Category Archives: 勉強

フィードバックの奥

5月31日(月)

授業の前に、Lさんに中間テストのフィードバックをしました。Lさんは中間テストの文法が不合格でした。このままでは進級できないおそれがあります。それは避けなければなりません。

Lさんの答案をよく見てみると、致命的な間違いはありません。文法がまるっきり理解できていないというわけではありません。しかし、点数をあげることはできません。突き詰めて言えば、問題をよく読んでいないのです。だから、こちらの要求する答えとは全然違う答えを書いて、×を積み重ねています。

×のところの答えを言わせてみると、ほとんど全部言えました。出題の意図をきちんと把握して答えていたら、余裕で合格点を取っていたでしょう。でも、不合格点は不合格点です。それを消し去ることはできません。

授業の最初に、漢字テストをしました。授業後、真っ先にLさんの答案を採点しました。75点でした。字が雑で減点されたのが15点もありました。読み問題で長音かそうでないかで1問間違えていました。正確に覚えるということが苦手なのかもしれません。

Lさんは決してできない学生ではありませんが、テストで点が取れる学生でもありません。KCPの中では、私たち教師が学生をじっくり見ていますから、救いの手を差し伸べることもできます。しかし、入学試験はそういうわけにはいきません。問題をよく読まずに答えたら、マークシートの問題は全体に点が取れません。最後がいい加減だったら、筆答問題でも点が取れません。そういう意味で、笑って済ませられる問題ではありません。

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次々宿題

5月14日(金)

私が担当しているクラスはオンライン授業ですから、テストや宿題もオンラインです。答案用紙や作文などが、何らかの方法で電子的に送られてきます。テストはほぼ一斉に届きますが、宿題となると、授業の直後から翌日の授業の直前まで、だらだらと入ってきます。“〇時まで”と締め切りを伝えますが、だからといってそれ以降着のを無視するわけにもいきません。初級ですから、変な癖がついてしまったら困ります。

そういうわけで、時間がちょっとでも空いたら、学生から宿題が来ているんじゃないかと、メールチェックをしています。宿題メールを見つけたら、採点したり添削したりしています。ついさっきもメールボックスを見てみたら、昨日の宿題が出されていましたから、急いでチェックして返信しました。対面授業だったら授業中に集めてそれで終わり、授業後にチェックして翌日の授業で返すっていうパターンなんですがね。

この宿題チェック、世の中に流通しているいろいろなツールやアプリを比較検討して、私たちにとって一番使いやすいのを選んだらだいぶ合理化できると思います。しかし、走りながら考えている状態なので、現状で最適化されているかと言えば、程遠いというのが正直なところです。

緊急事態宣言が、さらに3道県に出されました。新入生の自由な来日は、また一歩遠のいたようです。国で授業を受け宿題に取り組んでいる私のクラスの学生たちも、そんな不安を抱えているに違いありません。その不安を少しでも和らげるために、日本語を勉強する気持ちを切らさないために、せめて宿題の添削ぐらい、丁寧にやろうと思っています。

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あ、いない

5月13日(木)

私が担当している初級クラスも、ようやく存在の「あります/います」までたどり着きました。オンラインですから、カメラを持って教室の中を駆け回り、「カレンダーがあります」とか、「時計があります」とか言わせました。学校の中を回ってもよかったのですが、他のクラスの授業の邪魔をしてはいけないし、wifiがどうにかなったら元も子もなくなってしまいますから、教室の外には出ずにおとなしくしていました。「学校の前にホテルがあります」は、窓の外の景色がうまく伝わらなかったようで…。KCPから見える側は、あんまりホテルっぽくないですからね。

次は学生たちの自身の部屋や住んでいる街について語り合うという、定番のタスクです。「机の上にパソコンがあります」「うちのとかという、パッとしない文が並びました。ぬいぐるみをたくさん持っているXさんが休みだったのが、何より残念でした。そのぬいぐるみの多様性で、形容詞の復習もできると踏んでいたのですが、当てが外れてしまいました。

存在の動詞を勉強するときには、セットで上とか前とか右とかの、いわゆる位置詞も勉強します。位置詞は、最終的には使えるようになるものの、初級前半には荷が重い面もあります。力の差が表面化する文法項目でもあります。YさんやOさん、Bさんなど、クラスの下位グループの学生は、ここを乗り切っておかないと、進級が危うくなります。この先、アイガー北壁をよじ登るような難関が待ち受けていますから。この難関を攻略するのは、学生と教師の共同作業です。

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無反応

5月10日(月)

「じゃ、Bさん」と指名しましたが、反応がありません。10分ほど前に出席を取った時には「はい」という返事があったのに…。ずっと待っていても時間の無駄ですから、別の学生に答えてもらいました。

それから20分ほど後に、もう一度Bさんを指名しました。しかし、「……」でした。さらに30分後にまた指しましたが、zoomの画面上にはいるのに、答えが返ってきませんでした。

授業後、Bさんを残して話を聞きました。と言っても、一番下のレベルで、やっと形容詞を勉強したところですから、話せる内容はたかが知れています。Bさんは「マイクが悪いです」(形容詞の過去名は未習)と、自分の行動を正当化しようとしました。「どうしてチャットに書きませんでしたか」と突っ込んでみても、Bさんはそれに対して答えられる日本語を持ち合わせていませんでした。「明日は大丈夫ですね」と、引き下がるほかありませんでした。

Bさんは、自分ではできると思っていますが、実際にはそれほどではありません。宿題などを提出させると、かなり穴があるのがわかります。何となくはわかっているのですが、正確には身に付いていないのです。多少いい加減でもコミュニケーションが取れれば救いようはありますが、上述のようにそういうわけでもありません。ここを打破しない限り進級もおぼつかないのですが、本人は全く感じていません。

こういう学生は、オンラインに限らずいつでもどこにもいます。こういう学生は、進級できなかった場合、非常に駄々をこねます。オンラインだと、そのせいにしてさらに話がこじれるのではないかという気がしています。そうならないように、今から手を打っていかなければなりません。

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EJUで横綱相撲

5月7日(金)

EJUまで1か月半ほど、受験講座理科では過去問を使った模擬テストをしました。始める前にマークシート方式の解答用紙の書き方から説明しました。みんな、今回が初めてのEJUですから、こちらにとっては常識でも、学生たちには新発見なのです。数年前に、この説明を怠ったために、理科2科目のうち1科目が白紙扱いにされてしまった学生がいました。そういう悲劇を繰り返さないために、最初にがっちりしつけるのです。

2科目を80分で解くには、わからない問題を考え続けるわけにはいきません。解ける問題を確実に正解に結び付け、点数を増やしていくことをまず考えるべきです。また、1番から順番に解いていく必要はありません。おしまいの方に易しい問題や得意分野の問題があったら、それを得点化しておいた方がよい結果につながることもあるでしょう。

実際にやってみると、思ったより難しかったようです。80分をフルに使っても解けなかったり計算が終わらなかったりしていました。あれほど注意したのに全然違うところにマークした学生もいました。これで、時間配分も実感できたでしょうし、ミスも今のうちにしておけば本番で同じことはしないでしょう。そのための模擬テストです。

理科で満点を目指すOさんは、6問間違えたとか。満点を取るには、点数を増やす努力だけではいけません。ミスを減らす、なくすという発想も必要です。勘違いとか度忘れとか、そういうことも許されません。どんな攻められ方をされてもすべて受けて立ち、最後には勝つという、横綱相撲みたいな取り組みが求められます。容易なことではありません。そういうことを指摘すると、そこまでの覚悟はしていなかったようです。これまた、あと1か月余りで鍛え直さねばなりません。

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やりにくい

4月22日(木)

レベル1は、今、「行きます、来ます、帰ります」の、往来動詞とか移動動詞とか呼ばれる一群を扱っています。このうち、「行きます」は「学校へ行きます」「スーパーへ行きます」「沖縄へ行きます」など、いくらでも文も作れますし、オンラインで参加している学生たちも実感を伴う発話ができます。

しかし、オンラインの場合、「来ます」は、「学校へ来ます」「日本へ来ます」など、定番の文が全く役に立ちません。うちで勉強していますから、自分の国にいますから、身近な「来ます」がないのです。仮定の世界を作ってそこで「来ます」を使う練習も考えましたが、学生たちはそれこそやっと移動動詞程度のレベルですから、込み入った設定が理解できないおそれが強いです。

「帰ります」も同様で、国の自分のうちにいますから、「うちへ帰ります」「国へ帰ります」が使えません。zoomの背景をディズニーランドにして…などとも考えましたが、うまくいくかどうか全く自信がありませんでした。学生たちの母語を使ってもいいのならいくらでも手があるでしょうが、KCPは直接法を旨としていますし、何よりクラスは多国籍ですから、授業中に媒介言語は事実上使えません。

日本語の「来ます」「帰ります」の特殊性も関わっています。話者の現在地とか本拠地とかが意味に関わっていますから、オンラインだと商売しづらいのです。逃げと言えば実にその通りなのですが、学生たちが来日し、生の日本語に接した時点で、実地に意味を把握するのが最も確実な方法だと思います。

こういう点からも、早く収まってほしいのですが、「宣言」に向かってまっしぐらですよね。

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年間計画

4月14日(水)

受験講座の教室に向かおうと職員室を出たところで、Cさんに呼び止められました。Cさんは理系の大学進学を目指し、先学期から受験講座を受けています。「私は6月のEJUの結果を使ってW大学を受けて、11月の結果で国立大学を受けるつもりです。共通テストも受けて、一般入試でも国立大学を受験しようと思っています」と、決意のほどを語ってくれました。

最近、留学生が一般入試を受けて日本の大学に進学する例が増えていると聞いていました。3月に卒業したJさんもそうでした。ただ、Jさんは共通テスト不要の方式を選んだようでしたから、切羽詰まったあげくの選択だったかもしれません。それに対し、Cさんは今から共通テストと言っていますから、Jさんよりずっと計画的です。国にいた時から共通テスト経由の進学を知り、それを目指して動いてきたのかもしれません。外国語を中国語にすればいい点が取れるとまで言っていました。

このように書くと、Cさんは受験の計画をすらすらと話したかのように見えるかもしれませんが、残念ながら日本語教師にしか理解できない日本語でした。発音はまだしも、語彙や文法はお寒い限りでした。面接官にCさんの思いが伝わるとは思えません。EJUで点数を稼いだところで、面接で落とされる可能性大です。そういうことも踏まえて、面接のない一般入試の道を探っているのではないかとも思いました。

もう一つ、実は、Cさんは「共通テスト」ではなく、「センター試験」と言っていました。センター試験から共通テストに変わって、試験の傾向がEJUから遠ざかりました。また、国語もCさんには大問題でしょう。それを今から9か月ぐらいの間になんとかできるのでしょうか。

今学期は、火水は新たに受験講座を受け始めが学生対象の授業です。この中にも共通テストを受ける学生がいるのだろうかと、初めて会う顔をしげしげと見てしまいました。

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祝就職だけど

4月10日(土)

来週から始まる受験講座の準備をしていると、卒業生のFさんが来ました。卒業生と言っても、つい先月までKCPにいた学生じゃありません。現校舎が完成したころに入学した学生です。卒業してR大学に進学し、H大学の大学院に進学しました。今年M2で就活のはずですが、もう内定をもらったそうです。

Fさんは、入学したころは日本語力がゼロに近かったですが、ぐんぐん力を付けていった覚えがあります。受験科目の力も伸びて、難関と言われるR大学に合格しました。R大学でも努力を怠らなかったようで、大学院は国立大学でした。そこでもきっと優秀だったのでしょう。だから早々に就職が決まったのに違いありません。

そのように優秀なFさん、博士課程進学は考えなかったそうです。「先輩を見ていても、修士で就職するのが一番みたいだったし、博士で就職しても給料は修士と変わりませんし…」と、進学しない理由を語ってくれました。その言葉に日本社会の現状が如実に表れていました。

Fさんはこの先も日本に貢献してくれそうですが、Fさんのように考えて優秀な留学生が日本で就職しなくなっています。日本は博士にとって生きづらい社会だというのが定説になっているのではないでしょうか。

これからはオンラインによる高等教育が幅を利かせていくことでしょう。そうした時、日本の大学や大学院は世界に伍していけるのでしょうか。さらに、日本社会に優秀な留学生を引き留める力があるでしょうか。Fさんの話はおもしろいのですが、同時に日本に対する先行きの不安感が増してきました。

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苦い思い出

3月18日(木)

昨日から「スマホ脳」(新潮新書)を読んでいます。残すところ10ページちょっとですから、この後帰宅時の電車の中で確実に読み終わります。

あんまり詳しく書くとネタバレになってしまいますが、スマホでSNSをやると、その反応が気になり、また、より良い反応を求めるようになり、スマホが手放せなくなること、それゆえ集中力がなくなることというのが中心的な話題です。

これを読んでいて思い出したのが、何年か前の卒業生のXさんです。理科系のセンスがある優秀な学生でした。事実、国立大学に進学しました。

ただ、Xさんが挑んだ大学は、筆記試験がない大学ばかりでした。EJUとTOEFLと面接と出願時に提出する志望理由書などで合否判定がなされる大学を選んでいました。数学や理科の筆記試験がある大学は、志望校にはしていましたが、結局受験しませんでした。

つまり、マークシートなど選択式の試験には自信を持っていましたが、答案を書く試験では点が取れなかったのです。受験講座でも、EJUの過去問では力を発揮しましたが、「この時の物体の速さを求めよ」とか「なぜこのような反応が起こるか説明せよ」などという問題となると、計算メモや反応式を答案用紙の隅にくちゃくちゃと書くだけでした。答案が書けさえすれば最難関校も夢ではない頭脳を持っていましたが、どうにもなりませんでした。

そのXさん、授業中も常にスマホを握っていました。本人もスマホ依存症と言っていました。答案が書けないのは、明らかにスマホの影響だと思いました。そう注意しましたが、スマホを我慢するくらいなら第一志望校に行けなくても構わないと、聞く耳を持ちませんでした。

この本を読んだことで、Xさんの精神構造が見えてきたような気がします。今、KCPにいる学生たちはどうなのでしょう。対処する方法があるのでしょうか。

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教科書を見ながら

3月16日(火)

卒業式の後は、ずっとレベル1のクラスに入っています。レベル1を教えること自体は今までに何回もありましたから、要領を思い出せばどうにかなります。でも、文法導入や練習などに使われている場面や状況などに、密を思わせて昨今の情勢に合わないものが意外と多いのです。

東京も桜の開花宣言が出され、さあ花見の季節だと言いたいところですが、花見の名所はどこも花見宴会禁止で、許されるのはせいぜい素通りのみです。しかし、教科書の挿絵では、みんなで集まって大いに盛り上がっています。学生たちも大人ですから、そんなことは重々承知でしょうが、大勢で騒いでいかにも楽しそうな例文を作らせるのは、ちょっと心が痛みます。

夢に描いた留学が、個習か孤学とでも表したくなるような日々になってしまい、学生の心にはもやもやしたものがあるに違いありません。それを思うと、一刻も早く緊急事態宣言が解除され、正常な授業に戻せるようになってもらいたいと思います。その一方で、急いては事を仕損じるとも言いますから、解除は新規感染者数をもっと押さえ込んでからの方がいいという気もします。

首都圏は人口が密集しすぎているから、患者数はそう簡単に減らないという説もあります。また、緊急事態慣れしてしまったから、緊急事態宣言をこれ以上続けても意味がないと考えている人もいます。海外では、日本の緊急事態宣言は緩すぎると言われています。どれもある程度以上は正しいでしょう。これにオリンピックという異次元の商業的要素も絡み、菅さんもどうしたらいいのかわかんなくなっちゃってるんじゃないかな。

「今年はぜひお花見をしたいですね」という、練習問題に対する学生の解答を聞きながら、あれこれ想像してしまいました。

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