Category Archives: 勉強

見返す

9月9日(金)

「先生、私、去年の11月のEJUで日本語335点だったんですが、どの辺の大学に入れますか」「うーん、偏差値でいうと65ぐらいだから、A大学あたりかな、Zさんの勉強したい学部がある大学だと」「そうですか。実は、去年、B大学を受けたんですよ。不合格でした」「335でB大学なら十分行けるはずだけど…」「面接で志望理由書に書いたこととちょっと違うことを言ったからだと思うんです」「ああ、それはしょうがないかも。提出書類と面接の答えが違ったら、落とされても文句は言えないな」「ちょっとでも違ったらだめですか」「違ってたら面接官が『志望理由書にはこう書いてありますよ』とかって指摘するところもあれば、何も言わずに×を付けるところもあるね。B大学は違ってたらダメっていう大学だったのかもしれないね」「だから、私、今年はA大学か国立に受かって、『お前たち、こんな優秀な学生を落としたんだぞ』ってB大学に言いたいです」「ああ、そういうときは『見返してやる』って言うんだよ」「はい、B大学を見返してやりたいです」

受験講座の授業が終わった後、雑談をしていたら、こんな話になりました。少々穏やかでない話ですが、Zさんの意気込みは大したものです。「捲土重来」なんて言葉も教えてあげればよかったかなあ。まあ、動機はどうであれ、Zさんは勉強に燃えています。予習もしてきます。質問も活発にします。受験講座の担当教師としては、非常に張り合いのある学生です。何とかZさんのリベンジに手を貸してあげたいです。

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目の前じゃないから

8月30日(月)

理科系の数学の受験講座は、微分と積分を扱っています。7月、対面授業をしている頃は、微分積分の前段階をやり、さあこれからが山場だというところでオンラインになってしまいました。オンラインだと、受講生に問題を送ることはできても、その問題をどのように解いているか、答えが出るまできちんと計算しているか、解けない場合はどこでつまずいているか、そういうことが見えません。解いている手元を映せというのも難しいですし、答案用紙を送ってもらって添削というのでは、効果半減です。今、目の前で解かせて、悪いやり方を現行犯で見つけて直させたいのです。

理科系の学部学科は、数学がわからなかったら勉強ができません。入試はうまいことする抜けたとしても、入学してから進級できません。数学の単位が取れないのみならず、物理や化学も不合格となるでしょう。その数学の根幹をなすのが、微分積分です。物理など、教科書が微積語で書かれていると言っても過言ではありませんから、微分積分ができなかったら専門の勉強に進めません。受験講座理科系数学は、その基礎部分を築く授業なのです。だから、「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、間違いの芽を確実に摘み取りたいのです。

それから、KCPの学生は、問題を最後まで解ききらないきらいがあります。途中まで解いて答えまでの道筋が見えたらそこでやめてしまう学生が目立ちます。EJUの成績を見ると、詰めが甘くて失点につながったんじゃないだろうかという点数が随所にありました。今年K大学に進学したWさんには、答案用紙に指差してそういうところを徹底的に指導しました。

数学を受けている皆さんに、私の声と危機感はどこまで響いているでしょうか。

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悲喜こもごも

8月28日(土)

私のクラスのBさんは、7月のJLPTの結果がオンラインで見られると知るや、すぐに聞いてきました。KCPで団体申し込みをした学生の合否結果と成績は、学校に届くのです。

調べてみると、N2に合格でした。すばらしい成績とは言いかねますが、各科目満遍なく点を取って、合格点を上回っていました。Bさんは、多少おっちょこちょいのところがありますが、オンライン授業でもいい加減なことはせず、宿題も確実に出し、着実に進歩しています。KCP入学以来ずっとこういう勉強を積み重ねてきたとしたら、それが実を結んでの合格です。

Bさんから私に言えば結果を教えてもらえると聞いたのか、Jさんからも結果が知りたいというメールが届きました。調べてみると、同じN2が不合格でした。総得点は合格基準を上回っていますが、科目ごとの合格に必要な最低点に届かなかった科目があったため、不合格となったのです。Jさんも、いくらか軽いところはありますが、コミュニケーションは問題なく取れます。対面授業の頃は、日本語力がない学生の代弁すらしてくれました。どこで失敗したのかよく見極めて、12月には合格してほしいところです。

成績一覧表をよく見てみると、N1もN2も、受かっている人はそれなりの人が多いです。そりゃ無理だよねっていう学生は、だいたい落ちています。KCPのJLPT受験者数なんて、特に今年は、たかが知れています。でも、合格者も不合格者も“やっぱり”感満載だとしたら、JLPTは妥当な評価になっているということです。

オンラインが続き、自室にこもることが多いとなると、勉強のペースも乱れがちです。そこを引き締めていかないと、JLPTも大学も大学院も、合格には結びつきません。

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不安な日々

8月27日(金)

夏休み明けの月曜日から、Vさんが受験講座を休んでいます。日本語の授業も出席したのは1日だけです。ワクチンの副反応がひどいようです。オンライン授業にも参加できない状態が1週間も続いているとなると、体力の衰えが心配です。もうすぐ9月だというのに、この前までの天候不順を挽回しなければと思っているかのごとき暑さです。平熱に戻った程度で耐えられるでしょうか。

Vさんは6月のEJUの結果が思わしくありませんでしたから、この時期にガンガン鍛えたいところです。夏休み前までは、本人もそのつもりでいたようです。しかし、こうなってしまっては、無理は禁物です。去年の秋、ほんの一瞬、鎖国が解かれたすきに入国したはいいですが、思わぬ落とし穴にはまってしまいました。でも、ワクチンを接種しなかったら、それもそれで心配が募るでしょう。

Hさんは、まだ入国できず、自国からオンライン授業に参加しています。受験講座の時間が終わって、私がサヨナラと言いながら画面に向かって手を振ったら、「先生、質問があります」と呼び止めました。授業内容についての質問かと思ったら、「先生、私はいつ日本に入れますか」と聞いてきました。

正直に言って、一番してほしくない質問ですね。わからないというのが事実であり、本音でもあります。でも、それではHさんの気持ちは晴れないでしょう。ですから、今年も同じようになるか全くわからないけれども、去年はこうだったという話をしました。希望を持たせすぎるわけにはいきませんが、希望の灯を消してしまってもいけません。

多くの学生が、それぞれの不安を抱えたまま、受験シーズンに踏み出そうとしています。

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実力養成

8月3日(火)

先学期から化学の受験講座を受けてきた学生の授業が一通り終わりましたから、まとめの問題をしました。どのぐらいできるのだろうかと楽しみにしていましたが、授業のほとんどが私の解説になってしまいました。ZOOMの画面に映る顔を見ていると、初めて聞くかのようにうなずいている場面もありました。

やっぱり、演習をしないと知識の応用はできないものです。今回も、そういう意味も込めて、似た出題傾向の問題もたくさん揃えています。1つの事柄に対し、違った角度から出された問題に取り組むことにより、その事柄への理解も深まります。今まで見逃してきた気付きもあるでしょう。それを確実に取り込むことによって、真の実力をつけてもらいたいと考えています。

化学に限らず、問題は最後まで解ききることが、きちんと答えを出すことが肝心です。実力を伸ばすには、そういう地味な努力が必要です。この点をなかなか理解してくれない学生が多くて困ります。その点、うなずきすぎるくらいうなずいてくれる学生は、伸びしろがありそうです、その気持ちを受験の本番まで維持させること、安易な道に向かわせないようにすることも、私の仕事です。

とはいえ、東京の感染状況を見ていると、果たして入試がきちんと行われるのか、心配になってきます。昨シーズンは大学側も受験生側もうろたえていた面がありました。今シーズンは良くも悪くも慣れてきましたから、少しは落ち着きが見られると期待しています。想定を上回る状況となれば、何がどうなるかわかったものではありません。

何がどうなってもいいように、学生たちに自信を与えていきたいです。

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冷たい視線に見守られて

7月30日(金)

「昨日の宿題の答え合わせをします。プリントを出してください。じゃあ、1番、Qさん、読んでください」「…」「どうしたんですか」「プリントを持って来ませんでした」

クラスの他の学生たちは、またかという顔をしていました。Qさんは、自分のしたいことしかしません。宿題プリントを持って来るのを忘れたのではなく、端から宿題などやる気がなかったのです。深く突っ込んでもよかったのですが、そうすると真面目に勉強しようとしている学生たちの時間を奪うことになりますから、「あ、そう」と冷たく突き放して、答えられそうな学生を指名しました。

答え合わせの最中、Cさんの右手は机の中、視線もそこに向かっていました。スマホをいじっていることは明らかでした。Cさんは誰にも気づかれずにうまくスマホを操作しているつもりなのでしょうが、みんな気付いています。私が注意しないのは、スマホが見えていないからではなく、Cさんに関してはさじを投げているからです。

その後、学生に文法の例文を発表してもらったら、スマホ中毒という言葉が出てきました。学生の視線はせっせとスマホで何かしているCさんへ。当のCさんはその視線を感じることなく、右手の先に集中しています。ここまで来ると、生きた教材になりますから、むしろありがたくさえなります。

東京は3日連続で3000人超えです。学生ぐらいの年代の若者へのワクチン接種がなかなか進んでいないという現状にも鑑み、来週月曜日からオンライン授業にすることに決定しました。自分の部屋でとなったら、Cさんは勉強しないだろうな。そして、年末ぐらいに「どこにも合格していないんですが、どうしたらいいでしょう」って、顔を引きつらせて相談に来る姿が、次第に鮮やかになってきました。

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油断? 堕落?

7月28日(水)

私のクラスでは、今学期2回目の漢字テストがありました。中級レベルの漢字テストは、単なる読み書き問題だけではありません。語彙的要素も含んだ問題も出されます。初回のテストではその問題に戸惑った学生もいたようです。今回はそういう学生もどういう勉強をして試験に臨めばいいかわかったようです。

しかし、全体的に見ると成績が下がった学生が多かったです。実力差が出やすい語彙の問題だけではなく、点数の稼ぎどころであるはずの読み書きの問題で減点を重ねる学生が目に付きました。なあんだ、初級と変わらないじゃないかという気持ちが兆しているのかもしれません。悪い意味でこのレベルに慣れてしまった様子がうかがえます。緊張感が緩んでいるのだとしたら、中間テストもだんだん近づいてきていますから、引き締めてかからなければなりません。

昨日の私のクラスは、おととい出された宿題の提出率が非常に悪かったです。「宿題を出してください」と言うと、みんな、一瞬ばつの悪そうな表情を見せて下を向いてしまいました。こういうのを見ると、安直だなあと思います。2つのクラスは別のクラスですが、学生の発想には似通ったものを感じます。楽な方法に流れようとするんですよね。

そんな中、2回の漢字テストどちらも満点近い点数を取ったOさん、みんなが忘れてきた宿題をきちんと提出したKさん、前回は語彙問題で沈んだけれども今回はそこで好成績を挙げたGさん、こういった学生には期待が持てます。まあ、普段からしっかりしていますから、当然ではありますが。

来週は文法テストがあります。さて、どうなるでしょう。

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肝心なものが

7月16日(金)

先日この稿で取り上げたCさん、今度は数学の問題を持って来ました。やはり、鉛筆と計算用紙を添えて。しかし、その問題は、最近のEJUの理系数学にはほとんど出ない範囲のものでした。そういう範囲も余さず勉強しようというのは、殊勝な心掛けですが、大学での理系の勉強には必須の積分を国の高校で勉強してこなかったと言っています。EJUがどうのこうのじゃなくても、積分を知らなかったら、何かの拍子に間違って進学できたとしても、進級は無理でしょうね。留年が度重なると、退学だってさせられかねません。

だから、そんな問題にから割り合っている暇があったら、今すぐ積分の勉強をはじめろと命じました。でも、私の言葉が通じなかったのでしょうか、Cさんは、しばらく経ってから、同じような系統の問題を聞きに来ました。やはり、前回の物理同様、問題文の読解ができていませんでした。私の説明だって、かなりかみ砕いてもなかなか通じませんでした。

Cさんに頭を痛める直前、文系の受験講座数学にBさんが出席していました。Bさんの志望校は美大で、数学は不要です。いわば、趣味で勉強しているようなものです。でも、Bさんは筋がいいです。計算力勝負の問題も、論理性を問う問題も、すらすら解いてしまいます。EJUの文系数学なら、おそらくCさんよりBさんの方が、いい点が取れるでしょう。その数学の才能を生かして…と思いますが、万里の波濤を乗り越え、ウィルスをものともせず留学に来ているのですから、好きなことを勉強してもらいましょう。すでに、第一志望校のオープンキャンパスにも参加したそうです。

週間予報に晴れマークが並んだかと思っていたら、梅雨明けです。Cさん、受験シーズン本番は、すぐそこですよ。

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軌道修正

6月15日(火)

私が教えている初級のオンラインクラスは、毎日宿題があります。一部は答えも送って、自分で答え合わせをするようにしています。そんなことをしたら答えを丸写しして提出するんじゃないかと思った方、KCPの学生の心はそこまで汚れてはいません。間違えたところは自分で赤で×を付けて、それを写真に撮って送ってきます。

しかし、ちゃんと直せているかとなると、個人差があります。成績のいい学生がきちんと直せて、芳しくない学生が間違い放置という図式は、容易に想像できると思います。問題をやってみてここはあやしいと思ったところを重点的に見て、間違いを見つけたらしっかり訂正する――ことができれば、自分の足で階段を上っていけます。それに対して、問題を解くことで精根尽きてしまうような学生は、異国の字どうしを引き比べて間違いを見つけるなど、至難の業です。

Yさんが提出した宿題には、大きなチェックマークがついていました。でも、ざっと眺めただけで間違いが3つ。うち1つは許してあげられないでもありませんが、ほかはちょっとねえ。最初の問題はすべての間違いが直してありましたが、その間違いが多くてうんざりしてしまったのでしょうか。

Mさんも間違いがけっこうありましたが、すべて直してありました。それにとどまらず、どうしてこの答えは不正解なのかという質問までありました。Mさんは今までもこういうパターンでした。間違いを自分で直し、納得がいかないところや疑問点を決して残しません。

気が付けば、期末テストまでちょうど1週間です。今学期学んだことをしっかり身につけて、すばらしい成績を挙げ、気持ちよく進級してもらいたいです。

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自分の力

6月9日(水)

昨日から暑くなり、2日連続で真夏日でした。1年でいちばん太陽高度の高いこの時期、お日様が本気で照り付けると、あっという間に気温が上がります。黒いバッグを持った学生たちは、軒並み校舎入口のサーモグラフィーのアラームを鳴らして、荷物を置いてから再チェックを受けさせられていました。

直角に近い角度で日が差し込むということは、紫外線もそれだけ強烈だということです。その紫外線を浴びなくてもよくしてくれたのが、Uさんでした。11時に勉強に来るということで、担任のF先生から問題を預かりました。Uさんが来たらそれを渡して食事に出ようと思っていましたが、11時を過ぎても一向に現れません。12時近くになるとどの店も混みますから、そんなときに入りたくないです。F先生が戻ってきてもまだ姿を見せず、結局来なかったんじゃないのかな。おかげで、私はお昼の時間帯もずっと職員室でした。

私はUさんを詳しくは知りませんが、時間を守れないということは、確たる目標もなく留学生活を送っているのでしょう。苦労して日本に入国したのに、これじゃあ意味がありません。あと3、4か月で受験でしょうが、見通しは明るくないですね。

時間にいい加減な学生は、多少頭がよくても、沈んでいきます。自分で自分がコントロールできないのですから。私たちも可能な限り指導はしますが、24時間学生につきっきりというわけにはいきませんから、自ずと限度があります。公助でも共助でもなく、自助努力が求められます。Uさんにそれができなかったとしたら、無理して日本にいてもいいことは一つもありません。Uさんの国は新規患者もほとんどいなければ、若者にもワクチンをバンバン打っています。日本よりずっと安全です。

東海地方までは梅雨入りがやけに早かったですが、関東甲信地方は平年(6月7日)を過ぎてもまだのようです。今週末までは、太陽の元気さは衰えそうもありません。

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