Monthly Archives: 5月 2018

逃げを打つ

5月31日(木)

先週末に外部で行われたEJUの模擬テストの成績を受験した学生たちに伝えました。このテストは、成績を見て一喜一憂するのではなく、知らない会場で知らない顔に囲まれてテストを受けるという、いわばアウェーの雰囲気に浸ること、40分で読解問題25問をきっちり解くこと、そういったことを実体験して、本番に備えることに意義があります。慣らし運転などという言葉は最近聞かなくなりましたが、まさにそれだと思います。

Lさんは読解の時間が足りなかったと言います。10分かかった問題もあったそうです。40分で25問ですから、どう考えても時間の掛けすぎです。これじゃいけないと軌道修正するための模擬テストですから、本番で同じ失敗を繰り返さなければ、模試を受験した甲斐があったというものです。

Hさんは読解の本文に引かれてしまい、問題を解くのを忘れてしまったと言っていました。残念なことですが、入試の問題文は楽しんではいけません。興味がそそられても、内容がおもしろくても、問題なのだと割り切る必要があります。Hさんも自分の失敗に気付いていますから、本番はどうにかしてくれるでしょう。

さて、申し込んだ学生の9割はきちんと受けましたが、残りの1割は当日欠席しました。その1割の学生を呼び出しました。欠席の理由は、寝坊だったり試験があることを忘れていたりと、緊張感のかけらも感じられませんでした。さらにひどいのは、召喚に応じなかった学生たちです。Jさんにいたっては、授業には出ていたのに逃げ帰ってしまったようです。自分の行動に対してあまりにも無責任です。この模擬テストはKCPが単独で行うのではなく、T専門学校のご好意により参加させていただいているのだということを、学生たちには繰り返し伝えました。それでもしょうもない理由で休んだり、その理由を述べることすらどうにか避けようとしたりするなど、言語道断です。

これらの学生の行動は、記録簿にしっかり明記しておきました。卒業するまで、いや、卒業後もずっと残ります。KCPは、永久に不滅ですから…。

6階の満員電車

5月30日(水)

こういう日に限って、授業後に追試を受けたいとか質問があるとかいう学生が多く、一刻も早く進学フェアの会場へ行きたかったのに、結構時間を食ってしまいました。そんなわけで、私が会場に入ったときは満員電車状態。どの大学のブースも、学生が鈴なりでした。

迷える子羊状態の学生がいたら、その場であの大学に行けとかそっちの大学の話を聞いてこいとかアドバイスするつもりでしたが、そんな学生はほとんどいませんでした。フェアが終わった後で参加してくださった大学の方にお話を伺ったら、下調べをしてこのフェアに臨んだ学生が多かったと、異口同音におっしゃっていました。先週からそういう指導をしてきた甲斐がありました。

それからもう1つ、大学の方が強調なさっていたことは、日本語力の大切さです。日本語でコミュニケーションが取れなければ、大学や大学院に進学しても伸びません。授業がわからないのは論外ですが、教授も自分の指示が伝わらない学生は研究の手助けもできませんから、面倒を見たくないのだそうです。日本語学校の教師は日本語のわからない学生の面倒を見るのが仕事ですから、教師が学生側に1歩も2歩も踏み込んであれこれ手助けしますが、大学の先生方はそれが主たる業務ではありません。日本語がわからなくて研究の足を引っ張りかねない学生が敬遠されるのも当然のことです。

一番困るのは、資料だけをもらって、それで満足してしまった学生です。そういう学生は、資料を読みもしないことが多いです。なんだかそれっぽい学生を何人か見かけたことが、少し気懸かりです。

学生を幸せにする大学

5月29日(火)

Yさんは今の校舎を建てている時の、仮校舎時代の卒業生です。J大学とS大学に合格し、母国でも名の通っているJ大学に進学しろという親と大喧嘩した末、自分の勉強したいことが勉強できるS大学に進学しました。S大学で大学院まで進み、就職戦線も勝ち抜き、大手のK社から内定を取りました。生まれて初めて親に逆らってまでS大学に入ったことが、日本人学生も羨むような会社への就職に結び付いたのです。

YさんがJ大学を受けたのも、やっぱり有名大学の学生になりたかったからです。しかし、面接練習の受け答えには鋭さが欠けていました。Yさんの本心を知っていたからかもしれませんが、いかにも作り物の答えというにおいがぷんぷんしていました。それでもJ大学に受かってしまったのですから、優秀な頭脳を持っていたのだと思います。

S大学のときは、包み隠さず本心を吐露すればそれが面接の答えになりますから、実にのびのびとこちらの質問に答えていました。パンフレットを読み、現地を見て、どうしてもこの大学で学びたいという気持ちが募り、それも面接本番に表情やことばのはしばしからほとばしり出たのでしょう。

世間的には本命のJ大学、滑り止めのS大学ですが、Yさんにとっては世間体のJ大学、本命のS大学でした。YさんがS大学で大いに努力したことは確かですが、それを苦しいとか辛いとか思っていませんでした。勉強したいことを勉強している喜びのほうがはるかに大きく、KCPへ来た時はいつも生き生きとした顔をしていました。その延長線上に、K社への就職内定があるのです。

やっぱり大学は名前よりも学問の中身です。明日は校内進学フェアですが、そこまで考えて大学担当者の話を聞いてもらいたいです。

わずか1時間

5月28日(月)

授業後、クラスの学生の面接をしました。中間テストの結果をもとに成績、進路や生活について話を聞き、アドバイスをしたり相談に乗ったりします。時には説教もします。

Yさん、Gさん、Cさんの3人の話を聞きましたが、3人に共通していたことは、自宅学習が1時間ということです。今学期でKCPをやめて帰国するとか言うのなら大目に見てあげてもいいですが、3人とも大学院や大学への進学を希望しています。たった1時間では宿題も満足にできないかもしれません。いわんや、受験勉強なんかしていないに等しいです。Yさんは6月のEJUは受けずに11月で勝負すると言っていますし、Gさんも6月の成績はあまり期待していないと弱気な発言をしています。大学院志望のCさんも、7月に受けることになっているJLPTの勉強が進んでいる気配は感じられませんでした。

アルバイトで忙しいというのなら、好ましいことではありませんが、勉強時間が1時間というのも理解できます。しかし、3名はアルバイトをしていません。Yさんは宿題をしたらすぐ寝てしまい、日々の睡眠時間は12時間だそうです。Cさんは日本の音楽を聞いたり小説を読んだりしているそうですが、中間テストの読解が不合格では、その効果は疑わしい限りです。Gさんにいたってはさらに要領を得ず、毎日何となく時間が過ぎているそうです。

志望校にしても、大学院受験のCさんは自分の研究したいことができるところを2校見つけていますが、Yさんは特に根拠がなくN大学と言い、Gさんは全く何も決まっていない状況です。30日に行われる校内進学フェアで目を見開いてもらわねば、どうにもならなくなってしまいます。

受験講座に出ている学生たちはこんなことになっていませんが、私たちのチェック網をすり抜けている学生たちの動向が気になります。面接した3人みたいな学生が他のクラスにも同じようにいるとしたら、今年の進学はどうなってしまうのでしょう。

お神輿が来た

5月26日(土)

お昼過ぎ、1階で仕事をしていると、「わっしょい、わっしょい」という掛け声が遠くからだんだん近づいてくるのが聞こえてきました。今週末は花園神社のお祭で、こども神輿が学校の前の道を通ったのです。

花園小学校は全校児童が100名ちょっとだというのに、お神輿の周りには50人ぐらいの子どもがいました。いったいどこからこんなに子どもが集まったのだろうという感じでした。このあたりの町内会は下町的なつながりがありますから、お祭となると親も子も血が騒いで、家にこもってなんかいられなくなるのでしょう。

お神輿のそばには、明らかに日本人ではない雰囲気の子どもも、白いはっぴを着てはちまきをして歩いていました。嫌々付き合わされているのではなく、子どもながらにお神輿を守るという重い責任を感じ、とても凛々しい顔をしていました。外国人だから…などという区別も差別も遠慮も特別扱いもありません。新宿区は約30万人の日本人と4万数千人の外国人とから構成されています。1割以上が外国籍の方ですから、お神輿を担ぐ子どもに数名の外国人が含まれていても何ら不思議はありません。むしろ、こうやって取り立てるほうが不自然なくらいです。

明日は、KCPの学生もお神輿を担ぐことになっています。はっぴに地下足袋といういっちょまえの装束を身に付けます。お神輿を担ぐ学生たちの出身地にも、何がしかのお祭はあるでしょう。そのお祭に地元住民として参加するのと同じように、明日はお客さんではなく自分の街のお祭だと思ってお神輿を担いでもらいたいです。

復活

5月25日(金)

金曜日は、みどりの日、運動会、中間テストと3週間連続でつぶれていましたから、ほぼ1か月ぶりに金曜の初級クラスに入りました。4月の最終週は御苑でお花見だったのでろくに授業をしませんでしたから、ほとんどアウェー状態でした。この間、諸般の事情であるクラスに集中的に代講に入りましたから、そちらのクラスのほうが事情がよくわかるほどです。まあ、こういうのは惑星直列みたいなレアケースでしょうが…。

出席を取る時はごくわずかな特徴的な学生しか覚えていませんでした。でも、幸いにも返却物が何種類もあったので、それを返しながらどうにか顔と名前を一致させていきました。だんだん勘を取り戻してきましたが、まだパキパキと指名する段階には至りません。できる学生だと思って難しい問題を当てたら、その学生はあわあわするばかりで大いに当てがはずれたり、集中していない学生を指名したつもりがその隣の隣の学生だったり…。このクラスは机の上に置くネームプレートを作っていたことすら忘れていました。

初級は特に顔と名前をしっかり覚えて、次々と指名して緊張感を持たせながら練習していくことが肝要です。頭で理解していても、口が回らなければコミュニケーションは取れません。コミュニケーションを無視した語学の勉強は、畳の上の水練に過ぎません。個人指名がうまくいかない分をコーラスでごまかしちゃいましたが、これじゃあ必要最低限をかろうじてこなしたっていうだけです。

今学期は期末テストも金曜日ですから、このクラスの私の授業はあと3回。頭の中の配線が復旧しつつあります。学生たちの実になる授業をしていきたいです。

みんな受けてきて

5月24日(木)

今週末、T専門学校が主催するEJUの模擬テストが行われます。受験希望者を募り、その名前をT専門学校に送り、受験番号をもらい、それを受験する学生に伝えるという作業をしてきました。今年も大勢の学生がこのテストに申し込んでいますが、数年前、実際に受験したのが半分くらいだったという事件がありました。

学校間の信頼関係の上に立ってテストに参加させてもらっているのですから、その信頼関係をぶち壊すような行為は非常に困ります。「受けてください」と言われて「それでは…」というのではなく、自ら「受けます」と申し出たにもかかわらず「やっぱりやーめた」と言いもせずに欠席してしまうのです。その神経が、私にはわかりません。

ケータイでいつでも連絡がつくようになってから約束が軽くなったという話を聞いたことがあります。とりあえずつばだけつけておいて、ちょっとでも都合が悪くなったり面倒くさくなったりしたらあっさりキャンセルというパターンです。キャンセルの連絡をしていたうちは今思えばまだよかったのですが、キャンセルし慣れてくるとその連絡も省略してしまい、約束の重みが失われていったのだそうです。

先日の運動会だって、選手に選ばれていたのに無断欠席して、周りに迷惑をかけた学生が1人2人ではありませんでした。中間テストの結果を見ながらの面接だって、自分で選んだ日時なのにすっぽかす学生が、クラスに必ずいます。自己中とかわがままとかという言葉で片付けてしまうのは危険だと思います。

ことばの重みを教えるのも、ことばを教える教師の役割だと思います。そのためには、自分自身が自分のことばに責任を持たなければなりません。

目盛りをメモリー

5月23日(水)

漢字の時間に「盛」の字を取り上げました。教科書には、「繁盛」「全盛期」など、「盛」といえば「大盛り」の学生たちにとって普段見慣れない使い方が載っています。教科書に載っている用例以外に「花盛り」と板書して「読めますか」と聞いたところ、さすがに「はなもり」は出てきませんでした。私がわざわざ聞くくらいですから、「はなもり」などという単純な読み方ではないだろうということぐらいは見当がつきます。1か月以上も付き合っているんですからね。少しひねって「かもり」という答えが出てきましたが、そこまででした。

答えが出てきそうもないので、「はなざかり」と板書すると、「グォーッ」というような驚きの声が上がりました。意味を教え、この場合の「盛り」は「全盛期」の「盛」と同じなんだよと解説すると、みんな一斉にノートに取っていました。「働き盛り」「食べ盛り」「伸び盛り」などは、応用で意味が理解できました。「君たちの日本語の実力は、今が伸び盛り? それとも伸び盛りが過ぎちゃった?」なんて聞いたら、ドキッとした表情の学生もいました。

次に「目盛り」と書くと、お決まりのように「めざかり」。「めもり」と口でだけ言うと、「メモリー?」と聞き返してきました。カタカナ語の「メモリー」の日本語流漢字表記だと思ったのでしょう。これもほうっておいたら授業時間が終わるまでわからないでしょうから、定規の絵を描いて、この細かい線のことだと説明すると、みんな納得しました。

この「目盛り」なんていうのは、日本人なら小学生でも知っていることばですが、KCPに限らずほとんどの留学生は知らないでしょう。もちろん、学生たちの国の言葉に「目盛り」はあるでしょう。ごくシンプルな概念なんですが、それを表す日本語がわからないという例は、かなりあるはずです。「みんなの日本語」で取り上げるほど基礎的ではなくても、どこかで改めて取り上げられることのない単語が山ほどあります。そんな単語を、「留学生だけ知らない日本語」として、ことあるごとに取り上げています。

好印象

5月22日(火)

授業を終え、教室から外階段を下りて職員室に入ろうとすると、3月に卒業したGさんがいました。Gさんは進学先がなかなか決まらず、卒業式が過ぎて、期末テストの頃にS大学に合格しました。ですから、6月のEJUを申し込んでしまっていたのです。その受験票が先週末に学校に届き、それを受け取りに来たというわけです。

「EJU、受けるの?」「はい。大学の授業を聞いて受験勉強の内容がわかるようになってきたところもあるし、大学の授業を理解するために高校の教科書を勉強しなおしていますから」「大学の勉強はおもしろい?」「出席率100%ですよ」「当たり前だろ、まだ1か月ちょっとなんだから」「でもS大学は思っていたよりいい大学です。大学院進学や就職にも有利みたいだし」「そうだよね。S大学だったら日本だけじゃなくて世界に出ても勝負できるよ」「でも、出席を全然取らない授業もあるし、プリントを持ち込んでもいいテストもあるし、甘い感じもします」「自分で自分をコントロールできないと生きていけないんだよ。変に安心していたら、成績が出てから泣くぞ」

進学先に絶望して仮面浪人しているわけではなさそうなので、安心しました。1か月半で新入生の心を捕らえたのですから、S大学は大したものだと思います。でも、反面、授業の管理は私が学生のころとあまり変わっていないようでもあります。その後、T大学に進学したKさんから、スマホを使った厳密な出席管理の話を聞かされましたから、なおさらS大学のおおらかさが浮かび上がりました。

こういう情報をもとに、在学生の進路指導をしていきます。S大学は、大きなプラスポイントを得ました。

ねじを締める

5月21日(月)

先週金曜日の中間テストには全員顔をそろえたのに、今朝8:55頃、私が教室に入ると、まだ半分ぐらいしか来ていませんでした。その後の5分間でばたばたと来たのですが、9時の時点で5名が欠席。うち1名は出席を取り終わった直後に入室したので大目に見るとしても、マイナス4名。最終的には欠席は2名でしたが、気が緩んでいることは否めません。遅刻の言い訳が寝坊ですからね。中間テストは、終わりじゃなくて、まだもう半分残っている、文字通り中間点なんですがね。

中間テストまで来ると、各クラスのカラーが明確になってきます。今学期の私のクラスは、元気はいいのですが教師に頼りたがるきらいがあります。教師の問いかけが、誰もわからない答えられないとなると、教師が答えをいうのを期待する目の色になります。わからないながらも答えを探し続けるとか、考え抜くとか、そういう意志が弱いのです。ですから、後半戦は私も容易に答えを言わず、どうにか答えにたどり着く苦労を学ばせたいと思っています。

さて、その初日。読解で指示詞の指す内容を問いかけました。まず、セオリーどおり、指示詞の直前の文を答えてくる学生がいました。しかし、私が指示詞を直前の文に置き換えて読み上げると、意味不明であることが明らかになりました。こうなると、黙りこくってしまいます。時間がかかることを覚悟の上で、動作主を考えさせ、前段落からの文章の流れを把握させ、その中において問題となっている指示詞が何を示しているのか、まとめさせました。

比較的カンのいい学生は、答えが見えてきました。私のヒントを組み合わせて、不完全ながらも「内容」にたどり着いた道筋を語ってくれました。まあ、初回ですから、このくらいにしておきましょう。次のレベルにあがるまでには、もう少しどうにかなってなきゃね。