Monthly Archives: 9月 2021

潮時?

9月15日(水)

Lさんが今学期いっぱいで退学します。Lさんは4月にKCPに入学したものの、来日できずにオンラインで授業を受けています。まじめで積極的で好感の持てる学生です。来日したら、ぜひ実際に会って話をしたいと思っていた学生です。

理由は明快です。来日できる見通しが立たないからです。来年4月の大学進学を目指していましたが、この分では本当に進学できるかどうか全然見えませんから、国で進学することにしたとのことです。Lさんほどの学生が熟慮の末に至った結論なら、残念ですが、受け入れるしかありません。

国で進学するにしても、Lさんは大学での勉強開始が1年遅れてしまいました。日本語力は確実に伸びましたから、この半年間がまるっきり無駄だとは思いません。Lさん自身、大学は国だけど、大学院は日本でと考えているようですから、先行投資だと思えないことはありません。でも、本当のところ、どうなんでしょうね。

去年のように11月ごろに入国可能になるかもしれません。ですが、それは希望的観測に過ぎず、それを根拠にLさんを強く引き留めることはできません。Lさんも、そういうことも勘案して、ぎりぎりの判断をしたに違いありません。だからこそ、その決定を尊重したいです。

Lさんのように、人生設計を立て直さなければならない留学生が大勢いることでしょう。日本の政府は何をしてきたのだろうと思わずにはいられません。未必の故意とまでは言いませんが、ベストかそれに近い手を選んできたのだろうかと、疑いの目を向けたくなります。

その政府の頂点に立つことになる人を、選挙の顔という、個人の都合のレベルで選ぼうとしている人たちが暗躍しています。Lさん、日本へ来るのは4年後ぐらいがちょうどいいかもしれませんよ。

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佐藤さんが大手町で

9月14日(火)

聴解の問題をやると、学生たちは、問題の答えはそこそこわかりますが、問題に出てくる人名はじめ、固有名詞の聞き取りが本当にできません。山田さん、田中さんぐらいまででしょうか、どうにか聞き取れるのは。クラスの大半が「佐藤さん」を聞き取れなかったことだってあります。

でも、日本人の名前は山田さん、田中さんばかりではありません。それどころか、日本人の名字の種類は、人口10倍以上の中国よりはるかに多いと言います。それを全部聞き取れるようになれとは言いませんが、主だったなまえが聞き取れなかったら、日本で生活していく上で厳しいんじゃないかな。

なまえは、「さん」とか「先生」とか「部長」とか、敬称や肩書・職名といっしょに使われることが多いです。そういうマーカーが付いていますから、その気になれば聞き取りやすいんじゃないかなあ。でも、問題を解こうとしている学生にとっては、人名は枝葉末節にすぎないのかもしれません。

地名は、ある程度の生活感がないと身に付かないでしょう。KCPの学生は、ほぼ全員、「大久保」を知っているでしょうし、だから地名として聞き取れると思います。でも、「大手町」は、縁が薄いので、耳が反応しないと思います。県名だって、何かのつながりがない限り、無理です。

学生たちには、受験勉強の先を見越した勉強をしてもらいたいです。聴解のテクニックを身につけて終わりじゃなくて、日本で生活していく上で必要な力を付けてほしいです。そのためには、やっぱり種をまき続けるしかないのだと思います。

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点をやるものか

9月13日(月)

「どうしたの? なんか機嫌が悪そうだね」「うん。それがさ、昨日の晩、『残業させられた』」

『  』に言葉を入れて会話を完成させなさいという問題です(会話はもう少し続きます)。それに対して、クラスの中でできる方に入るCさんの答えが、『残業させられた』でした。Cさんなら問題の主旨をくみ取って、他の学生への説明に使えそうな例文を作ってくれるだろうと期待していましたが、裏切られました。

もちろん、昨日の晩残業させられたので機嫌が悪いという、Cさんが言わんとしたことは理解できます。しかし、実際の会話でこう言うかといったら、絶対に言いません。“どうしたの?”という状況説明を求める問いかけに対して、“残業させられた”という、事実+使役受身が醸し出す不快感だけを提示することはありません。最低でも文末に“んだ”を付けて、“どうしたの?”に対する説明だというニュアンスを加えることが必要です。“んだ”が状況説明を表すというのは、初級ですでに勉強しています。それが定着していないのです。

「もう二度と『   』ものか」の『   』に適当な言葉を入れて文を作るという宿題に、Kさんは『行く』とだけ書いて平気で出してきました。前後の文脈なしで「もう二度と行くものか」という文を読んだら、当然、“どこへ”と聞きたくなります。つまり、説明不足なのです。そういうことをコメントし、「こんな例文に点をやるものか」と書いて、明日返却します。

Cさん、Kさん以外の学生も似たりよったりです。授業中も授業後もボコボコにしていますから、学生たちはへこんでいることでしょう。でも、私がしゃべり方を学期の最初とはかなり違えていることを、学生たちは気付いていないでしょう。目にはさやかに見えねども、力はついているんですよ。

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新兵器の威力

9月11日(土)

朝から、水曜日にやった作文の添削をしました。作文を提出しない不届き者が多かったおかげで、思ったより早く終わりました。“おかげ”だとは思っていますが、今週分の成績はもちろん0点。最終成績がどうなっても、入試などでどんなに苦労しても、自己責任ですよ。

教室で作文の授業をする際は、出口のドア前に陣取って、授業時間内に書き終わらなかった学生は授業後も残して書かせます。しかし、オンラインだと、そういうわけにはいきません。ZOOMから抜けられたら、それで終わりです。メールで書け、出せと命令したところで、教室内監禁に比べたら効果は極めて薄いです。

実は、作文の添削がわりと早く終わったのには、もう1つ理由があります。今までとは眼鏡が違うのです。

夏休みの最終日に、新しい眼鏡を作りました。それが出来上がったのが先週で、この前の日曜日に眼鏡屋まで取りに行き、今週から利用しています。この眼鏡は手元作業用で、レンズから数十センチが守備範囲です。事実、この眼鏡でテレビを見ようとすると、画面がぼやけてしまいます。私のうちは大邸宅ではありませんが、それでも私がいつも座る位置からテレビの画面まで、メートル単位の距離があります。そこは、これまでの遠近両用レンズの守備範囲なのです。

この手元作業用眼鏡の威力は強大で、タブレットに映し出された学生の原稿用紙が実にはっきり見えるのです。今までは眼鏡をはずして細かい字を読んだり、それに朱を入れたりしていましたが、その煩わしさ、もどかしさがなくなりました。作文だけではなく、テストの採点や例文チェックも、授業中に教科書を見る時も、具合がよくなりました。

私の祖父も、外を歩くときと、室内で新聞などを読むときとで眼鏡をかけ替えていました。数年を経ずして、私が初めて祖父に会った年になります。二世代の時間が流れたのです。老いを感じて当然ですね。

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見返す

9月9日(金)

「先生、私、去年の11月のEJUで日本語335点だったんですが、どの辺の大学に入れますか」「うーん、偏差値でいうと65ぐらいだから、A大学あたりかな、Zさんの勉強したい学部がある大学だと」「そうですか。実は、去年、B大学を受けたんですよ。不合格でした」「335でB大学なら十分行けるはずだけど…」「面接で志望理由書に書いたこととちょっと違うことを言ったからだと思うんです」「ああ、それはしょうがないかも。提出書類と面接の答えが違ったら、落とされても文句は言えないな」「ちょっとでも違ったらだめですか」「違ってたら面接官が『志望理由書にはこう書いてありますよ』とかって指摘するところもあれば、何も言わずに×を付けるところもあるね。B大学は違ってたらダメっていう大学だったのかもしれないね」「だから、私、今年はA大学か国立に受かって、『お前たち、こんな優秀な学生を落としたんだぞ』ってB大学に言いたいです」「ああ、そういうときは『見返してやる』って言うんだよ」「はい、B大学を見返してやりたいです」

受験講座の授業が終わった後、雑談をしていたら、こんな話になりました。少々穏やかでない話ですが、Zさんの意気込みは大したものです。「捲土重来」なんて言葉も教えてあげればよかったかなあ。まあ、動機はどうであれ、Zさんは勉強に燃えています。予習もしてきます。質問も活発にします。受験講座の担当教師としては、非常に張り合いのある学生です。何とかZさんのリベンジに手を貸してあげたいです。

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お呼びがかかる

9月9日(木)

今年度になってから、いくつかの地方自治体から留学生向けの進学説明会の案内が届いています。何年か前からお付き合いしているところもありますが、今年初めてというところがほとんどです。何とかして留学生を呼び込みたいのでしょう。

地方の大学は学生を集めにくいという面はあると思います。ただし、最近の報道によると、減ったとはいえ感染者数が桁違いに多い東京に出るのが不安で、地元での進学を希望する高校生が増えているとも言います。18歳人口が減り続けることを見越して先手を打とうとしているのかもしれません。

多様性という観点から留学生の募集に力を入れているとも考えられます。少し前になりますが、ある地方都市を旅行で訪れた時、「大学を誘致することで毎年XX名の学生が入ってきて、留学生も何名か住むようになる」というポスターが街の一番にぎやかなところに貼られていました。わざわざ留学生のことが書かれているという点に期待の大きさを感じました。

さて、当の留学生たちですが、あまり関心を持っていません。大学だとランキングが気になるでしょうが、大学院は研究内容優先ですから、少しは目を向けてもいいと思います。しかし、そういう学生の話は私の耳に届いていません。地方の大学に進学した卒業生に聞くと、特に国立大学の学生は、地元の人から尊敬されるそうです。留学生なら、それに輪がかかります。また、稀有な経験をしたいのなら、東京じゃなくて地方でしょう。日本らしさを感じたいのなら、やはり地方です。東京は、国際的すぎます。

地方のお話を聞いていると、私が行きたくなります。その地方ならではの研究をしてみたです。私の代わりに行ってくれる学生を探しています。

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「て」「、」

9月8日(水)

昨日は文法のテストがありました。それを採点すると、学生たちがいかにテスト問題を読んでいないかが如実にわかります。授業中の私たち教師の注意を、聞いていないないしは忘れてしまっていると言ってもいいでしょう。

助詞など機能語の使い方を問うので「ひらがな」で答えるようにと明記してあるのに、わざわざ漢字を書いてXになるなどというのが好例(?)でしょうか。しかも見当違いの言葉だったりすると、3点の問題だけど7点ぐらい引いてやりたくなります。「勉強した文法を使って」という指示を無視して、初級の文法で安易に答えているようなやつは、ZOOMの待機室から呼んでやらないぞ。初級クラスのURLを送りつけてやりましょうか。

“初級の文法で安易に”というのは、作文でも見られます。その最たるものが、て形で文をつなぐことです。「ワクチン接種をして、感染が防げる」でも言いたいことはわかりますが、「ワクチン接種をすれば、感染が防げる」の方が、ずっとこなれた日本語です。中級ともなれば、て形そのものを間違えることは少なくなりますが、だからと言って何でもかんでもて形で表現しようとしてはいけません。

て形で文をつなぐなら、まだましです。その下には「、」で文をつないだ気になっている豪の者が多数います。「大学を卒業した、日本で就職したい」など、「、」の代わりに「ら」を入れたら文法的には全く問題がないのに。

ところが、最近読んだ磯﨑健一郎の「新元号二年、四月」は、読点だけで延々と文がつながっていました。もちろん、芸術的な意図に基づいているのですが、学生の作文を思い出させられて、ストーリーに集中できませんでした。これも職業病ですね。

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鉄槌

9月7日(火)

火曜日のクラスは読解があります。毎週、テキストを読んで、予習問題をやってくることになっています。テキストを読んでということは、当然、漢字の読み方や意味は調べてくるということです。学生たちがここまでやってきてくれたら、教師は非常に楽です。それと同時に、テキストの内容を起点に、発展的な学習にも踏み込めます。

ところが、現実はそう甘くはありません。きちんと予習してくる学生は半数ほどでしょうか。残りは本文を音読させようとしても、満足に読めません。それどころか、「Aさん、次の段落を読んでください」と指示を出しても、その「次の段落」がどこなのかわからないという例が後を絶ちません。教室での対面授業なら、隣の学生にこっそり教えてもらうこともできましょうが、オンライン授業ではそうはいきません。自分の部屋で何か違うことに精を出していた学生は、話がどこまで進んでいるか、全くついてこられません。

指示詞の「それ」は直前の内容を指すという鉄則通りの問いを出しても、意味不明の答えが返ってくることがしばしばです。たとえ授業時間になってから初めて読んだにしたって、ちゃんと授業を聞いていれば、ストーリーを追うことができていれば容易に答えられる問いかけに対しても、あさっての方を向いた答えを平気で言ってしまいます。指名されて何も返事をしないと、私は「Bさん、いませんね」と言って欠席にしてしまいますから、とりあえず声は上げます。しかし、授業に集中していなかったのですから、答えられるわけがありません。

「来週から、予習してきた学生だけに授業をします。予習してこなくて読解がわからなくて期末テストで点が取れなくて来学期進級できなくても、それは私のせいじゃありません。予習しなかった、授業を聞いていなかった自分自身の責任です」と、宣言してしまいました。こんな授業では、まじめに予習してきている学生がかわいそうです。勉強する意欲のある学生を大事にする授業をしていきます。

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理系の時事問題

9月6日(月)

KCPの先生方もだいぶワクチン接種が進みました。でも、大半の先生が何らかの副反応に見舞われています。出勤しても早退したり、週末に寝込んだり、あるいは先月の夏休みを半分ぐらい棒に振ったりなど、大変な思いをしているようです。

副反応が出るということは、免疫機能がしっかり働いているということです。若い人ほど副反応が強く出るというのも、体にとって異物であるワクチンに対して生体防御反応が活発に行われたということで、若さの証明なのです。2回目の接種後に強い副反応が出るというのは、免疫の二次応答と呼ばれるものです。全然出ないとなると、むしろ免疫細胞がきちんと働いているのかと心配すべきかもしれません。

現在接種されているワクチンは、mRNAワクチンという種類で、ウィルスの表面に存在する特徴的な物質をつくるmRNAを体内に送り込むというものです。ワクチン中のmRNAは体内で細胞の中に入り込み、細胞内でそのウィルスの表面に存在する物質をつくります。しかし、それは私たちの体に最初からあったものではありませんから、免疫細胞は異物と判定し、排除にかかります。このとき、こういう異物を退治したという記憶が残ります。この記憶のおかげで、次に同じ異物が侵入してきたら直ちにそれを攻撃できるのです。

この副反応の出方とか、mRNAワクチンの作用機序とかは、生物の教科書に書かれている免疫の働きの応用です。ですから、今シーズンの入試の口頭試問なんかに出るんじゃないかと思っています。昨シーズンはPCRのしくみが聞かれたとかという噂も耳にしています。

時事問題は、小論文や社会科学系の学部学科に限りません。

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最後の御奉公を

9月4日(土)

お昼に入ったお店のテレビで、パラリンピックが放送されていました。私はオリもパラも興味を失っていましたから、7月のオリ開会式はじめ、今まで全然見ていません。だから、料理が来るまで、中継には目もくれずに本を読んでいました(小野不由美は読み始めると止められません)。

そのオリパラを強引に開催した菅さん、辞めちゃうんですね。Go to トラブルと言いたくなるような政策を出し続けたあげく、1年でクビという図式です。この稿でも何回か登場していただきましたが、優しい言葉をおかけした記憶はありません。

登場の時点からして怪しかったですからね。なんだか知らないけど、一番なってほしくない人が首相になっちゃったというのが、1年前の印象でした。6割とか7割とかという支持率を不思議な思いで見ていました。でもというか、やはりというか、竜頭蛇尾でした。日本語学校に関わりのあるところで言えば、去年の秋に一瞬だけ鎖国が解かれて新入生が入国してきましたが、その後は今に至るまでさっぱりです。現在、11月のEJUや12月のJLPTを日本で受けるつもりの学生が大勢海外で待っています。菅さん、最後のひと花で何とかしてくれませんか。

菅さんが首相に就任した日、全国の新規感染者数は541人、累積感染者数は約7万7千人でした。それが、今や、新規は日々2万人近く、累積は150万人以上となっています。感染の抑制は完全に失敗ですね。ワクチン接種はだいぶ進みましたが、予定通りとは言い難いのではないでしょうか。「経済優先のつけが…」などとも言われていますが、優先したわりには景況は思わしくありません。一見プラス成長ですが、去年の指標が悪すぎただけで、「ましだ」というに過ぎません。

菅さんは今年の誕生日で73歳です。あと数年したら、首相経験者ですから、旭日大綬章をもらっちゃうんですよね、きっと。

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