Monthly Archives: 9月 2023

前日

9月29日(金)

明日D大学の面接試験を受けるXさんの面接練習をしました。Xさんは先週から集中的に面接練習をしてきました。本番前日にその成果を確認しようというわけです。

まず、面接室の入り方は軽くクリア。まあ、入り方が多少雑だったとしても、それが原因で落とされることはないでしょうが。声もよく出ていました。目をそらすことなく、また、貧乏ゆすりなど面接官に悪印象を与えそうな癖もなく、面接を受ける際の態度も問題がありませんでした。

入試に限らず面接試験では、面接官の印象に残らなかったら合格はできません。その点、Xさんには秘密兵器があります。自作のおもちゃです。これを出すタイミングの研究をしました。「こんなものを作ってしまう私は、貴校の建学の精神そのものです」という流れが一番自然ではないかということになりました。おもちゃそのものは、くだらないと言ってしまったらXさんに失礼ですが、それが正直な感想です。でもその制作過程は確かにD大学好みの香りが漂い、そこを起点に口頭試問になだれ込むことも可能です。

その口頭試問ですが、先週出した宿題は少々荷が重かったようです。結果を暗記する勉強を積み重ねてきたXさんには、暗記しているその結果を導き出すというのは、かなりの難事業でした。考え方を教えると、目からうろこみたいな顔つきになりました。

Xさんは、面接官の頭と心に印象を残せそうなネタは持っています。それをうまく使えば、D大学の先生が乗ってきてくれれば、勝ち目は十分にあります。もはや私にできることは祈ることしかありませんが、明日のお昼ごろ、Xさんが面接を受ける時間あたりに、精一杯念を送ることにしましょう。

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作り直し

9月28日(木)

来週から日本語教師養成講座の対面授業が始まりますから、その準備をしました。去年から今年にかけて、養成講座のオンライン授業用の資料を作ってきました。その資料作成の際に調べたことも対面授業に取り入れようと思い、こちらのレジメの改訂にも取り掛かりました。

KCPの養成講座は少人数制ですから、受講生の年齢や職業、経歴などに合わせて授業を進めていきます。同じレジメを使っても、話の持って行き方や提示する例文、取り上げる話題など、毎回微妙に変えます。また、受講生の理解度も違いますから、それを感じ取って、サラッと進めたり時間をかけたりします。

そんなことを考えながら、進み方が速かったらこんな話題を付け加えようかとか、こんな受講生がいたらレジメのこの部分はこんな扱いにしようとか、あれこれ想像を膨らませました。とりあえず来週使う分ぐらいはできました。新しい受講生と顔を合わせるのが楽しみになってきました。

養成講座を担当するたびに何か発見があります。そのため、レジメがだんだん厚くなってきました。この発見はぜひ次の受講生に伝えたいと思うことが多く、内容を入れ替えるよりも蓄積していくことの方が多いのです。一度レジメに入れてしまうと、なかなか捨てられないんですよね。

日本語学校や日本語教師にかかわる制度が新しくなろうとしています。制度がどうにかなったところで日本語教師に求められる資質が180度変わるわけではありません。体にしみこんでいる日本語を、改めて頭で理解し直し、外国人学習者にわかりやすく伝えていく力が何よりも必要であることに変わりはありません。

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書類不備

9月27日(水)

O先生のところにJさんから電話がかかってきました。Jさんは先月末にK大学に出願しましたが、K大学から受験料を返すというメールが届きました。そのメールについてO先生に聞こうと電話を掛けたのです。O先生が席を外していたので、A先生が対応しました。

A先生がいろいろ聞き出すと、K大学は、Jさんの書類に不備あるので受理できず、したがって受験もできないので、受験料を返還するということのようでした。Jさんはそのメールの内容が理解できず、学校に電話を掛けたという次第です。

K大学に出願したJさんの友だちにはK大学から連絡が来て、足りない書類を追加で送ったりした人もいたそうです。でも、Jさんは締め切り日ぎりぎりに出願したので、K大学の書類チェックが遅れたのでしょう。

「願書をK大学に送る前に先生に見てもらいましたか」「はい」。O先生がチェックしたのにこのざまだとしたら、大問題です。「O先生に?」「いいえ、塾の先生に」。ということで、Jさんは担任のO先生をスルーして塾の先生に最終チェックをしてもらったのですが、結果的に書類不備のまま送ってしまったのです。

出願の時には塾を頼るのに、問題が発生するとこちらに持ち込みます。学生によくあるパターンです。塾の先生は国の言葉を話しますから、学生にとっては相談しやすいです。しかし、学生の進路に関して最終的な責任を持つのは、日本語学校です。責任を持つからには、学生にもすべての情報をこちらに回してもらいたいものです。

それはともかく、K大学からのメールも持て余しているようだとしたら、たとえK大学を受験しても受からなかったでしょう。むしろ、受験料を返してもらってラッキーと思わなければならないかもしれません。

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語彙テストと想像力

9月26日(火)

テストが終わったら採点というのが、教師の宿命です。昨日の初級クラスの漢字に引き続き、朝から採点三昧でした。

中級クラスの聴解は、EJUの聴読解を想定した問題と、カタカナディクテーションでした。この問題は担当のH先生の温情で、誤字1か所につきマイナス1点という採点法でした。私が担当だったら〇×式にして、“ディクテーション”を“ティクテーション”と書いたら1点もあげないんですがね。でも、この採点方法で何名かの学生が不合格を免れました。

ディクテーションは、一面では語彙テストです。たとえ自分の耳には“ティクテーション”と聞こえても、日本語にはそんな単語はないと判断し、“ディクテーション”と書かなければならないのです。しかも、昨日のテストは前後の文脈がある中でのカタカナ言葉ですから、なおのこと“ディクテーション”とする必然性があります。そう考えると、ちょっと長めの単語のスペリングミスが目立ちました。私もカタカナディクテーションの授業を担当しましたから、責任の一端を感じなければなりません。

上級クラスの文法は、選択式の穴埋め問題と決められた表現を使う短文作成でした。穴埋め問題は、はっきり言って、学生に点数をあげるための問題です。この問題を全問正解かそれに近い点数で通過したうえで、実力差を見る短文作成問題に取り組んでほしかったです。しかし、クラスの下位集団は穴埋め問題でガタガタになり、短文作成では挽回するすべもなく、あえなく討ち死にしました。

穴埋め問題をクリアした中位と上位の学生の差は、想像力の差のように思いました。想像力を働かせて、与えられた条件を上手に生かしてきれいな文が書けた学生が高得点で、こちらが想像力を働かせないと状況が理解できないような文しか書けなかった学生は、そこまでには至りませんでした。

さて、明日は、最難関の作文の採点が待っています。・・・そういえば、昨日も「明日」って書きましたね。

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かあしん

9月25日(月)

朝、出勤して私が最初にする仕事は、先週まではエアコンをつけることでした。でも、今朝はエアコンをつけませんでした。出勤した方が暑いと思ったらつけてもらえばいいと思っていましたが、誰もつけずに夕方まで。先週のこの稿で「季節が少し進んだ」と書きましたが、今朝は「だいぶ進んだ」と言いたくなる涼しさでした。

みなさんは、「暑い」の反対語は何だと思いますか。レベル1の漢字の期末テストに出ました。レベル1で習う感じの範囲では「寒い」なのですが、何人かの学生が「涼しい」と答えました。これも今朝の涼しさの影響でしょうか。この漢字は未習ですが、習った漢字で答えろとは書いていなかったので、〇にしました。

その漢字テストの別の問題に、「かあしん」と答えた学生がいました。もちろん誤答ですが、どんな漢字の読み方だと思いますか。私もこういう誤答は初めて見ました。その学生は「母親」をこう読んだのです。点数はあげられませんが、座布団は3枚ぐらいあげたいですね。

私は上級クラスの作文の採点をします。試験監督をしたA先生のメモに、「Eさんがスマホで漢字の読み方を調べようとした」と書かれていました。確かに、「漢字にはふりがなをつけること」という指示を出しました。しかし、スマホで調べてもいいとは言っていませんし、そもそもテスト中にスマホをいじること自体、厳禁です。Eさんは授業中でもすぐスマホに頼ろうとしていました。それが体に染みついているんですね。いや、漢字の読み方なんて、まるで気にしていないんですよ、きっと。

明日は、その作文を、気合を入れて読みます。

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のんびり屋

9月22日(金)

昨日のこの稿に取り上げたJさんが、授業後にやって来ました。私宛にメールを送ったのですが、アドレスが間違っていたようです。

Jさんは、志望校としてK大学、R大学、M大学、O大学などを考えています。そのうち、R大学は出願締め切り日が来月早々に迫っています。ところが、Jさんは何もしていません。Web出願に必要なマイページも作っていませんでした。そのくせ、期末テストが終わったら一時帰国することにしています。ですから、Web出願の手続きのうち、今すぐにスマホでできるものをやらせて、手書きの志望理由書の用紙などをプリントアウトし、土日で考えてくるように命じました。R大学の明日すぐに締め切りがあるM大学の用紙も持たせて帰しました。

Web出願の中に、数百字のまとまった文章を書く部分がありました。Jさんは即興でそれを考え、スマホで打ち込みました。「先生、これでいいですか」と見せられた文章は、ネイティブチェックレベルの修正を加えれば、どこに出しても恥ずかしくない文章でした。Jさんにこんな力があるとは思ってもみませんでした。授業で書かせた作文だけでは、文章作成能力は見えてこないものなんですね。

でも、Jさんは、手書きはあまり好きではないようです。「日本の大学は遅れてますね」などと言いながら、志望理由書を考え始めていました。日本には手書き信仰みたいな文化(?)、伝統(?)がありますから、手書きの書類を提出させる方式は、もうしばらく残るでしょう。いや、生成AIの影響を少しでも小さくしようという切ない抵抗かもしれません。

週明けには、Jさんから志望理由書が届きます。期末テストの試験監督は、それを直しながらすることになりそうです。

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半月遅れ

9月21日(木)

かかりつけの歯医者に、歯の根の周りに膿がたまっていると言われ、ここ2週間ばかり、大学病院などで検査を受けました。午前中は、その結果を聞きに大学病院へ行きました。悪性のものではないけれども、膿がたまりすぎるとあごの神経を圧迫するので、取ってしまったほうがいいとのことでした。

大学病院から急いで帰ってくると、お客さんがいらっしゃっているはずでした。理科系の大学進学について聞きたいとのことでしたから、私がお相手をすることになっていたのです。事務担当を訪ねてくることになっていましたが、一向に姿を現しませんでした。説明を済ませたらお昼を食べに行こうと思っていましたが、私が席を外しているうちに来られたら困ると思い、ずっと事務所にいました。そのうち雨まで降り出して、結局食べに出られずじまいでした。電話を1本ぐらいかけてくれてもよかったのに。

午後はJさんが進学相談に来ることになっていましたが、姿を現しませんでした。雨だから休んだということはないでしょうが、またもや空振りです。昨日会ったときは聞きたいことがたくさんあると言っていたのですが、どうしたのでしょう。メールをよこしても罰は当たりませんよ。

雨が降り出したころ外に出ると、蒸し暑さは感じませんでした。病院から帰ってきたときも、かなりシャキシャキと歩いてきたのですが、汗はあまり出てきませんでした。火曜日までなら滝の汗だったでしょうに。今朝も半袖の腕に涼しさを感じましたから、どうやら、昨日の雨で季節が進んだみたいです。とはいえ、平年に比べたら半月かもっと季節が遅れています。長期予報によると、10月になっても真夏日がありそうだとか。ということは、今年の秋は1か月足らずかもしれません…。

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心の準備?

9月20日(水)

Xさんは、もうすぐD大学を受験します。そのため、今週から面接練習を始めています。私の担当は口頭試問です。選抜要項に、数学や理科の能力を問う口頭試問を行うと明記されていますから、その面倒を見ることになりました。

さて、Xさんに数学でよく使う式の導出をやってもらおうと思いました。全然できませんでした。その式を使ってEJUの問題などを解いているはずなのですが、なぜその式が得られたのかは、全くわかっていませんでした。「学校でこの式を教えられましたから」と言っていましたが、そういう丸暗記は好きになれません。

もちろん、その式を使いこなせれば、勉学を進める上で通常問題はありません。しかし、原理を知らずに使い続けるのは、技術者としては好ましい態度ではありません。何かに行き詰まったとき、原理に立ち戻れるかどうかは、意外と重い意味があると思うのです。

やさしめのEJUの問題を渡し、ホワイトボードを使いながら解き方を説明してもらおうと思いました。しかし、こちらも全然でした。志望理由などを聞く面接練習だと思って来たら、いきなり数学や物理の問題を突き付けられたのですから、心の準備もできていなかったのでしょう。

Xさんはかなりショックだったようで、また来週やりたいと言ってきました。期末テストが過ぎれば、お互い多少は時間的に余裕ができるでしょうから、じっくり取り組むこともできます。直前でぐっと力をつけ、一気に合格ラインを突破してもらいたいものです。そのための、来週です。

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役得

9月19日(火)

レベル1のクラスは、「~たり~たりします」でした。基本的な練習をした後、Cさんに「昨日、何をしましたか」と聞きました。「洗濯したり買い物したりしました」とでも言ってくれたら十分でしたが、Cさんは小説をどうのこうのと言い始めました。「小説を読みましたか」と聞くと、首を振ります。「じゃあ、小説を書きましたか」と聞いても違うようでした。Cさん自身、自分の訴えたいことが日本語にできず、もどかしい思いをしているようでした。

レベル1だと、いくら学期末だとはいえ、知っている単語の数が非常に少なく、頭や心の中を表現するには全く不十分です。Cさんもまさにその例で、結局私はCさんの思いをくみ取れず、Cさんは言うのをあきらめてしまいました。授業の進行上も好ましくなく、気まずい雰囲気をごまかしながら次に進みました。

後刻、別方面からの情報で、Cさんはいろいろな小説を読んで、自分の小説の構想を練るのが好きなようです。それを昨日したのでしょうが、そうだとしたらレベル1で一番よくできる学生でも日本語で表現することはできないでしょう。中級レベルの力が必要です。

このように、初級の学生は、多かれ少なかれ、自分の言いたいことが教師に伝えられず、隔靴掻痒の思いをしてきました。翻訳ソフトでだいぶ解消されてきたとはいえ、学生から見ても教師から見てもまだまだの部分が多分にあるに違いありません。Cさんにしたって、翻訳ソフトを頼ったにせよ、それを「~たり~たりします」に落とし込むことは難しかったのではないでしょうか。

来週の月曜日が期末テストですから、このクラスの授業は今回が最後です。「今度は中級か上級の教室でみなさんに会いたいです」と言って締めくくりました。中級になったCさんは、休日にしたことをどう表現するのでしょうか。今から楽しみです。そう、こうして種をまいておくことが、初級の授業の役得なのです。

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戻る

9月16日(土)

アメリカの大学のプログラムでKCPに来ている学生の期末テストと修了式がありました。普通の学期は期末テストの日に行われるのですが、夏の学期は、アメリカの大学の授業日などの関係で、通常の学生より1週間ぐらい早く期末テストと修了式を行います。

修了式は、いつもの学期と同様に、修了証書をもらった学生が、一言スピーチをします。私がレベル1で教えてきたEさんは、感極まって「みなさん、ありがとうございました」と涙声で言うのがやっとでした。Eさんは、国籍を問わずクラスの全学生と仲良くなり、「じゃあ、この文法で会話してください」となると、目を輝かせて教室中を歩き回り、何人もの学生と楽しそうに話をしていました。そういういつもの姿からするとEさんらしくない感じもしましたが、この3か月間、それだけ全力で勉強してきたのですから、思い出が次から次へと浮かんできたのでしょう。走馬灯状態だったに違いありません。

もちろん、ほかの学生も思い出や感謝の言葉を語ってくれました。その中で、数名の学生が、「またKCPに戻ります」と言ってくれました。戻って来ますと言うべきだ、などというツッコミは入れません。「また来る」のではなく「戻る」のです。「元に戻る」というくらいですから、KCPが元の状態、いわばホームです。これからちっとどこかへ行って、再びホームの土を踏むというわけです。言った本人はそこまで考えていないでしょうが、深層心理にそういう部分があるのです。

うれしいじゃありませんか。そこまでKCPのことを思ってくれているなんて。来年1月に再入学を予定しているEさんも、「戻る」という単語は知らなくても、心の中はきっとそうです。1月の入学式のころは、今と違って寒い盛りです。おしゃれなEさんの真冬のファッションも、今から楽しみです。

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