Monthly Archives: 9月 2023

頑な

9月15日(金)

Mさんは優秀な学生です。授業に集中し、板書はもちろん、教師の言葉もこれはと思ったことはノートに取ります。指名すると、確実に何か答えてくれます。教師からすると、授業を進めたいときに指名する、切り札的な学生です。また、Mさんが間違えたということは、他の学生も理解していないということであり、立ちどまるか2,3歩戻らなければならないことを意味します。

そのMさん、どうやら独習が好きなようです。グループワークになると、こちらが期待する仕事をしてくれません。リーダーシップなど言うに及ばず、水を向けても形式的な発言しないのが常です。ですから、グループを作るときには要注意人物です。

学期末が近づき、Mさんのクラスも期末タスクに取り組んでいます。グループ発表に向けての議論と作業をしていますが、Mさんは休んでしまいました。Mさんのグループは、他のメンバーが発表内容を決めていきました。メンバーにとって、こんなMさんは、グループのお荷物だったとしても不思議はありません。そういえば、日本人ゲストと会話をする日も休みました。7月のコトバデーも、休むだのなんだのと駄々をこねました。

Mさんの親御さんも、Mさんのそういうところにお気づきで、それを直すために留学させたのかもしれません。しかし、Mさんは親御さんがお考えになっているよりずっと頑固だと思います。かれこれ半年ほどMさんを見ていますが、グループ活動を厭う姿は全く変わりません。

Mさんは大学進学を目指していますが、面接でこんなところが見破られてしまったら、合格すら危ぶまれます。あと半年、いや、年内にどうにかしなければなりません。親御さんの期待に応えられるでしょうか…。

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数学の学生

9月14日(木)

今週になってから、Dさんが毎日昼休みに数学の勉強をしに私のところへ来るようになりました。Dさんの志望校はEJUの数学は必須じゃありませんが、なぜか勉強しようという気持ちになっているのです。

一流校と呼ばれている私立大学も、文科系の学部学科は数学が不要のところが多いです。だから、数学の勉強はしないでそういう大学に入ろうという考えも成り立ちますし、それで進学した学生も大勢います。

ところが、データを見ると、一流大学では数学不要でもEJUの数学を受験し、高得点を挙げている学生が多いです。募集要項のEJUの指定科目に「数学」と書かれていなければ、数学の成績を合否判定に使うことはありません。それでも数学が高得点の受験生が多く合格しているということは、面接をしているうちに頭脳明晰さみたいなものがにじみ出てくるのでしょうか。あるいは、その受験生が書いた小論文から、大学教授の心を引き付ける何物かがほとばしり出ているのでしょうか。

確かに、文科系の学問の多くは、数学を駆使することはあまりありません。研究の過程で得られたデータを加工する際に多少必要となることはあるでしょうが、最近は統計処理もエクセルがやってくれます。しかし、研究の根幹をなす論理的推論を学ぶには、その力を鍛えるには、数学が一番です。

ですから、Dさんには、なぜその答えを導き出したのかをきちんと説明するように言っています。易しい練習問題を解き、その解答過程を言わせます。場合の数や順列組み合わせとか、平面図形とか、今週はそのあたりで訓練しています。進学してからのことを考えて私のところに通ってきているとしたら、Dさんはかなりの大物です。

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遅延証明書

9月13日(水)

9:10ごろ、Yさんが教室に入ってきました。月曜日の私の授業でも、10分ちょっと遅刻でした。ディクテーションをしている最中でしたから、Yさんを無視して文を読み上げ、答え合わせをして…と授業を続けました。遅刻の理由は聞くまでもありませんし。

10:30、休憩時間になると、Yさんは真っ先に私のところへ来て、丸ノ内線の遅延証明書を渡そうとしました。

「これは受け取れません。Yさんは月曜日も遅延証明書を持ってきましたよね」

「でも、地下鉄が遅れました」と、いかにも自分は悪くないという風情。

「月曜日だけじゃなくて、今までに何回も遅延証明を持って来ていますよねえ。毎日のように遅延証明をもらうということは、朝は丸ノ内線は遅れるものだと思って、何か対策を立てなければならないんじゃないんですか」

「毎日じゃありません。1週間に2回ぐらいです」

「1週間に2回でも、5回の2回だから40%の確率でしょ。1年に2回ならともかく、確率40%で起こるなら、そのために何かするのが当然です。早起きして早い電車に乗るとか」

「でも、この遅延証明をもらうのに5分かかりました」

「じゃあ、こんなのもらってくるなよ。駅から学校まで走れよ。階段を駆け上がれよ」

「走りました」とYさんは言いましたが、教室に入ってきたとき、汗もかいていなければ、息も乱れていませんでした。急いだ様子は、露ほどにも感じられませんでした。その後、遅刻と欠席のルールを説明し(新入生ガイダンスの際に説明済み)、5分遅刻と10分遅刻都では扱いが大きく違うことを改めて教えると。

「私は出席率が悪いですから、この遅延証明をもらってください。明日から遅刻しません」と、Yさんは泣き落としにかかってきました。

「受け取るわけにはいきません」と、あくまで受け取りを拒否しました。受け取って破り捨ててやろうかとも思いましたが、それは穏やかじゃなさすぎますから、やめておきました。

明日のYさんの登校時刻に注目しましょう。

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読者層

9月12日(火)

この稿は、当初は日本語教師を目指す方たち向けに書いていましたが、今は特別に読み手を想定していません。読みたい方に読んでもらえればと思っています。ですから、学生にも読者がいます。だいぶ前のことですが、ある学生が大学に合格するまでの苦労を書いたところ、卒業生が「同じクラスだったAさんが志望校に合格したんですか」と電話がかかってきたこともありました。学生や教師はすべて仮名にしていますが、私が書いたエピソードから同級生だと見抜いたのでしょう。

この例に限らず、学生の読者は主に上級の学生であり、時たま中級の学生が背伸びして読んでいるというのが、ちょっと前までの状況でした。しかし、最近は初級の学生から「読んでます」と声を掛けられることがめっきり増えました。今学期、私はレベル1のクラスを持っていますが、そのクラスの学生からも言われています。「家へ帰ってから何をしなければなりませんか」と聞いたところ、「先生のブログを読まなければなりません」という答えが返ってきました。

もちろん、初級の学生の「読んでいます」は、「日本語で読んでいます」ではありません。翻訳アプリか何かを通して「読んでいます」です。となると、私の文章が翻訳アプリによって学生たちの母語にどのように訳されているか気にかかります。この稿は科学論文ではありませんから、曖昧な言い方やぼかした表現、意味をあえてずらしてみたり、思いっきり省略したり、さらには言葉遊びまで含まれています。AIがいかに賢いと言っても、こういったことまでは見抜けないでしょう。

その結果誤解が生じていたとしたらちょっと怖いですが、私は文章を翻訳アプリに合わせるつもりはありません。私の真意を読み取りたかったら、必死に勉強して上級まで上がってきてください。

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動画を見る

9月11日(月)

上級のクラスでは、可能な限りニュースなどの動画を見せています。映像や字幕を補助にしてそこで何が語られているかを理解し、キャスターやコメンテーターの言葉をその場で聞き取ってもらうようにしています。最近のニュースや、読解教材に関連した動画などを使っています。

「じゃ、動画を見てください」と言って流し始めると、クラス内は大きく2つに分かれます。興味深げに動画に注目する学生と、息抜きのチャンスとばかりにスマホを取り出すグループとです。後者の人々にこそ耳の訓練をしてもらいたいのですが、なかなか思い通りに動いてくれません。

こういった学生たちは、概して受験勉強以外に興味を示しません。「読解のテストで動画が流れるわけでもないし」という考えなのか、一心不乱に下を向いて親指を動かします。動画が終わってからその内容に関して質問しても、当然のごとく答えられません。

動画を見せるのは、耳の訓練のためばかりではありません。社会性を持ってもらいたいからです。文法や読解の問題には答えられるけれども、そこから一歩外れてテキストの内容に関して質問されるとしどろもどろというのでは、真の意味で上級の実力を持っているとは言いかねます。

JLPTのN1かN2に合格するのが留学目的だというのであれば、それでもいいかもしれません。しかし、語学なんて使い倒さなければ意味がありません。動画を見てその内容について議論したり自分の意見を文章にしたりすることができて初めて、日本語を勉強した意義があるのです。

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アンケートに答える

9月9日(土)

先週のことでしょうか、卒業生のEさんから、卒業研究でアンケート調査をしているので、それにこたえてほしいと声をかけられました。アンケートフォームを見ると、“はい/いいえ”で答えたり、1から5とか7とかまでの数字を選んだり、あるいは四択など、各種質問が入っていました。アンケート全体の組み立て、質問のしかたなどは、研究室の先生かだれかに教えてもらったのでしょう。似たような質問がいくつかあったのは、回答者がいい加減に答えていないかチェックするために違いありません。プロが見たら、よくできた構成になっているのだと思います。

でも、質問文まではチェックしなかったのかなあ。間違いとまでは言えませんが、こなれていない日本語がいくつかありました。引用して説明したいのですが、下手なことをするとこのアンケートに悪影響を及ぼしかねませんから、それはやめておきます。

逆の見方をすると、このアンケートは、Eさんが練りに練って作り上げたものだとも言えます。研究室の教授や先輩方の力を借りず、また。AIにも質問文を考えさせず、Eさん自身が考え出したのです。夜遅くまで文面を考えているEさんの姿が目に浮かびます。だからこそ、こちらも真剣にアンケートに答えました。

自分が教えた学生だからというひいき目がたっぷり入っていますが、私はEさんのアンケートをこのように評価しました。しかし、来年同様のアンケートが卒業生から届いたとしたら、きっと非の打ち所のない日本語で書かれた質問文になっていることでしょう。もちろん、そのアンケートにも答えますが、どんな気持ちで答えるかなあ…。

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台風欠席

9月8日(金)

授業数分前に教室に入ると、学生がわずかに5人。荷物が置いてある机が2つありましたからそれを加えると7人になりますが、まだ半数以下です。チャイムが鳴っている最中に学生がドドトっと駆け込んできて、かろうじて半数を超えました。

私のクラスに限らず、今朝は遅刻が多かったようです。確かに台風が近づいてきていて、雨脚が強かったです。でも、傘が役に立たないほどではありませんでした。風も吹いていました。でも、人や物が吹き飛ばされるほどではありませんでした。計画運休という噂のあった東海道新幹線も平常運転でした。羽田発着の航空便もダイヤに大きな乱れはありませんでした。にもかかわらず自主休校を決め込んだ学生があちらこちらにいたようです。

こういう学生は、休むきっかけを見つけるのに必死です。私のクラスのZさんは12時まで寝ていました。Yさんに至っては、堂々と台風のためと言います。Wさんは、電話にすら出ません。遅刻してきたTさんだって、理由になりそうな理由なんかありません。気の毒だなと思ったのは、登校途中に足を滑らせて転んで服を汚してしまい、さらに膝を擦りむき、家に戻ったFさんぐらいでしょうか。WさんやYさんは、出席率に問題があります。雨どころか、槍が降っても来なければならない学生たちです。

どの学生にも、進学や勉強について厳しく指導してきました。それが嫌なんでしょうかねえ。だとしても、それは逃げです。台風の日に休むのは、雨宿りに過ぎません。台風が過ぎ去ったら、またそういったことに真正面から向き合わなければならないのです。

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違い

9月7日(木)

午後からレベル2のクラスの代講でした。つい先日、私が教えているレベル1のクラスの学生もいろいろなことが言えるようになったとこの稿に書きましたが、やっぱりレベルの学生たちは一段上です。レベル1の学生たちに比べて3か月長く勉強しているだけあって、複雑な文法も知っていれば、日本語に対する勘も鋭くなっています。こちらの話の通じ具合が全然違います。名詞修飾が既習ですから、話す際の制約がかなり緩くなっています。何より、冗談と冗談でないことの区別がつくようになっているところが、私のような無駄話の多い教師にとっては、教えていて面白みのあるところです。

私のレベル1のクラスにも、次の学期にレベル3に上がろうと考えてそのための勉強をしている学生がいます。その学生が、あと1か月後にこのクラスの学生たちに交じって勉強するのかと思うと、それが本当にその学生のためになるだろうかと、少々心配になります。レベル2では、大事な文法を数多く勉強します。それを独習するとなると、練習が足りなくなるおそれがぬぐえません。レベル2の学生たちは、そうやって険しい岩場をよじ登ってきたからこそ、冗談も理解できるのです。

授業の後半は作文でした。そんな学生たちも、文章を書くとなるとまだまだという感じがします。「3か月東京で住んでいます」「日本は楽しいの国です」などという、レベル1の文法の間違いが至る所に見られました。授業で習った文法が定着し正しく使えるようになるまで、2学期ぐらい要するものです。書き上げたつもりになっている学生の作文を読み、そんな間違いを見つけて、「はい、レベル1」と言って指摘する、意地の悪い教師になりました。

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次第?

9月6日(水)

「しだい、しょうきぼこうをちゅうしんにはんすうちょうがていいんわれ。ていいんはふえたがにゅうがくしゃはへる」という音声を聞いたら、みなさんはどんな文を思いう浮かべますか。

私大、小規模校を中心に半数超が定員割れ。定員は増えたが入学者は減る――とするのが常識的な線でしょう。大喜利的には他の答えもあるかもしれませんが…。

上級クラスでやっているニュースの見出しのディクテーションでこれをやったところ、学生たちはみんなとんでもない文を書いてくれました。

まず、“しだい”は、ほとんど“次第”でした。これは理解できないこともありません。でも、“次第”は“次第に”とか“~次第だ”という形で使われますから、ここでは“次第”ではないことは見当が付くのではないでしょうか。

“小規模校”も、私が指名したWさんは“小希望校”と書きました。それでも、学校のことを意味しているとは理解していますから、それだったら“次第”をどうにかしてほしかったですね。

Wさんは、“半数超”は無事通過しましたが、“定員割れ”は“店員割れ”でした。“店員は増えたが入学者は減る”と書きましたが、この文の意味をどのように理解したのでしょう。

さらに、Wさんがホワイトボードに書いた文をそのまま写している学生もいました。「次第、小希望校を中心に半数超が店員割れ。店員は増えたが入学者は減る」という文に、笑い一つ起きませんでした。

結局、どんなニュースやら誰もわからず、私が解説しました。正解を見たらみんな「あー」となりましたが、上級でもこんないい加減な聞き取りをしているのでしょうか。

日常生活レベルなら問題はないはずですが、これでは少し硬い話題になるとついていけないでしょう。進学後に受ける授業は、こういった文の連続です。

また、学生が私たち教師の話にうなずいていても、その理解度はこんなものかもしれません。こちらも油断せずに、慎重に確認を取りながら話をしていかなければなりません。

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電気をつけます

9月5日(火)

レベル1も3か月目に入ると、すでにいろいろなことを勉強していますから、一見(一聞?)上手な日本語が話せるようになります。例えば、レベル1の最初の自己紹介は、「トーマス・エジソンです。アメリカから来ました。どうぞよろしく」程度ですが、今なら、「トーマス・エジソンです。アメリカのメロンパークから来ました。毎日、いろいろなものを発明していますから、とても忙しいです。家族は、妻と子供が3人います。今、アメリカに住んでいます。…」ぐらいはいけちゃいます。

そんな自己紹介をしてもらいました。中には「小岩で住んでいます」などという、初球の学生が犯しがちなミスをやらかす学生もいましたが、概してよくできたと思います。昨日この稿で面接練習の際に発音が悪くて困ったという話を書きましたが、このクラスの学生はそんなことはありませんでした。レベル1は日本語を話すのが楽しくてしょうがないのですが、レベルが上がるにつれてだんだん飽きてきてだんだんしゃべらなくなり、それに伴って発音が悪くなってしまうのでしょうか。

その後、昨日の宿題を回収しました。習った単語・文型を使って例文を書いてくるというものでした。例えば「~方」が課題だったら、「この漢字の読み方を教えてください」とかと書いてくれば〇です。

集めた例文を見てみると、「つけます」の例文として「電気をつけます」「エアコンをつけます」など、最低限の構造のものが目立ちました。自己紹介に比べると貧弱すぎます。せめて、「暗いですから電気をつけます」「暑いですからエアコンをつけましょうか」ぐらいは書いてほしいところです。

そうです。初級のうちから複文を考える癖をつけておかないと、中級・上級になったとき、作文で苦労します。それはすなわち、入学試験で苦戦するということにほかなりません。せっかく初級に入っているのだからと、力こぶをこしらえて添削しました。

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