Monthly Archives: 12月 2018

大学の嘆き

12月15日(土)

東京からは飛行機が一番便利なくらいの距離にあるA大学の先生が、こんなことをおっしゃっていました。「東京の日本語学校の学生さんは、なかなかウチへは来てくれません。だから、最近は海外の高校に直接学生募集をかけてるんです。海外までの旅費を考えても、そっちの方が効率がいいくらいなんですよ」。

A大学は、少なくとも日本人にとっては“いい大学”です。A大学ですら、東京での学生募集に苦労しているのかと驚いたくらいです。でも、それが現実のようです。

KCPの学生も、なかなか東京を離れようとしません。Jさんも、B大学とC大学の大学院に受かりましたが、日本人なら考えるまでもなく選ぶであろう国立B大学を捨てて、東京の私立のC大学にしようと考えています。いろいろと理由を言い立てていますが、東京から離れたくないという本心は見え見えです。

でも、留学生ばかりを責めるわけにもいきません。東京一極集中の結果が、A大学の嘆きであり、B大学を捨てようとするJさんの気持ちなのです。多様な人材を育てるとか、個性を重視するとかいっていますが、東京一極集中が改まらない限り、本当の意味でそういったことが実現する見込みは薄いでしょう。

まず、日本人の心が東京至上主義から変わることが必要です(そういう意味で、「東京」オリンピックじゃないほうが良かったんですがね)。私は、来年からの新しい天皇のお住まいを京都御所にすべきだと思っています。建前上、天皇は今も東京まで行幸なさっているのですから、京都にお戻りになることが本来の姿なのです。国会の開会のときは東京までお出ましになり、内閣が代わった時は大臣どもが雁首そろえて京都まで出向くのです。新任の大使は、京都駅から京都御所まで馬車で赴くのです。国賓の晩餐会も、京料理でいかがでしょう。

陛下の御動座はともかくとして、日本人の目が東京の外に向くようにしないと、少子化・人口減も相まって、日本の将来は明るくないと思います。

変な学生

12月14日(金)

最近Yさんの様子がおかしいです。めったに欠席する学生ではなかったのに、先週末あたりからよく休むようになりました。先月、N大学を受けており、合否がもう出ているはずなのに何も言ってきていないことからすると、きっと落ちたのだろうと、同じクラスを担当しているR先生と話していました。学校に出てこないということは、精神的に相当参っているかもしれないので、次に受ける大学の相談も慎重に持って行かねばならないと、頭を悩ませてきました。

ところが、やっと連絡が通じて話を聞いたところ、N大学に受かったのだけれども、親からの入学金の送金が遅れて、N大学の支払期限ぎりぎりになり、てこずっていたとか。無事手続きが終了し、来週からまた休まず出席するとのことでした。次の大学を調べたのは無駄になってしまいましたが、よしとしなければなりません。

今年は、受かっても報告に来ない学生がとみに増えたように思えます。義理堅いと思っていたKさんも合格日ではなく数日後だったし、昨日「先生、こんにちは」とにこやかに挨拶していたCさんは、時間的に見て合格を確認した直後だったようだし、Oさんにいたっては状況証拠を突きつけてやっと合格を知らせるありさまです。

自分のために気をもんでいる人がいることが頭にないのでしょうか。たとえ進学関係の指導は全て塾で受けているとしても、KCPには留学ビザを申請した責任があります。学生はそのビザで滞日しているのですから、進学状況がどうなったかKCPに知らせるのが筋というものです。この辺の思いが、今年の学生には伝わっていません。

今週末も、数校の入試があります。朗報は早く受け取りたいものです。

災変金進始難老

12月13日(木)

ちょうどうまい具合に、昨日、今年の漢字が発表されましたから、それを上級クラスの授業に使わせていただきました。今年の漢字は「災」です。大阪や北海道の地震や、豪雨で水浸しになったり土砂崩れが起きたりした西日本、毎週のように襲ってきた台風、大きいものでもこのぐらいあります。北海道の地震後のブラックアウトは人「災」だと見る向きもあります。1月の東京の大雪も、自然災害というよりは、雪が降らないことを前提とした都市づくりという意味で人災かもしれません。学生たちも「災」には納得していました。

で、毎年恒例になりつつありますが、学生各人の今年の漢字を書いてもらいました。留学生活が思ったより大変だったから「変」、初めての一人暮らしでお金のありがたみがわかったら「金」、ひたすら進学のために使った1年だったから「進」、留学していろいろなことを始めたから「始」、難しい問題にいっぱい直面したから「難」など、同じ漢字がぜんぜん出てこない、まさに十人十色の回答でした。

全体を通して見渡すと、学生たちにとって新しく始まった留学生活は環境の激変をもたらし、相当に苦労していることがよくわかりました。上級の学生たちですから、日本語でそれなりに意志の疎通はできるはずですが、それでもこうなのですから、日本語がゼロに近い状態で来日した学生の苦労はいかほどでしょう。改めて考えさせられました。

これまた恒例、「先生の今年の漢字は何ですか」という質問には「老」と答えました。毎年老いていくのですが、今年はそれを強く感じました。老眼が進み、腰痛の頻度が高まり、睡眠不足がこたえるようになりました。お昼抜きでもあまり空腹を感じなくなり、夕食すら面倒くさくて抜いてしまうこともあります。何が何でも食べたいという食欲がなくなったのも、「老」の一現象でしょう。

早くも12月半ば。残り少ない2018年を少しでも充実させたいです。

後先

12月12日(水)

“好きな食べ物は先に食べるか、後にするか”というテーマで、学生たちに話してもらいました。先派は、好きな食べ物はできたてを食べたい、熱い物は熱いうちに、冷たい物は冷たいうちに食べるのが一番おいしいなどということを理由に挙げていました。後派は、食事の最後を好きな味で締めくくりたい、最後に幸せな気持ちになりたいなどと言っていました。

日本は地震が多いですから、いつ地震が起きるかわかりません。いつでも地震が起きる可能性があります。もし、食事中に地震が起きて一番好きな食べ物を食べずに逃げなければならなくなったらとっても残念じゃないですか。だから、私は好きなものを最初に食べます。――と言ったら、学生たちは笑っていました。

今学期が始まったころは、こんなややこしい話は理解できなかったと思います。これが冗談だとわかって笑えたあたりに、学生たちの日本語力の伸びを感じました。このクラスは、今、中級への坂道の一番険しいところを通り抜けようとしています。私の話の面白みが感じ取れなかった学生は、残念ながら、来学期もう一度同じレベルになる気配が濃厚になってきたように思えます。ぽかんとしていた学生は、みな、今週行われた文法テストが悪かったですから、なおさらそんなにおいがします。

中級や上級を教える楽しさは、驚くべきところで驚き、笑うべきところで笑い、感心すべきところで感心してくれるところにあります。学生の立場で書き直すと、日本語で驚いたり笑ったり感心したり、果ては泣いたり感激したり憤慨したりできるようになるのが中級です。この域に達していない学生は、上がってきてほしくないです。

さて、実際の私は、熱い物と冷たい物は真っ先に食べます。でも、後派の気持ちもよくわかり、お菓子だったら一番好きなチョコレートは残しておくかな…。

厳しいなあ

12月11日(火)

国の親御さんから学生を預かり、上級学校へと送り出す立場としては、その送り出し先からの情報は非常に意味のあるものです。本人の希望が第一ですが、少なく、時には偏った情報から進学先を決めようとする学生たちに治して適切なアドバイスを出すのが私たちの仕事ですが、その際に役に立つのが大学や専門学校の関係者からの情報です。インターネットのような誰でも接することができる情報源とは違うところからの最新の情報は、先んずれば人を制すではありませんが、進路指導に欠かせないものです。

B大学の先生がいらっしゃって、今年の入試の状況を教えてくださいました。それによると、B大学第1期は去年の2倍の学生が志願し、受験したそうです。その先生にとっても予想外の数字だったとのことです。定員厳格化の影響が出ていると、はっきりおっしゃっていました。

そのせいだけとは言えないでしょうが、KCPも2名の不合格者を出してしまいました。1名は日本語テストの成績が悪かったといいますから、大学の授業についていける日本語力が身についていなかったのでしょう。その学生のレベルからしても、やむをえないところがありました。もう1名は、志望動機が曖昧だったと指摘されました。レベルからすると日本語テストも面接も十分対応できるはずなのですが、それでもそう言われるということは、どうしてもB大学に入りたいという意志を表に出すことができなかったのでしょう。でも、この学生、去年だったら受かってたんじゃないかなあ。受験生が増えたためにあぶれてしまった感があります。

第2期はこれからですが、毎年、どこの大学でも、2期は1期より入りにくいです。B大学も第1期以上の激戦が予想されます。出願する学生には、志望理由をがっちり固めさせなければなりません。これは他の大学を受ける学生も同様です。まだまだ戦いは続きます。越年闘争です。

教室が寒い

12月10日(月)

昨日からグーンと寒くなり、北国では平年よりだいぶ遅れたものの初雪が見られました。今朝は昨日以上に寒く、日中も10度を下回る寒さでした。最高気温は最も寒い時期よりも低かったのですが、最低気温は、あんなに寒くても平年以上でした。今年は暖冬でしたから、ちょっとの寒さが身にしみるのでしょう。

朝、クラスに入ると、暖房がついていませんでした。初級、特にレベル1は、相当寒くても授業が進むにつれてクラス全体が熱を帯びてきて、暖房どころか半袖になる学生も出てきますが、上級はそういう展開はあまり考えられません。予想通り、授業は淡々と進み、教室は寒いまま。コートを脱がずに授業を受けている学生もいます。上級ですから、寒かったら「エアコンをつけてください」ぐらい言えるはずですから、私は何ともない顔で授業をしていきました。うまい具合に、“寒い”と“お寒い”の違いは何かなんていう問題もありました。学生みんなが寒いのに耐えながら授業を受けているなんて、まさにお寒い教室です。

このクラス、テストをするとそれなりにできるのですが、みんなの前で話すのが好きじゃない学生が多いのです。面談のような1対1ならよくしゃべっても、授業で指名すると黙りこくってしまうか小声で必要最小限のことをボソッとつぶやくだけなのです。学期の最初のクラス作りで何かを間違えてしまったのでしょう。話す雰囲気を醸成できなかったのは、私の失敗です。

もう一つ、みんな大学院や大学の試験に気を取られて、落ち着いて授業を受けるどころではなかったこともあるでしょう。それから、最近は年を追うごとに個人主義の学生が増えています。個人主義だったら自分の肌感覚でエアコンをつけちゃうような気がします。でも、それほど暴れん坊じゃないんですね。

今週はもう少し寒い日が続きます。風邪をひかないように、授業前にエアコンをいれておいてあげましょう。

頭の整理

12月8日(土)

RさんはEJUの直前までほぼ無欠席で理科の受験講座に参加していました。先週から今週にかけて、そのRさんが志望理由書を書いています。理科系の志望理由書は、クラスの先生が持て余すことがしばしばで、私のところにお鉢がまわってくることが多いです。今回もその例に漏れず、私がRさんの志望理由書を見ることになりました。

Rさんはやりたいことが頭の中にあるのはいいのですが、そこに至る道筋が描けずにいます。要素技術とその応用が同列に語られ、志望理由書を読んだだけでは大学で何を勉強しようとしているのかわかりません。大きな目標と小さな目標とが志望理由書上で雑居しているのです。

まず、Rさんの頭の整理をします。自然エネルギーの有効活用などというような地球規模の大目標と、電気自動車のエネルギー効率改善など、生活のそばの目標に分けます。その小さいほうの目標を実現するためにはどんな技術開発が必要か、それを実現するには大学で何を学べばいいのか、QAをしながらRさんの学習計画に輪郭を与えます。そして、そういう勉強をするのにRさんの志望校が適している理由を考えていきます。

受験講座で1年間ずっと見続けてくると、自分のクラスの学生になったことはなくても、その学生の気心は知れてくるものです。Rさんはそういう学生ですから、口下手なRさんがうまく表現できない部分を私が補っていくこともできます。ゆうべの時点ではまだまだ志望校に提出できる段階ではありませんでしたが、週明けには仕上げてきてくれることでしょう。それをもとに、また議論を深めていきます。こうやって自分の頭を自分で鍛えていけば、合格がグッと近づきます。

怪しい影がいい香り

12月7日(金)

私は毎朝一番に出勤します。夏なら朝の光のおかげで出勤時でも職員室はけっこう明るいのですが、先月ぐらいからは街頭の弱々しい光がブラインドを通してさらに弱まり、窓際をわずかに白ませるだけです。

今朝、出勤すると、そんな真っ暗に近い職員室の私の机の上に、丸っこい影が浮かび上がりました。電気をつけると、真っ赤なリンゴでした。職員室の隅っこに置かれた箱からすると、A先生のご実家から送られてきたようです。机の上に置いたままだと仕事の最中に落としてしまいかねませんから、引き出しにしまいました。

午前中は、1か月ぶりの養成講座の授業でした。受講生の皆さんは来週から実習が始まり、再来週教壇に立つことになっています。そのための教案作りに追われ、今までとはどことなく違う雰囲気です。私は教案は書かないのかと聞かれましたが、書きません。もちろん、その日の授業範囲分ぐらいは教科書・教材に目を通します。それが経験というものだと思いますが、経験で物を語るようになったらもう進歩は望めないとも言います。教案に頭を悩ますことは成長痛なのです。

午後の授業の後は、来学期の受験講座の説明会でした。初級の進学コースの学生たちに受験講座の内容を説明し、受講する科目を決めてもらいます。これから実際に進学するまでの長期計画を立てることの重要性も訴えます。留学生入試は夏から始まりますから、事前に受けておかねばならないTOEFLまで含めると、半年足らずで人生の分かれ目がやってくる人もいます。思っているより時間がないよということも訴えました。

その説明会が終わって、マーカーをしまおうと引き出しを開けると、ほのかに芳香が。いただいたリンゴ、もう1日ぐらい置いてから持って帰ろうかな…。

12月6日(木)

授業後、Hさんに呼び止められました。

「先生、2月の旧正月に一時帰国したいんですが、いいですか。久しぶりに家族が集まるので親が帰って来いって言うんです」「Hさんは推薦入学で合格したんですよねえ。推薦入学の学生は気安く欠席しちゃいけないんですよ」「私も最近帰っていないから…」「その推薦入学だって、出席率の基準をぎりぎりクリアしていただけでしたよね。このごろ風邪で休んでいますから、今はもう基準以下かもしれませんね」「でもこれ以外は毎日必ず来ますから…」「来るだけじゃ意味がありません。中間テストの成績はいったい何なんですか。あれが推薦入学の学生の成績ですか。成績優秀な学生を推薦するんです。期末テストだってよほど勉強しない限る合格点は取れないでしょうね。2月にそんなに休んだら、卒業認定試験で合格点が取れないと思います」「卒業まで頑張りますから…」「口ではいくらでも言えます。それが本当に実行できるかです」「はい、大丈夫です」「全然大丈夫じゃないと思います。もう一度考え直してください」

Hさんの現状は、どう見ても推薦入学の学生像から外れています。Hさんには言いませんでしたが、合格させてくださった大学に頭を下げて、推薦を取り下げようとすら思っています。Hさんは遊びまくろうとまでは思っていないでしょうが、気が緩んでいることは確かです。一時帰国に関して、きちんと断りを入れてきたことは認めますが、それで「はいわかりました」とは、絶対に言えません。

推薦入学で進学を決めた学生が、その期待を裏切る振る舞いをするのはよくあることですが、よくあることで済ますわけにはいきません。さて、Hさんにはどう対処しましょうか…。

明日から寒くなります

12月5日(水)

私が持っている初級のクラスで、推量の「ようだ」を扱いました。導入をして、絵を見せて、そこに描かれている事柄について「ようだ」を使って文を作らせました。全体に聞いても答えが出てこないだろうと思って、1人ずつ指名して自分が書いた文を言ってもらいました。ところが、3人目ぐらいから、学生たちが自然に次々と文を言うようになりました。直前の人の文を発展させた文を作り出すなど、大いに驚かせられました。

優秀な学生もいるけど発話力に関しては疑問を抱き続けてきましたが、学期末が近づいてきて、ようやく一皮むけたようです。今学期、これほど学生の力の伸びを感じたことはありません。どうやらクリティカルポイントを越えて、中級にグッと近づいたのではないでしょうか。

初級と中級とは連続していますが、初級の終盤には胸突き八丁の坂があります。今、このクラスの学生たちはその坂を上っている最中ですが、どうやら峠の向こう側の景色が見え始めてきたようです。このままの勢いで進んでくれると、みんな進級できそうです。

しかし…。授業後に集めた宿題をチェックすると、つい先ほど感じた喜びが、いっぺんに完全に吹き飛んでしまいました。できるだけ長い例文を書くようにという指示があるのに、超省エネの例文ばかり。「どこかに/どこかで/どこに/どこで」の区別がついていない例文がざくざく。長音、濁音、促音、みんな怪しいです。近づいたかに見えた中級は、蜃気楼のように消え去ってしまいました。

明日の先生への申し送りを書く筆の重いこと。明日からの寒波が身にしみそうです。