部で稽古を積んだ成果を披露してくれることになっていました。

呼ばれた時間の直前に、急に会議が入ってしまい、だいぶ遅刻してしまいました。それでも、待っていてくれました。足の運び方はお師匠のO先生に注意されていましたが、お茶を点てている姿は堂に入ったものでした。茶筅の動かし方など、素人の私の目には、時代劇に出てくる千利休と変わるところがありませんでした。点てていただいたお茶も、午後は意識してあまり水分を取っていなかったので、スーッとのどにしみこんでいきました。

Jさんは、クラスではにぎやかな学生ですから、寡黙に茶筅と茶碗を凝視してひたすらお茶を泡立てる姿など、想像もつきませんでした。知られざるJさんの秘密を見てしまったような、不思議な気持ちになりました。Jさん自身はどうなのでしょう。新しい自分の一面に気づいたのだとしたら、それだけで留学の成果があったというものです。帰国した後でさらに脱皮して、周りの人たちを驚かすかもしれません。

期末テストまで、ちょうど1週間。Jさんは、クリスマスはご家族と過ごすのでしょう。クリスマスケーキに抹茶はつり合いませんが…。

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新教科書

12月11日(水)

初級クラスで使役を教えました。昨日のN先生が「明日は使役ですよ。難しいですよ」と前振りをしておいてくださったので、「はい、じゃあ、使役を勉強します」と、いきなり使役動詞の作り方から入りました。今、KCPで使っている教科書は会話を中心にして構成されていますから、こういう入り方は邪道です。教科書の作者も、真っ先に使役動詞の作り方を教えるなどという授業進行は想定していないでしょう。

新しい教科書になってから発話力、コミュニケーション力は伸びたものの、文法の正確性が落ちたのではないかという反省が出ています。それで、今回は、まず、文法から入って、使役動詞の作り方をきちんと覚えてもらおうと思ったのです。N先生の前振りのおかげで、使役とは何かについては予習してきてくれましたから、そこはわかっているという前提で進んでいけました。

前の教科書の時でも、1回の授業で使役が完璧に使えるようにはなりませんでしたから、新しい教科書でもそこまでは求めませんでした。誤変換がだんだん減っていけばいいだろうというくらいの気持ちで取り組みました。作り方を説明し、全体で練習し、次は、「勉強します」⇒「勉強させます」、「本を読みます」⇒「本を読ませます」というように、個々の学生にキューを与えて使役動詞を答えてもらいました(答えさせました?)。これは、ほぼできました。とりあえず、作り方は理解したようです。

そして、短いやり取りの中で使役動詞を使ってみようとなったのですが、これがイマイチでした。微妙なところで間違いが発生するんですねえ。詰めの甘さを感じました。どうやら、勢いでコミュニケーションを進めることが身についてしまい、正確性を追い求める気持ちが薄くなっているようなのです。これが他の文法項目でも同様だったとしたら、JLPTやEJUのような試験で点が取れなくなってしまいます。

私たちの側が新しい教科書を使いこなせていないからなのでしょうが、軌道修正が必要みたいです。年末年始休みは、これが宿題かもしれません。

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まじめです

12月10日(火)

今学期の日本語プラス理科系の学生たちはとてもまじめで、最後まで休まずに授業を受けそうな勢いです。授業中に指名したときの答え方を聞く限り、日本語を話す力はまだまだです。しかし、板書や私が話した言葉をノートに取ったり、日本人の高校生向け参考書の図表や写真などを参考にしたりしている姿は、今後に期待が持てます。練習問題をさせると、だいぶ正解するようになってきました。

11月のEJUから翌年の6月のEJUまでは7か月ありますから、基礎から鍛えるにはちょうどいい時期です。受講する学生も、翌々年進学という気持ちで固まっていますから、焦る気持ちがありません。したがって、こちらも長期戦が展開できます。しかも今回は根がまじめな学生と来ていますから、毎回の理科の授業が楽しみでした。準備をする段階から心が掻き立てられるものを感じています。資料のコピーにも力が入ります。

その一方で、Dさんが退学しました。Dさんは去年の夏学期から日本語プラスを受けてきましたが、学校をすぐ休んでしまう癖がどうしても直らず、帰国することになりました。勘がいい学生でしたから、きちんと勉強を続ければどんどん伸びたことと思います。それだけに残念でなりません。私に会うといつもにこにこしていたのですが、その裏側には大きな闇を抱えていたのでしょうか。

今までの様子を見る限り、今学期の理科系の学生たちには欠席病の予兆は見られません。上手に育てて、学生たちの夢をかなえさせてあげたいです。

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望みはある?

12月9日(月)

Aさんは大学入試の面接が迫っています。EJUの日本語の点数はまあまあ以上ですが、話すのがよくありません。話せないわけではありません。早口なのと口をあまり開けずに話すのとが相まって、非常に聞き取りにくいのです。私は半年以上もAさんと付き合っていますから、Aさんの話し方に慣れています。そのため、Aさんの言わんとしていることがわかってしまうのです。しかし、大学入試の面接官は違います。Aさんの話し方では、10%も理解してくれないでしょう。そういうことを、夏の暑いころからAさんに伝えてきました。しかし、Aさんはどこ吹く風といった感じで、話し方を変えようとはしませんでした。

先週、面接練習をしました。その時、Aさんはその様子をスマホで録画・録音しました。そして、おそらく、自分で撮ったビデオを見たのでしょう。また、面接練習後のフィードバックで、話し方を今までよりもずっと強く注意されもしました。そんなことがあったので、その翌日から、Aさんは授業の際に例文など教科書を読む時には自分を指名してくれと申し出ました。今学期はやる気のなさが目立ったAさんでしたが、実際に指名してみると、本気を出して読んでくれました。

少しでも話す力を付けようとしての申し出なのですか、手遅れ感があります。早口で口を開けずにという話し方で固まってしまって、なかなか聞き取りやすい読み方にはなりません。「え、わからない。もう一度」と何回言われたでしょう。面接に間に合わそうという根性は買いますが、見通しは決して明るくありません。

もっと早い時期から厳しくしつけておくべきだったという反省は残ります。でも、面接までに残された時間で精いっぱい引っ張り上げるつもりです。

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期待していいのかな

12月6日(金)

昨日のこの稿に登場した初欠席のJさんは、朝からちゃんと出席しました。それどころか、授業後、担当のS先生に昨日の授業内容を全部聞いて帰ったそうです。期末タスクの準備も、グループの中心になって進めていたと言います。この調子なら、大崩れすることなく卒業式まで行くでしょう。

さて、その期末タスクですが、社会問題について調べて、グループで発表するというものです。そのグループは教師が決めます。成績≒日本語力、リーダーシップの有無、国籍、人間関係、テーマに関する知識量、まじめに毎日出席するかなどといった事柄を勘案し、学生を割り振ります。

このように書くと、教師は何でも知っていて、最適なグループを瞬時に作っているようにも見えますが、実は違います。あれこれ考えて、シミュレーションを重ねて、自信など全くないのに、このグループ分けなら絶対うまくいくよという顔をしながら発表するのです。

今回は成績があまりよくない学生を集めたグループがありました。グループ内の力の差がありすぎると、できる学生がこの課題を通して伸びていかないおそれがあるのです。それを避けるために、勝負に出たといったところです。社会問題について日本語で話し合えるだろうかと一抹の不安を抱いていましたが、全くの杞憂でした。むしろ、このグループが一番楽しそうにやっているように見受けられました。

もちろん、発表を見なければ最終判断はできませんが、果敢にかつ笑いを絶やさずテーマに取り組んでいる姿には、大いに期待が持てました。この発表がうまくいけば、このグループの面々も、自分の日本語に自信が持てるようになるのではないかと、秘かな期待を抱いています。

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初欠席

12月5日(木)

毎朝、メールの受信トレイをあけると、前日帰り際にチェックしたにもかかわらず、夜中のうちにまとまった量のメールが届いています。多くがニュースメールであり、そのほとんどはそのままゴミ箱行きとなります。全部を開封して丁寧に目を通していたら、あっという間に授業が始まる時間になってしまいます。

時々、送信時刻が真夜中の、KCPの先生からのメールが届いていることがあります。夜遅くまでご自宅で仕事をなさって、送信されたのでしょう。頭が下がります。私は、うちでは仕事をしない主義ですから。

その後も、朝は授業が始まる直前まで、何回もメールチェックします。なぜかというと、学生から欠席連絡が届くことがあるからです。メールの件名がブランクだったり、名前だったり、「おはようございます」なんて書いてあったりしたら、まず間違いなく欠席メールです。つい先日は、「今日の授業は病気のせいでお休みさせていただきます」という、メールの本文そのものみたいな件名もありましたが、これを出したのは新入生のNさん。生真面目な性格がよく出ています。

今朝、8時半ごろ、受信トレイを見てみると、「おはようございます」があるではありませんか。送信者はJさんとなっていました。Jさんは、今学期どころか、入学以来無欠席です。「まさか」と思いつつ中を見てみると、「体調が悪くなってしまって、今日は休みたいと思います」と書いてありました。皆勤が消えるのに立ち会ってしまいました。

Jさんは、毎日きちんと予習をしてきて授業を受けていました。もちろん、宿題を忘れるようなこともありません。入学以来そういう姿勢で勉強を続けてきたので、今や、クラスはもちろん、レベル全体でも1番かそれに近い成績です。テストができるだけではなく、会話力も素晴らしいです。

こういう学生は、初めて休んだ次の日が山です。翌日も休むようだと、緊張の糸が切れてしまったのかもしれません。そうなると、あっという間にブラックリストにまで転落していきます。ここで踏ん張って1週間持ちこたえてくれれば、来年3月の卒業までペースを崩さずにいけるでしょう。

明日の朝も、気が抜けません。

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おはようございます?

12月4日(水)

朝から、来学期の新入生へのオンラインインタビューをしました。プレースメントテストの結果、中級以上と判定された新入生のレベル決定をするための面接です。アメリカ本土にいる学生もいるため、朝8時から始めました。

「日本は“おはようございます”ですが、Pさんのところは、今、何時ですか」「あ、今、夕方の6時です」「じゃあ、“こんばんは”がいいのかな?」なんていう調子で、緊張をほぐしながら始めました。

それが効いたからかどうかわかりませんが、Pさんは実にのびのびと話してくれました。私は覚えていなかったのですが、10年近く前にもKCPで勉強したどうです。その後大学に行って、卒業して、アメリカで働いて、でも日本で働きたくてまたKCPで勉強しようと思ったそうです。

同じアメリカのAさんも、日本で就職したいと言っていました。来年7月のJLPTでN2を取り、仕事を見つけたいのだそうです。こういうふうに明確な目標を持っていると、崩れにくいんですよね。しかも、大学を卒業していますから、大人の分別も持ち合わせています。こんな学生がクラスに1人いると、クラスが引き締まるものなのです。

もう1人のSさんはアメリカの人ではありませんが、大学で歴史や文学を勉強したいと言っていました。国で入った大学は自分の勉強したいことが勉強できないので、退学して、日本で大学に入り直すのだそうです。歴史や文学なら、K大学がいいと薦めておきました。

面接した3人とも、発音がよかったのが印象的でした。もちろん、外国人特有のイントネーションはありましたが、発音そのものに変な癖がなく、聞き取りやすかったです。

あと1か月少々で、この3人に会えます。今から、とても楽しみです。

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地力

12月3日(火)

日本語プラスの授業の後で、受講していたGさんが研究計画書を見てほしいと言って、A4用紙4枚ほどを取り出しました。私がかつて専門にしていた分野なら、多少は意見が言えるかもしれませんが、それ以外の話だったら畑違いですから、見当違いの意見を吐いてしまうでしょう。それでもいいから読んでくれというので、目を通してみました。

残念ながら私の専門外の内容でしたが、興味を持っている分野ではありましたから、おもしろく読ませてもらいました。Gさんの狙いは、内容についての意見を求める点にあるのではなく、研究計画書の体裁が整っているかどうかを確認する点にありましたから、そんなに難しく考えずに読むことができました。

最低限の形式は整っており、論理的な矛盾もありませんでした。翻訳ソフトかAIかを使ったんでしょう、日本語も立派なものでした。一つ気になったのが、大学院の先生と日本語で話をするのかという点でした。もしそうだとすると、Gさんの日本語では心もとないこと極まりありません。

その辺を確かめると、質疑応答は英語でするとのことでした。「そりゃあ、理科系は英語だよ」なんて、日本語教師としてあるまじき発言をしてしまいましたが、Gさんが狙っているM大学なら、修論の発表はきっと英語でしょう。Gさんにとっての日本語は生活用語であって、学問のための言葉ではありません。研究の場こそ日本ですが、研究を進める頭脳は英語で回転しているのです。

何となく寂しいですが、これがに現在の日本語の地力です。

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11時に起きました

12月2日(月)

朝、教室に入ると、Gさん、Sさんの姿が見えませんでした。授業の直前にメールをチェックしましたが、2人からの連絡メールはありませんでした。Sさんは先週の金曜日も無断で休んでいますから、その理由を聞こうと思っていました。しかし、休まれてしまったらどうしようもありません。

前半の授業が終わり、職員室に戻り、メールを見てみましたが、やはりメールは届いていませんでした。めったに休む学生たちではありませんから、なおさら気になりました。

授業後はZさんとの面接、Uさんの再試の採点・フィードナック、日本語プラスの授業と、3時まで休む間もなく仕事が続きました。欠席者への連絡が遅くなってしまうことは気になっていましたが、面接などの方が優先順位が高いですから、後回しにせざるを得ませんでした。

そういうのがすべて終わって、まず、無断欠席が続いたSさんに電話をかけました。なかなか出ないので切ろうとした頃になってやっと「もしもし」。欠席理由を聞くと、「昨日JLPTの後で飲みすぎてしまいました」とのこと。金曜日は、うちでJLPTの勉強をしていたと言っていました。「明日から休まずに学校へ行きます」と言いますから、軽く叱って終わりにしました。

次はGさん。こちらはすぐに出ました。理由を聞くと寝坊だと言いますから、何時に起きたか聞きました。11時という答えが返ってきましたから、JLPTの打ち上げかと聞くと、少し小声で「はい」。11時まで目が覚めなかったということは、下手をすると、私が起きた時間ぐらいまで飲んでいたのかもしれません。また、GさんとSさんは同国人ですから、確かめるまでもなく一緒だったに違いありません。

2人とも、受験したレベルに合格したら、これは笑い話として聞き流してあげましょう。

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