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勉強しました

8月6日(土)

午後から教師の勉強会がありました。外部の講演会の参加したO先生の報告会も兼ねて、教師一同、世の中の最新の動きを知ろうというものです。GIGAスクール構想とか、ICTの活用とか、断片的な情報は見聞きしていたものの、系統立てた話をしてもらい、勉強になりました。

確かに、教育界のDXが進み、学校が新しい学びを提供する場へと変われば、日本も停滞状況を打破できるかもしれません。日本語学校も留学生に対して各人の目標に応じた教育や指導ができるようになれば、学生のみならず教師もやりがい生き甲斐が感じられるようになるに違いありません。そういう日が来ることを思うと、やる気も湧いてくるというものです。

しかし、入試制度はどうなるのでしょう。そこが旧態依然たる姿だったら、個々の学校がいくら改革のために汗をかいても、徒労に終わりかねません。自律的な学習が入試の結果に結びつかなかったら、それが真に根付くことはないでしょう。ことに留学生入試が怪しいです。

面接重視は好ましいことですが、つぶさに見ると、おざなりとしか思えなかったり、どんな基準で選抜しているのだろうかと疑いの目を向けたくなったりする大学もあります。EJUの問題は、学校側の新しい動きから見ると周回遅れどころではありません。世界的に留学生の引っ張り合いが激しくなったら、EJUを軸とする留学生入試制度のせいでこの争いに負けてしまうかもしれません。受験テクニックで解けてしまったり、記憶力テストに陥っていたり、解くことに喜びが感じられなかったりするような問題ばかりだったら、EJUに頼っている留学先としての日本は、遠からずそっぽを向かれるでしょう。

何かと深く考えさせられる勉強会でした。

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絵を描く

8月4日(木)

EJUの化学や生物の問題は知識が問われることが多く、それに対して、物理はひたすら計算です。化学や生物は、問われた知識を持っているかどうか、その知識を論理的に展開できるかどうかが運命の分かれ目です。物理は、問題文を図にして可視化し、そこから力のつり合いや熱バランスなどの式を立てることができるかどうかが、正解を得られるかどうかに直結します。ですから、問題文を絵にする力がなければ、お先真っ暗です。

今学期の受験講座物理の受講生は、残念ながら、問題文を絵にする力がまだまだです。今学期は力学を勉強してきましたが、その問題を配ると、みんな問題文は読んでアンダーラインを引いたりはするものの、そこでペンが止まってしまいます。読み取ったことを図に描き入れていかなければならないのに、それが思うようにできません。だから、式も立てられず、当然問題は解けません。5分とは言わないまでも、10分ぐらいで解いてほしい問題を、20分かかっても???のままでした。

私が解説するとわかったような顔をします。私が作った模範解答を配り、読んでもらい、「質問は?」と聞くと、「ありません」と答えます。でも、そのわかったことを正解とか得点とかという形にするところまでには至っていません。これが、今の受講生の実力です。学生たちはやらなければならないことがあまりに多く、物理の問題を解くことにばかり時間をかけられないのは確かです。でも、そこをどうにかしない限り、道は拓けてきません。

気が付いたら、来週の木曜日は祝日です。その次の週は夏休みですから、次回の物理は25日です。さて、どうやったら、学生たちの力になれるでしょうか。

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変身

7月26日(火)

数学のS先生によると、今学期の理科系数学のホープはCさんだそうです。Cさんは、本来だったらこの4月に進学していなければならなかった学生です。入管の特例措置でKCPに残って勉強しています。去年も受験講座を受けていますから、できて当然と言えばその通りです。他の学生よりも1ランク上の実力のようです。

Cさんの場合、進学できなかった最大の要因は、日本語を話す力が足りなかったことです。志望校の入試の直前に集中的に特訓を受けたのですが、熱い思いを志望校の面接の先生に伝えられなかったようです。オンライン授業の時は、それをいいことに、授業中の好き勝手なことをやっていたようです。日本語の勉強や練習より、数学や理科の問題を解くことが好きで、日々内職に励んでいました。その挙句が、日本語教師にすら伝わらない発話力であり、相手の言葉を聞き取る力の欠如であり、理科や数学の問題文の理解すらままならない読解力でした。

先学期は受験講座を受けませんでしたが、今学期から復活しました。数学ではS先生に力を見せつけているようですし、理科でも鋭い質問を発しています。他の学生の質問に対する私の回答にも、耳を傾けています。暗記から脱して、“なぜ”を追求し始めている気がします。

そして、コミュニケーション力も伸びてきたのではないでしょうか。1人で黙々と問題を解くのではなく、疑問点を質問して解消するという勉強法を取るようになったのだとしたら、大きな進歩です。日本語でそういうやり取りができようになったら、理数系の基礎学力やセンスはあるのですから、鬼に金棒です。大事に育てていきたいものです。

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資料を見て

7月25日(月)

上級クラスの教材に、約40年前と現在の、日本人の食料消費量を比較した資料がありました。1日あたり、ご飯が茶わん4杯から3杯に減ったとか、植物油が年に7本から9本に増えたとかというデータです。それに加えて、同じ期間に日本人の家族構成がどう変化したかというデータも載っていました。40年前は夫婦+子供という世帯が多かったですが、今は単身世帯が最も多いなどというデータです。そういったデータを見て、どんなことが言えるか、どんな社会的背景があるかなどについて考えて発表するというわけです。

学生は、野菜や果物や魚が減って肉や油が増えたから、日本人の食生活は不健康な方向に変化したなどと気が付いたことを言ってくれました。上級ですから、この程度のことは難なく言えます。しかし、家族構成の変化と組み合わせてもう一歩踏み込んだ解説をするとなると、できる学生は限られます。大学院進学希望の学生も多いクラスですから、もう少し何か言ってくれるかと思ったら、そうでもありませんでした。

「1人きりだと、ご飯、炊く?」と聞くと、外食とかコンビニ弁当とかという答えが返ってきました。そういうヒントを与えると、「コンビニ弁当は揚げ物が多いから油が増えたんだ」などという方向に話が進みました。補助線を引いてあげると想像が膨らませられ、また、その結果を発表できるあたり、さすが上級と言えましょう。

しかし、中には全然想像が広げられない学生もいます。与えられた2つのデータを見ても何も思い浮かばないと言います。選択式のテストに対応する勉強ばかりしてきたのでしょうか。詰め込み教育ばかりだと、自分なりの答えを生み出すことが難しいんでしょうね。

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太‥‥

7月22日(金)

「太る、やせる」は子供でも知っている単語であり、若者にとっては重大な意味を持っている単語でもあります。しかし、どうも「太る」の定着が悪いのです。聞いたり読んだりしたらわかりますから理解語彙ではあります。しかし、話したり書いたりしようとすると、上級の学生でも「太くなる」となってしまいますから、使用語彙のレベルには達していません。

確かに、太ると腕やウェストや脚が太くなりますが、でも、「太る」と「太くなる」は違います。「太る」は重さ、すなわちkgの世界の言葉であり、「太くなる」は直径、すなわちcmの世界の言葉です。「軽い」と「短い」が違うのと同じぐらい違うのです。にもかかわらず、「日本の食べ物はおいしいですから、1年で10kg太くなりました」なんてやっちゃうんですね。

「太る」も「太くなる」も、「太い」から生まれています。一方、「やせる」に対しては「細くなる」で、語形が全然違いますから、混乱が起きないのでしょう。「身も細る思い」という表現もありますから、「太る」の反対語は「細る」かもしれません。「やせ細る」とも言いますが、「やせる」という意味で「細る」を使うことはありません。そもそも、超級の学生だって「細る」などという単語は知りません。要するに「やせる」には語形の似た言葉がないのに、「太る」にはあぶない言葉がありますから、学生が間違えやすいのです。

そんな理屈はともかく、学生たちにちゃんと「太る」を使わせるにはどうすればいいでしょう。いきり立って力説したって無駄なことは証明されています。細く長く言い続けるほかないのでしょう。

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あいえんけんに思う

7月20日(水)

府県名に使われる漢字が常用漢字に追加されたのは、12年前です。そして、それが小学校で教わるようになったのは2年前からです。岡とか熊とかは、県名以外にも人名として使ったり、普通名詞としても読んだり書いたりすることもあるでしょう。茨となると、茨城県、茨木市(大阪府)以外には「茨の道」ぐらいでしょうか。

何はともあれ、小学校で習うとなると、当然漢字テストにも出てきます。上級の教材の参考にしている漢字問題集にも、熊本県とか愛媛県とかという問題がありました。授業で教えた上で、そういった県名をテストに出してみました。そうしたら、愛媛県を「あいえんけん」と読む誤答が目立ちました。“愛”は普通に読んだら“あい”であり、学生たちにはなじみ深いですから、これはそう読む方が当たり前です。“媛”は、“援”からの類推で、“えん”と読んだに違いありません。

“媛”も、「才媛」などというときには“えん”と読みますから、この読み方を頭ごなしに否定することはできません。むしろ、“媛”を形成文字と踏んで“えん”と読んだことは、ほめるべきことかもしれません。また、東京で暮らしている外国人留学生にとって、愛媛県は見聞きするチャンスが非常に少ない地名です。だから、たとえ授業で取り上げたとしても、それをテストに出すのはいかがなものかという議論も成り立ちます。

そうは言っても、授業で取り上げてからせめて1週間ぐらいは、覚えておいてほしかったなあ。宇和海や石鎚山や松山城やしまなみ海道やタルトや坊つちゃんや、これを機会に触れてみると、東京でない日本の良さを知る機会にもなったのにと思います。

この稿にすでに何回も書いているように、日本に留学して東京しか知らないなんて、寂しすぎますよ。

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思わぬ落とし穴

7月19日(火)

Nさんは大学院進学を目指している学生です。昨年度は中級で受験だったこともあり、志望校には手が届きませんでした。入管の特例措置で、来年3月までKCPで勉強することになっています。ただ、Nさんの志望校はかなりレベルが高いですから、上級で挑んだとしても楽な戦いにはなりません。

そんなNさんの進学準備の進み方が、実に危うい状況に陥っているということがわかりました。最大の問題が、日本語で書いた論文を提出しなければならないのですが、その進捗状況がほぼゼロだという点です。Nさんの専門で、日本語での論文が不要な大学院も多数ありますが、今のところ、Nさんは妥協するつもりはなさそうです。じゃあ、論文がすらすら書けそうかというと、これまた違います。題材を決めて、材料を探して、論文として組み立てて、日本語としておかしくないかチェックして、…という段階を1歩も進んでいますん。Nさん自身、それは痛いほどわかっています。

入試は11月と言います。すると、遅くとも10月には出願でしょうから、現時点で1行も書いていないというのはかなり厳しい状況です。でも、論文提出が不必要な大学院については、何も調べていないに等しいです。本命校だけがあって、滑り止めが全く考慮されていません。危ういことこの上もありません。

こんなことがわかったのは、別件でNさんを呼び出してあれこれ話を聞きだしたのがきっかけでした。その別件なんか枝葉末節に思えてしまうくらい、Nさんはとんでもない状況にあります。“いい学生”の部類に入る学生でしたから、今までずっと、Nさんの「大丈夫です」を信じてきました。しかし、これからは第一級の要注意学生です。Nさんみたいな表面上“いい学生”がいないかどうか、再点検しなければなりません。

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因数分解のやり方

7月13日(水)

今学期の水曜日は、受験講座数学コース1です。文科系の大学進学希望者で、EJUの数学を受ける学生が対象です。先学期、EJUの直前対策をしたら難しすぎると言われましたから、今学期は数学の基礎から始めます。

どのくらい基礎からかというと、“3+5=8”をどう読むかというぐらい基礎です。もちろん、学生たちは、式の意味もわかりますし、こんな計算ができないはずがありません。しかし、“読む”となったら、さっぱりです。私が「さんたすごははち」と式を読み上げると、すかさずノートを取っていました。日本語の授業に当てはめるなら、教室用語の導入です。

そういったウォーミングアップが終わったら、展開と因数分解です。この程度は国の高校でも習っていますが、文系志望だと忘却の彼方ということがよくあります。練習問題をさせたら、因数分解で頭を抱えていました。理系人間だったら見た瞬間に答えがわかる問題だったんですがね。

これは頭がいいとか悪いとかではなくて、訓練の差です。因数分解をするチャンスが多ければ、カンも養われます。だから、数字の組み合わせから反射的に結果が思い浮かんでくるのです。これは、問題を解くのには便利な頭のはたらきですが、因数分解のしかたがわからない人に教えるとなると、実に具合が悪いのです。答えを出している本人が、自分の答えの出し方がわからないのですから、他人に教えられるわけがありません。

数学の教科書や参考書やサイトなどに載っている因数分解のしかたを読んでも、しっくりきません。しかたがありませんから、私のロジックを細かく分解して、でもそれを文字化するとかえってわかりにくくなりますから、ホワイトボード上で実演しながら解説することにしました。

それを見た受講生たち、うなずいてはいましたが、どこまでわかったでしょうか。直後に出した練習問題はあっさりできましたが…。次回からは、ユーチューブの先生の教え方を参考にしてみましょう。

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たくさんわかりませんでした

7月12日(火)

理科系の受験講座は、多くの場合、学生にとっては国の高校で勉強したことの復習です。文系の総合科目は日本の地理歴史政治経済も含みますから初めて聞く話もありますが、理科系は用語が日本語に置き換わるだけで、内容は同じです。日本ではNaClだけど、私の国ではSoClだなどという話は聞いたことがありません。

Jさんは今学期レベル3で、受験講座が受けられるようになりました。初日は、90分にわたって私の化学の授業を聞きました。その前に、S先生の数学も聞いています。授業後、「日本語、難しかった?」と聞いてみたら、「はい。たくさんわかりませんでした。でも、だいたい大丈夫です」と、どうとらえていいのか迷ってしまう答えが返ってきました。

受験講座は、日本語の授業と違って、図表や数式などを見ながら、その意味するところを理解していきます。進出語彙や文法の導入のあとで反復練習、応用練習とかというパターンがありません。講義を通して原子なら原子という物の概念をつかみ、それを応用して理解を深めたり広げたりしていくのです。Jさんの「わかりませんでした」は、“応用して理解を深めたり広げたり”という段階には至らなかったという意味でしょう。「大丈夫です」は、概念はどうにかつかめたと言いたかったのではないでしょうか。その証拠に、ここがポイントだというところは、事前に配っておいたレジュメになにがしか書き込んでいました。

Jさんには、今は苦しいと思いますが、ここであきらめずに食らいついていってほしいです。それが、進学後に役に立つ日本語力になるのです。

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多様性

6月17日(金)

おとといに続いて、アメリカのプログラムで来ている学生へのインタビューをしました。

Pさんは去年からオンラインでKCPの授業を受けていましたが、時差の関係で苦労が多かったです。だから、どうしても日本で授業が受けたくて、今学期来日しました。日本語の勉強は、文法は難しいですが、漢字は街なかにあふれているので、それを見ながら勉強するのが楽しいと言っていました。何より、日本人と話すのが好きで、あちこちで話しかけているようです。カタコトより多少ましかなという程度ですから、話し掛けられた日本人も、同情と言いましょうか、やさしい気持ちになるようです。

絶対値で評価したら、Pさんの発話力はまだまだです。聞き手の”同情“に頼らなければ、コミュニケーションを取るのは難しいでしょう。しかし、待ちの姿勢ではなく、何でも吸収しようという気持ちも強いです。このままいけば、JLPTのN1合格とか、EJUの日本語で高得点とかというのとは違った方向で日本語力を高めていけるでしょう。まあ、Pさん自身はN1合格を目標としているようですが…。

KCPの強みは、こういう学生もいるところです。みんながみんな大学院や大学や専門学校への進学を目指すのではなく、そういうのとは違う座標軸、評価基準を持った学生も机を並べているのです。Pさんは進学希望の学生たちを、素直に“すごい”“よく勉強している”と感心しています。進学希望の学生も、Pさんから刺激を感じてもらいたいところです。実際、こういう学生から何かを感じ取れた学生は、充実した留学生活が送れるとともに、日本語の実力も大きく伸ばしました。

Pさんが本当にN1を目指すのなら、来年は上級です。最近も、Gさん、Bさんなど、アルファベットの国からの学生が上級まで到達し、クラスに活気を与えていました。Pさんにもそういう存在になってほしいと思いました。

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