Category Archives: 勉強

2人の学生

6月9日(金)

Sさんは、次の学期に進級できるかどうか、微妙な成績です。中間テストが振るわなかったので、平常テストや期末テストでその分を挽回しなければなりません。しかし、現時点ではそこまでに至っていません。Sさん自身は進級できそうだと思っているのかもしれませんが、教師の目から見ると、読解も聴解も、話す力も書く力も、もう一度同じ勉強をしたほうがいいレベルです。

最大の原因は、ボールペンで字を書くことにあります。間違いに気づいて直すときに、きちんと修正テープか何かを使えばまだしも、Sさんはボールペンでくしゃくしゃっと消して、その横か上に直した答えや文などを書き込みます。しかも、赤ではなく黒のボールペンで、汚い字で。ですから、直した直後はともかく、しばらく経つと何が何だかさっぱりわからなくなります。勉強したことが積み上がらないのです。

一方、Yさんは大きく伸びました。おとなしいので、学期の最初はどこまでわかっているかつかみかねるところがりました。Sさんよりはできる感じがしましたが、そんなに大きな差ではないように思えました。でも、今は、2つ上のレベルに進級させてもいいんじゃないかというくらいの力がついています。テストの採点は、まずYさんのをして、それを模範解答として、他の学生の答案を見ていきます。Sさんの倍ぐらいできるんじゃないでしょうか。

Yさんは、板書したことはもちろん、教師が口で言っただけのことも几帳面にメモしています。教科書もノートも、それを見ただけで要点がわかり、復習ができ、他の項目との関連も一発でつかめます。予習を怠ることなく、出席率も宿題提出率も100%です。私は、このクラスで授業をするとき、Yさんの知的好奇心を満足させるような何かを付け加えることにしています。何かを与えたら、与えただけ吸収してどんどん伸びていく感じがします。

とはいえ、教師の本当の仕事は、Sさんをどうにかすることです。

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七冠誕生

6月2日(金)

昨日、藤井聡太六冠が名人位を獲得し、七冠になりました。14歳でプロ棋士になった時からずっと注目され続け、順調に力を伸ばして次々とタイトル戦を制し、最高のタイトルとされる名人位も手にしたのです。秋に予定されている王座戦に勝てば、八冠独占となります。

その藤井新名人、まだ20歳です。KCPの学生たちと同年代です。身を置く世界がまるっきり違いますから、直接比較するのは無意味です。でも、飽くなき向上心だけはKCPの学生たちに見習ってもらいたいです。

藤井新名人は、勝負が終わった後の感想戦が長いそうです。感想戦とは、今指し終わった将棋を、対局した2人が最初から振り返り、重要な局面でどんな指し方があったか研究する場です。勝っても負けても、ここでこう指していたらどんな変化が生まれたか、最善の手筋は何だったのか、そういったことを時間の許す限り追究することが、新名人の力の源なのでしょう。

AIが将棋名人を破ってから数年になりますが、新名人は、そのAIすら思いつかなかった(計算できなかった)素晴らしい手を繰り出すこともしばしばだといいます。天賦の才もさることながら、上述のような向上心こそが、AIをも上回る頭脳を作り上げているのです。

今の学生たちは、概して勉強時間が足りません。1日わずか1時間か2時間の勉強で、有名校を並べ立てた志望校に入れると、本気で思っているのでしょうか。テストを返却すると点数だけ確認して鞄にしまい込んじゃうようだと、先行き見通しは暗いです。

新名人はプロ棋士230名の頂点に立ちましたが、KCPの学生だって、せめて10人の中の1番にならなければ、頭の中に思い描いている夢を実現させることは難しいです。教師に尻を叩かれたら、素直に慌てて勉強してほしいです。

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あんたのための授業だよ

6月1日(木)

文法テストの成績が全体的に思わしくなかったので、テストのフィードバックをしました。単なる答え合わせではなく、「こういう考え方をするから、この答えは〇だけど、この答えは×です」「こういう間違え方は-1点、こういう間違え方はー2点です」というような説明をしていきました。

すると、100点を取ったYさんや95点のNさんは、説明に使った例文などを一生懸命ノートに写していました。フィードバックを聞く必要などほとんどないのですが、私の言葉から1つでも何かを得ようとしている様子がうかがえました。

その一方で、58点のSさんは船頭さんになり、50点のJさんはよそ見をしており、Cさんに至っては欠席です。「あんたたちのために授業の予定を変えてフィードバックしているんじゃないですか!」と言ってやりたいところですが、惜しくも不合格だったLさんやTさんが真剣なまなざしをこちらに向けていますから、説教は封印しました。

できる学生はより一層できるようになり、できない学生はどんどん落ちていくとうい構図が明確に表れていました。最近受け持ったクラスは、どれもこの二極化が顕著な気がします。ちょっと前までは、成績下位の学生でもなんとか這い上がろうという気概が見られたものですが、今はそういった闘争心が見えてきません。

その点、日本語プラスの物理や化学の学生は、今はできないけれども何かをつかんで浮かび上がろうとしています。過去問シリーズに入ってから、質問が多くなりました。大化けするんじゃないかと、ひそかに期待しています。6月は、EJUの月です。

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1対1

5月31日(水)

読解の授業をしている最中、ちょうど10時にHさんが教室に入ってきました。遅刻の理由を聞くと腹が立つに決まっていますから、授業に支障を来さないように、そのまま空いている席に座らせました。その後、授業終了まで、Hさんはごく普通に授業を受けました。

遅刻の理由を尋ねなかったのは、腹が立つからだけではありません。実は、授業後にHさんの面接をすることになっていたので、その時にじっくり聞けばいいと思ったからです。

中間テストの結果を見ながらの面接ですが、Hさんはその結果が全科目不合格と、悲惨を極めています。その中の文法を、教科書やノートを見て間違えたところを直しなさいと指示を出しました。普段の授業態度からするといい加減に直すのではないかと思っていたら、教科書をあちこちめくりながら真剣に取り組んでいました。

しばらく経ってHさんの直した答えを見ると、だいたい合っていましたが、一部はどう直していいかわからないようでした。そういう問題について、ヒントになる教科書のページを示すと、それをもとに自分で答えを書いていきました。それでもわからないところは、私が解説を加えました。

クラス授業ではあまりやる気を見せないHさんが、1対1だと非常に真剣になり、どんどん質問するほど積極的になりました。Hさんの別の一面を見た気がしました。クラス20人の中の1人ではやる気が起きないけど、教師を独り占めできるのなら勉強の意欲が湧いてくるのでしょうか。

それは結構なことですが、毎日Hさんのためだけにこういう授業をするわけにはいきません。もしかすると、Sさん、Yさん、Cさんなど、成績が振るわない学生たちはみんなそうなのでしょうか。この学生たちを全員救おうと思ったら、教師は体がいくつあっても足りません。

1対1の指導なら、教師の言葉を自分事ととらえられるものの、20人のクラス授業では、それが他人事に聞こえているに違いありません。そうでなかったら、勉強に関する注意がこんなにも学生に響かないことはありません。私が受け持っているもう1つのクラスでも同じような空気を感じます。

さて、Hさんの遅刻の理由ですが、目を覚ましたら天井にゴキブリがいるのを見つけ、それを退治するのに時間がかかったからだそうです。やっぱり聞くんじゃありませんでした。

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実感できない

5月30日(火)

上級クラスのNさんは、美術系の大学進学を目指す学生です。第一志望校はA大学で、今度の日曜日に体験授業に参加します。A大学は体験授業参加型の入試がありますから、このまま順調にいけば合格の可能性は高いです。また、中間テストではどの科目もクラス平均以上の成績を挙げました。授業中はおとなしいですが、どんな課題にも真剣に取り組む様子がうかがわれます。

そんなNさんの面接をしました。授業後、毎日、図書室で6時まで予復習をすると言いますから、学業に対する姿勢には問題ありません。EJUが終わったらアルバイトを始めると言っていますが、Nさんならアルバイトにのめりこんで勉強がおろそかになることはないでしょう。

私が聞きたい話はだいたい聞き出せたので、最後に「ほかに何か質問はありますか」と聞きました。すると、「最近、自分の日本語力が伸びているか心配になります」と言い出しました。確かに、Nさんは地味なタイプの学生ですが、授業中の発言はいつも的確です。私が受け持っている中級クラスの一番優秀な学生と比べても、はっきり力の差を感じます。だからこそ、A大学の合格可能性が高いと言えるのです。

でも、実力の伸びが実感できないという気持ちも理解できます。レベル1や2の頃は、授業前にはできなかったことが、授業後にはできるようになっているということの繰り返しです。それゆえ、力が付いたことは学生自身にもよくわかるはずです。これが中級以上になると、そういう劇的な違いを感じる機会が非常に少なくなります。Nさんもそういう段階に至っているので、不安なのです。

もちろん、Nさんのようにまじめに勉強している学生の力が伸びていないなどということはありません。今学期だって、ディベートの授業を通して話す力をつけています。それを実感させられないのは、私たちの力不足です。励ますだけではなく、話せたとか読めたとか、具体的な形で学生に体感させたいものです。

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宿題を見ると

5月26日(金)

今学期は中級クラスの読解を担当しています。授業では教科書の文を追いかけるだけではなく、そこに書かれていることについて考えてもらったり、教科書の周辺事項まで話を広げたりしています。学生たちも、自分の思いをうまく表現できないもどかしさを感じつつも、そういったことを楽しんでいるようでした。

ところが、中間テストの出来は芳しいものではありませんでした。私のクラスだけでなく、他のクラスでも似たようなものでした。そこで、学期の後半は、読解の1つの課が終わるごとに、宿題として数問の確認問題をしてもらうことにしました。家で教科書やノートを見ながらなら十分解けるはずの問題です。

その宿題を回収し、チェックしたのですが、残念な結果に終わりました。まず、問題をよく読んでいない学生がおおぜいいました。意味を聞いているのに理由を答えてしまったとか、答え方を指定してあるのにそれに従わなかったなど、解いた後で書いた答えを読み返していないと思われるパターンです。中間テストでも目立ちました。

それから、教科書の文を長々と抜き出した答えも多かったです。それを要領よくまとめてもらいたかったのに、何かを省くと減点されると思ったのでしょうか。「要点をまとめられるかどうかが、中級の力があるかどうかの分かれ目だよ」と言っているんですがねえ。これも中間テストそのものでした。

来週の読解は、こういう点を踏まえて、学生たちをしっかり追い込みます。きちんとはっきり正確に答えられるようになることを第一に、授業を組み立てます。

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教師の勉強

5月25日(木)

1時間の授業をするためには3時間の準備が必要だ――20年以上も前、私が日本語教師養成講座の受講生だった時、講師の先生がおっしゃっていました。駆け出しのころは、そのぐらい準備に時間をかけていたと思います。しかし、今はそこまで時間をかけません。いや、“かけません”と“かけられません”の中間ぐらいでしょうか。仕事が立て込んでいて、即興に近い形で授業をすることさえあります。そんなことでは学生に対して失礼だろうと思いながら、若干の罪悪感を抱きつつ、でも平気な顔をして、教壇に立つこともあります。

準備が嫌いなわけではありません。本棚に並んでいる10冊以上の辞書を駆使して語句の意味を調べたり、読解テキストの参考になりそうな資料を探したり、数学や物理の問題のオーソドックスではない解法を考え出したりなどということは、何時間やっても飽きません。しかし、次から次と仕事が飛び込んできますから、そういう方面にばかり時間を割り振るわけにはいきません。

午後、読解の勉強会がありました。上級では、今学期から新しい読解の教科書を使い始めました。読解の授業のコンセプトも見直しました。そのため、授業で新しい課に入る前に、上級担当の教師が集まって、その課の取り扱い方を研究しています。

毎回、教師間で読解テキストの捉え方、視点の位置が違うものだなと感心しています。たびたび目からうろこが落ちます。そうすると、授業で新しいことに取り組んでみようかというチャレンジ精神が湧き上がってきます。年寄りには刺激が必要なのです。

この勉強会も授業準備だとしたら、いくらかは3時間に近づいたでしょうか。

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5月24日(水)

中間テストの結果をもとに中国出身のSさんの面接をしていたら、「先生、“的”の使い方がわかりません。教えてくださいませんか」と聞かれました。

中国語と日本語では、“的”の使い方に違いがあります。「美国“的”大統領」は「アメリカ“の”大統領」であって、現在はバイデンさんです名詞が名詞を修飾するときの“の”です。ところが、日本語で「アメリカ“的”大統領」といったら、バイデンさんは指さないでしょう。「アメリカの大統領と同じような権力を持った大統領」「アメリカ人のような発想をする、アメリカではない国の大統領」といったところではないでしょうか。

日本語での“的”は、「積極的」とか「具体的」とかというように、な形容詞を作る際に使うのが典型例ではないでしょうか。「実力“的”に十分合格可能」などというと、「実力の面から考えると」と、普通のな形容詞とは違った意味を担っています。

詳しく見ていくと“的”の意味はまだまだ出てくるでしょう。あんまりあれこれ教えるとSさんの頭がオーバーフローしてしまいかねませんから、このほかに日本語は形容詞に“的”をくっつけないという違いを取り上げただけにしました。「白“的”紙」ではなく、「白い紙」です。

はっきりいって、中級になってからこんな質問をするなんて、遅いです。こういう疑問は初級のうちに解決しておいてほしいです。とはいえ、聞くは一時の恥で、面接の場ですから他の学生もいないこともあり、長年の(?)疑問をすっきりさせようとしたSさんの姿勢はほめてあげたいです。今学期の進級は無理かなと思っていましたが、少し目が出てきた感じもしてきました。

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自宅勉強時間

5月23日(火)

火曜日のクラスは、今週もディベートに挑戦しました。「予習と復習ではどちらが大事か」という、先週に引き続きしょうもないテーマですが、主張や反論はいくらでも思い浮かべられるでしょうから、ディベートのネタとしました。作戦立案中の学生たちを見ると、予習が大事にしても復習が大事にしても、予想通りいろいろな意見を出し合っていました。

さて、本番になると、その主張を訴えてはいるのですが、どうも迫力がありません。チームで考えた通りに主張を読み上げるチームもあり、相手の目を見て話すという基本ができていませんでした。逆に、相手の目を見て主張を述べたチームは、審査員の受けが良かったですね。

相手チームの話を聞くことに関しては、先週よりもメモを取っている学生が多かったですが、それでも相手の主張に応じてとなると、できる学生は限られていました。相手の主張もすぐに想像がつくテーマを選んだつもりなんですがね。私から見ると不満な点は多々ありましたが、主張や反論はどうにかこうにか形になっていました。

授業後、学生面接をしました。Cさんは自宅学習が毎日1時間と言います。さらに話を聞くと、日本語の動画を視聴した時間も含めての1時間でした。さっきのディベートでは、予習の重要性をあんなに語っていたのに…。今年はN1を取ると言っていましたが、そのための勉強はしているのでしょうか。

Aさんも事情は似たようなものです。美術系大学院進学希望ですから、今は作品制作に忙しいです。毎日4時間ぐらいそれに時間をかけています。でも、勉強時間ゼロはひどすぎますよ。Aさんの熱弁した復習の大切さが今一つ心に響かなかったのは、こんな事情があったからなんですね。

2人とも、中間テストはどの科目も合格点前後でした。予習復習、せめてどちらか1つはしっかりやっておかないと、日本語力が伸びませんよ。

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あと1か月

5月18日(木)

昨日から急に暑くなりましたね。中間テストの翌日、16日から、スーツ・ネクタイなしのクールビズにしています。これぐらい暑いと、その甲斐があったというものです。お昼前に外に出たら、やっぱり気温の高さを感じました。でも、肌にまとわりつくような、ねっとりした暑さではありませんでした。湿度は30%前後だったようですから、さわやかな暑さだったと言っていいでしょう。

5月の暑さは日中だけですから救われます。昨日も日が沈むのと同時くらいに気温は25度を割り、今朝の最低気温は18.7度でした。7月や8月は、夜になっても暑いです。最低気温が28.7度なんていう日もざらにあります。そうなると朝から体力消耗で、ぐったりしている学生が目立ってきます。

物理の授業の直前に質問に来たPさんも、軽装でマスクもしていませんでした。おとといの化学の時間は、2月ごろにも着ていたフリースみたいなのを羽織っていました。それと比べるとえらい違いです。おとといは、朝はひんやりしていましたからね。

その物理ですが、Pさんを含めて、みんな宿題をしてきませんでした。「来週の授業は問題の解説をするから、必ずうちで問題をやってこい」と繰り返し言ったつもりでしたが、通じていませんでした。やっていない問題の解説をしてもしょうがないので、時間を与えて問題を解かせました。おかげで、ごく限られた問題しか解説ができませんでした。学生たちは、これでは時間の無駄だと感じてくれたでしょう。そう信じて、来週分の問題を宿題として渡しました。

EJUまで、ちょうど1か月です。

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