Monthly Archives: 4月 2021

鎧兜

4月30日(金)

去年は全然何もできなかった学校行事が、やっと復活しました。端午の節句です。毎年連休の直前に行っていましたが、去年はオンラインで細々と触れた程度でした。でも、今年は2年ぶりに五月人形を飾り、日本の伝統文化の一端を学ぶとともに、ちょっとしたゲームも楽しみました。

私たちにとっては、五月人形は珍しくも何ともありませんが、学生たちはしげしげと眺め、写真を撮っていました。教室で一通り説明を受けて来ても、いや、受けて来たからこそ、興味津々だったのでしょう。鎧兜姿の大将、桃太郎、菖蒲の花など、飾ってあるものすべてにスマホを向けていました。

ゲームは、桃太郎にちなんで鬼退治です。軍手を丸めて作ったボールを、厚紙で作った鬼に向かって投げ、鬼が倒れたら点がもらえるというものです。単純なゲームでしたが、思いのほか盛り上がりました。クラスメートの投げるボールにまさしく一喜一憂で、久しぶりに学生の歓声を聞きました。

おととしまでは、クラスみんなで柏餅を食べましたが、今年はもちろん中止。6階の講堂の半分で五月人形を見て、もう半分で柏餅を食べながら歓談という流れでしたが、幸いにも(?)学生数が減ったため、クラス完全入れ替え制でも時間にゆとりがありました。

その代わり忙しかったのがO先生たちで、この行事を海外でオンライン授業を受けている学生たちに中継するために大いに汗を流していました。モニターで見る限り、オンラインの学生たちも画面を通して端午の節句を味わっていたようです。

この先感染拡大がどうなるか見通せませんが、こうして少しずつ平常を取り戻していきたいです。

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目指せ花丸

4月28日(水)

私が担当している初級クラスは、「いっしょにテニスをしませんか」「ええ、しましょう」などという、「~ませんか」「~ましょう」がようやく終わったところです。そこで、これを使った会話スクリプトを作る宿題を出しました。この文法項目の理解確認もそうですですが、表記の正確さや会話を広げる力も見ようと思いました。

提出された作品を見ると、学期が始まって3週間足らずなのに、ずいぶん差がついています。国で勉強した貯金が利いている人もいるでしょうが、このモダリティー表現あたりで底を尽く例もよくあります。ですから、この会話スクリプトの出来は、学生の地力を表しているとも言えます。

Bさんは、私が板書した見本の会話をほぼそのまま書いてきました。呼びかけの名前を変えたのが、Bさんの良心でしょう。表記も不正確で、これからが心配です。また、消しゴムを使わずにぐしゃぐしゃと間違いを消してあるのも、いやな予感をさせられます。落ちていかないように引っ張らなければなりません。

Gさんは辞書で調べた難しい言葉を使おうとして自滅しました。場面を工夫しているのは褒めてあげてもいいですが、工夫することにばかり気持ちが向かってしまい、かえってわかりにくくなってしまいました。

一方、Jさんは、今までに習った文法と単語を上手に組み合わせてスクリプトを作り上げました。私の見本会話の要点をつかみ、それを応用してJさんのオリジナリティーを出しています。しかも、字がきれいです。花丸をあげてしまいました。Lさんも、無理なく「~ませんか」「~ましょう」を使っていました。

ここで浮かび上がった各学生の勉強の進み具合を参考にして、来週からの授業を考えていきます。

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これから

4月27日(火)

午前中は、初級の進学コースの授業をしました。本来の担当のO先生が日本語教師養成講座の講義をするため、代講のお鉢が回ってきたという次第です。ここのメンバーは、ごく一部が先学期2、3回入ったクラスの学生だったというだけで、ほとんどが初顔合わせです。でも、この学生たちが今年度来年度のKCPの屋台骨を支えるのかと思うと、じっくり観察したくもなります。

観察した結果は、う~ん、まだまだですねえ。鍛えがいがある、伸びしろがあると言えばその通りですが、先が長いこともまた事実です。読解も聴解も、問題作成者がにんまりしてしまうような引っ掛かり方をしてくれます。素直な一本道の問題しか理解できないとなると、大学入試もそうですが、日本で社会生活が送れるのか心配になってきます。だって、簡単にだまされちゃうんですよ。

それが終わって一息ついていたら、Zさんが物理の問題を持って来ました。先週の受験講座で配った問題がわからないと言います。Zさんの志望校を考えると、こちらもこれからバリバリ鍛えていかねばなりません。

その受験講座、来日できずに国で受講している学生がいます。そういう学生にも力を付けさせるべく、あれこれ工夫しています。孤独な戦いにならないようにというのもその一つです。私の目の前で聞いている学生たちを紹介したり、常に気にかけているという姿勢を示したりしています。

受験講座のあとは、新入生への大学進学のガイダンス授業。今までの学生の失敗談を語っているような気がしてきました。でも、同じ失敗は繰り返してほしくないですから、熱を込めてしまいます。

感染者数が増え続けています。まさか、今年も中止などということにはならないでしょうね。

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朝のご同業

4月26日(月)

最近は私が家を出る時間帯でも東の空が明るくなっています。街灯が消えるほどではありませんが、朝らしさが感じられます。今朝はちょっと冷え込んだようですが、駅までシャカシャカ歩いているうちに寒さは感じなくなりました。私が乗る一番電車は、いつもと変わらぬ顔ぶれが普段と同じ席を占め、何事もないかのような1日の始まりでした。

3度目の緊急事態宣言が発せられましたが、早朝の電車は先週までと変わることがありませんでした。私もごく当たり前に電車に乗っていたのですから、他のみなさんもリモートではどうにもならない仕事を抱えているのでしょう。ネットのニュースなどによると、緊急事態宣言が出た街は、どこも大して人出が減っていないようです。

KCPも去年の4月と今年の年初の緊急事態宣言の際はオンラインにしましたか、今回は、少なくとも今週は、このままいきます。登校しだすと、学生たちの方がオンラインじゃない方がいいという意見が強いのです。それは私たちのオンライン授業が拙いからかもしれませんが、やっぱり言葉の授業はオンラインより対面の方が、実感が伴うのでしょう。

そうは言っても、外出する人を7割減らさないと感染拡大は抑えられないとされています。それに背を向けるようで非常に心苦しいのですが、仕事の性格上やむを得ません。学生たちにしたって、万難を排して日本まで来たのですから、オンラインでは得られない手ごたえをつかみたいことでしょう。

朝の電車で乗り合わせている皆さんも、同様なのでしょうか。

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iPS細胞の次

4月23日(金)

ただいま、中級の読解で使う文章を書いています。中級なら市販の読解の教科書もたくさんあるのですが、あれこれ自由に手を加えるとなると、著作権がこちらにある自作の文章が一番です。自分が書いた原稿だったら、学生の反応を見て手直しもすぐにできます。

文章の中に、それを使うまでに勉強した語彙や文法を練り込むこともできます。もちろん、無理に使おうとして不自然な文章になってしまったら逆効果です、使えるところには積極的に使うという気持ちで書き進めています。また、語彙も、これはぜひ覚えてほしいとか、初級で勉強した単語だけどこういう意味用法もあるんだとか、慣用句やコロケーションとか、そういうことを考えながら選んでいます。

肝心の内容は、理科系の話題でというリクエストがありますから、それに応えています。京都大学の山中伸弥教授がノーベル賞を取って間もないころ、iPS細胞について書きました。論理的な文章を読んで理解できるようになるという目的で、書き進めました。好評なようで、最近はその後のiPS細胞ということで、授業中に講演もしています。大学や大学院に進学したら、文献を読んだり話を聞いたりして理解を深めていくことの連続です。これはその練習です。

今回も、科学技術関係の論理的な文章を書くことになっています。iPS細胞は現在の技術の解説が中心でしたから、今度は技術の発展を時系列で見たお話にしようと思っています。そこに学生が「へー」と思えるような何かを加味して、学生を引き付けるような読解教材に仕上げたいです。

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やりにくい

4月22日(木)

レベル1は、今、「行きます、来ます、帰ります」の、往来動詞とか移動動詞とか呼ばれる一群を扱っています。このうち、「行きます」は「学校へ行きます」「スーパーへ行きます」「沖縄へ行きます」など、いくらでも文も作れますし、オンラインで参加している学生たちも実感を伴う発話ができます。

しかし、オンラインの場合、「来ます」は、「学校へ来ます」「日本へ来ます」など、定番の文が全く役に立ちません。うちで勉強していますから、自分の国にいますから、身近な「来ます」がないのです。仮定の世界を作ってそこで「来ます」を使う練習も考えましたが、学生たちはそれこそやっと移動動詞程度のレベルですから、込み入った設定が理解できないおそれが強いです。

「帰ります」も同様で、国の自分のうちにいますから、「うちへ帰ります」「国へ帰ります」が使えません。zoomの背景をディズニーランドにして…などとも考えましたが、うまくいくかどうか全く自信がありませんでした。学生たちの母語を使ってもいいのならいくらでも手があるでしょうが、KCPは直接法を旨としていますし、何よりクラスは多国籍ですから、授業中に媒介言語は事実上使えません。

日本語の「来ます」「帰ります」の特殊性も関わっています。話者の現在地とか本拠地とかが意味に関わっていますから、オンラインだと商売しづらいのです。逃げと言えば実にその通りなのですが、学生たちが来日し、生の日本語に接した時点で、実地に意味を把握するのが最も確実な方法だと思います。

こういう点からも、早く収まってほしいのですが、「宣言」に向かってまっしぐらですよね。

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3Dを伝える

4月21日(水)

今学期の受験講座理科は、先学期以前に入学した学生は対面、今学期入学で来日できないでいる学生はオンラインと、2方式併用で進めています。先学期は全面オンラインでしたから、ある意味では楽でした。目の前にいる学生と、画面の向こうにいる学生と、差を付けずに教えていくのには、独特の難しさがあります。

まず、アクションで何か説明するときには、zoomの画面内に収まるように動きを抑えなければなりません。画面を見ている学生にもわかる動作が求められます。

「メタンは、炭素原子を中心に、こことこことこことここに水素原子があります」と、左手のこぶしで炭素原子を表し、右手のこぶしで水素原子の位置4か所を次々と示します。私の目の前で見ている学生は、炭素原子と水素原子の立体的な位置関係がこれでわかります。しかし、国でパソコンの中の私を見ている学生はどうなのでしょう。大画面のモニターだったとしても、立体感はどこまで伝わったかなあ。

それから、zoomでパワーポイントを画面共有して話を進めていても、こちらの学生には私の顔つきやらちょっとした体の動きやら、1枚1枚のスライドのプラスされた情報も伝わります。そんなことでオンライン参加の学生に差をつけてしまうことは不本意です。かといって、仏頂面で身じろぎもせずに授業をするのも不可能です。同じ教室に学生がいるのに、私がいすに腰掛けパソコンだけを見つめて授業を進めるというのも不自然です。

今のところ、対面の学生もオンラインの学生も満足そうな顔をしています。細心の注意を払いながら、ためになる授業を作っていきます。

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懐かしい顔

4月20日(火)

午後の授業の準備をしていたら、A先生がいらっしゃいました。A先生は、去年の春先に出された最初の緊急事態宣言直前まで、上級クラスを教えていました。2月末に全面オンライン授業になってから、ずっと休んでいました。お年を召していますから、授業をお願いして無理に外出させてはいけません。そういうわけで、1年余りのご無沙汰でした。

A先生ご自身もあまり家の外には出ず、新宿も本当に久しぶりだとおっしゃっていました。でも、何より、声の張りも1年前とまったく変わらず、お元気そうなご様子でした。感染状況が改善すれば、今すぐにでも教壇に立てそうな雰囲気を放っていました。

東京は711人。先週の火曜日より201人増えたそうです。3度目の緊急事態宣言が現実味を帯びてきつつありますが、オオカミ少年みたいになってきています。まん延防止などという中途半端な規制のおかげで、国民側の緊張感が薄れています。今晩は日中の暖かさが残っていることでしょうから、お酒とおつまみを買って外で盛り上がる人たちが大勢出るんじゃないかと思います。

もはや悠長に聖火リレーなどしている暇ではありません。せっかく走者に選ばれた方々には申し訳ありませんが、オリンピック自体、もう死に体です。選手だって、ワクチン未接種者が大半の国になんか、足を踏み入れたくないんじゃないかな。

A先生は、事態がさらに悪化しないうちにご挨拶したいという義理堅い理由でお越しくださいました。やっぱり、オリンピック中止で、1日も早くA先生に復活していただきたいです。

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捲土重来期待

4月19日(月)

今学期、私が受け持っているクラスは、入国できずに国で勉強している学生たちのオンラインクラスです。ですから、テストもオンラインです。

オンラインのテストは、紙のテストと違って、コンピューターが自動採点してくれます。選択問題の採点は手間がほとんどゼロになりました。しかし、筆答問題はそうはいきません。

初級クラスでは、音と表記を一致させるため、漢字を使わせません。例えば、「何の」と漢字で書いてしまうと、その学生がちゃんと「なんの」と読んでいるかどうかわかりません。「なあの」「なの」などと発音していても、漢字表記だと、それが表面化しません。

紙の試験用紙に手書きだと、学生側も意識しますから、すべてかな書きします。しかし、オンラインだとキーボード入力ですから、そこまで注意が回らないことがよくあります。また、ついうっかり漢字変換してしまったり、コンピューターが気を利かせすぎて自動的に漢字表記になってしまったりなどするため、たとえ注意しても、漢字の答えが多くなってしまいます。

Mさんは、授業中活発に答えるし、反応もいいし、きっと成績もいいだろうと思っていましたが、漢字に引っかかって、大きく沈んでしまいました。XさんやBさんもそのタイプだと思います。提出時刻を見ると、みんな制限時間を大きく余して出しているんですね。「漢字は×」という注意書きも読まず、答案を見返すこともなく提出ボタンをクリックしてしまったのでしょう。

なんだか注意力テストになってしまったようですが、Mさんをはじめ、今回悪かったできうる組の学生たちは、次回のテストではきっと軌道修正してくるでしょう。それ以後が本当の実力が現れるテストでしょう。

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変な人…じゃなかった

4月17日(土)

昨日の夜、見慣れぬ顔の人が学校に入ってきました。花束を手にしてこちらに微笑みかけていますから敵意悪意はなさそうですが、明らかに教職員ではなく、また、学生ではない年恰好でした。H先生が名前を聞くと、「Bです」と言います。さらに聞くと、ちょうど現校舎ができた時に卒業したとのことでした。確かに、以前、Bという学生がいました。

Bさんは今年大学院を修了して就職したそうです。その配属先がKCPの近くなので、会社の仕事が終わってから来てくれたというわけです。Bさんの就職先は一般人には有名じゃありませんが、その業界では知らない人がない会社です。「いいところに入ったじゃん」と、思わず肩をたたいてしまいました。

在学中のBさんは、こんなことを言っては失礼ですが、どこかあか抜けない感じの、線が細く印象の薄い学生でした。でも、今、目の前にいるBさんは、落ち着いた雰囲気を醸し出す優秀な若手会社員です。進学したS大学でがっちり鍛えられたのでしょう。私の心の中で、S大学の株がまた上がりました。

日本で就職するという夢を抱いてKCPに入学する学生もたくさんいます。もちろん、有名会社、大企業にと思っている学生が大半です。しかし、夢破れる学生も大半です。そういう厳しい競争を勝ち抜いて、立派な会社に就職したBさんには、ぜひ、その経験を後輩に語ってもらいたいです。私たちがあれこれアドバイスや注意をするより、実際に成功を手にした先輩からの言葉の方が100倍も効き目があることでしょう。

Bさんはまだ研修中でわからないことばかりだと言っていました。今度来るときには、有能なビジネスマンになっているでしょうか。

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