Monthly Archives: 10月 2015

小説を読む

10月30日(金)

金曜日の選択授業、私の担当は「小説を読む」です。ただ読むだけでは受け身すぎるので、何だかんだと理由をつけては書かせています。最上級クラスですから、文章力のある学生の作品を読んでいると、彼らにとって外国語で書いているのだということを忘れてしまいそうになります。

思うに、そういう学生は国にいたときから文章を書くのが好きで、実際に書いていたのでしょう。同時に、質の高い文章をたくさん読んできているとも思います。文章の構成、論の進め方が理にかなっています。読み手の引き付け方が、おそらくは自然に、身に付いています。

学問をして大成するのは、こんな人たちだと思います。文章を書いたり読んだりするということは、説得したりされたり、反論されたりしたりということであり、まさに学問の基礎です。本人の意識はともかく、頭脳はそういう訓練をして満を持して留学に来ているのです。これからも今までのペースで努力を続ければ、成功は向こうから転がり込んできます。そして、それは、おそらく、彼らにとってそんなに難しいことではないはずです。

そういう学生たちの唯一の弱点は、使うことばのレベルです。やっぱり、どうしても易しい言葉を使いまわしがちで、表現の深みが今一歩です。そういう点を学生たちに示し、意味が通じるプラスアルファの要素があることを伝えました。今学期いっぱい、この学生たちの成長を見守っていきたいです。成長を実感したいです。

聞き取れない

10月29日(木)

今週末に入試を控えた学生2名の面接練習をしました。中級の学生でしたが、発音が悪いのに驚かされました。留学生の日本語ならほとんどわかってしまう私ですら聞き取れなかったのですから、相当なレベルです。

Wさんは母音の発音がまずく、オ列とウ列の区別が付きにくいです。特に拗音がひどいです。「日本語がジューズになりたい」なんて言ってるうちは、金輪際上手になれませんよ。

Bさんは口をあまり動かさないでもぞもぞ話しますから、これまた聞き取りにくいことこの上ありません。そんなわけで、ついつい口元に目が行ってしまうのですが、Bさんはあごの骨が小さいので、口を大きく開けられないのではないかと思えてきました。

KCPは初級から発音に力を入れていますが、この2人は発音練習をいい加減に済ませてきたんでしょうね。毎週1回ぐらいのペースである発音チェックも、とりあえずこなすって感じだったのでしょう。だから、チェックした先生からのコメントも、頭に全く残らなかったんじゃないかな。

教師のほうも、忙しさにかまけてか、この2人のフォローを十分にしてこなかったのかもしれません。「また今度」「誰かがしてくれるだろう」が積み重なって、ここに至ってしまったことも考えられます。いずれにしても、ここまで来てしまったら発音矯正は半端な手間ではありません。

私が初級クラスに入るときは、コーラスをさせても耳を澄ませて変な発音を拾おうとしています。学生にはくどいって思われてるでしょうけど、おかしな発音だったらコーラスしなおさせます。口を動かしていない学生は、指名して一人で言わせます。それは、WさんやBさんのような例を未然に防ぐためですが、残念ながら防ぎきれているとは言えません。

WさんとBさんには、今週末の入試まで時間がありませんが、残された時間で必死に発音練習して、少しでも聞き取りやすい発音を身に付けて本番に臨んでもらいたいです。

どこで勉強?

10月28日(水)

Sさんが飛ばしています。先学期、初級クラスで受け持った学生ですが、文法と作文の成績が不合格でしたから、進級させませんでした。そのSさん、傍若無人の振る舞いが見られると、今学期の先生がおっしゃっていました。

Sさんは大学進学を目指していて、毎日塾に通っています。勉強熱心なのはいいのですが、塾が生活の中心になり、学校の勉強にまじめに取り組もうとしません。どんなに注意しても、EJUの問題を解く受験のテクニックを覚えることに一生懸命で、日本語を基礎からきちんと身に付けていこうとはしません。KCPはビザをもらうための隠れ蓑で、KCPで勉強する気はないのです。

塾とKCPとでは求めているものが違い、SさんにとってはKCPの勉強は生ぬるく、塾の勉強こそ自分の目標に合致しているのでしょう。そう思うのはSさんの勝手であり、塾で留学ビザが取れるなら、SさんはKCPに入学することなく塾で勉強したに違いありません。そういうことをしたい学生は、Sさんだけに留まるとは思えません。

日本の大学もなめられたものです。テクニックだけで入れるって思われちゃってるんですからね。実際、テクニックだけで入ったとしか思えない留学生がいるって、有名大学に進学したKCPの卒業生が言っています。そんなことをしているようじゃ、日本の大学の国際競争力は下がる一方でしょう。

今週、Sさんは第二志望校への出願を済ませました。第一志望校は来週です。どちらも留学生誰もが行きたいと思う大学です。Sさんが受かったら、KCPは、当然、合格者実績としてカウントすることでしょう。それを次の学生募集につなげていくことでしょう。でも、私の本心は、Sさんはカウントしたくないですね。

日本語はイマイチだけど

10月27日(火)

進学コース理科系のCさんは中級クラスですが、あまり中級っぽい話し方ではありません。内容のあることを話そうとしても、たどたどしさが最初に出てしまいます。単文を組み合わせて自分の考えを伝えようとしているので、日本語教師の私なら真意がある程度理解できても、入試の面接官が相手だったら、果たしてどうでしょう。

Cさんは、第一志望としてR大学を目指しています。R大学は難関校の一つですが、今までの合格者の傾向を見ると、日本語力の高さよりどれぐらい理科が好きかを見ているように思えます。2年前に入ったZさんも今のCさんと同じくらい日本語が下手でした。でも、理科の話になると目の色が変わり、表情が生き生きとし始め、そのつたない日本語に必死に耳を傾けると、実にしっかりしたことを言っているのです。その翌年のWさんも同様で、普段はどこかつかみどころがないのですが、自分の夢を語るときは、どことなく精悍な顔つきになりました。

Cさんは、残念ながら、今のところ、その先輩たちの域には達していません。私はCさんとの付き合いが長いですから、言いたいことがなんとなく響いてきます。「なんとなく」では、入試は通用しませんから、それが自然に出てくるように、そして、ZさんやWさんのように熱意がほとばしり出るような話ができるように、これから鍛えていかなければなりません。

もう一人、Dさんも理系志望の学生で、こちらはS大学の志望理由書で詰まっています。どこで仕入れたのか、妙に専門的な話をし始めています。ZさんやWさんのようなひたむきさよりも、自分を大きく見せたいのか、Dさんからは知識をひけらかそうとするにおいが感じられます。本当に専門的ならともかく、私程度の者でもひねりつぶせそうな知識ですから、面接官にちょっと意地悪されたらひとたまりもありません。それに、入学前に専門をキメ打ちすぎると、いい勉強ができません。何でも一旦は受け止めて味わって、その中から真に自分にあった分野を深めるってぐらいの気持ちが必要です。Dさんの理科を勉強したいという純粋な気持ちが表に出るように、志望理由書は全面的に書き直させました。

CさんやDさんの理科を愛する気持ちを伸ばしてくれる大学に進学させてあげたいです。

コートがいっぱい

10月26日(月)

24日(土)の深夜、東京に木枯らし1号が吹きました。土曜日、帰宅するころは風がちょっと強いという程度でしたが、夜中にかけて次第に風が強まり、寝る頃には音を立てて吹いていました。日曜日の朝はきれいに晴れ上がりましたが、ベランダには隣の家から飛んできたと思われるサンダルが、片足ずつ2種類。私はサンダルを室内にしまっておきましたが、飛んできたのは私のと同じくらい安物の軽いやつでしたから、出しておいたら行方不明になったでしょう。

昨日の日中は陽もあったのでそんなに寒いと思いませんでしたが、家の目の前にあるショッピングモール内のユニクロで冬物のジャケットを買ってしまいました。今朝は、先週よりも厚手のスーツを着たのですが、少々寒さを感じました。気象庁によると、最低気温は11.7度、コートを着るほうが当然の気温でした。そのため、遅くお見えの先生はコートをかけるハンガーを見つけるのが大変そうでした。

でも、学生の中には半袖で平気な顔をしているのがいます。風邪を引きさえしなければ薄着は結構なことですが、半袖を着ていたJさんは受験生ですから、健康管理には十分気を使ってもらいたいものです。

10月は季節がグンと進む月です。新学期の準備をしていた頃は腕まくりをするくらいの陽気でしたが、今朝なんかはとひざ掛けがほしいと思いました。暖房は入れませんでしたが、私がアサイチでする仕事が増えるまでに、そんなに長い時間はかかりそうもありません。

明日、試験

10月24日(土)

今週から受験講座や選択授業が始まり、また、クラブ活動も再開し、今学期も定常運転に入りつつあります。10月期はEJUとJLPTがあり、大学・専門学校の受験シーズンでもあり、上級ほど落ち着かない雰囲気があります。私のパソコンにも志望理由書を直してくれとか、面接の受け答えはこれでいいかとかという学生からのメールが連日入ってきます。今学期のうちに行き先が決まってしまえば、最後の学期は日本語の勉強が楽しめることでしょう。

夏の入り口ぐらいに始まった日本語教師養成講座は、今日が私の担当講義の最終回。そして、明日が日本語教育能力検定試験です。それに向けての対策をびしびしやったわけではありませんから、合格の見込みがどのくらいかは見当がつきません。でも、受講初期に比べると、確実に日本語教師の発想ができるようになっていると思います。講義の中での私の質問に対して、最初のころは見当はずれな答えばかりでしたが、最近はかなりレベルの高い答えが出てくるようになりました。文法や語彙などで議論ができるようになりました。

それに比べると、私のところに入ってくる志望理由書などは、もう少し歯ごたえがほしいところです。進歩してないわけじゃありませんが、もっと大またで歩いてもらいたいところです。1段飛ばしで階段を駆け上がるくらいの勢いが感じられないところがじれったいです。受験講座で理科の過去問も解説を聞いている学生たちも、うなずくポイントがちょいと基礎側に寄ってるんじゃないかな。

世間では学問の秋と言いつつも、日本語学校にとっては受験の秋です。受験生の頭の中を熟成する時間がほしいですが、戦場に送り出さなければなりません。まずは、明日ですね。

第2志望

10月23日(木)

FさんがK大学に受かりました。第1志望の学科に落ちて、第2志望の学科だとは言っていましたが、声からも表情からも一安心という穏やかさと喜びが垣間見えました。確かに第1志望ではありませんが、1年生の時に本気で勉強して好成績を挙げれば転学科という目も出てくるかもしれません。また、そうしているうちに、その学科の学問に魅力を感じるようにならないとも限りません。

外国人留学生の場合、面接で志望動機や将来設計をかなり詳しく聞かれることが多いですから、必然的にそういうことについて深く考えるようになり、それゆえ、どうしても第1志望にっていう気持ちにもなります。しかし、その留学生より1つか2つ下の日本人の高校生は、大学入試の時点でそこまで厳しく追及されることはありません。だから、第2志望でもまあいいかって気持ちのところもあるでしょう。

確固たる志望動機や将来設計を持つことは大切ですが、それに縛られちゃいけません。自分が描いた絵図面以外の将来像はない、なんてことはありません。人間万事塞翁が馬ですよ。Fさんも、ゆったりと現実を受け止めたほうがいいです。目の前の事態のいい面を見つめることも必要です。

Gさんは少し遅れて進学コースに入学しました。だから、昼休みに受験講座の説明をしました。話を聞くと、数学ができないから文系に進みたいということだけは決めていましたが、そこ止まりでした。なんにも考えないで日本へ来ちゃったんだなと思いました。同時に、日本の高校生もこんなもんなんだろうなとも。

日本の高校生は大学に入ってから将来を考えても間に合いますが、留学生は大学に入る前にその部分をかたらねばなりません。Gさんをちょうど1年後の入試シーズンまでにFさん並みに鍛えることができるんだろうかって考えると、肩が重くなりました。

切りますか

10月22日(木)

Kさんは先学期末の受験講座説明会に出席し、申込用紙をもらっていました。でも、締切日までに申し込むのを忘れ、今日になって申し込んでもいいかと聞いてきました。

大学なら、履修登録締切日をすぎたら、絶対受け付けてもらえません。だから「ダメ」とはねつけることもできるのですが、ここは何かと日本語力に問題のある人たちがその問題をなくしていこうと勉強している学校ですから、そこまで冷たくしてしまうと、意欲のある学生から勉強するチャンスを奪ってしまいかねません。

かといって、学生の希望を何でも聞いていたら、かえって学生のためになりません。期日なんて守らなくても何とかなるって思うようになったら、進学や就職してからうんと痛い目に遭うことは明らかです。

こういう場合は、まず、本人の意図を確認します。Kさんは来春専門学校に入りたいといいます。とすると、受験講座じゃありません。Kさんと同期の学生たちは2017年の大学進学を目指していますから、Kさんがそういう学生向けの授業を受けても、あまりご利益はなさそうです。そういうことを踏まえて、Kさんには受験講座は受けなくてもいいというアドバイスをしました。そして、専門学校に出願したら必要となる面接の準備をしておくよう勧めました。

労働生産性って観点からすると、実に非効率な働き方です。でも、Kさんの満足げな後姿を見送ると、こういう仕事が私に与えられた仕事なんだろうなと思います。

ノートを取らせる

10月21日(水)

選択授業が始まりました。今学期は、また、身近な科学を担当します。水曜日は聴解関係の選択授業ということなので、単に私がしゃべるのではなく、ノートを取らせてそのノートを提出してもらうことにしました。大学や大学院に進学したら、教授の講義を聴いて、要点をノートしなければならないのですから、その練習です。

授業が終わって、そのノートを集め、点検してみると、まず、90分ノートを取り続けるのは大変らしく、中だるみが見られる学生が数名。パワーポイントをそのまま写そうとして失敗していたり、要点じゃないところを写していたりというのも数名。本人にはわかるのかもしれませんが、私には判読不能な地の学生が1名、初めから全くノートを取らなかったのが1名。その一方で、実にポイントを押さえたノートを取っている学生、絵入りで見た目もわかりやすくしている学生、明らかに読みやすさを意識しながらまとめている学生など、進学先でも十分にやっていけそうなノートの学生もいました。日本語力は同じぐらいなんだけど、ずいぶん差がつくものだと思いました。

きれいなノートの代表はOさん。美術系の大学進学が決まっているくらいですから、ノートにもデザイン性が感じられます。ノートの落書きも芸術的で、感心させられました。要点をとらえたノートの代表はLさん。私自身が自分の話の要点を再確認させられるくらいでした。でも、Lさんは自分の考えを作文にすることが苦手です。情報を受信する力だけでなく、発信する力もつけていってもらいたいです。

今学期の身近な科学はこんな調子でやっていきます。学生に、つまらなすぎてノートを取る気も起きなかった、なんて言われないような授業を心がけます。

倒れた???

10月20日(火)

9時10分前、午前クラスの教師たちの朝礼が始まってもE先生は姿を見せません。ゆうべ、「明日」の授業内容についてのメールを送り、それに対して10月20日という日付の入った教案を送ってきましたから、E先生が授業の日にちを忘れているとは思えません。事情を確認するためにE先生に電話をかけると、通勤途中に倒れて駅の救護室に運ばれていたことがわかりました。

午後クラスの先生に大急ぎで代講を頼みました。前半は漢字のプリントなどがありましたが、後半はE先生が独自の資料で授業をすることになっていましたから、どうにもなりません。これまた周りの先生からすぐ出てくる教材を借りて、急場をしのぎました。後刻E先生から送られてきた資料を見ると、私がお願いした授業内容を見事に反映した資料で、もしかするとこれを作るために寝不足になり、倒れてしまったのではと思えるほどの内容でした。

E先生は私の半分にも満たない年齢で、少なくとも見た目には不健康そうではありません。こういうふうに、若くてパワーがありそうな人が倒れたり病気になったりするたびに、何が健康を左右するんだろうかと考えさせられます。私のように食事も睡眠も不規則極まりなく、運動不足もはなはだしい者のほうが、よっぽど倒れちゃいそうなんですがねえ。酒煙草を全くやらないっていうのが、そんなに健康に効いているとも思えません。

いずれにしても、あれだけの力作が日の目を見なかったというのは、E先生自身が最も残念なはずです。さらに言えば、それだけの授業を聞きそこなった学生こそが最大の被害者かもしれません。次回のE先生の日に、その授業をしてもらおうかと、予定変更を考えています。