Category Archives: 勉強

動画を見る

9月11日(月)

上級のクラスでは、可能な限りニュースなどの動画を見せています。映像や字幕を補助にしてそこで何が語られているかを理解し、キャスターやコメンテーターの言葉をその場で聞き取ってもらうようにしています。最近のニュースや、読解教材に関連した動画などを使っています。

「じゃ、動画を見てください」と言って流し始めると、クラス内は大きく2つに分かれます。興味深げに動画に注目する学生と、息抜きのチャンスとばかりにスマホを取り出すグループとです。後者の人々にこそ耳の訓練をしてもらいたいのですが、なかなか思い通りに動いてくれません。

こういった学生たちは、概して受験勉強以外に興味を示しません。「読解のテストで動画が流れるわけでもないし」という考えなのか、一心不乱に下を向いて親指を動かします。動画が終わってからその内容に関して質問しても、当然のごとく答えられません。

動画を見せるのは、耳の訓練のためばかりではありません。社会性を持ってもらいたいからです。文法や読解の問題には答えられるけれども、そこから一歩外れてテキストの内容に関して質問されるとしどろもどろというのでは、真の意味で上級の実力を持っているとは言いかねます。

JLPTのN1かN2に合格するのが留学目的だというのであれば、それでもいいかもしれません。しかし、語学なんて使い倒さなければ意味がありません。動画を見てその内容について議論したり自分の意見を文章にしたりすることができて初めて、日本語を勉強した意義があるのです。

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アプリで勉強

8月29日(火)

今学期、Sさんはレベル1が2回目です。中間テストの成績は合格点を取りましたが、まだ安心できる状況ではありません。なにせ、レベル1の後半はて形、ない形、辞書形、た形と、山場の連続です。中間テストが多少よくても期末テストでしかるべき点数が取れるとは限りません。ちょうどて形導入の授業の後で面接でしたから、多少はこのままでは危ないという危機感が芽生えていたかもしれません。中間テストの直しも、真剣に取り組んでいました。

そのSさんに、自宅学習の状況を聞きました。毎日1時間、宿題が中心だそうです。宿題以外にどんな勉強をしているかと突っ込むと、「単語を覚えます」という答えが返ってきました。その覚え方を聞くと、スマホのアプリを使うと言います。そのアプリを見せてもらいました。見ると、単なる単語リストでした。その単語リストを見て覚えると言います。

何もしないよりはましでしょうが、単語リストを見てその単語が頭に入るのなら、日本語学校なんかに通う必要など全くありません。でも、今のSさんの単語力は、下から数えたほうが早いです。そんな単語力で進級しても、授業についていけないことは明らかです。単語リストを見て勉強したつもりになっているのだとしたら、今後の伸びも期待できません。

そこで、覚えた単語を使って文を作ることを提案しました。そのための練習問題集も見せて、それを買って毎日やってみるようにと言いました。問題集の写真を撮り、それを紀伊国屋あたりで見せれば、同じものが手に入るでしょう。その問題集をコツコツやっていけば、勉強時間も増え、必然的に日本語に触れる時間も長くなり、上述の山場をどうにかこうにか乗り越える目も出て来そうです。Sさん、ちゃんと挑戦してくれるかな。

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エアメル

8月22日(火)

夏休みをはさんでしまいましたが、中間テストが終わったので、学生面接が始まりました。

Zさんは今学期のレベル1の新入生です。KCPで日本語を勉強したら、日本で就職しようと考えています。しかし、現状では次の学期に進級できるかどうかきわどい所です。

「レベル1の勉強は難しいですか」「はい、少し難しいです」ときましたから、文法が難しいのかなと思いました。形容詞や「ます」の活用が入ってきていますから、その辺でつまずいているのかもしれません。「何が難しいですか。文法ですか、聴解ですか」と聞くと、Zさんは少し考えて「…単語が難しいです」と答えました。

さらに詳しく突っ込むと、要するに長音や促音の有無の判断が付かないようです。聞き取った文の意味はわかっても、それを正しく表記することができないのです。実際、その後の授業で“エアメール”という単語が聴解教材の中に出てきましたから、これをクラスの学生全員に書かせたところ、Zさんは“エアメル”でした。それが“air mail”であることは理解していましたが、カタカナ語として書くことはできませんでした。こうした単語が、今まで山ほどあったのでしょう。

Zさんのような学生は決して少なくありません。クラスの他の学生も、多かれ少なかれ同じ悩みを抱えています。初級の第1の壁かもしれません。でも、この壁を乗り越えないと、まず進級のボーダーラインの下に落ちてしまいます。そして、長音や促音があやふやだと、話すときにその影響が現れないとも限りません。そうなると、Zさんの夢である日本での就職だって夢のままで終わってしまいかねません。

残念ながら、これには決定的な解決法がありません。教師としては励まし続けるのみです。

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単語テスト

8月3日(木)

どんな言語でも、単語を覚えなければその言語が使えるようにはなりません。私だって、中学高校の時には英単語を覚えたし、大学では必修のドイツ語の単語を必死に覚えました(テストの直後に自動消去されましたが)。手は出したけど単語を覚えようとはしなかったフランス語と韓国語は、定型表現か耳で覚えた言い回ししかできません。

初級クラスで単語テストがありました。Xさんは単語テストがあるのをすっかり忘れていて、私が教室に入ったときに至っても、教科書やノートをひっくり返しながらなんとか頭に詰め込もうとしちる最中でした。今までのテストは、文法もディクテーションもその他すべて、合格点付近をうろうろしているMさんは、家で覚えてきたようですが、不安げな顔つきでした。

チャイムが鳴り、出席を取り終わると、情け容赦なくテストを始めました。試験時間は十分すぎるくらいありますが、覚えてこなかった学生にとっては、地獄の苦しみが長引くだけで、何のメリットももたらさないでしょう。よくできるYさんやFさんにとっては、2/3ぐらいは暇を持て余していたかもしれません。最後まで粘っていたのはMさんなどほんの数名でした。

さて、採点してみると、YさんFさんは満点、Xさんは健闘むなしく合格点には遠く及ばず、Mさんはきわどい所でどうにか合格でした。何のことはない、テスト前に予想した通りじゃありませんか。要するに、Mさんレベルまでは単語を覚えるいい機会になりましたが、それよりも下の、今覚えなければこの後落ちていく道しかないという学生たちは、覚えるきっかけを失った、チャンスが生かせなかったということです。

中間テストまでちょうど1週間。来週の木曜日は、みんな笑いましょうね。

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7月26日(水)

6月のEJUの成績が発表されました。学校全体としては悲喜こもごもといったところですが、私のまわりには“悲”の人が目立ちます。

Kさんは初めてのEJUでした。国では大学入試でも電卓が使えるので、EJUも当然そうだと思っていました。しかし、試験当日、試験官から電卓は使用禁止だと言われ、大いに動揺してしまいました。そこから立ち直れず、数学も理科も振るいませんでした。予想を上回るひどさだったようです。電卓が使えないことぐらい、受験票に同封されていた受験に関する注意を読めばすぐわかったはずです。でも、Kさんにとっては、受験で電卓を使うことは常識以前のことだったのでしょう。これも文化の違いだと割り切ってもらうほかありません。

Hさんも、理科数学の成績が伸びませんでした。理科系の大学だと理科や数学で平均点を大きく割り込んでいると、日本語で多少点が取れていたとしても、厳しい戦いになります。担任の先生のところに専門学校のパンフレットを持って来て、「ここにしようと思います」と相談を持ち掛けたそうです。進学に関しては早めに動けと指導していますが、見切りが早すぎます。

CさんとAさんは、日本語で失敗しました。危なっかしいなと思っていましたが、それがそのまま数字になって現れました。実力通りだと言ってしまえば身も蓋もありませんが、鍛え直して再挑戦です。Sさんに至っては、ショックのあまり寝込んでしまったとか。1日寝込むのは認めましょう。でも、明日からは捲土重来を目指してもらいます。

このように書くと、KCPはろくな教育をしていないと思われてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。これだけ泣いた人がいるにもかかわらず、各科目の校内平均は全体平均をだいぶ上回っています。ご安心ください。

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一夜明けると

7月21日(金)

朝、始業の3分前に教室に入ったら、学生が9人しかいませんでした。その後もう1人来て、出席を記録するためのタブレットがなかなか立ち上がらないために遅刻にならずに済んだ学生が2名いましたが、欠席者多数というのが最終状況でした。このクラスは、昨日のコトバデーの発表が、練習からは想像もつかないくらいとてもよくできたので、大いに褒めてあげようと思っていました。でも、この状況を目の当りにしたら、そうした気持ちも失せてしまいました。コトバデーで活躍した面々も休んでしまったことが残念でなりませんでした。

この学校の学生たちは、どうもそういうところが甘いんですねえ。「今週は昨日で燃え尽きたから」などと思っているのかもしれませんが、それは言い訳にもなりません。クラスの発表にも個人のスピーチにも、さらにはクラスの発表終了後のクラブ活動の発表にも参加していて、そのすべてに全力を注いでいたLさんが朝からちゃんと出ていたのですから。ついでに言うと、Lさんは午後の日本語プラスの授業にも出席しました。

欠席者が多かろうが、授業は予定通り進みます。私みたいなひねくれ者は、欠席が多いと出席した学生にサービスしたくなります。授業の各科目でちょっとずつ広い範囲を教えたり、逆に出席した学生たちに合わせてわからないところを丁寧に教えたりします。少なくとも、出席した学生に損したなんて思われたくないですからね。

コトバデーの練習で時間を使いましたから、これから夏休みまでギアを入れ替えてぐいぐい引っ張ります。暑い夏場こそ、進学する人たちにとっは自分を鍛える時季ですから。

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早くも…

7月18日(火)

学期が始まって10日余り、授業日で8日目ですが、レベル1でも、クラス内で早くも差がつきつつあります。MさんやJさん、Yさんは目立たないながらも必死に食いついていこうという意欲が感じられ、よくできるとは言いかねますが、授業内容は理解しているようです。一方、CさんやHさんは、危険水域に紛れ込んでいます。

Mさん、Jさん、Yさんたちは、私の説明や板書を母語に直してメモしています。顔つきも明るく、明らかに線がつながっている様子です。毎日かなりの時間を予復習に投入しているようですが、その甲斐あって着実に力をつけてきています。日々、わかること、日本語で表現できることが増えて、手ごたえを感じていることでしょう。

Hさんは、まず、欠席が多いです。出席しても眠そうにしています。今学期は2回目のレベル1ですから楽勝だと思っているのかもしれませんが、すでに貯金はほとんどありません。話せないことが最大の問題点です。休んでいるうちに新入生にどんどん抜かれていきます。Cさんはいまだにひらがなカタカナが覚えられません。ですから、ディクテーションは全滅です。ただし、ローマ字を見る限り、音が全然聞き取れないわけではないようです。発達障害か何かを疑ったのですが、そうでもなさそうです。

Mさん、Jさん、Yさんたちは、お友達のEさんを見習って、積極的に口を開くようになれば、どんどん伸びていくでしょう。教師は、挫折しないように支えていくことを念頭に置いて引っ張っていけばいいでしょう。

Hさんは、勉強嫌いだとしたら、困りものです。遊び癖がついてしまったとすると、復活させるのはかなりの難事業です。Cさんには、字を覚えてもらわなければなりません。そうでないと、テストで点数が付きません。

クラスの学生の顔と名前が一致してきましたが、それと同時に課題も湧き上がってきました。

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同じことをしても

7月7日(金)

今学期の金曜日は中級クラスです。昨日出された読解の宿題を回収して中身をチェックしました。

提出しなかった学生たちは論外として、提出した学生の中で最悪だったのはHさんです。読解の教科書を読んで教科書に載っている問題に答えるのですが、Hさんは教科書に付いている答えを丸写しして提出していました。これでは力が付きません。宿題をする意味が全くないじゃありませんか。

Hさんは、ぎりぎりの成績で進級した学生です。期末テストの読解は不合格点でしたが、先学期は進級できなかったこともあり、お情けで進級させてもらったのでしょう。ですから、もともと読解の力が強いとは言いかねます。それゆえ、自分の力だけでは教科書の問題を持て余してしまったのでしょう。

一方、Yさんは自分の力で問題を解き、なおかつ答え合わせまでして、間違えたところを赤ペンで直したものを提出してきました。ここまでしてくれると、教師はほとんどすることがありませんから、Yさんの間違え方をじっくり観察しました。Yさんは、問題の答えになる部分を教科書からそのまま抜き出してくることはできますが、そこから要点を切り出してまとめるということができません。これは、Yさんに限らず、中級の学生全般に言えることです。逆に言うと、これができたら中級卒業でしょう。

Yさんは自分の答えを直しながら、何を考えたでしょう。足りない点に気づいてくれたかな。同じように教科書の答えを見ていたHさんは、何も考えていなかったでしょうね。始業日2日目で、もう、同じ教材から得た物の差が目に見えてしまったような気がします。

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楽しかった考

6月20日(火)

久しぶりにアメリカの大学のプログラムで来ている学生の修了式に出席しました。今学期私のクラスだったDさんやTさん、先学期教えたMさん、オーラルテストで接触のあったJさん、Aさんなどが今学期で勉強を終えて帰国しますから、ちょっと顔を出そうと思ったのです。

修了証書を渡した後で、修了生には日本語でスピーチをしてもらいます。みんな、多少はヨイショもあるでしょうが、日本語の勉強や日本での生活は楽しかったと言います。だけど、これは、修了証書をもらった時点で思い出の美化がなされ、苦しかったことの記憶は薄れてしまった面も多分にあると思います。

DさんやMさんは非常に優秀な学生でしたからそうでもなかったでしょうが、Tさんは漢字に悩まされ続けました。漢字がわからないことが、読解や文法にも響き、テストで合格点が取れないこともありました。入学時は日本語ゼロだったのに、今はそういうスピーチができるまでになったことに喜びを感じているのでしょう。

KCPで勉強する学生の中には、アメリカの超一流校の学生もいます。そんな学生も、テストで合格点が取れなかったら再試を受けなければなりませんし、時間内に作文が書けなかったら授業後に残されます。本人が言わない限り、クラスの学生は、その学生がそんな大学の学生だということを知りません。自分より日本語ができない学生と見ているかもしれません。そうなると、超一流校のプライドもズタズタでしょう。

それでも「楽しかった」ということは、歯ごたえのあるタスクに巡り会えた喜びの表明のような気もします。そうだとすると、さすが超一流校の学生だけのことはありますね。

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強者がより強く

6月19日(月)

今学期最後の授業で、私のクラスは文法の復習が中心でした。復習問題が宿題として出されていましたから、まずはその答え合わせ。でも、宿題をやってきたのはできる学生がほとんどで、本当に復習してほしい学生ほど、白紙でした。テストじゃなくて宿題ですから、わからなかったら教科書でもノートでも先生に添削してもらった例文でも今までの平常テストでも、参考にできる資料はいくらでもあるはずです。そういうのを引っ張り出して見直したり振り返ったりするのが面倒くさかったのでしょうか。確かに、昨日EJUがあり、そちらを優先しなければならなかったでしょう。でも、EJUを受けたDさんやKさんはちゃんとやって来たのに、EJUを受けなかったSさんやYさんがやって来なかったのはどういうわけでしょう。

宿題もやって来ないし今までの成績も悪いしという学生を何とか救おうと、間違えやすいところ、似たような表現の使い分けなどを板書すると、それを1字たりとも見逃すまいと書き写すのは、NさんやLさんのような成績のいい学生です。私がターゲットにしていたJさんやMさんたちは、板書を見ているだけでした。「あんたたちのために説明してるんだよ」と、声を大にして訴えたかったですが、私に言われて渋々ノートを取るようでは、授業後にそれを見直すこともないでしょう。

その後、金曜日にやったテストを返却し、間違えた学生が多かった問題について考え方、解き方を、「教科書の〇ページを見てください」と指示しながら説明しました。ここでも、耳を傾けていたのは、その問題が正解だった学生たちでした。結局、できる学生はより一層基礎が固まり、できない学生はスカスカのままでした。聴解の練習教材も公開していますが、これを活用するには、きっと、わざわざ練習する必要のない学生たちばかりなのでしょう。

できる学生はさらに実力を伸ばし、できない学生は停滞から脱する見通しも立たず、という状態で今学期の授業が終わってしまいました。お金はお金持ちのところにどんどん吸い寄せられ、貧乏人はいつまでたっても貧乏なままという世の中の構図が、お金を日本語の実力に置き換えると、このクラスにぴったり当てはまります。

これを打破できなかったあたりが、今学期の反省点であり、来学期の課題です。

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