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晩秋

11月1日(火)

読解のテキストに「晩秋」という言葉が出てきたので、晩秋とはいつごろかと学生に聞いてみました。すると、11月ごろとかちょうど今頃とかという声が挙がりました。確かにその通りなのですが、天気予報によると、明日は晴れますが気温は13度までしか上がらないとか。晩秋というより初冬という感じです。

職員室にはいつの間にか何着かのコートが掛かるようになりました。先週末は朝の日比谷線の電車にヒーターが入っていたことに驚き、今朝は降り立った新宿御苑前駅が妙に暖かく、暖房を始めたのだろうと思いました。もっとも、私の通勤時間はラッシュのはるか前で、人いきれに無縁の時間帯ですから、こうなのかもしれません。

秋の深まりというか冬の始まりというか、季節が進むにつれて、マスクをしている学生・教職員が増えてきました。昨日のハロウィンで大活躍だったFさんからも、風邪で調子が悪いとメールが入りました。そのFさんのクラスは、マスク越しのせきが激しく、授業が終わると窓を開けて空気の総入れ替えをせずに入られません。私が授業後に説教することになっていたSさんも、熱を出して早退したそうです。毎朝校舎内の掃除をしてくださるKさんまで、昨日からダウンしています。

今週末にいろいろな大学の入試を控えている学生たちは、私の知る範囲では風邪に冒されていないようですが、試験日まで何とか持ちこたえてもらいたいものです。今週は木曜日が文化の日でお休みですから、選択科目の身近な化学はありません。でも、来週は風邪を取り上げて、予防に努めるように訴えるつもりです。

体験型旅行

10月19日(水)

9月の訪日外国人客数が、190万人余りと、9月としては過去最高を記録しました。1~9月の累計訪日外国人客数も約1800万人となり、過去最高だった昨年の記録まで200万人弱に迫っています。昨年は9月より10月のほうが外国人客数が多かったので、今月中に昨年の記録を上回ることでしょう。

外国人観光客といえば、中国人による爆買いがつとに有名ですが、その爆買いは影を潜めつつあり、今年はモノではなくコトにお金を使う傾向が顕著になっているそうです。確かに、日本が2回目、3回目というリピーターにとっては、そう毎回毎回買い物ばかりでは飽きてしまうでしょうし、それ以前に、買うもの、ほしいものがなくなってくるでしょう。体験を重視する旅行に人気が集まるのもよくわかります。

留学は、その体験型旅行が究極に発展した形ではないかと思います。旅人ではなく住人になり、さらには、単なるレジャーではなく、その後の人生を左右する学問を身に付けるんですからね。得がたい経験だけでは不足で、何かを確実に得る経験を積まなければなりません。

しかし、残念ながら、そういう覚悟の学生ばかりではありません。ほんの腰掛け、物見遊山の域を出ないお気楽な、ビザは留学だけど気持ちは観光の学生もいます。目をつぶらずともそういう学生の顔が浮かんできます。彼らにとっては、日本は巨大なテーマパークで、日本語学校の学費は年間パスポート代なのかもしれません。また、最近はだいぶ数が減りましたが、勤労青年もいます。身も心もすり減らす方面での究極の体験は、してほしくないです。

学生たちには、留学ビザでこそ味わえる青春に、どっぷり身を浸してもらいたいです。

どの面下げて

10月14日(金)

Iさんは学期が始まったばかりなのに、家族が来日するからということで、来週いっぱい欠席するとメールで連絡してきました。無断欠席よりはましですが、1週間以上も授業に出ないと、せっかく進級したレベルの勉強についていけなくなるおそれがあります。この間に平常テストが3つありますから、今学期全体の成績にも影響が出かねません。こういうことを書いて返信メールを送ったのですが、これに対する返事はなく、Iさんは粛々と休み始めました。

Iさんのご家族も、何でわざわざ学期が始まって3日目なんていう日に来日したのでしょう。KCPの学期休みに合わせることはできなかったのでしょうか。自分の子どもの勉強を邪魔しているという意識がないのでしょうか。極端なことをいうと、通訳代わりとして家族と一緒に観光地を歩いていたIさんが、在留カードの提示を求められ、そこに記された「留学」という文字から、ビザの発給目的に反する行為をしているとして捕まっても、文句は言えません。授業時間中にアルバイトしているのと、本質的には変わるところがありませんから。

Iさんの例に限らず、歯医者の予約を入れたとか、インターネットの工事があるとか、そんなの授業時間外にまわせるだろうという理由で欠席する学生が後を絶ちません。人間は楽なほうへと流されていくものですから、そうやって気安く休むと、休み癖がつきます。無為に過ごすことへの罪悪感も薄れてきます。負のスパイラルにはまり込んで、有意義な留学からどんどん遠ざかっていきます。

Iさんは、私が何を言っても予定通り休み続けるでしょう。再来週の月曜日に久しぶりに学校へ出てきたとき、どんな顔をするでしょうか。

入学式挨拶

皆さん、ご入学おめでとうございます。このように、世界の国々から多くの若者が、このKCPに集ってきてくださったことをとてもうれしく思います。

今年は、NHKの大河ドラマ「真田丸」が人気を集めています。主人公の真田信繁は、真田幸村という名で世にすでに知られた人物でしたが、その父親・真田昌幸にもスポットライトを当てていることが、このドラマの特徴だと思います。

ドラマの中での昌幸は、戦国時代を生き抜く策士として描かれています。昌幸の領国は小国でしたが、昌幸は周囲の大国からの侵略を防ぎ、逆に大国から一目置かれる確固たる地位を築き上げました。自分の領地を一族を家族を守るためにあらん限りの知恵を振り絞り、置かれた状況において考えうる最善の手を選び、そして、万難を排してそれを実行に移そうとしました。もちろん、いつも事がうまく運んだとは限りません。選んだ手が裏目に出たこともあれば、動きすぎて失敗を招いたこともあります。それでも、決してあきらめることなく、失敗を取り戻す手立てを考え、また動き出しました。真田信繁が、大坂夏の陣で寡兵をもって徳川家康をあわやというところまで追い込み、現代にまで名を残しているのは、この父親の生き様をつぶさに観察し、大いに学んできたからに相違ありません。

私が、今ここにいらっしゃる皆さんに望みたいのは、真田昌幸のこの生き方です。昌幸のように自ら動いてチャンスを作っていく気持ちがなければ、留学は成功しません。人に言われて何かをするのではなく、主体的に動くのです。状況に応じて最善策を考え、それを実行するために、周囲の協力を得ていくことが肝要です。

ことに日本での進学を考えているのでしたら、10月入学生は、入学試験までの時間が4月入学生などに比べて短いですから、これがハンデになりかねません。自分で工夫し、周りを動かし、有利な状況へと持ち込まなければ、皆さんが国で思い描いてきたような留学生活は送れないでしょう。棚から牡丹餅を期待しているようでは、「こんなはずじゃなかった」という結末を迎えてしまいます。

この中には、親に言われたから日本へ来たという方もおいででしょう。そういう方も、流れに身を委ねるだけでは進歩も発展もありません。誰かが何かをしてくれるだろうという受身の姿勢では、「日本はおもしろかったです」が留学の唯一の成果ということになってしまいます。そうではなく、これから半世紀かそれ以上続く皆さんの人生の基礎を打ち立てるために、皆さん自身の頭脳を最大限に回転させ、必要とあれば私たち教職員に援助を求め、自分の手で有意義な留学をこしらえていってください。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

地図がほしいです

10月5日(水)

朝、誰もいない職員室で物理の問題を解いていると、「スミマセン、エーゴ、ワカリマスカ」と声をかけられました。顔を上げると、いかにもアルファベットの国から来ましたという男性がカウンターの向こうに立っていました。筆談もできるようにペンとメモ用紙を持ってカウンターへ行って話を聞くと、彼は10月の新入生で、1キロほど離れたホテルから歩いてきて、東京の地図がほしいということがわかりました。彼のスマホは地図が出てこないので、原宿や渋谷やいろいろなところへ行くので地図を買いたいとのことでした。彼が持っていたホテルからここまでの地図の上に紀伊国屋を示し、開店は10時だと教えてあげました。「ドモアリガト」と笑顔で去っていきました。

文章にすると長くなりますが、この程度の英会話なら今の私でもできます。かつては英語で日本語を教えていましたが、今は英語を話すのも、こんなシチュエーションで年に数えるほどです。日本語教師は、きちんとした日本語を話すことが本務で、それ以外の言語を使うのはサービスだなんて、言い訳していますけど…。

今朝の彼にしてみれば、日本語では自分の意志の1%も表現できないでしょうが、英語なら、受け取る側の能力に大いに問題はあるものの、伝えたいことの大半は伝えられると思ったのではないでしょうか。そして、地図が手に入る場所を知るという、私が思うに彼の最大の目標は達せられたと思います。

この、自分の思いを伝える術があるという感覚は、異国の地においては非常に大きな安心感をもたらします。共通言語がボディーランゲージだけというのは、心細いものです。

明日は、新入生のプレースメントテストがあります。心細さを感じている人たちが大量にやってきます。言葉の面ではどうすることもできませんが、せめて心を目いっぱい開いて、新入生の心を少しでも和らげてあげたいです。

得がたい経験

9月15日(木)

卒業生のOさんが顔を見せに来てくれました。地方の国立大学に進学したOさん、大学院は東京でと思っていて、その偵察も兼ねて東京まで出てきたとか。

Oさんは、大学院は東京といっても、地方の大学に進学したことは、まったく後悔していません。数少ない留学生ですから、大学の先生方や地域の方々から非常に貴重な存在として目をかけてもらっています。そのおかげで、東京で留学していたらありえなかったような得がたい経験をいくつもしました。東京で暮らすのとはまったく別な意味で、刺激的な日々を送ってきたようです。

また、大学の偏差値は低くても、そこで教える教授陣の力量は高く、学生が努力すればいくらでも応えてくれるそうです。教授の懐に飛び込めば、どんどん高度な課題を与えてくれて、偏差値の高い大学とまったく遜色のない勉強ができます。もちろん、Oさんの人柄が先生方の心をつかんだ点は大きいですが、ここでも、数少ない留学生という希少価値が有利に働いています。

私は常々学生たちに地方の大学も考えてみることを勧めていますが、Oさんの体験談はまさに私が学生たちに知ってもらいたいことです。東京の名のある大学に進学したとしても、Oさんほど充実した学生生活が送れる人はほとんどいないでしょう。

Oさんが来るちょっと前に、2人の学生の進学相談に乗りました。2人とも東京の大学に進みたがっています。M大学はチャライとか言いながら、自分のEJUの成績でM大学への合格可能性はどのくらいだろうかと心配しています。W大学の面接の受け答えをあれこれ考えながら、やっぱり国立大学だよねなどと言っています。

それならもっと目を広げようよ。地方で中身の濃い青春時代を送ろうよ。

ただ、そんなOさんでも、大学院は東京を考えるのです。大学の先生から、就職まで考えたら大学院は東京だねとアドバイスされたそうです。それが、今の日本の限界なのでしょう。

光明

8月17日(水)

Eさんは今日も学校へ来ませんでした。ずいぶん欠席が続いています。10月に専門学校に入学することが決まっていますが、9月いっぱいはKCPの学生ですから、出席する義務があります。しかし、もう登校する気はないようです。このままでは次のビザ更新ができなくなるおそれがあるのですが、そういうことをいくら話しても、高をくくっているのか、態度を改めようとしません。

KCPが嫌いで登校拒否状態だというのであれば、10月に進学したら状況がよくなるかもしれません。しかし、私が見る限り、Eさんは勉強そのものが嫌いなようで、進学したからといってまじめに学校に通うようになるとは思えません。最初の1か月くらいはもつかもしれませんが、お正月休みが終わったら崩れてしまうんじゃないかという気がしてなりません。

私はEさんのご両親や家庭環境を詳しく知っているわけではありませんが、わがままに育てられたんじゃないでしょうか。いやなことは避けて通ってきたか、誰かが取り除いてくれたかだったのではないかと思います。KCP入学後も、テストや宿題などから逃げ回ってきたふしが見られます。専門学校はそんなに甘くはありませんから、これまでと同じことは続けられません。よほどの覚悟を持たない限り、卒業までたどり着かないでしょう。

勉強が嫌いなだけなら、まだ救いようはあります。でも、Eさんが努力をいとう人間になってしまっていたら、将来に光明を見出すことは非常に難しいです。Eさんがそういう人だとは思いたくありませんが、それを打ち消す状況証拠がなかなか見出せないこともまた事実です。

指定校推薦の希望者・Cさんの面接をしました。Cさんは将来の目標を明確に持ち、それに向かって努力できる人だということがよくわかりました。Cさんの話を聞いているうちに、私もCさんの夢に釣り込まれて、自分の将来が限りなく広がっていくような錯覚を抱いてしまいました。面接を終えてから、とても清々しい気分になりました。

ゲリラ豪雨注意

8月2日(火)

朝、私の出勤時間帯は、激しい雨でした。傘があまり役に立たず、ズボンはひざから下がびっしょりで、靴の中も湿っぽくなってしまいました。学生が濡れた傘を引きずって歩くと、校舎内がびしゃびしゃになるなあ…なんて心配していたら、いつの間にかやんでしまいました。学生が登校することは、薄日さえ差していました。

この雨、東京を東北東から西南西へ抜けていったようで、5時から7時にかけて、船橋や大手町、世田谷、相模原などでは結構な雨量が記録されていますが、そのラインをちょっとでもはずれると、その時間帯の雨量はゼロとなっています。新宿であんなに降られて、練馬でゼロなんですからね、ちょっと腹が立っちゃいますよ。

私がずぶぬれになるくらいなら被害は僅少と言えますが、田園都市線などいくつかの路線が一時的に止まったそうです。幸いにもKCPの先生方は無事に出勤されましたが、仕事に影響が及んだ方も少なくなかったのではないでしょうか。電車が止まるほどというと、局地的には100ミリに近い雨が降ったのかもしれません。

日曜日の昼過ぎ、ちょっと買い物に出ようとお天気を確かめるためにベランダの外を見たら、白い空気の塊が北東から迫ってきました。私のマンションが白い空気に包まれると同時に半端じゃない雨に襲われました。あーあという感じでぼんやり外を眺めていたら、白い空気の塊は見る見るうちに西へと移動していき、夏の日差しが復活しました。「ああ、あそこ、今、ひどい雨なんだろうなあ」とはっきりわかるくらい、鮮やかなコントラストでした。

今朝の雨も、都庁の展望台かどこかから見たら、こんなふうに見えたのでしょう。これらの雨をゲリラ豪雨と言っていいかどうかわかりませんが、遭遇した本人にとっては立派なゲリラ豪雨です。週間予報では明日からしばらくよさげなマークが並んでいますが、こういう雨の降り方はしばらく続くものです。今週いっぱいぐらいは、要注意です。

巨泉さんのセミリタイア

7月20日(水)

大橋巨泉さんが12日に亡くなっていたと報じられました。私たちの世代は、巨泉さんの11PMを見て大人になったつもりに浸ったものです。もちろん、その本当の意味を理解していたわけではなく、背伸びしてようやく上っ面だけわかったような気になっていたに過ぎないのですが。11PMという番組の文化的な奥深さを知るのは、それからかなり時間が経ってからです。

その後、クイズダービーや世界まるごとHowマッチでも楽しませてもらいました。これらの番組を毎週のように見ていたおかげで、自分の世界も興味の範囲も広がったと思います。今思えば、私にとっては娯楽番組というよりは教養番組だったと思います。

そういう人気番組を抱えている最中に、巨泉さんはセミリタイアと称して、テレビの世界から引っ込んでしまいました。そして、趣味の世界で生きるようになったのです。世界各地に、それぞれ1年で最も気候のいい時期を過ごすなんていう生活も始めました。就職してまだ数年しか経っていませんでしたが、働くことの意味を強く考えさせられました。また、人生とは誰のため、何のためにあるのかということについても考え込んだ記憶があります。

この、巨泉さんがセミリタイアした年が、ちょうど今の私の年なのです。セミリタイアして好きなことをして暮らしていけるだけの経済的基盤を築いていたこともスゴイの一言ですが、その後の人生を楽しむプランも持てていたことにも注目したいです。私もセミリタイヤしたいのはやまやまですが、巨泉さんのような経済的基盤もなければ、人生を楽しむ趣味もたくさん持っているわけではありません。

日本語について考えることも、自然科学の疑問を深く追究することも、私の趣味の一部分です。だから、今は趣味を仕事にしていると言えないことはありません。でも、私の中では趣味はあくまでも楽しむものであり、それをお金稼ぎの手段に使うというのは、邪道のような気がしてなりません。日がな一日、マッサージチェアに座ってマッサージされながら、文法やことばの意味を考え続けられたら、どんなに幸せだろうと思っています。

剣が峰

6月21日(火)

昨日、Wさんが来学期の授業料を払いに来ました。今学期のWさんは5月の出席率が足を引っ張って、来学期の授業料を受け取る基準の出席率に達していません。そういう学生は、事務所から担任教師のところに回され、少なくとも担任教師の説教を受けてから、再度事務所で授業料支払いの手続をします。

私のところに回されてきたWさんに質問しました。「どうして授業料を受け取ってもらえなかったと思いますか」「出席率が悪いですから」「どうして出席率が悪いんですか」「時々休みましたから」「時々? よく休んだから、授業料を受け取ってもらえないほど出席率が悪くなったんじゃないの?」「はい…」「じゃあ、どうして学校を休むんですか」「朝、遅く起きますから」「遅く起きる? どうして遅く起きるんですか。早く起きないんですか」「…」「どうすれば早く起きられるようになると思いますか」「…」「そこんとこがわからないんじゃ、次の学期も、その次の学期も、卒業するまでずっと、遅刻や欠席が多いままだよね。このままでは、KCPで勉強を続けてもらうわけにはいきませんね」

こうして文字化すると、我ながら陰湿な責め方ですね。でも、出席率低下の本質的原因をつかんでいないと、改善のための手も打てません。ということは、いつまでたっても出席率は上がらないということです。そんな学生をたくさん抱えることは、この学校の信用問題にもかかわります。また、ここでしつけておかねば、Wさん自身、進学してから困るはずです。

日本語学校は、日本留学のゲートウェイであり、ゲートキーパーでもあります。大学を始めとする高等教育機関での学問に滑らかに移行できるよう準備をする機関であるのと同時に、日本の高等教育機関で学ぶにふさわしくない学生に進路変更を促す場でもあります。Wさんは、今、その境目に立っているのです。