Monthly Archives: 11月 2019

期待

11月18日(月)

最近、Rさんが進学に燃えています。去年、私が初級で受け持った時は、日本へ来て間もないのに生活に疲れたような顔をしていて、何事に対しても覇気が感じられませんでした。案の定、順調に進級することはできず、あっちこっちでつまずきながらどうにか中級まで上がってきました。

勉強への意欲が見られなかったのは、Rさんのせいだけではありません。親から過剰な期待をかけられ、プレッシャーに押しつぶされそうになっていた点も見逃せません。親が言ってくる超一流大学は無理なので、Rさんがこんな大学はどうかと提案したこともありました。でも、「そんな大学はダメ」と一蹴されてしまいました。

日本という国は好きだけど、だから1日でも長くいたいけど、親が進める大学は入れそうもなく、自分が手が届きそうな大学は親が認めてくれず、Rさんは八方ふさがりの日々が続いていました。しかし、最近、この期に及んでようやく親が折れてくれたそうです。そのため、がぜんやる気が出てきたというわけです。

やる気が湧いてくるのが、1年遅かったと思います。初級のうちから実現可能な目標を設定し、それに向かって努力していける環境が整っていれば、Rさんはもっともっと力を伸ばせたと思います。親が子供に期待を寄せるのは当然の心情です。厄介払いで留学させられて日本に流れ着いたと言わんばかりの、親に全く期待されない学生も困りものですが、何事も、過ぎたるは猶及ばざるが如しです。期待のし過ぎも子供の芽を摘んでしまいます。

ここまでくれば、私たちも指導のし甲斐があります。あとは、Rさんのやる気を志望校の先生方に伝わる形で表現することに力を貸すだけです。

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上級話者が身につけるべき文法「授受表現」

11月15日(金)

ちょっと悲しい出来事がありました。情けないとも憤りを感じるともいうことができます。

中間テストで、私が担当している上級レベルの文法の問題として、「傘を借りたいときの言い方を、授受表現を用いて書け」というのを出しました。文法の時間にもうちょっと複雑な授受表現を扱っていますから、これは学生たちに点数を与える、いわばラッキー問題として出題しました。

「すみませんが、傘を貸していただけませんか」とかって、初級文法で十分答えられる言い方をしてくれれば十分だったのですが、ほとんどでいていないんですねえ。間違える学生もいるとは思っていましたよ。でも、一握りにも及ばない学生しか正解しなかったのです。「傘を借りていただけませんか」「私に傘を貸してあげてください」「傘を借りてもらいますか」などなど、最初の2人ぐらいは笑っていましたが、次々とこのような答えが出てくると、顔が引きつってきました。

このクラスの学生たちは、もちろん、日本語でコミュニケーションが取れます。日本語教師ではない一般の日本人が聞いても確実に理解できる日本語を話します。だけど、細かく追及していくとこうなっちゃうんですね。傘を借りたいときも、「この傘、いいですか」「傘、ありますか」など、授受表現を使わなくても気持ちが伝えられちゃいます。

だから、授受表現は使えなくてもいい、とうことにはなりません。授受表現は日本語の特徴であり、その点で日本文化の一翼を担っていると、私は思います。そこに宿る発想は、より洗練された日本語へとつながるのです。これぞ、上級話者が身に付けるべき文法です。だからこそ、上級の文法の時間に取り上げているわけです。

来週早々、復習ですね。

 

 

 

 

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暗闇

11月14日(木)

今朝の新聞によると、10日(日)に行われたEJUの大阪会場で、試験問題の冊数が足りなくて試験が中止されたそうです。その人たちの試験は、23日(土)に行われるとのことです。EJUの実施機関・日本学生支援機構は、印刷所に発注する際に数を間違えたと言っていますが、間抜けた話だと思います。

機構は、23日の試験を受ける受験生の交通費や宿泊費を出すと言っていますが、そういう問題じゃありません。まず、それまで緊張を保ち続けるのは、受験生にとってとても辛いことです。特に、来年4月に進学するつもりで勉強してきた、高得点を狙っている受験生はたまったものじゃないでしょう。海外から大阪まで受験に来て、むなしく帰国した受験生もいるとのことです。そういった受験生は、10日と同じコンディションで23日の試験を受けられるでしょうか。まさか、準備期間が2週間伸びたから有利なはずだなどと考えていないでしょうね、機構さん。

それから、23日が大学独自試験日だったらどうするんですか。その大学への進学をあきらめろとでも言うのでしょうか。EJUを捨てて、今までの努力をどぶに捨てろということでしょうか。

そもそも、こうした不祥事を3日も隠してきたというのは、どういう根性なのでしょう。私は別ルートで11日にこの事実を知りましたが、その後一向に公になる気配学、不思議に思っていました。そして、昨日、責任者の記者会見もせず、HPに事務的なお知らせを載せただけで済ませてしまったのです。そのお知らせも、14日19時現在、見られません。闇の葬ろうという姿勢が見え見えです。これが共通テストだったら上層部は切腹物です。試験のやり直しと交通費支払いでお茶を濁されてしまうなんて、やっぱり留学生は日本の大学において添え物にすぎないんですね。

 

 

 

 

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不明確な日本語

11月13日(水)

10日にEJUが終わり、今週から受験講座の授業時間数が少し減ったかと思ったら、面接練習がバンバン入ってきました。午前の授業が終わり、お昼を食べる間もあらばこそ、Sさんの面接練習でした。

Sさんは、進学後に勉強しようと思っていることも将来就きたい仕事も明確なのですが、日本語が不明確です。単語レベルで日本語を重ねていくので、助詞や、動詞・形容詞の活用がいい加減です。普通、パンフレットやネットに書いてあることを丸暗記したら、そこの部分だけは間違えないものなのですが、Sさんの場合、誤用の海の中に立派な単語が浮かんでいるような状態です。

「あなたが言いたいことはこのように言います」と、模範解答を口移しで教えても、「じゃあ、もう1回」とやり直すと、数分も経っていないのに、さっきよりちょっとましかなというレベルに落ちてしまいます。ここまで単語以外の部分に無頓着でいられるのも珍しいです。

でも、上級クラスに在籍しているということは、中間テストや期末テストでは合格点を取っているということです。それはすなわち、読んだり書いたりする時には、完璧とはいえないまでも、正しい文法が意識できるのです。どうして話す時は文法が壊滅してしまうのでしょう。私にはわかりません。いや、話の内容の高さと、その話を聞いた時の下手さ加減がこれほど開いている学生は、前代未聞に近いんじゃないかな。

日本人の英会話って、ネイティブが聞いたらきっとSさんの日本語みたいなのでしょう。日本人の英語力は世界で53位、「低い」にランク付けされているそうです。だとしたら…。

 

 

 

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大車輪の活躍

11月12日(火)

毎朝職員室を掃除してくれているHさんは、長年地元にお住まいの方です。毎日「老人会の仕事が忙しくて困っちゃう」と言っては笑っています。昨日は、新宿御苑で菊見の会があったそうです。なんでも、新宿御苑では今年から菊のライトアップを始めたとかで、幻想的な菊の写真を見せてもらいました。闇夜に浮かぶ菊人形は、中途半端にリアルで、ちょっと気味が悪かったですけど。

そのほかにも、カラオケ教室とか輪投げ大会とか交通安全週間の活動とかバス旅行とか、いったいこの地区のお年寄りはいつのんびりするんだろうというくらい、活発に動き回っています。しかもHさんは、国の基準で言う“後期高齢者”であるにもかかわらず、どの活動にも中心になって動いています。「あたしよりもっと年寄りがいっぱいいるからね」と、笑い飛ばしています。

ここ新宿1丁目は、長年住みついている人が多いようです。もちろん、マンションの住民なんかはしょっちゅう入れ替わっているでしょうが、そうでないところの人たちは、長年住みついていて、Hさんのお友達というわけです。みんなが顔見知りで、家族構成もわかっていて、区議会議員ですら生まれた時から知っていますから、“〇〇ちゃん”です。

KCPもここに居ついて30年ほどになりますから、Hさんにも地元の学校と見てもらっているようです。だからこそ、お掃除に来てくれるのであり、地元のお祭りにも誘ってくれるのであり、それがKCPが地元ともに生きていく礎となっています。KCPも、バザーにお誘いしたり先学期のアートウィークの際にも声をおかけしたりしています。

明日はどんな活躍の話が聞けるのかな。

 

 

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上級レベルの聞かせる発表

11月11日(月)

毎週月曜日に最上級レベルを一緒に担当しているY先生がお休みだったため、2クラス合同の授業をしました。普通の授業はやりにくいので、流行語大賞にノミネートされた言葉を1つ選んで、それを調べてみんなにわかるように発表してもらいました。1人1つだと時間の問題もありますから、2人で1つを調べ、2人で分担して発表するということにしました。

だから、スマホで調べてもいいのですが、サイトに載っている説明文をそのまま読み上げてはいけません。それを自分なりに理解して、かみ砕いて、聞き手である他の学生たちに伝えるのです。教室の都合でパワーポイントが使えないという制約も加わりました。作業が始まると、2人組ですから、黙々とというよりはお互い意見を出し合って内容をまとめているようでした。

制限時間が来て、発表です。いつもより広い教室でしたが、どの学生も、教室の一番後ろに構えた私まで声が届きました。私が知らなかったノミネート語を取り上げたグループもありましたが、発表を聞いたら言葉の意味も背景もよくわかりました。何より、棒読み禁止というルールをきちんと守り、調べた内容を再構成して発表してくれたことに感心しました。さすが最上級レベルの面々ですね。

私は、今学期、この1つ下のレベルも、もう1つ下のレベルも教えていますが、そのクラスの学生たちは、これだけの発表は無理でしょうね。うちで調べた内容をまとめる時間が必要です。その時間を与えても、難解な言葉をそのまま口走っちゃう学生が続出するような気がします。

最上級レベルともなれば、毎日文法だ読解だという授業じゃもちません。こういうちょっとひねったことをする日も、たまには設けるべきですね。

 

 

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試験問題作成

11月9日(土)

今学期は上級のレベルを1つ担当していますから、久しぶりにテストづくりに励みました。気が付けば、来週の金曜日が中間テストです。

朝一番から読解の問題作成に取り組みました。とはいえ、読解の授業は1コマもしていないので、担当なさっている先生方からの情報をヒントに、どの部分を問うか決めていきました。まじめに授業を受けている学生、試験前にきちんと復習した学生が点を取れる問題にしたいですから、授業中の学生の反応やどこに力点を置いて授業をしたかなどを参考にして、作問します。

学校内の試験は、実力テストという側面と、まじめ度テストという側面があると思います。上級の読解はまじめ度テストの側面が若干強く、初級の文法テストは実力測定の面が色濃いでしょう。初級は、基礎が抜け落ちたまま進級することのないように、中間テストや期末テストでチェックしなければなりません。上級は、お腹が痛いとか言ってずるけたり授業中内職したりしている学生どもに天誅を下さなければなりません。

お昼を少し回ったころ、どうにか読解の問題を作り終えました。模範解答も作りましたから、来週の水曜日ぐらいまで寝かせて、もう一度問題を見てみます。問題が適切かどうか、模範解答が妥当かどうか、客観的に見直します。最終的な微調整を加えて、仕上げるつもりです。

昼ご飯を食べたら眠くなってしまい、漢字語彙の問題は約30点分しかできませんでした。でも、問題の構想はだいたいできましたから、来週早々にも作り上げます。文法はまだ手付かずですが、全体の進捗率は40%ぐらいでしょうから、順調と言っていいんじゃないのかな。最難関の読解がほぼ完成というのが大きいです。

明日はEJU。来週からは、私が担当する受験講座・理科の時間数が減りますから、テスト問題作りぐらいどうにかなるでしょう。

 

 

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受験のプレッシャーに打ち勝とう!

11月8日(金)

GさんはあさってEJUを受けます。6月のEJUで失敗していることもあり、なんとしても高得点を取りたいと思っています。高い目標を持つことは好ましいのですが、それが焦りにつながっている面があります。

受験講座で模擬テストをすると、いつも時間切れになってしまいます。Gさんの話によると、計算問題になると早く答えを出さなければと思うあまり、計算ミスを犯してしまうそうです。そうやって出した答えが選択肢にあるとそれをマークしてしまい、減点されてしまいます。ないと計算が間違っていると気づきますが、時間が気になって落ち着いて再計算できません。結局答えにたどり着けず、この場合も誤答となってしまいます。

また、親からのプレッシャーが半端じゃありません。親の期待に応えねばと常に思っているため、EJUのような大きな試験の前には眠れなくなるそうです。また、国で有名大学に進学した友人の話を聞くと、自分もそれに劣らぬところに進学せねばと、これまたプレッシャーになってしまいます。KCPでのクラスメートの合格の知らせに接するたびに、自分もそのぐらいの大学にと思ってしまうのです。

どうやら、Gさんは“自分は自分、人は人”と思えないたちのようです。試験会場の、まったく知らない受験生の一挙一動にも心を波立たせてしまうほどです。早々に解答を終えた受験生がいると“できるやつ”と思ってしまい、じっと考えている受験生が目に入ると賢そうに見えてしまうのです。私だったら、前者は解くのをあきらめたアホ、後者は解き方がひらめかない鈍い奴と思うでしょう。

もう、私には、Gさんの健闘を祈る以外、何もできません。

 

 

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ノートの取り方に見る日本語の実力の差

11月7日(木)

今学期は、選択授業で“身近な科学”をやっています。講義を聞きながらノートを取ることを想定した授業です。授業の最初にB5の紙を1枚配り、私の話を聞きながらそれにノートを取り、それを見ながら授業の最後に提示するテスト問題に答えるという形で進めます。最初に配ったB5用紙を集めて、学生たちが私の話をどれぐらい理解しているかわかります。上級というよりは超級の学生向けの授業ですが、KCPの中でもほんの上澄みの学生たちの中でも、実力の差が如実に表れます。

テストでいつも満点なのは、最上級クラスの大学院進学を目指す学生たちです。国の大学で講義の受け方を訓練されていますから、当然のことかもしれません。ノートの部分を見ても、要領よく話をまとめています。また、授業中の表情にも余裕が感じられます。これだったら大学院に進学しても日本人学生以上のパフォーマンスを示せそうだなと感じられます。安心して、すでに合格している一流校の大学院に送り出せます。

その一方で、ノートがすかすかな学生もいます。話の要点をメモすることも、パワーポイントから要点を抜き出すこともできていないと見るほかありません。点数を与えるつもりで出した問題にも答えられていません。授業中はうなずいたりジョークに反応したりしているのですが、頭に残るものは少ないようです。こちらは、進学してから苦労しそうだなと心配になります。私の話は、学生たちにとって聞きなれない言葉や概念が飛び交いますから、ノートがとりにくいことはあるかもしれません。そうだとしても、テストで半分くらいというのは、心もとないですねえ。

身近な科学は、まあ、ご愛敬みたいな授業ですから、ノートが取れなかったとしても実害はありません。でも、通常の文法とか読解とかがこんな調子だったとしたら、由々しきことです。教師の話の大半が右の耳から左の耳へ抜けちゃってるのですから。自分の授業で言いたいことが学生たちに伝わっているか、心配になってきました。

 

 

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3倍

11月6日(水)

「じゃあ、このプリントの文章を2分で黙読してください」と言って、速読練習のテキストを配りました。学生たちはいっせいに読み始めました。

「はい、2分経ちました。読み終わったかな?」と聞くと、みんな首を振ります。しかたないので、1分延長しました。B5・1枚にあまり小さくない字で書かれた文章ですから、3分以上あげたら速読になりません。ですから、3分でも読み終わらない学生もいましたが、そこで切りました。

最初に与えた2分という時間は、決していい加減に決めたものではありません。私が読んで30秒と少々だったので、その3倍ぐらいということで、120秒=2分としたのです。上級の学生なら、私が要した時間の3倍以内で読んでほしいという願いというか目標も込めています。

そういう意味で、このクラスの学生が誰も2分で読み終わらなかったのは、ちょっと力不足じゃないかと思います。このスピードでは、EJUの日本語で高得点は期待できませんし、JLPTのN1に引っかかるかもしれませんが、かろうじて合格というレベルのような気がします。

今までに私が受け持った学生の中で一番速く読めたのは、10年ぐらい前の学生のYさんです。どんな文章でも、私の1.5倍以内の時間で読めました。もちろん、飛ばし読みではなく意味をきちんと理解していました。日本人の高校生が使っている歴史の教科書で勉強して、東京外国語大学に合格しました。さすがだなあと思いました。受験のテクニックによる速読ではなく、読書量と語彙力で鍛え上げた、正攻法のスピードでした。

その後、かなりレベルの高い大学院に進学した学生も受け持ちましたが、日本語を読む速さにかけては、Yさんがいまだに最速です。Yさんの爪の垢をもらっておけばよかったなあと思っています。

 

 

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