Monthly Archives: 8月 2018

そろそろ

8月31日(金)

昼休みに、YさんがA大学の志望理由書を持ってきました。A大学全体や志望学部のホームページを読み込んでいることはわかりましたが、まだ自分の言葉になっていないところがあります。辞書で調べて固い表現を使おうとしているのはいい傾向ですが、その言葉が浮いているんですねえ。いかにも使いつけない単語をこねくり回しているという感じがします。誰にでも書ける文章ではないものの、インパクトがいまひとつという気がします。

Yさんの次はBさんが面接練習を申し込んできました。本番は3週間ほど先ですが、ちょっと内気なBさんが自分の光る部分を語れるようになるには、少々時間が必要です。来週から鍛えていくことにしました。

毎年、受験日直前になって、何を着ていったらいいかとか、ネクタイの結び方を教えてくれとか、靴下は黒じゃないとダメかとか、急に不安になった学生からあれこれいろいろと聞かれます。また、誰がどうひいき目に見ても絶対に似合っているとは言いかねる格好で試験場からKCPに寄る学生も少なくありません。今年は、服装関係の専門の方をお呼びして、面接試験を受けるときの服装の基本的なマナーについて講義していただくことにしました。その講義への参加者を募集したところ、講堂がサラッといっぱいになるくらいの人数になりました。

8月末日、締め切りが早い指定校推薦の校内選考の応募締め切りでした。クラスで「最終日」と聞いて私も応募したいと言ってきた学生が2名。しかし、2名とも志望学部が合わなかったため、応募には至りませんでした。

たった今、JASSOから6月のEJUの結果で奨学金の予約ができることになった学生への通知書が届きました。宛名を見ると、しかるべき学生がもらえることになったようです。

夏休みが終わり、8月も終わり、学校全体を受験モードにしていかなければなりません。

若いうちに

8月30日(木)

Sさんは今年の4月生で、T大学を第1志望校にしている初級の学生です。T大学は超難関校ですから、来年首尾よく入れるかどうかわかりません。その場合、どうするかという話になりました。要するに、T大学に入ることにこだわるか、1年でも早く進学することを優先するかです。

私は1年でも早く進学することを勧めました。Sさんは理科系の学生で、将来は研究者になろうと考えています。理科系の研究者は若いときにどれだけいい仕事をするかで人生が決まります。ですから、若くて柔軟な頭脳を1年間受験勉強というあまり創造的とは思えないことに縛り付けておくことには賛成できません。偏差値レベルとしてはT大学に劣る大学でも、そこに入って早く専門教育を受け、研究を進める力を身に付け、センスを磨き、1秒でも早く研究の第一線での競争に参戦することが、研究者としての人生をより実りあるものとすると思います。

また、理科系の場合、入りやすい大学に入って、大学院入試でいわゆる一流大学を狙うことも可能です。さらに、すでに故国を後にしている留学生なら、日本の大学から海外の大学院に進学することについても、日本人の大学生より壁が低いと思います。

KCPの営業的には2年勉強してもらったほうがいいです。でも、Sさんの理数系の実力をもってすれば、日本語の実力を順調に伸ばしていければ、年明けが独自試験となる国立大学なら、合格の芽もないわけではありません。だから、Sさんには1年で進学して、研究者として輝く道を進んでほしいのです。そういう意味で、Sさんは私にとって希望の星です。

しまっていこうぜ

8月29日(水)

超級クラスで漢字のテストがありました。9時に出席を取ってテスト用紙を配ろうとすると、Mさんが「あれっ?」とも「しまった!」ともつかない顔で周りの友達に何か聞いていました。Cさんはテスト用紙が配られても問題に取り掛かろうとしません。2人とも、テストがあることをすっかり忘れていたのです。Mさんは無理して受けましたが結局不合格、Cさんは棄権扱いで0点。後日再試験を受けてもらうことになります。

テストは学生の仕事みたいなものです。予定は学期の最初に発表されています。それにもかかわらず忘れたとは、学生にあるまじき姿勢です。夏休みで緊張感が失われてしまったのでしょうか。2人とも自分が悪いと思っているようですから、追い討ちをかけるようなことはしませんでしたが、十分に反省してほしいです。

Yさんは来年進学の予定です。もう間もなく志望校の出願が始まります。国の高校の書類も取り寄せているようですし、併願校の出願期間や試験日なども予定表に記されています。しかし、夏休みはうちでごろごろしていたそうです。1日ぐらいはのんびりしたいという気持ちはわかりますが、それがだらだらと1週間も続いてしまったに違いありません。こちらも、切迫感のなさがにじみ出ています。

最近Kさんに会っていません。今月初めに夏風邪で休んでから、すっかり休み癖がついてしまったようで、心配しています。授業後、ちょっときつめの警告メールを送りました。このままでは冗談抜きで、ビザの要件に合わないということで、帰国してもらわねばなりません。優秀な学生だけに、こんな形で挫折させたくはありません。

灰色の学生生活を強要するつもりはありませんが、なんだか緩んじゃってるなあ…。

亡霊

8月28日(火)

夕方、受験講座が終わって職員室に下りてくると、私のクラスのWさんがK先生と大学院の出願書類について相談していました。「先生、Wさんは授業中大学院の書類を書くなんていうことはしていませんでしたよね」とK先生。「ええ、全然そんなこと、ありませんでしたよ」と私。Wさんが授業中に書類作成するなんて、ありえなかったのです。午前中のクラス授業は欠席していたのですから。

Dさんは美大の大学院を目指す学生です。授業後に面接をすると、作品には自信があるけれども、面接官に何か聞かれたら上手に答えられるかどうかはわからないと言います。入学以来のDさんの成績を見ると、聴解がずっと悪いです。聞き取れないから答えられない、だから「読む」に力を入れてきてそれに頼り切って、その結果が上述の不安なのです。入学から1年余り、「読む」だけでテストの成績を整え進級を続けてきましたが、苦手の克服を怠ってきたツケが出願直前にいたって、覆い隠すべくもなく露になったのです。

先学期までのDさんは自信過剰で、聞き取れなくても話せなくても自分には実力があると思い込んでいました。しかし、今学期、いざ出願するに及んで、自分の作品のすばらしさも語れない、だから面接官にそれを伝えようもなく、日本語教師ではない一般の日本人が話す言葉がさっぱりわからないというコミュニケーション力のなさに愕然としています。

Wさんだって、一歩間違えればDさんです。授業をサボってどんなに立派な書類を完成させても、いや、書類が立派なら立派なほど、面接官はWさんの話す言葉とのギャップに愕然とするでしょう。最悪の場合、書類は自分で作ったのではないと判定されてしまうかもしれません。

学生たちはロングスパンの物の見方ができません。だから、学生が目先の事柄に捕らわれすぎていたら遠くを見させるのも教師の重要な役目です。明日からも面接が続きますが、熱に浮かされている学生を目覚めさせるのに苦労する毎日となるのでしょう。

歩き心地

8月27日(月)

8月19日(日)14:34、室戸岬近くのバス停にバスが着くはずの時刻ですが、まだ来ていません。田舎のバスは、乗降のない停留所が多いので、終点にちょうど定刻に着くように、途中の停留所へはやや遅れ気味で来ることがよくありますから、数分の遅延は気になりません。14:44、10分経ちましたが、まだ来ません。バス会社に連絡しようかと思いましたが、停留所の時刻表には連絡先が書いてありません。終点で11分の接続で電車に乗る予定ですから、穏やかではいられません。14:50、16分遅れでバスが来ました。私が乗るや否や、バスは猛スピードで走り出しました。国道55号線の、追い越し禁止となっているようなS字カーブも攻めまくって、信号のないことをいいことに直線では思い切り踏み込み、とろとろ走っている軽自動車を追い抜き、見る見る遅れを回復し、駅前には4分遅れで到着。30分強の乗車時間で12分も稼いだのです。

…これが、この夏休み最大のビックリでした。先週はずっと四国にいましたが、室戸の翌日に高松へ移動したため、台風19号20号の影響もほとんどありませんでした。讃岐山脈の偉大さに感心させられました。徳島県では元気だった雨雲も、讃岐山脈にぶち当たると消えてしまうのです。先週は、四国は雨がよく降ったのですが、香川県だけは台風が通過した23日深夜だけでした。だから、最大のビックリがバスの遅延回復だったのです。

室戸岬のほかに、四国八十八か所の結願の寺・大窪寺、讃岐平野の真ん中に盛り上がる讃岐富士こと飯野山と、少々マニアックなところを狙いました。それぞれ、1日に30キロ以上歩きました。それぞれ、山の頂上から下界を見下ろすところがあり、大汗をかいて息を切らせながら苦しい思いをして登ったけれども、この景色が見られるなら苦しんだ甲斐があったと心の底から思いました。

四国は、歩き遍路の伝統があるからでしょうか、歩行者に優しいと思います。横断歩道のところで立っていると、車が止まってくれる確率が本州九州北海道より高いように思います。また、「へんろ道」とかかれた赤い矢印が電柱やガードレールなどに貼られていて、陰から導いてくれます。四国の主だった観光地はほとんど見てしまいましたが、なぜかまた行きたくなるのは、こんなことがあるからなのでしょう。

旅館の作法

8月17日(金)

朝、パソコンを立ち上げると、私のクラスの新入生Yさんからメールが来ていました。Yさんは日本文学に興味を持っており、夏休みに伊豆の踊子を追って天城山へ行きたいと書いてありました。ちょっと待って。伊豆の踊子なら天城山ではなく、天城峠です。あのトンネルは、苦労して天城山に登ってもありません。

それから、「日本のお風呂(温泉)と食事のルールがわかりません」と書いてあります。想像するに、修善寺かどこかの温泉旅館を予約したけれども、和風旅館に泊まるのは初めてで、館内でどうすればよいかわからず、不安になっているのでしょう。でも、温泉のルールと言われても、湯船に入る前にかけ湯をするくらいしか思いつきません。お湯の中で泳いだり石鹸を使ったりしてはいけないというようなアドバイスが欲しいのでしょうか。Yさんは髪が短いですからお湯の表面に髪が広がってしまう心配はないし、日本の温泉は素っ裸ではいるものだというのは世界的な常識になっているし、ほかに何があるでしょう。まさか、湯上りには腰に手を当てて瓶に入った冷たいコーヒー牛乳を飲み、卓球をすることなどという、なつかしの映画の一場面みたいなことを求めてはいないでしょうね。

食事のルールとなると、さらに難関です。部屋に食事が運ばれてくるのなら、自分のペースで勝手に食べればいいし、いわゆるお食事処で供せられるのなら、普通の食堂と変わる所はないでしょう。お見合いの席での会席料理や会社の接待なら緊張の一つもすべきでしょうが、そうではないのですから、刺し箸をしたところでとがめられはしません。移し箸はどんな場合でもいけませんが、一人旅のようですから、その心配もありません。

どうアドバイスすればいいかわからないので、本人を呼び出しました。天城山と天城峠は気づいていませんでした。山登りだから、絶壁があったらどうしようと思っていたようです。お風呂と食事のルールも、自分の知っている範囲で十分だというお墨付きが欲しかったようです。時に授業中居眠りをするくらいの図太さを持っているYさんですが、学校の外では不安をいっぱい感じているのでしょう。意外な繊細さを見て、驚きました。

私も明日から夏休みです。明日は、徳島県阿南泊。ちょっとマニアックな旅をしてきます。

土俵際

8月16日(木)

9:45、教室のドアがノックされたかと思うと、Jさんが入ってきました。私と目が合うと、ちょっと申し訳なさそうに小声で「おはようございます」と言いました。

10:45、後半の授業の出席をとり終わると同時ぐらいのタイミングで、Gさんが入ってきました。授業開始時のどさくさに紛れて席に着こうとしたのかもしれませんが、ちょっと遅かったですね。

授業後、2人に遅刻の理由を聞くと、2人とも「2時ごろまで宿題をしました」と言います。しかし、昨日の宿題は2時までかかるほどの分量ではありませんでした。何時から宿題をはじめたのかと尋ねると、11時からとか12時からとかという答えが返ってきました。「それまで何してたの」と聞くと、Jさんはゲーム、Gさんは何もしていなかったと、蚊の鳴くような声。要するに、勉強よりも遊びを優先したあげく、朝寝坊して、遅刻してしまったというわけです。

遊びっぱなしで寝てしまわなかっただけましかもしれません。今学期の初めごろだったら、宿題はしてこなかった可能性が強いです。少し進歩だなと思いましたが、ここではほめません。でも、JさんもGさんも、そろそろ辛い時期に入りつつあるのかなあとは思いました。

進学という目標は掲げていますが、そのゴールへの道のりははるかに遠く、また、入学当初の日本語ゼロに近かった頃のように自分の実力の伸びを実感できなくなってくるのもこの時期です。心が折れそうになるかもしれませんが、折れてしまったら文字通りの挫折です。折れてしまったら、ゲーム三昧、無気力生活、引きこもりで、奈落の底へ一直線です。

あさってから夏休みです。生活を建て直すチャンスでもあります。再来週また会うときは、吹っ切れて一回り成長していてもらいたいです。

テストができる

8月15日(水)

中間テストの採点をすると、やはり緻密に勉強している学生は成績がいいです。話すだけならクラスで一番のCさんも、筆答試験となるときちんと積み上げてきているBさんにはかないません。コミュニケーション力ならAさんがピカイチですが、試験の点数ではBさんに一歩譲ります。

ペーパーテストの場合、濁点を落としたり誤字を書いたりしたら、どんどん減点されます。会話力だったら勢いや強い印象が重要なポイントですが、中間テストなどでは正確さがそれ以上のポイントとなります。ですから、地味ですが理詰めで論理的な頭脳を持っているBさんのような学生が有利になります。注意力が勝負だとも言えますから、几帳面なBさんがなお有利です。

音声言語は録音しない限り後には残りませんが、文字言語はしっかり記録されます。そのため、間違いも解答用紙の上に固定化されます。逆に、正確な日本語も目に見える形で光り続けます。だから、よけいにBさんの上手さが焼き付けられ、高く評価したくなります。

Bさんはペーパーテストしかできない偏った学生だと言いたいわけではありません。むしろその逆で、話すインパクトは弱いけれどもよく聞けばすばらしいことを言っているし、それは実は文法や語彙の使い方の正確さに裏付けられていたのだと、改めて感心しています。

頭でっかちの学生は、テストで点を稼いで、言語不明瞭なまま進級していきます。例文レベルなら〇がもらえる程度のものが書けるけれども、作文となったら論旨を追うだけで疲れ果ててしまうような文章しかかけない学生も、思いつくだけで数名います。テストで測りきれない力を持っていることこそが、本当に「上手」な人なのです。その点で言えば、CさんもAさんも立派なものだと思います。

整理整頓

8月14日(火)

中間テスト。定期テストの日は、いつもとは違うクラスの試験監督をしますから、いつもとは違う教室のパソコンを使います。こういうときに私がすることは、デスクトップの整理です。私は、デスクトップ上にいろいろなアイコンが散らばっていると、気持ち悪くてなりません。自分が入るクラスの教室のパソコンは、週に1~2回チェックしますからデスクトップが満天の星状態になることはありません。しかし、中間テストや期末テストで入るクラスは、そうはいきません。好き勝手なところにショートカットやパワーポイントや動画や音声やワードなどが置かれ、このクラスの先生方はこれで平気なのだろうかと思わずにはいられません。

デスクトップにアイコンがたくさんあると、どれが本当に必要なものかわからなくなると思います。職員室の私のパソコンは、一目で把握できる程度の数のものしかデスクトップに置いてありません。画面左端から3行以内と自己規制しています。それよりも多くなったら、あまり使わないのをどこかにしまいます。たまに早々としまいすぎて、引っ張り出すのに時間を食ったり、またデスクトップに戻したりということもありますが、長期間の平均を取れば、片付けてしまったほうが効率的だと信じています。

じゃあ、ほかは何でも片付いているのかというと、決してそんなことはありません。パソコンの中の仮想的な机の上ではなく、リアルな机の上は書類が積み上がり、パソコンのモニターの横にはファイルが立ち並んでいます。こういうものを思い切って処分できたら気分がいいのでしょうが、なかなかそうもいかないところが辛いところです。

中間テストが終わり、採点すべき答案用紙や原稿用紙が、積み上がってしまいました。

覚悟を決めさせる

8月13日(月)

指定校推薦の推薦者を決める面接をしました。2名の学生が面接に臨みました。どちらの学生もまじめではあるのですが、いまひとつパンチに欠けます。

Mさんは、先学期まで受け持っていた先生方の話によると、いわゆるモラトリアム学生で、自分の進路を決め切れていません。指定校推薦の話を聞いて、自分は条件を満たしているので応募してみようかなというのが本音のようです。志望理由書にはそれらしいことが書いてありましたが、小手調べのツッコミにもたじたじとなってしまいました。志望校の研究も足りないし、志望学部についても深く調べた形跡がありませんでした。

Sさんは、Mさんよりは調べが進んでいる様子でしたが、話し方がたどたどしい感じで、このまま本番の面接に出すわけにはいきません。志望理由書には立派な文言が書かれていただけに、そのギャップが目立ってしまい、大学の面接官は不審を抱くのではないかと思いました。

2人とも、本人としてはいい加減な気持ちではないのでしょうが、私の目からは全然まだまだ。合格ラインははるかかなたです。推薦するにしても、志望理由から徹底的に鍛え直す必要があります。考え方が甘いので、そこを突き詰めて、真に自分の学びたいことを見つけさせた上で出願させようと思っています。これに耐えられないのなら、推薦に値しないとして、ばっさり切り捨てます。

指定校推薦の制度は、大学側とKCPとの間の信頼関係に基づいて成り立っています。楽な入試制度としてしか見ていない学生や、学問に対する考えが深まらない学生は、いくら枠が空いていても推薦するわけにはいきません。MさんとSさんはそういう学生ではないと信じていますが、本当に推薦するならこれから相当引っ張り上げていかねばなりません。その過程で2人の人生に対する覚悟が定まれば、これもまた推薦入学制度の効果の1つです。