Monthly Archives: 9月 2018

孤独な半袖

9月13日(木)

今朝、駅で電車を待っている人たちが黒くなっていてびっくりしました。月曜日の夕方の雨以来、気温がグッと下がって、秋を感じさせられています。今朝の最低気温18.5℃は、私が駅に着いたころに出ています。18.5℃なら秋のシックな服を着たとしても全く不自然ではありません。黒く見えたわけです。

私はまだ夏物の半袖のワイシャツを着ています。KCPは、9月いっぱいはノーネクタイの夏装束です。ノーネクタイなら半袖のほうがぴったり来ますから、多少肌寒くても半袖で押し通しているのです。でも、駅のホームで黒くなっていた人たちの目には、私はどう映ったのでしょう。

学生たちも、いつのまにか長袖が多数派になっていました。また、体調を崩して休む学生も増えているように思います。私のクラスのJさんもその1人のようです。8時半頃、欠席連絡のメールが入りました。

体調が悪かったら学校を休んで、一刻も早く回復を図るべきです。風邪をひいて咳をしながら学校へ来られても、うつされるかもしれませんから迷惑です。しかし、Jさんは最近の文法テストが思わしくなく、来学期進級できるかどうかの瀬戸際です。下痢とか頭痛とかで休んでいる暇などありません。KCPの授業は情け容赦なく進みますから、Jさんは次のテストも合格点が取れるかどうか怪しいです。

ひときわ暑かった今年の夏もようやく終わりが見えてきました。同時に、暑さ疲れが出てくる時期でもあります。Jさんみたいに進級がかかっている学生に限らず、受験でも正念場を迎えている学生がたくさんいます。健康管理にも気を使って、ここを乗り切ってもらいたいです。

朝の一騒動

9月12日(水)

朝、ようやくパソコンが立ち上がった頃、電話が鳴りました。学生からの欠席連絡かと思ったら、「Dタクシーです」というではありませんか。「お宅の学生さんがうちの車に忘れ物をしたんですが、どうしましょう?」「ああ、わざわざご連絡ありがとうございます。本人に伝えますので、学生の名前を教えていただけませんか」「すみません。学生の名前はわからないんですが」「え? じゃあ、どうして私どもの学生だとわかったんですか」「試験の成績通知書が入っていましてね、そこに学校の名前と電話番号が書いてありまして…」。どうやら、EJUの成績通知書に書かれた電話番号を見て、電話を掛けてくださったようです。

いろいろやり取りをして、学生のアルファベットの名前を聞きだし、システムで検索すると、上級クラスのBさんだということがわかりました。思うに、Bさんはアルバイトの帰りか飲んだ帰りかにタクシーを使い、降りたときに落としたか座席に置きっぱなしにしたかだったのでしょう。Bさんの住所と、Dタクシーの事務所はさほど遠いところではありませんから。

それから、Bさんにメールを送り、Dタクシーの事務所へ忘れ物を取りに行くように指示しました。在留カードが入っているとのことでしたから、ほったらかしにはできません。メールを送ったのが6:10ごろ。

その後は1日中授業や面接などで忙しかったのですが、Bさんのことはどこか気になっていました。でも、Bさんからは何の連絡もありません。クラスの授業には出ていたようですが、私には何も言ってきていません。在留カードやらEJUの成績やら、Bさんにとっては大切なものも入っているのに、どうしたのでしょう。明日の授業が終わったら、明日の先生に聞いてみましょう。

いつもと違う

9月11日(火)

朝、教室へ向かおうと外階段に出ると、スーツを着込んだSさんが私の後ろからついてきました。2人で一緒に教室に入ると、やはりスーツにネクタイのCさんが教室の隅に座っていました。そのCさんのそばには、ばっちりメイクをしてきたZさんがいます。午前の授業が終わったらすぐに、面接時の服装やメイクを指導してくれる特別講座があるのです。自分のファッションやお化粧について直接アドバイスしてもらおうと、馬子にも衣装みたいなスーツ姿で来たり、普段はスッピンに近い学生がきちんと口紅を塗ってきたりしているのです。

毎年、秋の衣替えが済んで、受験シーズンに差し掛かると、ネクタイの締め方を教えてくれという学生が数名私のところへ来ます。私は就職して以来何十年もネクタイを締めていますが、ネクタイの締め方は体で覚えてしまっていますから、改めて手取り足取り(いや、足は取りませんね、ネクタイなら)教えるとなると、戸惑ってしまいます。ましてやネクタイの選び方となると、自己流もはなはだしいですから、いくらオーソドックスに選ぼうと思っても、入試の面接の試験官の目には不自然に映るかもしれません。

そんなことなく、正統な着こなしや面接でのマナーを学んでほしいと思って、この講座が開かれたのです。私は学生指導などで講座の様子を直接見ることはできませんでしたが、参加した学生によると、ためになるアドバイスがもらえたとのことです。

人は中身だと言いつつも、見た目の第一印象でその人評価が決まる割合は50%を大きく上回るとか。志望理由書や研究計画書などの資料が豊富ですから、入試面接ではそこまで見た目の印象が占める割合は高くないとは思います。でも、決して無視し得ないほどの重さだと思います。

外見を整えるのも、面接官への気遣いであり、その学校への敬意の表れだと思います。今回の講座で得たことを生かして、合格に結びつけて、有意義な留学へとつなげていってほしいです。

欠席メール

9月10日(月)

8時過ぎにXさんから、エアコンをきかせすぎて熱を出したので休むというメールが届きました。熱があるときに休むのはしかたがないことですが、Xさんは最近休みがちで、今月の出席率は60%。このまま休むと50%になってしまいます。そういう意味のメールを送ると、数分後に「じゃあ行きます」という返信が来ました。

Xさんのクラス担当のF先生によると、Xさんは9時には教室におり、ごく普通に授業を受けていたとのことです。Xさんのうちは学校まで歩いて10分ほどですから、私からのメールを見てからうちを出ても、始業には間に合います。9月の出席率に驚いて泡を食って学校へ来たことは明らかで、要するにずる休みしようと思ったのです。

Yさんは毎月出席率が80%を切っているため、事務所で来学期の授業料を受け取ってもらえそうにありません。私のところにどうしましょうと相談に来ましたが、私が言えることは、期末テストの日まで休まずに来いというだけです。Yさんもまた、なんとなく行く気がしないからとかという程度で気安く休み、ここに至ってしまいました。しかも、授業料を受け取ってもらえないのは、今回が初めてではありません。学習しないというか、期末テストまでの2~3週間だけ必死に通えばあとは適当でよいという悪知恵だけつけたというか、困ったものです。

Xさん、Yさんのほかにも休み癖がついてしまった学生が少なくありません。大志を抱いて留学してきたはずなのに、それをすっかりどこかに置き忘れています。Xさんは今学期の新入生ですが、これではさきがおもいやられます。Yさんは高い潜在能力を持っていながら、それが「潜在」のまま終わりそうです。一番残念な思いをするのは、私たち教師ではなく、当の本人なのですがねえ。

電話をかけなければなりません

9月8日(土)

昨日レベル1のクラスで回収した文法の宿題をチェックしました。レベル1の最初のころは「~です」とか「~ます」とか言っていればいいのですが、期末テストが近づいてくると、反射神経だけではすまないような、頭を使わなければならない問題も出てきます。

例えば、“(駅で)危ないですから後ろから『押します』”とあって、この『押します』を適当な形に変換するというものです。直前の問題の答えが“~なければなりません”だからといって、惰性で“押さなければなりません”などと書いたら、教師の逆鱗に触れてしまいます。“いい天気ですから傘を持って行かないでください”というのも、何も考えずに答えているなと思われてしまいます。

そんな中に、“夜遅いですから、電話を『かけます』”という問題がありました。私の感覚では、「かけないでください」か「かけてはいけません」ですが、「かけなければなりません」という答えが少なからずありました。できる学生でもそう答えていました。もしかすると、学生たちの感覚では、夜遅いからこそ、友達や家族と思い切り話ができる、宿題や受験勉強が終わってからの貴重な気晴らしタイムだという意識があるのかもしれません。

私が学生たちと同じ年代のころは携帯電話がありませんでした(あっても非常に高かった)から、自宅から通っている友人に夜遅く電話をかけるのは気が引けました。でも今は、電話は個々人が所有するものですから、その人が夜型人間だったら、むしろ夜遅くかけるべきなのです。

言葉は生ものですから、その使われ方は世の中の動きにつれて変わっていくものです。「かけなければなりません」に×をつけながら、10年後にこの問題はどうなっているのだろうと思いました。まあ、そのころまでには、宿題の採点は教師するのではなく、AIの仕事になっていて、私の悩みなど雲散霧消するような気の利いた直し方をしているかもしれません…。

期末に向けて

9月7日(金)

久しぶりにレベル1の授業。その前後に、そのクラスの学生の面接をしました。

Aさんは1学期だけ勉強して帰国する短期コースの学生です。期末テストの翌日に家族が来日し、富士山と関西を旅行して国へ帰るそうです。旅行をとても楽しみにしているようでした。国へ帰ったらすぐ仕事が始まります。大学卒業から入社までの休暇を利用して、KCPに留学したとのこと。日本はこういうことができないんですよね。私も修論の発表から入社式までの間に3週間ばかりヨーロッパ旅行しました。そのときの見聞が、今の私の根幹を成していると思っています。それよりもはるかに長い時間を、旅行者ではなく生活者として異国で暮らしてきたのですから、KCPでの留学がAさんの人生に与えるであろう影響は、かなりのものだと思います。

Cさんは日本で大学に進学するために、今KCPで勉強しています。でも、まだ、志望校どころか大学で何を勉強するかすら決まっていません。「経済ですか、文学ですか、化学ですか、もっと違う勉強ですか」と聞くと「経済」と答えましたが、もしかすると聞いてわかった単語が経済だけだったのかもしれません。受験が迫っている学生ばかりを相手にしていると、Cさんみたいな学生は何と間が抜けたと思ってしまいますが、レベル1に入学したばかりだとこちらが普通なのでしょう。鍛え甲斐があるとも考えられます。

授業後、Aさんは会話の練習の相手になってくれないかと言ってきました。残り少ない留学の日々を少しでも有効に使おうという意志を感じました。成績がいいCさんにはレベル3へのジャンプを勧めました。難しい課題に挑戦することで伸びていきそうな手応えを感じました。こういう経験ができるのが、一番下のレベルを教える醍醐味だと思います。

災害授業

9月6日(木)

課外授業で、有明にあるそなエリアとパナソニックセンターへ行ってきました。パナソニックセンターは去年の水上バス旅行の際に行きましたが、そなエリアはまるっきり初めてでした。

課外授業における教師の役割は、まず、学生の見守り役です。解散時まで学生の安全を図るのが最大の職責です。しかし、そなエリアの展示物はそれを忘れさせる迫力がありました。ネタバレになりますからあまり詳しくは書けませんが、大震災に見舞われた直後の東京(と思しき街)を再現したり、防災の心掛けや災害に遭ってしまってからの心構えが説かれたり、避難所で使うこまごまとしたものの準備方法が実地で学べたりしていて、思わずのめりこみたくなってしまいます。

そなエリアは首都圏が大きな災害に見舞われたときに対策本部が置かれるところで、その司令室も階上から見学できました。屋上ヘリポートは見に行きたかったのですが、本務を思い出してとどまりました。仕事を離れ、個人的にじっくり見学したいと思いました。

学生もけっこう夢中になっていて、タスクシートの質問の答えを真剣に探していました。中には友達の答えを丸写しする学生もいましたが、じゃあ展示物や体験コーナーに興味を示さなかったのかといえばむしろその逆で、そっちに熱中しすぎて答えを見つけに行くのが面倒くさくなってしまったようです。

今朝ほども北海道で震度7を記録する地震がありました。そなエリアのスタッフも盛んにそれを話題にしていました。学生たちが、日本にいる間にそういう目に遭わなければ幸いですが、その保証は全くありません。不幸にも被災してしまった時に、その傷口をできるだけ小さくし、一刻も早く立ち直れるように、というのがこの課外授業の主旨でしたが、学生たちは感じ取ってくれたかな…。

激突

9月5日(水)

関西地方は台風21号の風雨によってかなりの被害が出ました。船が激突して橋げたがずれてしまった関西空港連絡橋の画像・映像にはただただ驚くばかりでした。その関西空港は、高潮で数十センチも浸水し、機能不全に陥っています。高潮といえば、芦屋の海岸にも襲ってきて、家が流されそうになったそうです。京都では文化財がかなり損害を受けたと報じられています。

稀に見る強力な台風が上陸したことは確かですが、こちらの想像を絶するようなところに傷跡を残しています。二条城や大覚寺もそうですが、大阪湾にコンテナが漂流しているというのは、阪神淡路大震災のときにもなかったことではないでしょうか。私が毎年春に歩き回っている平穏な街並みで、屋根が吹き飛ばされたり泥水が暴れまわったり車が燃えたりなどということが起こっているのです。にわかには信じられません。

そんな中で、JR西日本を始めとする鉄道各社が午前中から計画運休をし、電車がらみの被害がなかったことは特筆に値します。不満に感じた人も多かったと思いますが、船が激突した時に連絡橋の上を電車が通りがかっていたら、悲惨なことになっていたかもしれません。駅間で停電し、大勢の人が電車に缶詰にされたら大きなニュースになっていたでしょう。関空で5000名が缶詰には及ばないでしょうが。

今年は6月に大阪府北部地震がありました。比較的自然災害が少ないと思われていた関西の平野部に天変地異が集中しているようにも思えます。日本列島は災害列島だと改めて感じさせられました。

予算5000万円

9月4日(火)

「先生、東京のマンションはどちらがおすすめですか」と、Tさんから突然聞かれました。一瞬どういうことかわからなくてあれこれ聞き返してみると、Tさんのご両親がTさんのために東京でマンションを買ってくれると言っているのだそうです。ですから、都区内で買うとしたらどの辺のを買うのがいいかという質問でした。

「予算は?」「5000万円ぐらいです」「5000万あればこの近くでもいいのが買えると思うよ。富久クロスは億ションだっていうけど」…ということで、諸費用込みで5000万円ほどの物件を探しているようです。Tさんは大学院に進学して、もしかすると研究員として日本に残るかもしれません。そう考えると、5000万円で子どもにしっかりとした生活の場を与えるというのも、親としては妥当な投資のような気もします。Tさんが日本で仕事を続け、家庭を持ち、生活の基盤を築くのならそのマンションを持ち続けてもいいし、帰国するのならその時点で売り払っても子どもの充実した留学生活に寄与したとして、よしとするのでしょう。

富久クロスの億ションの話をしたらちょっと目つきが変わりましたから、Tさんの親御さんはもしかすると5000万円どころかもっと出すかもしれません。バブルの頃の日本人も、アメリカあたりでこんな勘定をしていたのでしょう。これが国の勢いの違いかなあと思います。先進国の中で日本だけがこの20年ほどの間で経済成長がほとんどありません。低成長といわれているヨーロッパ各国でさえ、経済規模が1.5倍ぐらいになっているそうです。

Tさんが5000万円か1億円のマンションで学生生活を送ってもいいですが、学生の本分と親御さんへの感謝は忘れないでもらいたいです。根がまじめなTさんならそんなことはないと思いますが…。

甘い生活

9月3日(月)

最近、財布をなくしたといって事務所へ来る学生が増えたように思えます。また、忘れ物として財布が届けられることも何件かあります。授業後、教師や日直が教室を点検して机の中に置きっぱなしになっている財布を見つけることもあります。残念ながら、「なくした」のほうが出てくる件数よりも多いため、なくしたと訴えてきた学生全員の手に財布が戻ってはいません。

詳しく話を聞いてみると、鞄のファスナーなどを閉めずに、口が開いた状態で教室やラウンジなどに置いたという例も見られます。確かに盗るやつが一番悪いですが、これなんかは盗られた方も重大な不注意を犯しているといわざるを得ません。誰もいない部屋に貴重品の入った鞄を置いたままどこかへ行ってしまうというのも、いかがなものかと思います。自分の国でも同じようなことをしてきたのでしょうか。

日本は治安がいいとよく言われます。しかし、それは程度の問題であって、悪人が全くいないという意味ではありません。本屋やコンビニなどでは万引きが増えているといいます。人ごみではスリに用心するのが常識です。もちろん、置き引きに遭わないように自己防衛しなければなりません。KCPの学生は、無邪気というか、無防備というか、そこのところの脇が甘いんじゃないかなあ。オリエンテーションでさんざん注意はしているんですけどね。

最大限の注意を払ってなおかつこうなってしまったのならともかく、抜け落ちがたくさんある状態で不愉快な目に遭ったとしたら、だから日本は暮らしにくいとか、想像とは全然違ったとか言ってほしくありません。冷たい言い方ですが、そこでなくしたお金は授業料です。授業料は1回払えば十分です。

留学生活を楽しみたかったら、必要最低限の身を守る姿勢ぐらいは身に付けておいてほしいです。