Category Archives: 勉強

どんな勉強?

4月13日(木)

昨日のこの稿で取り上げたHさん、数学のS先生によると、数学に関しては先学期から勉強しているPさんやWさんよりよくできるそうです。理系の数学が難しすぎるのではなく、本当に基礎を再確認したいのかもしれません。私の担当している物理も、解けると思った問題が解けず、前に戻って勉強し直すと言っていました。

学生は、とかく先へ先へと進みたがります。わかったつもりを繰り返したあげく、基礎がガタガタのまま、入学試験のような範囲の広い試験を受け、跳ね返されることがよくあります。「間違えた問題は間違えなくなるまで何度でも解いてみること」と言うと、Pさんは「同じ問題を何回も解きますか」とびっくりしたような顔で聞き返してきました。「日本の受験生はみんなそうしているよ」と答えると、不思議そうな顔をしていました。

Hさんがそういう学生ではなく、やり直しを厭わず勉強していくのなら、今後に希望が持てそうです。6月のEJUに間に合うかどうかは微妙なところですが、確実な前進を積み重ねれば、いずれ大きな力を身に付けるに違いありません。日本語も、過剰に未知への挑戦を続けるようなことがなければ、きっと芽を出しますよ。私たちも、そういう発想でHさんを指導していくことを考えるべきかもしれません。

ただ1つだけ気になるのは、「公式を覚えます」と言っていることです。公式を覚えれば、あるレベルの問題までは解けるようになります。しかし、公式のよって立つ原理や自然現象などを切り捨てて暗記にばかり走ると、それ以上の問題には太刀打ちできませんし、ましてや進学してからの勉強においては戸惑うばかりでしょう。そういうところも含めて、見守っていくつもりです。

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やっぱり日本語力?

4月12日(水)

文系数学の日本語+の授業を終えて一息ついていると、Hさんに呼び出されました。Hさんは今学期から理系の数学と物理、化学の日本語+の授業を受け始めた学生です。昨日の化学は、顔をゆがめながら私の話を聞いていましたから、受講を取りやめたいという相談かもしれません。

出て行って話を聞くと、理系の数学のほかに、数学の基礎の勉強として、文系の数学も受けたいと言います。基礎というと、つい先ほどまでやっていたクラスは、先学期から受講している学生対象ですから、Hさんの意図する授業内容ではないでしょう。かといって、月曜日のクラスは今週から始まったクラスで、基礎の基礎をやっていますから、理系志望の学生にはどう考えても易しすぎます。

そういうことを伝えてみたのですが、どうも伝わり方がよくありません。半分筆談になってしまいました。とりあえず、来週月曜日の授業に出てもらうことにしました。

そんなことがあってからしばらくして、A先生が「この学生は午後のクラスに戻した方がいいと思いませんか、金原先生」と、ある学生の例文ノートを持ってきました。見ると、確かにひどい間違え方です。午後クラスに差し戻すという判断もありでしょう。で、その例文ノートの名前を見ると、Hさんではありませんか。ということは、理系数学のS先生の日本語が難しすぎてわからなかったのかもしれません。昨日私の授業で顔をゆがめていたのも、理解するのに悪戦苦闘していたのでしょう。

理系の授業は数式や反応式など、日本語以外でどうにかなる部分もあります。しかし、根幹をなすのは日本語の資料を読んだり、教師の日本語の話を聞いたりすることです。Hさんの日本語力では難しすぎたのでしょうか。Hさんだって、来年の4月には進学しなければなりません。日本語力を養ってからなどとのんびり構えている暇はありません。

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4月は始まりの月

4月8日(土)

今学期から、KCPの「受験講座」は、名称を改めました。日本語+(プラス)としました。クラスにおける通常の日本語授業に加えて(プラスして)、各学生が、KCPを卒業した後の進路に合わせて、多様な勉強ができるようにメニューをそろえました。従前の受験講座と同じ内容の授業もありますが、取り扱い方は新しくしていこうと思っています。

そういう趣旨が伝わったからなのかどうかわかりませんが、私が担当するEJUの数学コース1は、新しく始める学生がおおぜいいます。先学期からの学生は6月のEJUを目指しますから、それに向けた授業をしていかなければなりません。新しい学生がそういった授業についていけるかとなると、大きな疑問符が付きます。数学コース1には、数学の基礎から勉強したいという学生が少なからず入ってきます。そんな学生にいきなり2次不等式や確率、平面図形などの問題をやらせたら、すぐに逃げて行ってしまうでしょう。

そこで、今回は、レベルテストをすることにしました。先学期に取り扱った内容から問題を出し、そのテストでそこそこの点数が取れたら、受講継続の学生と同じクラスにします。白紙に近いようだったら、11月を目指して基礎から勉強するクラスで勉強してもらいます。

文科系の数学の授業は、引導を渡すのが仕事だという面もあります。下手に引き留めて、総合科目の足を引っ張ってしまっては、元も子もありません。でも、学生が思い描いている“いい大学”に合格させるには、茨の道を歩いてもらわなければなりません。その辺の見極めが難しいのです。

これから、日本語+には新しい授業が加わっていきます。数学みたいにやるべきことが明確に決まっている授業ばかりとは限りません。学生よりも前に、教師が鍛えられそうな日本語+です。

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新たな出発

3月20日(月)

卒業式後に私が受け持っている上級クラスの学生は、その多くが、今シーズンの受験が残念な結果に終わっています。私たちの指導が甘かった、学生が高望みしすぎた、受験を甘く見ていた、…いろいろな原因が考えられますが、何はともあれ、2024年度入試に向けて新たなスタートを切ったところです。

Kさんは、入学時から24年4月進学というつもりでいます。今までは気楽な留学生活だったかもしれませんが、もうそんなわけにはいきません。Kさんの志望校は、6月のEJUで高得点が必要です。できる学生ですが、もう少し目の色が変わってほしいところです。

Hさんは受験の結果に満足できず、もう1年勉強することにしました。卒業式前に比べていくらか前向きの姿勢になりましたが、こちらもさらなる奮起をしないと、来年の今頃は妥協に妥協を重ねた進学となっているかもしれません。教師として、要注意です。

Gさんはクラスを明るくしてくれるのはありがたいのですが、日本語がいい加減なのはいただけません。質問や課題に対する答えが雑です。マークシートはどうにかなっても、筆答問題や面接は乗り切れないでしょう。本人がどれだけ自覚しているか、これからどれくらい勉強に身を入れられるかにかかっています。

Lさんはほぼ毎日学校へ来るのですが、ほぼ毎日遅刻です。今朝は珍しく9時前に教室にいましたが、これを毎日続けられるように生活習慣を改めるところが、Lさんのスタートラインです。

Eさんは、初級の先生方からは「いい学生」と言われていますが、上級で見ている私の目には、そうは映りませんでした。今学期このクラスに入ったO先生に「Eさんはいい学生だったのに…」とさんざん言われ、4月の入学式には先輩として参加することになり、若干自覚が芽生えてきたようです。顔つきが変わり、発言が増えてきました。

Rさんは、このクラスでは一番下ではないでしょうか。授業に対しては積極性が出てきましたが、提出物を見るとまだまだです。6月のEJUに間に合うかなあという感じさえします。自覚を促すとともに、よほど強力に引っ張らないと、志望校には手が届かないでしょう。

なんとなく、4月以降の骨格が見えてきました。

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グローバリゼーションかな

3月17日(金)

私の周りにたまたまそういう学生が集まっているだけかもしれませんが、最近、心に問題を抱えている学生が増えたような気がします。

昨日、Pさんは、1時間以上ずっと語り続けました。私にとっては取り留めのない話に過ぎませんでしたが、Pさんにとっては来日以来の思いを語ったのかもしれません。自分の生い立ち、両親のこと、ネットで知り合った日本人の友だちからの言葉、…と話があちこちに飛んで、なかなか追いつけませんでした。入学直後は将来に対する不安から激情をぶちまけたこともありましたから、それに比べれば大きな進歩です。でも、1時間以上分の澱を心の中にため込んでいたのです。誰にも聞いてもらえなかったら、またどこかで爆発したかもしれません。

Zさんは受験がうまくいかず、タガが外れてしまったようです。今週はまともに登校したのがたった1日しかありませんでした。水曜日は、「真夜中過ぎまで勉強したので、朝起きられませんでした」という欠席理由を伝えるためだけに、授業後わざわざ学校へ来ました。欠席者にはこちらから電話を掛けますから、その時に答えてもらえばよかったのですが、先生に直接言うというのが、Zさんなりの誠意の示し方だったようです。何人もの先生から、授業中に内職をしてはいけないと注意され続けてきましたが、とうとう治りませんでした。内職の結果が大学入試全滅です。真夜中過ぎまで勉強したというのは事実でしょうが、集中力が全く伴っていなかったに違いありません。

こういう学生たちを見ていると、受験は今でも戦争なんだなあと感慨にふけってしまいます。私のころは大学の定員が少ないことに起因する“戦争”でしたが、今はグローバリゼーションの末端がKCPにまで到達し、学生たちがその波をかぶっている図が思い浮かびます。

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手がかからない

3月16日(木)

アメリカの大学のプログラムでKCPへ来ている学生の会話テストを終えて1階に下りてきたら、10日に卒業したJさんがいました。JさんはR大学、S大学、T大学などに受かり、4月からT大学に通うことになっています。その体験談を書いてくれた上に、私と一緒に写真に納まりに来てくれました。

幸い天気もよく暖かかったですから、校舎の外の校名板をバックに写真を撮りました。もちろん、マスクを外して。やっぱり、マスクを取ると気持ちがいいですね。

さて、そのJさんの体験談ですが、「金原先生に大変お世話になりました」と書いてあるそうですが、私はあまりお世話をした記憶がありません。理科系志望の学生ということで、先学期、担任のK先生に頼まれて定期面談をしたくらいです。今学期は私の担任クラスでしたが、Jさんは受験で忙しく、私は他の学生の尻を叩くのに追われて、ゆっくり話す暇もありませんでした。

Jさんが私に恩義を感じているとしたら、先学期の面談の際に、私が理科系だったら国立に行けとアドバイスしたことではないでしょうか。それぐらいしか思い当たりません。国立に行けと言いつつも、独自試験の対策を手伝ったわけでも、面接練習をしたわけでもありません。Jさんは実に手のかからない学生でした。無理やりこじつければ、私のアドバイスがきっかけとなって、T大学の試験勉強に身を入れるようになったといったところでしょうか。

T大学は4月1日が入学式で、すぐにオリエンテーションだそうです。Jさんなら有意義な勉強をしてくれるでしょう。将来名を成してくれることを期待しています。

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新たなスタート

3月13日(月)

卒業生がいなくなると、上級クラスはスカスカになります。残った学生が2人か3人ならいくつかのクラスを合併して1つのクラスを作ります。私のクラスは半分ほど残りましたから、そのままのメンバーで授業を続けました。

学生半減ですから、朝、授業の前に、教室の後ろの方の机を全部寄せておいて、教卓の近くに人数分だけの机を並べておきました。そのままにしておいたら、学生たちは教卓から遠い席に着いて、前の方がガラガラになること疑いありません。

9時に教室に入ると、前の方に集めた机の後ろの方から席が埋まっていました。でも、残った学生たちからはやる気が感じられ、今から来年春に志望校に進学するための勉強をするぞという目つきをしていました。進学は、毎年、早くから騒ぎ始めた学生が勝ちます。後手に回った学生は、思い通りの結果が得られないものです。

この4月に進学するつもりだったTさんも、スタートが遅れてしまった1人です。一番痛かったのは、去年の6月のEJUを受けなかったことです。そのため第1志望校の試験が受けられませんでした。「自分の実力はまだまだだから」という、学生がよく申し立てる理由でチャンスを逃したのです。その後も不完全燃焼みたいな気持ちで受験を続け、結局“もう1年”となってしまいました。

今まで卒業した学生に圧迫されていたわけではないのでしょうが、Tさんも含めて学生たちはのびのびと発言していました。授業中に声を聞いたことがなかったSさんもこちらの質問にしっかり答えてくれました。1年後に向けて、力強い第一歩が踏み出せた気がします。

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戦いは続く

3月6日(月)

SさんがH大学を受けるための、KCPの書類を申請してきました。これから出願できる大学があるのかと驚きながら確認すると、試験日に書類を持っていけば受けさせてくれるそうです。しかし、H大学のページを見ても、そのようなことは書いてありませんでした。出願は、先月のうちに締め切られています。

考えられることは、H大学は受験生が集まっていないということです。留学生の募集にここまで躍起になっているということは、きっと日本人の募集もうまくいっていないのでしょう。ネットの情報によると、今年は多くの私大が受験生を減らしたそうですから、H大学が学生募集で苦戦していたとしても不思議なことではありません。

Sさんは、いわゆる一流大学、有名大学を受験し続けて、敗れ去ってきました。受験勉強のためと称して学校をよく休んだり、出てきても教師の目を盗んで問題集をやったりしていました。EJUの点数だけならどこかの大学に受かってもおかしくないのですが、結果を見る限り、EJU以外の評価が足を引っ張ったようです。

Sさんが実力だと信じていた力は、砂上の楼閣だったのです。最後の頼みの綱だったN大学では、受験生が集中したせいか、かなりハードな面接試験を課せられたらしく、あえなく沈んでしまいました。そういう訓練をしてきませんでしたから、当然の結果でもあります。

N大学の入試の直前には面接練習をしました。しかし、Sさんの答えには“一流・有名大学に落ちたから次善・三善の策としてとりあえずN大学に入っておく”というにおいがプンプンしました。4年間N大学に浸りきるんだという心意気が感じられませんでした。

さて、学生募集に困っていると思われるH大学は、Sさんをどう評価するでしょう。Sさんには、上述のように、出席率が悪いというハンデがあります。今週金曜日は卒業式ですが、Sさんの背水の陣は、まだまだ続きそうです。心休まる日は、しばらく来ません。

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壁からグラデーションへ

2月9日(木)

Mさんは今学期から理科系の受験講座を受けています。しかし、最近休みがちです。そんなMさんを、授業後に呼び出して、事情を聴きました。

一言でまとめてしまうと、受験講座の内容が難しいということでした。Mさんは国の高校で理科系の勉強をしてきましたが、受験講座では国で習ったことのない内容を扱っているので、ついていけないと言っていました。

数学のS先生に聞いてみると、国によって教育課程に違いがあるのに加えて、学校によっても、同じ学校でもクラスによって、どこまで教えるかばらつきがあるそうです。理科系の場合、日本で言う数Ⅲまでがっちり勉強してきた学生から、数Ⅱ・Bをお義理で勉強したにとどまる学生まで、かなり幅広く分布しているとおっしゃっていました。Mさんは日本の数Ⅰ・Aよりも多少深く勉強しただけなのではないかという見立てでした。

日本には、私が受験生だった頃よりも前から、“文転”という言葉があります。理科系進学を目指していたけれども、数学が伸びずに文科系へと進路変更する例は、今も昔も少なくないようです。学部学科の設定も受験方式も多様化したとはいえ、文科系と理科系の間の壁は、厳然と存在しています。留学生入試では、日本人の入試に比べて、その壁がいくらか厚く高いような気がします。Mさんの国ではどうなのでしょう。

Mさんが目指している分野は、確かに理科系の範疇ですが、がりがりの理科系ではありません。理科系と文科系の境界が壁ではなくグラデーションになっていたら、Mさんはゆとりのある留学ができるに違いありません。日本の大学がそこまで変わるには、まだまだ時間がかかりそうです。

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テスト問題作成

2月8日(水)

来週の火曜日が中間テストですから、そろそろ問題作りに頭を痛めねばなりません。頭を痛めて作ったテストでいい点を取ってくれれば、作ったかいも授業をしてきたかいもあるというものです。しかし、赤点続出となると、気落ちした上にその後処理もしなければならず、骨身にこたえます。

そこで、今回は、読解の問題を学生に作ってもらいました。「はい、作ってください」と声をかけただけでは作れるわけがありませんから、まず、問題作りのポイントを説明しました。

「T先生や私が読解の授業でみなさんにした質問を思い出してください」「指示詞が何を指すかは、よく使う手ですよ」「空欄に言葉を入れる問題は、前後を読めばわかる問題にしてください。知識を聞くクイズじゃありませんよ」「漢字の読み書きは、読解の問題じゃありません」「選択肢は、微妙すぎるのはやめてください」…

こちらの手の内を明かすようなことも入っていますが、このクラスの学生は多くが今学期までですから、まあ、いいでしょう。それに、学生に教えても使いこなせないだろうなという大技は、しまったままです。

問題作りのポイントがわかるということは、読解のポイントが見えてくるということでもあります。これを通して読解力が上がることも期待しています。また、問題を作るためには、テキストをじっくり読まなければなりませんから、内容の理解が深まるはずです。学生たちは声も出さずに真剣に取り組んでいました。優秀作品は、テスト問題に採用します。来週のテストは期待が持てそうです。

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