Monthly Archives: 10月 2022

楽しい思い出

10月31日(月)

私のクラスでは、文法のテストがありました。クラス全員、25分の試験時間をフルに使っていました。苦しげな表情を見せる学生もいました。先週の金曜日が川越小旅行だったので少々お遊び気分が盛り上がりすぎてしまい、週末にあまり試験勉強をしなかったのでしょうか。

授業後、すぐに採点しました。一番上に載っていたAさんの答案を採点すると、選択肢の問題はすべて正解でした。幸先がいいと思いながら、これを模範解答として、他の学生たちの選択肢の問題を先に採点しました。すると、みんなどこか何か間違えているんですねえ。結局、選択肢満点だったのはAさんだけでした。それを一発で引き当てたのは、確かについていたのですが…。

文法テストですから、当然、短文を作る問題もあります。ざっと見ると、白い部分が目立ちました。答えが書けなかったのです。もう少し詳しく見ると、このクラスは漢字の上に読み方を書くルールになっているのですが、それが守られていませんでした。私は試験中2回、フリガナをつけるように注意しましたが、学生たちはその余裕さえなかったのかもしれません。試験時間が余らなかったんですからね。

その短文をじっくり読むと、問題をよく読んでいないことがよくわかりました。“感激にたえない”の前に何か核問題に、“教えてもらいました”的な、“感謝にたえない”ならぴったりくる答えが過半を占めました。「感」だけ見て、「激」は読まずに「感謝」と反応してしまったのでしょう。同様に、問題を読んでいないとしか思えない答えが続出しました。文法以前の問題です。

結局、最高点ですらAさんの77点でした。平均点は……お恥ずかしくてここには書けません。

本日唯一の救いは、授業の最後に川越の話題を出した時、学生たちの顔が一斉に輝いたことです。

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青空に恵まれて

10月29日(土)

“天気よければすべてよし”で、昨日の川越小旅行は、最後の集合場所に戻ってきた学生たちの笑顔笑顔笑顔で無事終わりました。Cさんはミッフィーのノートを買い込み、すでに合格の決まったY大学に進学したら使うと言っていました。キツネのお面をかぶった学生もいれば、1日中買い食いをし続けもうお腹いっぱいという学生もいました。美術館に立ち寄った学生も、意外と多かったようです。

朝、本川越の駅前に集まったときは、こりゃ川越の街じゅうKCPの学生だらけになっちゃうなと思いました。しかし、街の中心部を実際に歩いてみると、学生たちはそんなに目立ちませんでした。平日の日中なのに、川越の街は観光客でにぎわっていました。全国旅行支援のおかげなのでしょうか。時の鐘付近の食べ物屋さんは、どこも長蛇の行列。学生たちはそれにもめげずにお目当てのスイーツなどをゲットしたのでしょう。

お昼過ぎに、中間の出席チェックがありました。私は中級から上級にかけてのクラスを担当しました。学生の集団が来るたびに「はい、クラスと名前」と、各学生に名乗らせます。以前教えた学生の名前を聞くと、「あ、Sさん、お久しぶり」なんて、声を掛けました。欠席がちの学生に「お久しぶり。この頃、あんまり会わないねえ。ちゃんと学校来てんの?」とかって言ってやると、少し慌てた様子で「いいえ、来てますよ」と否定したり、「本当に久しぶりですか。昨日、先生見ました」と存在を主張したりしていました。いなかったことを証明するのはアリバイですが、いたことを認めてもらうのは何というのでしょう。

帰宅後、スマホに搭載されている歩数計を見ると、3万歩余り。普段の5~6倍ほど歩きました。

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質問魔

10月27日(木)

またまた先週の登場人物が出てきます。受験講座物理を受けているFさんは国立大学を狙っています。Fさんの国では、“いい大学”に入るためには決められた範囲の知識をきっちり覚えることが何より大切なのだそうです。日本はそうではないので、各科目を深く勉強する楽しみがあると言っていました。

私に言わせると、EJUなんか知識の暗記比べの面が強いですよ。解いておもしろい問題が少ないです。何が悲しくてこんな七面倒くさい計算をしなければならないのだろうと感じさせられることがよくあります。そういう問題を解くための勉強でも、Fさんにしてみると楽しいようです。

私も意地で、知識を書き連ねるだけの模範解答にしないようにしています。受験のテクニックも教えますが、その背後や周辺にも触れます。学生によってはそれが無駄話に聞こえるでしょう。非効率的に映るかもしれません。しかし、受験において効率性だけを追求したら、進学後に苦労します。

Fさんは質問が好きなようです。先週に続いて、授業後に疑問点を私にぶつけてきました。相変わらず、その日本語を理解するのに苦労を伴うのが難点ですが、「これは覚えなければなりませんか」的な質問ではなかったところは評価しなければなりません。また、そういう点を伸ばしていきたいものです。

Fさんの質問に答えていたら、あっという間に1時間以上たってしまいました。1階に降りたら、明日の川越小旅行の職員最終打ち合わせが始まる直前でした。

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数学が強いデザイナー

10月26日(水)

先週の水曜日にこの稿に取り上げた、受験講座の文系数学を受けているHさんは、ファッション関係の大学を志望しています。経済学部などなら数学が必要なところもありますが、ファッションとなるとEJUの数学を課す大学はないのではないでしょうか。それでも数学を勉強しようというのは、よっぽど数学が好きなのでしょう。

授業を始めようとしたところ、Hさんは先週やった因数分解の練習問題について聞いてきました。授業でできなかった分は自分で最後まで解いたようで、いっしょに配った解答の解き方で理解できなかったところを質問したというわけです。

問題の解答を渡すと、多くの学生は最後の答えだけを見て一喜一憂します。そこへ至るまでの過程をじっくり見る学生は珍しいです。教師としては、答えそのものよりも、どういう考え方に基づいてその答えを導き出したかというところを見てほしいです。結論しか見ないのなら、模範解答を作成してそれを渡す意味がありません。

ところがHさんは私の答えをじっくり読んで、疑問点をぶつけてきたのです。実に教え甲斐があるというか、手ごたえを感じさせてくれるというか、教える意欲を掻き立てられる学生です。しかし、Hさんは入試に数学を必要としません。いわば、趣味で受講しているのです。

数学は、公式を覚えて終わりという勉強ではありません。数学の真骨頂は、論理展開力を身に付けるところにあります。だから、受験科目に数学がなくても、数学の勉強はしてほしいと思っています。数学ができる学生は、進学してから伸びる要素を持っています。Hさんも、将来、ファッションの分野で活躍する人材になるのではないかと、今から期待を寄せています。「あのHというデザイナー、オレが数学を教えたんだぜ」なんて自慢できる日が来ることを夢見ています。

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ビザを更新されました

10月25日(火)

「先生、聞いてくださいよ。受身、大変でした」と、午前の授業が終わった後、M先生が報告兼愚痴りに来ました。このクラスは、先週、私が文法の復習ということで、受身の授業をしました。導入ではなく復習ですから、“私は先生に褒められました”みたいな直接受身をはじめ、“電車で足を踏まれました”“雨に降られて風邪をひいてしまいました”のような、少々特殊な受身まで一気にやりました。M先生は、それを受けて、話させたり文を書かせたりという演習をすることになっていました。

「受身の文って言ったら、Eさんがいきなり“私はビザを更新されました”ですよ」。そりゃあ、教師としちゃあ目が点になりますねえ。「Cさんは“窓を開けられました”って言うから、“どんな状況ですか”って聞いたんです。そしたら黙っちゃって…」。掛け値なしで大変な授業だった様子が見えてきました。

どうやら、私は油断していたようです。復習だからと広く浅く扱ったのが間違いでした。直接受身だけに絞るべきでした。おそらく、このクラスの学生たちは、以前受身を勉強し、その直後のテストでは合格点を取ったけど、その後受身を使って話したり書いたりすることがなかったのでしょう。深く突っ込まなかった私の授業には耐えられましたが、ほんの少し突っ込んでみたM先生の授業では破綻をきたしてしまったのです。

ほんの少し背伸びして“東京でオリンピックが行われました”と言えば練習になるのに、“東京でオリンピックがありました”としか言ってこなかったのでしょう。“このマンガは私の国でも読まれています”じゃなくて、“私の国でもこのマンガを読んでいます”と言い続けてきたに違いありません。楽な道を歩み続けた結果が、“私はビザを更新されました”なのです。受身を使わなくても話が通じるからって許してきた我々教師もいけません。

明日は、このクラスで使役の復習です。

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“選ぶ”力

10月24日(月)

Sさんが教室に入ってきたのは、朝一番で行った漢字テストが終わった頃でした。連絡事項を伝え、文法の授業を始めると、Sさんは文法の教科書のほかに図書館で借りたと思われる本を机の上に出しました。私の話などろくに聞きもせず、そちらばかりに目をやっていました。

Sさんは、入学したときに自分で交渉して進学コースにコース変更しました。やる気のある学生だと思っていたら、今はこの体たらくです。クラスメートの例文に、「Sさんは先生に叱られるのをものともせず、よく遅刻する」と書かれる始末です。出席率を調べてみると、遅刻だけでは説明がつかない数字になっています。気安く休んでいるんでしょうね。でも、すでにビザが危ない領域に入っていますから、かなり厳しく指導しないといけません。

文法の次の読解になると、教科書を出しません。机の上には別の本とタブレットが載っていました。無視して授業を始めましたが、全く悪びれる様子がありません。Sさんの机をドンとたたくと、一瞬教室が凍り付きました。

「読解の教科書は?」「忘れました」「じゃあ、私の教科書を使いなさい」と言って、強制的にタブレットなどをしまわせました。教師にこんなことをされないと、授業に気持ちを向けなくなってしまったのでしょうか。早速教科書を音読させると、漢字にフリガナがついていますから一応読めますが、あまり上手じゃありませんね。

授業後、朝受け損なった漢字テストを受けさせました。採点してみると、合格点には遠く及びませんでした。ゆうべ勉強しなかったに違いありません。文法の例文も、形式的に書いただけという感じがしました。6月のEJUではまあまあ以上の点を取り、7月のJLPTはN1に合格しましたが、日本語を“選ぶ”能力だけ突出しているのかもしれません。不安を掻き立てられるSさんの授業態度でした。

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ストーブが欲しい

10月22日(土)

夕方、仕事をしていたら、Tさんから電話が来て、学校で相談したいことがあると言います。何事かと思って待っていると、ほどなくTさんが来ました。

相談内容を聞くと、スマホを取り出して、石油ストーブと電気ファンヒーターの写真を見せて、どちらが暖かいかと聞いてきました。国のお母さんに、寒くなったから暖房器具を買いなさいと言われたそうです。

部屋にエアコンがあるかと聞いたら、あるけどエアコンを暖房に使う空気が乾燥するので加湿器も使わねばならず、電気代がかさむと言います。最近、電気代、高いですからね。でも、乾きすぎた空気は、のどにはあまりよくありません。Tさんは、体格はいいのに病弱なところがありますから、用心に越したことはありません。

ただ、石油ストーブとなると、住んでいるところによっては禁止されていることもあります。また、灯油を蓄えておくことは、感心しませんね。春になったら、使わなかった灯油の処分をどこかに依頼しなければならないかもしれません。そういうことを考えると、石油ストーブは、なしですね。

そう話すと、Tさんは一応納得しました。しかし、スマホを操作して、1枚の写真を見せました。アルミホイルに包まれた焼き芋の写真です。石油ストーブの口コミには、ストーブで作った焼き芋を、ストーブで暖まりながら食べるとおいしいと出ていました。

本音はここにあったようですね。私が「うん」と言えば、胸を張って石油ストーブを買い、焼き芋ライフを楽しむつもりだったのかもしれません。土曜日にわざわざ学校へ出てきたということは、よっぽど焼き芋にあこがれているんですね。

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てんぷらラーメンを食べに?

10月21日(金)

来週の金曜日は、学校行事で川越へ行きます。西武新宿から西武線で終点の本川越まで行き、そこで学生たちを野に放ちます。でも、当日いきなり「はい、好きなところを見てきて」では、迷子になるか駅付近でスマホいじりに精を出すかでしょう。ちょうど1週間前ですから、クラスの学生をいくつかに分けて、そのグループごとに川越について調べさせることにしました。

川越経験者のTさんは、てんぷらラーメンがおいしかったとのことなので、それをまた食べようとグループのメンバーに提案していました。同じグループのDさんは、評判のコロッケ屋さんをネットで見つけ出し、食べに行きたいと訴えました。どうやら、このグループはグルメツアーになりそうです。

Nさんのところは、喜多院や時の鐘など、王道を歩く雰囲気です。かなり忙しいスケジュールのようですが、こちらはお昼をどうするつもりでしょう。菓子屋横丁あたりで仕入れたお菓子を食べながら歩き回るのでしょうか。それもまた、川越らしさの一つです。

学生たちは、意外に行動範囲が狭いです。自宅と学校と塾の範囲しか知らない学生が多いです。以前観光で来日し、ニセコは知っているけど渋谷は行ったことがないなどという例もあります。川越でてんぷらラーメンを食べたことがあるTさんなどは、貴重な存在です。漠然と「日本文化を知りたい」と言っているだけでは、いつまでたっても日本文化に触れられません。KCPの課外活動は、半強制的に学生を日本文化の中に放り込む意味もあります。これをきっかけに、日本を新しい角度から見てもらいたいと思っています。

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質問がわからない

10月20日(木)

朝、「先生、すみません」とA先生に声をかけられました。「昨日の授業中、Fさんが物理の問題をやっていたので取り上げたんです。でも、返すのを忘れてしまって…」とのことでした。そのFさん、授業の始まる少し前に、その物理の問題を返してもらいに、職員室まで来ていました。担任のO先生と私が出て行って、日本語の授業中は授業に集中することと注意を与え、問題を返しました。

その物理の問題は、一昨日の受験講座化学の時間に、「木曜日の物理の時間までにやっておいてください」と言って配ったものです。もちろん、自宅学習のためであり、クラス授業を聞かずにやるなど論外です。Fさんは、物理の問題が気になってしかたがなかったからやってしまったと謝ったそうです。

午後、物理の受験講座をしました。一昨日配った問題の答え合わせと解説です。昨日問題を取り上げられたままだったFさんは、全部は解いていませんでした。私が解説をしていくと、うなずいたりメモを取ったりすることもあれば、問題用紙を見つめたまま何か考えている様子の時もありました。

授業が終わると、Fさんはある問題について質問してきました。私は、その質問の趣旨を理解するのに3分ぐらいかかりました。発音が悪くて、文法が間違っていて、適切な単語が出てこなくて、ひどい日本語でした。私の回答に対してさらに質問しようとしたのですが、その質問を日本語で表現できず、近くに座っていた上級の学生に母国語で話しかけ、日本語に通訳してもらおうとしました。しかし、その学生は違う国の学生で、Fさんの熱弁を理解できませんでした。

日本語の授業中に物理の問題をやる時間など、全くありません。物理をやらずに話す練習をしたほうがいいくらいです。来春進学したいそうですが、行けるとしたら面接試験のない大学でしょう。その大学がFさんの希望に合う可能性は、%です。日本で進学するなら、まず日本語です。

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芽がある

10月19日(水)

日本語学校に限らず、文科系志望の学生は、数学が嫌いか苦手にしている例が多いです。私の友人を見ても、数学ができないからという消去法で文科系を志望した数十年前の高校生がおおぜいいました。KCPで文科系の数学の受験講座を受ける学生も例外ではなく、引導を渡す講座、踏ん切りをつけさせる講座になってしまう学期がよくあります。もちろん、非常に優秀な受講生がいることもあります。

今学期の受講生のHさんは、最後に数学を勉強したのは2年前くらいだと言います。また、Jさんは、高校時代、数学は得意ではなかったそうです。自己紹介代わりに受講生に数学力の自己評価を聞いたところ、そんな答えが返ってきました。

数学の得手不得手のほかに、数学的素養があるかどうかを見ます。私の場合、因数分解の説明をし、練習問題をさせます。理系人間なら瞬殺・即答の問題です。この練習問題がどのくらいのスピードでできるかで、数学的な勘が強いか弱いか見当がつきます。

x∧2+5x+6=(x+2)(x+3)

という因数分解ができるかどうかは、足して5、掛けて6になる2つの数字の組み合わせが見つけられるかどうかにかかっています。左辺を見た瞬間に“2と3!”と思い浮かべば、素養ありです。

Hさんは、私の話を聞いているうちに2年のブランクが埋まってきたのか、単純な問題は理系の学生並みのスピードでした。複雑な問題になると手間取りましたが、合格ラインは軽く突破しました。Jさんは、Hさんには負けましたが、頭を抱え込んだり鉛筆を持ったまま固まってしまったりすることなく、問題が解けました。

最低この2人は上手に育てていきたいです。24年進学でもいいと言っていますから、力を伸ばす時間はたっぷりあります。なんだか、文系の数学の時間が楽しみになってきました。

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