Monthly Archives: 7月 2021

7月31日(土)

Fさんは努力家です。教室では一番前に席を取り、板書は漏らさずノートに撮っています。クラス全体に問いかけると、真っ先に答えてくれます。いつも正しい答えというわけではありませんが、課題に真剣に取り組んでいることがよくわかります。もちろん、宿題を忘れたことなどなく、予習復習をきちんとしていることは疑いありません。

しかし、そのFさんには弱点があります。それは濁点です。濁点の有無のせいで満点を逃した漢字テスト、丸がもらえなかった文法例文、そういった残念の残骸が多数あります。Fさん自身も気づいているに違いありませんが、なかなか直せないようです。

午前中、そのFさんの作文を読みました。今週の課題は創造的な文を書くということで、字数は400~500字でした。クラスの多くの学生が、400字に達しないか、400字になるや終わりにしてしまっているのに対し、Fさんの作品は原稿用紙3枚に及びました。それも、文章がだらだらと続いた挙句の3枚ではなく、創造性たっぷりの文章でした。そこは大いに評価できるのですが、文章が長くなるのに比例して、濁点のミスも増えているのはいただけません。

文意が不明になるような致命的な間違いはありませんが、日本語教師の悲しい性で、濁点の過不足があるたびに立ち止まってしまい、一読しただけではFさんの文章の良さが伝わってきませんでした。濁点を修正した作文を改めて読み直して、ようやくうなり声をあげるのです。

Fさんは、おそらく、日本語の音が正確につかめていないのでしょう。それゆえ、発音も清音と濁音の中間ぐらいになっているのではないかと思います。しかし、マスク越しで、しかも換気のため開け放った窓から外の音が入ってくるとなると、教師がその微妙な発音を確実に捕らえて注意し、言い直させるというのは、至難の業です。

来週からまたオンライン授業です。Fさんのような学生も力を付けていけるような授業を作りたいです。

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冷たい視線に見守られて

7月30日(金)

「昨日の宿題の答え合わせをします。プリントを出してください。じゃあ、1番、Qさん、読んでください」「…」「どうしたんですか」「プリントを持って来ませんでした」

クラスの他の学生たちは、またかという顔をしていました。Qさんは、自分のしたいことしかしません。宿題プリントを持って来るのを忘れたのではなく、端から宿題などやる気がなかったのです。深く突っ込んでもよかったのですが、そうすると真面目に勉強しようとしている学生たちの時間を奪うことになりますから、「あ、そう」と冷たく突き放して、答えられそうな学生を指名しました。

答え合わせの最中、Cさんの右手は机の中、視線もそこに向かっていました。スマホをいじっていることは明らかでした。Cさんは誰にも気づかれずにうまくスマホを操作しているつもりなのでしょうが、みんな気付いています。私が注意しないのは、スマホが見えていないからではなく、Cさんに関してはさじを投げているからです。

その後、学生に文法の例文を発表してもらったら、スマホ中毒という言葉が出てきました。学生の視線はせっせとスマホで何かしているCさんへ。当のCさんはその視線を感じることなく、右手の先に集中しています。ここまで来ると、生きた教材になりますから、むしろありがたくさえなります。

東京は3日連続で3000人超えです。学生ぐらいの年代の若者へのワクチン接種がなかなか進んでいないという現状にも鑑み、来週月曜日からオンライン授業にすることに決定しました。自分の部屋でとなったら、Cさんは勉強しないだろうな。そして、年末ぐらいに「どこにも合格していないんですが、どうしたらいいでしょう」って、顔を引きつらせて相談に来る姿が、次第に鮮やかになってきました。

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千仭の谷

7月29日(木)

午前の授業が終わると、Cさんが1階に下りてきました。昨日発表された6月のEJUの成績をもとに、どこに出願するかの相談です。

日本語は私の予想を上回る成績でした。でも、「いい大学」をねらうには物足りない数字です。理科はいい成績と言っていいでしょう。しかし、数学はどこかで失敗した形跡がある点数でした。全体として、ぜいたくを言わなければどこかのまあまあレベルの大学に入れそうな成績でした。

しかし、Cさんの最大の弱点は、話せないことです。本人は上手なつもりで話しているのですが、それがさっぱりわからないのです。授業で発言してくれるのはありがたいのですが、非常に聞き取りにくく、3回ぐらい聞き返さないと趣旨がつかめません。教師はそうやってCさんの言わんとするところを理解するために努力しますが、入試の面接官は違うでしょう。わからなかったらそれで終わりです。

Cさんの場合、マスク越しであることを差し引いても発音が悪いです。おそらく、口をあまり動かさずに話しているのでしょう。それに加えて、語彙や文法の間違いもあります。「リーミクをでます。いいですか」って、どういう意味だと思いますか。私が翻訳して差し上げましょう。「立命館大学に出願したいのですが、私の成績で合格できそうですか」。

これがわかってしまう自分が怖いですが、立命館大学の先生は絶対に理解してくださらないでしょうね。もうそろそろ、Cさんをボコボコにして鍛え直さなければなりません。それがCさんの未来を切り開く道なのですから。

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油断? 堕落?

7月28日(水)

私のクラスでは、今学期2回目の漢字テストがありました。中級レベルの漢字テストは、単なる読み書き問題だけではありません。語彙的要素も含んだ問題も出されます。初回のテストではその問題に戸惑った学生もいたようです。今回はそういう学生もどういう勉強をして試験に臨めばいいかわかったようです。

しかし、全体的に見ると成績が下がった学生が多かったです。実力差が出やすい語彙の問題だけではなく、点数の稼ぎどころであるはずの読み書きの問題で減点を重ねる学生が目に付きました。なあんだ、初級と変わらないじゃないかという気持ちが兆しているのかもしれません。悪い意味でこのレベルに慣れてしまった様子がうかがえます。緊張感が緩んでいるのだとしたら、中間テストもだんだん近づいてきていますから、引き締めてかからなければなりません。

昨日の私のクラスは、おととい出された宿題の提出率が非常に悪かったです。「宿題を出してください」と言うと、みんな、一瞬ばつの悪そうな表情を見せて下を向いてしまいました。こういうのを見ると、安直だなあと思います。2つのクラスは別のクラスですが、学生の発想には似通ったものを感じます。楽な方法に流れようとするんですよね。

そんな中、2回の漢字テストどちらも満点近い点数を取ったOさん、みんなが忘れてきた宿題をきちんと提出したKさん、前回は語彙問題で沈んだけれども今回はそこで好成績を挙げたGさん、こういった学生には期待が持てます。まあ、普段からしっかりしていますから、当然ではありますが。

来週は文法テストがあります。さて、どうなるでしょう。

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急下降、急上昇

7月27日(火)

梅雨明け以来、ずっと窓を開けて寝ていますが、今朝は雨音とその窓から忍び込む寒気で目が覚めました。久しぶりのお湿りと思っていたら、現時点での24時間雨量が34.5ミリと、まとまった雨になりました。でも、最大でも1時間15.5ミリですから、このところ頻出の記録的豪雨というほどではありませんでした。おととい・昨日あたりの予報に比べたら、降水量は少なかったと言えるでしょう。

気温のグラフを見ると、ちょうど日付が変わるころに、雨の降り始めとともに、30分ほどで4度ぐらい気温が下がっています。この冷気が部屋の中にしみついた熱気を駆逐するのに2、3時間かかり、その後私の目を覚ましたようです。さすが台風、文字通り空気を入れ換えてくれました。

その台風、勢力を弱めながら関東東方沖をうろうろしています。遠ざかるか完全に弱まるまでは安心はできませんが、厳重警戒の域は脱したのではないでしょうか。オリンピックへの影響も最小限に抑えられたようで、泣きっ面に蜂にはならずに済みそうです。

しかし、新規感染者数は予想を超えるペースで増えています。今朝の気温のグラフを逆さまにしたような感じで絶壁を築きつつあります。しかし、私たちの感覚もマヒしているようで、1年前の10倍ぐらいの数字なのに、絶望感とか緊張感とかはありません。明日も来週も来月も、ごく普通に授業を続けている自分の姿が頭の中のモニターに映し出されています。しかし、厳重警戒を解くわけにはいきません。

雨が上がり、日が差し始めると、気温も上がってきました。明日の朝は、また熱帯夜かどうか微妙なラインになりそうです。やっぱり、窓を開けて寝ましょう。

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不自然

7月26日(月)

4連休直前に書かせた作文を読みました。今回のテーマが「日本へ来た理由」です。それぞれの学生が各自の思いを込めて書いてくれました。さすがに中級ともなれば、意味不明の理由を書き連ねる学生はいません。

しかし、「日本のアニメやゲームに趣味がすごくある」「自分の趣味あるいは大学の研究テーマを自由に考えられるので…」などという文が出てきました。このクラスは中国人が多く、中国語の「興味」には日本語の「興味」に当たる意味もあるので、こういう文を書いてしまうのです。そういう指摘はすでに受けてきているはずなんですがねえ。現に、「日本の文化に関して、興味を持っている」と正しく使っている中国の学生もいます。

「趣味」と「興味」は中国語では意味の重なる部分が大きいのでしょうが、日本語ではむしろ違いの方が際立ちます。そういう言語感覚をいかに身につけるかが、日本語らしい文章が書けるか、聞いていて違和感のない発話ができるかにつながっていきます。このクラスの学生たちは、この点がまだまだ甘いようです。

中国と日本は近いという文脈で、「中国から日本まで3時間だけかかる」という文も見られました。「しか~ない」は、既習の文法なのですが、なかなか使えるようになりません。上級超級の学生ですら、こう書いたり言ったりする例は枚挙にいとまがありません。これなんかも、日本語らしさという点からすると、頭を抱えてしまいます。

「日本へ来た理由」などというのは、入試の面接でもよく話題にされます。そこで変な日本語を使うと、やっぱり印象悪いですよね。

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早退

7月21日(水)

前半の授業が終わって、いったん職員室に引き上げようとしていると、「先生、早退してもいいですか」とBさんが聞いてきました。中級ぐらいの学生は、許可を求める場面で「~させていただけませんか」を使いたがります。そして、たいてい失敗するものです。しかし、Bさんは「~てもいいですか」という、初級の表現を使いました。よっぽど余裕がないのだろうと思いました。

いずれにしても、早退したいとは穏やかではありませんから、「どうしたの?」と尋ねました。「実は、昨日、予防注射に行って、たぶんそのせいで、頭が痛いんです。気分も悪くて…」とBさん。どうやら、少々強い副反応が出たようです。確かに、前半の授業中、机に伏せっている場面もありました。他のクラスで副反応により体調を崩した学生がいるという話は聞いたことがありましたが、自分のクラスの学生がそうなったのは初めてでした。明日からの連休の宿題を渡し、「お大事に」と言って帰しました。

この予防接種、若い人ほど副反応が出やすいと言われていますが、本当にそのようですね。身近なところで副反応により体調を崩す人を見ているからでしょうか、予防接種に対して漠然とした不安を感じている学生もいるようです。感染者数がかなりの勢いで増えているのもこわいし、感染を防ぐはずの注射でひどい目に遭わされるのも絶対避けたいし、学生たちは余計なところで気を使わされています。私みたいな年寄りは、予防接種もさらっと終わってしまうんですがね。

それでも、少しずつ、接種を済ませた学生が増えています。明るい兆しが感じられる日が近いことを信じたいです。

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自分本位

7月20日(火)

Sさんは、スピーチコンテストのクラス予選での発表を拒否し続けています。これも授業の一環であり、発表は学生の義務だと言っても、興味がないからやりたくないと言い張ります。入学以来、自分がやりたくない課題はやろうとせず、他人がどう思っていようが一切お構いなしの学生だったようです。

ところが、Sさんは、J大学の志望理由書を見てほしいと、担任のH先生に頼んでいます。志望理由書はSさんにとって最大関心事ですからまっ先に手掛け、不義理の先であるH先生にチェックを依頼することにも、何の不思議も感じていないに違いありません。自分はKCPの学生なのだから、KCPの教師が自分の進学に協力するのは当然だという発想なのでしょう。

私たちは可能な限り学生のために働こうと思っています。また、それが私たちに課せられた使命だとも認識しています。しかし、ここは学校であり、みんなと一緒に学ぶ場です。学校行事を大切にするのが校風だと、学生募集の際に伝えています。それを承知の上で入学したのですから、個人のわがままを押し通すような行為は控えてもらいたいです。私たちは個々の学生の家庭教師ではありません。いや、家庭教師であっても、やるべきことをやろうとしない生徒に対しては、きちんとやっている生徒に比べて情熱の度合いが下がるのではないでしょうか。

現に、H先生はSさんのほかに数人の学生から志望理由書のチェックを頼まれています。Sさんの優先順位が最下位になったとしても、無理はないでしょう。

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一瞬で

7月19日(月)

T先生は痛くて腕が全然上がらないと言い、土曜日に打ってもらってから出勤してきたF先生も腕が重いと言っていました。私は、箸と鉛筆は右ですが、その他は左もよく使います。「利き腕じゃない方」と言われても、困ってしまいます。普通の人に比べて左手ですることが多い分、どちらかの腕が使えなくなると被害が大きいのです。

そんな不安を抱えながら、昨日、予防接種を受けてきました。会場はうちから歩いて10分ほどのところですが、昨日は梅雨明け10日の真夏全開でした。予約時間は11:30でしたが、暑くなり過ぎないうちにと、11時前に会場へ。あっさり受け付けてくれて、数分のうちに医師の予診。それが終わって待合室の椅子に腰かけると、待ち時間に読もうと思って持参した本を取り出す間もなく看護師さんが来ました。

「左腕でよろしいですか」「はい」「じゃあ、腕の力を抜いてだらんと垂らして…。アルコールでかぶれたりしたことはありませんか」「はい、全然ありません」などとやり取りをしていたら、もう絆創膏を張っているではありませんか。針の痛みを感じることなど全くなく、接種が終わってしまいました。私は子どもの頃病弱でしたから、注射も数えきれないほど打たれました。針が刺さる瞬間を見るのが趣味みたいなところがあるんですが、昨日はじっくり観察する隙もありませんでした。

それから経過観察の15分間、今度は本を読む時間がありました。全く何ら異状はなく、無事会場を後にしました。お昼過ぎまでかかるかもしれないと覚悟していましたが、うちへ戻ってもまだ11時半前でした。夕方になって、多少腕に違和感が出てきましたが、何かができなくなるほどではありませんでした。今朝は筋肉に痛みがないわけではないという程度でした。普通に授業も受験講座もこなし、今はもう全く何ともありません。

どうやら今回も、注射を打たれ慣れている私にとっては、荷が軽かったようです。副反応は2回目の接種の後で現れることが多いと言われていますから、まだ油断はできません。でも、乗り切れちゃう感じがしてきました。

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きょかしょ、りょうこ、げんかのじょ、みがく

7月17日(土)

KCPの初級中級では、漢字を書いたら必ずその上にふりがなを付けることになっています。ふりがなが正しく書けていなかったら、発音も怪しいものです。教師としては、学生に発音を意識させるために書かせています。その学生が日本語の音がきちんとつかめているか確認するためにと言ってもいいでしょう。「車で駅へ行きます」などというのなら、ふりがななしでもいいと思いますが、「四時まで学校で勉強します」などとなったら、本当に正しく読めるかどうか、ふりがなの形で確かめてみたくもなります。

昨日の中級クラスの文法例文を添削していたら、このクラスの学生は気が緩んでいるのか、ふりがなを書いていない例文がたくさん出てきました。ざっくり言って、ふりがなを書かないのは、自分はよくできると過信している感じの学生たちです。そういう学生は、毎日しっかり予習しろと言っているのに、漢字の読み方も調べてこないので、教科書を読ませるとボロボロになります。

じゃあ、ふりがなを書いている学生が優秀かというと、そうは問屋が卸しません。「教科書」が“きょかしょ”は日常茶飯事だし、「旅行」が“りょうこ”になるのも毎度おなじみです。そういう学生の発話を注意深く聞いていると、やっぱりふりがな通りに発音しているのです。

Gさんはすべての漢字にふりがなを書きましたが、「元彼女」に“げんかのじょ”と振っていました。普通の日本人が”ゲンカノジョ”と聞いたら、“現彼女”だと思うでしょうね。若者言葉を知っているつもりで“ゲンカノ”なんて言ったら、大恥かいちゃいますよ。Hさんは「見学」が“みがく”になっていました。入試の面接で「貴校の施設をみがくした時…」んどと答えたら、面接官に日本語が超下手と思われてもしかたがありません。いや、そもそも話が通じないか…。

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