Category Archives: 生活

しまっていこうぜ

8月29日(水)

超級クラスで漢字のテストがありました。9時に出席を取ってテスト用紙を配ろうとすると、Mさんが「あれっ?」とも「しまった!」ともつかない顔で周りの友達に何か聞いていました。Cさんはテスト用紙が配られても問題に取り掛かろうとしません。2人とも、テストがあることをすっかり忘れていたのです。Mさんは無理して受けましたが結局不合格、Cさんは棄権扱いで0点。後日再試験を受けてもらうことになります。

テストは学生の仕事みたいなものです。予定は学期の最初に発表されています。それにもかかわらず忘れたとは、学生にあるまじき姿勢です。夏休みで緊張感が失われてしまったのでしょうか。2人とも自分が悪いと思っているようですから、追い討ちをかけるようなことはしませんでしたが、十分に反省してほしいです。

Yさんは来年進学の予定です。もう間もなく志望校の出願が始まります。国の高校の書類も取り寄せているようですし、併願校の出願期間や試験日なども予定表に記されています。しかし、夏休みはうちでごろごろしていたそうです。1日ぐらいはのんびりしたいという気持ちはわかりますが、それがだらだらと1週間も続いてしまったに違いありません。こちらも、切迫感のなさがにじみ出ています。

最近Kさんに会っていません。今月初めに夏風邪で休んでから、すっかり休み癖がついてしまったようで、心配しています。授業後、ちょっときつめの警告メールを送りました。このままでは冗談抜きで、ビザの要件に合わないということで、帰国してもらわねばなりません。優秀な学生だけに、こんな形で挫折させたくはありません。

灰色の学生生活を強要するつもりはありませんが、なんだか緩んじゃってるなあ…。

旅館の作法

8月17日(金)

朝、パソコンを立ち上げると、私のクラスの新入生Yさんからメールが来ていました。Yさんは日本文学に興味を持っており、夏休みに伊豆の踊子を追って天城山へ行きたいと書いてありました。ちょっと待って。伊豆の踊子なら天城山ではなく、天城峠です。あのトンネルは、苦労して天城山に登ってもありません。

それから、「日本のお風呂(温泉)と食事のルールがわかりません」と書いてあります。想像するに、修善寺かどこかの温泉旅館を予約したけれども、和風旅館に泊まるのは初めてで、館内でどうすればよいかわからず、不安になっているのでしょう。でも、温泉のルールと言われても、湯船に入る前にかけ湯をするくらいしか思いつきません。お湯の中で泳いだり石鹸を使ったりしてはいけないというようなアドバイスが欲しいのでしょうか。Yさんは髪が短いですからお湯の表面に髪が広がってしまう心配はないし、日本の温泉は素っ裸ではいるものだというのは世界的な常識になっているし、ほかに何があるでしょう。まさか、湯上りには腰に手を当てて瓶に入った冷たいコーヒー牛乳を飲み、卓球をすることなどという、なつかしの映画の一場面みたいなことを求めてはいないでしょうね。

食事のルールとなると、さらに難関です。部屋に食事が運ばれてくるのなら、自分のペースで勝手に食べればいいし、いわゆるお食事処で供せられるのなら、普通の食堂と変わる所はないでしょう。お見合いの席での会席料理や会社の接待なら緊張の一つもすべきでしょうが、そうではないのですから、刺し箸をしたところでとがめられはしません。移し箸はどんな場合でもいけませんが、一人旅のようですから、その心配もありません。

どうアドバイスすればいいかわからないので、本人を呼び出しました。天城山と天城峠は気づいていませんでした。山登りだから、絶壁があったらどうしようと思っていたようです。お風呂と食事のルールも、自分の知っている範囲で十分だというお墨付きが欲しかったようです。時に授業中居眠りをするくらいの図太さを持っているYさんですが、学校の外では不安をいっぱい感じているのでしょう。意外な繊細さを見て、驚きました。

私も明日から夏休みです。明日は、徳島県阿南泊。ちょっとマニアックな旅をしてきます。

夏ノ暑サニモマケヌ丈夫ナカラダ

6月28日(木)

今朝の最低気温は25.2度で、このまま24時まで25度を割らなければ今年初の熱帯夜です。昨日の朝の最低気温も24.9度で、ほぼ熱帯夜でした。学期中、去年の10月期以降の入学で、これから初めて東京の夏を経験する学生たちには、東京の夏は夜でも蒸し暑く寝苦しいと脅しをかけておきました。その脅し文句が現実のものとなりつつあるようです。

こうなると気になるのが、学生たちの健康状態です。エアコンをつけっぱなしで寝て風邪をひく学生が山ほど出てきます。風邪をひいても、その後きちんと節制して新学期が始まるまでに体調を戻しておいてくれればいいのですが、無反省にエアコンの中で暮らし続け、始業日になっても休み続けてしまうのが、ダメな学生の典型パターンです。

出だしでつまずくと、気力がそがれるものです。しかし、7月期は主要大学の出願期でもあり、一部の大学・大学院は入試の時期でもあります。受験生はこれから年内いっぱいぐらいまでは、気を緩めている暇などありません。それなのに鼻づまりや熱のために頭がぼんやりしていたら、ライバルに差をつけられる一方です。

そういう暑さにもめげず、アメリカの大学から来た学生たちは勉強に励んでいます。フロリダみたいなところから来た学生は、この程度の気温ならへいちゃらですが、シアトルあたりの学生にはこたえるようです。

私が昨日入ったクラスの学生たちも、促音はしっかり身に付けてくれたようですが、「おくにはどっちですか」は困ります。している単語を書けと言ったら、息抜きのつもりだった「かっぱ」は出てきたのに、他の覚えなければいけない単語はどこかに忘れてきちゃったようで…。

大きなスーツケース

6月22日(金)

中間テストと期末テストの日は、いつもより朝早く来る学生が増えます。2階のラウンジを開けておくと、7時台の前半にはテーブルがサラッと埋まります。校庭が使えるのが9時からですから、午前クラスの学生たちが勉強するとなると、ラウンジになるのです。

期末の日は、それに加えて、大きな荷物の学生が出現します。スーツケースを転がしながら学校へ来て、テストを済ませたらその足で空港へ向かう学生たちです。一刻も早く一時帰国したいのでしょう。日本で必死に孤独との戦いを続けてきたのですから、家族や友達と会って心を癒やしてもらおうと思うのも不思議ではありません。

Yさんもそんな学生で、お土産がたくさん詰まっていそうなスーツケースをロビーの柱のところに置いて教室へ行こうとしますから、事務所に預けておくように言いました。荷物は物々しいですが、服装はいたって軽装で、ちょっとコンビニへでも行くような感じでした。

Yさんは、先学期末も帰国していて、しかも戻ってきたのが新学期開始数日後という、確信犯的な行動を取っています。そのとき厳しく指導され、「休まない」と言っていたのに、じわじわと休みが増えました。学校側から指導が入らないぎりぎりのラインを保っていたというだけで、決してほめられる出席率ではありません。そんなわけで、本当は一時帰国など認めたくないのですが、日本語学校には学生の一時帰国を止める術はなく、私の目の前でスーツケースを引きずるに至っています。

血の汗を流しながら勉強して大きな進歩を遂げているのなら、3か月に1度のご褒美も認めてあげたいです。でも、Yさんはそういう感じがまったくありません。面倒なことや苦しい思いはしようとせず、おいしいところをつまみ食いしてきたように見えます。

そんなYさんも、来学期は本格的に受験の準備に取り掛からなければなりません。3月まで充電しなくてもいいくらい、フルチャージで戻ってきてもらいたいです。

押し詰まって

6月21日(木)

学期末が近づくと、今学期いっぱいでKCPをやめる学生が退学届を提出してきます。

Cさんは、EJUの直後に退学届を出し、すでに帰国してしまいました。退学届を出したにもかかわらずだらだらと日本にい続ける学生に比べれば潔いものですが、担任の先生にも周りの友達にも一言も挨拶せずに消えてしまうというのは、いかがなものでしょう。

Eさんは、壁にぶち当たって帰国します。来春の進学を目指していたのですが、EJUの各科目の勉強が思うようにはかどらず、国で勉強し直してくるそうです。でも、Eさんはまだ初級です。日本語の成績も悪くなく、来学期中級に上がったらEJUの各科目の実力もグッと伸びると期待していたのですがねえ…。今が我慢のしどころで、もう3か月、いや、2か月粘ってくれれば、きっと光が見えてきたはずなのに、残念です。

Fさんは、日本の水が合わなかったようです。今学期の新入生ですが、来日してからずっと国へ帰りたくてたまらなかったそうです。親と話し合い、一度は勉強を続ける方向に傾いたのですが、やはり日本で暮らし続けるのは耐えられないようで、正式に帰国することになりました。新しい道での成功を祈ってやみません。

Yさんは帰国したら大学に復学します。短い間でしたが、国では到底不可能なほど密度の濃い勉強ができたと満足げに語ってくれました。どんな課題にも全力で取り組んできたYさんは、まだまだ勉強を続けるクラスメートのよい刺激になりました。

Bさんは国へ帰って、働いて、お金をためて、またKCPに戻ってきたいと言っていました。今回の留学費用も自分で働いて工面し、それを予定通りに使い果たし、予定通りに帰国するのだそうです。自分が目標とする日本語レベルまでKCPで勉強するにはあとどれくらいかかり、そのための学費や生活費にいくらぐらい必要か計算できているようです。かなりしっかりした将来設計を持っており、ただただ感心するばかりです。

明日がKCPで最後の1日の皆さん、有終の美を飾ってくださいね。

異文化体験?

6月13日(水)

畑で取れたてのトマトはおいしいという意味の文が教科書に出ていましたから、学生たちに“取れたてのトマトを食べたことがありますか”と聞いてみました。クラスの半分まではいきませんでしたが、都会っ子が多いですからほとんどいないんじゃないかという私の予想を裏切って、数人が目を輝かせながら反応してくれました。

「赤くて本当においしいです」「冷えてないけどおいしいです」などという声に混じって、「砂糖を付けるともっとおいしくなります」と発言した学生がいました。「砂糖? トマトは塩でしょう」と私が応じると、蜂の巣をつついたような大騒ぎになってしまいました。トマトに塩なんて絶対にありえないというのが、学生たちの意見です。今までの食習慣と言ってもいいでしょう。この点、国籍を越えて一致していました。

「せっかく取れたてのおいしいトマトがあるのに砂糖なんかかけたら、まずくて食えなくなるだろう」「塩をつけるくらいならわさびをつけます」「わさび? いいじゃないか。砂糖よりずっとおいしそうだよ」「えーえっ、じゃあ、しょうゆは?」「うん、いいねえ。わさび醤油っていうのもおいしそうだなあ。砂糖をつけるくらいなら、なんでもおいしそうに見えてくるよ」…というぐあいで、主張は交わることがありませんでした。

実は、20年ぐらい前に中国へ行ったとき、砂糖のかかったトマトスライスが毎日のように出てきて、非常に驚きました。砂糖のかかっていない部分を探し出して食べていました。

これも文化の違いかなと思って、この原稿を書く直前にインターネットで調べてみたところ、日本でも砂糖派が増えつつあるのだそうです。「日本人は絶対塩だよ」って言い切ってしまいましたが、早計はいけませんね。

お神輿が来た

5月26日(土)

お昼過ぎ、1階で仕事をしていると、「わっしょい、わっしょい」という掛け声が遠くからだんだん近づいてくるのが聞こえてきました。今週末は花園神社のお祭で、こども神輿が学校の前の道を通ったのです。

花園小学校は全校児童が100名ちょっとだというのに、お神輿の周りには50人ぐらいの子どもがいました。いったいどこからこんなに子どもが集まったのだろうという感じでした。このあたりの町内会は下町的なつながりがありますから、お祭となると親も子も血が騒いで、家にこもってなんかいられなくなるのでしょう。

お神輿のそばには、明らかに日本人ではない雰囲気の子どもも、白いはっぴを着てはちまきをして歩いていました。嫌々付き合わされているのではなく、子どもながらにお神輿を守るという重い責任を感じ、とても凛々しい顔をしていました。外国人だから…などという区別も差別も遠慮も特別扱いもありません。新宿区は約30万人の日本人と4万数千人の外国人とから構成されています。1割以上が外国籍の方ですから、お神輿を担ぐ子どもに数名の外国人が含まれていても何ら不思議はありません。むしろ、こうやって取り立てるほうが不自然なくらいです。

明日は、KCPの学生もお神輿を担ぐことになっています。はっぴに地下足袋といういっちょまえの装束を身に付けます。お神輿を担ぐ学生たちの出身地にも、何がしかのお祭はあるでしょう。そのお祭に地元住民として参加するのと同じように、明日はお客さんではなく自分の街のお祭だと思ってお神輿を担いでもらいたいです。

映画に夢中

5月2日(水)

欠席した中級クラスのYさんに電話をかけると、ケータイをどこかに忘れたからアラームを鳴らせず、朝起きられなかったという言い訳が返ってきました。さらに問い詰めると、夜中の1時過ぎまで映画に夢中になっていたとか。今はスマホで何でもできちゃいますから、こんな始末になるのです。

そんなやり取りをK先生が聞いていました。「Yさんって、あのYさんですか」「はい、あのYさんです」「やっぱり…。初級でダメだったらずっとダメなんですよね」「まあ、今から劇的に改善するって、ちょっと考えにくいですね」

そもそも、Yさんは今学期の最初の4日ばかりを休んでいます。先学期の先生に厳しく言われていたのに、一時帰国から戻ってきたのが、学期が始まってからだったのです。入学から今学期まで、私も含めて多くの先生方から指導を受けてきたのですが、時間に対するルーズさというか、生活のいい加減差というか、そういうことを改めようという気配が全く感じられません。

TさんもYさんと同じ中級レベルの学生ですが、こちらは非常な努力家です。入学以来出席率は100%で、成績もきわめて優秀です。先学期、ひどい風邪をひいてとても辛そうなときもあったのですが、学校は休まず、平常テストの成績も落ちることはありませんでした。Yさんなら咳がちょっと出ただけでもこれ幸いと速攻で休んだことでしょう。Tさんは自分を厳しく律することができるのに対し、Yさんは易きにつくきらいが見られます。

Yさんもご他聞に漏れず有名大学への進学を希望していますが、今の生活を続けていたら到底無理です。私たちは手を変え品を変え本人の自覚を促すことはできますが、文字通り「促す」までです。本当に危機感を覚え、その危機から脱するための行動を取るかどうかは、最終的には本人次第なのです。

Tさんは午後の受験講座も必死に取り組み、わからない点はどしどし質問し、自分を伸ばそうとしていました。そのとき、Yさんは何をしていたのでしょう…。

あるアルバイト

4月25日(水)

Rさんは、今学期、遅刻欠席が目立ちます。出てきても、こちらが油断すると居眠りを始めることがよくあり、精彩を欠く毎日です。聞くところによると、介護施設で深夜のアルバイトをしているということです。

Rさんは福祉関係の勉強をしようとしているわけではありません。純粋に生活費・学費を稼ぐためのアルバイトです。だから、飲食店やコンビニなど、留学生がたくさんいるアルバイト先でもいいのですが、おそらく給料の関係でこのアルバイトを選んだのでしょう。

仮眠時間は設けられていますが、介護施設ですから、入居者に呼ばれれば仮眠時間を割いても対応しなければなりません。それがほぼ常態化しているようで、だから学校で眠くなってしまうのです。飲食店やコンビニなど、留学生が大勢いるところに比べて、かなり厳しい条件のようです。

日本全国の介護施設がこうなのでしょうね。人手が足りず、でも介護施設としての責任を果たすために働き手にしわ寄せが来る――日本の福祉の脆弱な部分を見せ付けられているような気がしました。今後しばらくお年寄りは増え続けるでしょうが、そのお世話をする若者は減り続けます。Rさんのような外国人アルバイトに頼らざるを得ない場面が多くなっていくでしょう。

ふと、資格はどうなのかなと思いました。Rさんが介護に関する資格を持っているとは思えません。そういう資格を持っている人の監督の下で、限定的な業務なら無資格でも携われるのかもしれません。でも、それがなし崩し的に拡大解釈されていったら、いったいどうなるでしょう。

私はまだまだ介護施設のお世話になるつもりはありませんが、私がお世話になることはこの状況がさらに深刻化しているおそれもあります。今から足腰を鍛え、野菜や果物をたくさん食べ、死ぬ直前までピンシャンしていたいものです。仕事明けで電車の中でうっかり寝過ごしたという昨日のRさんの遅刻理由を聞きながら、そんなことを思っていました。

徒歩4キロ

4月12日(木)

毎朝職員室のお掃除に来てくださっているHさんのお孫さんは、今月から中学生です。家は御苑の近くで、3月まで花園小学校に通っていました。ところが、中学校は四ツ谷の迎賓館の近くになってしまいました。地図で見ると、2キロほどの道のりになります。通学時間も、ほんの数分から30分ぐらいに延びました。始業日は、中学校の思い教科書を何冊も手に提げて帰ってきたため、手のひらの皮がむけてしまったとか。少子化進行による学校の統廃合がもたらした小さな被害です。花園小学校から迎賓館まで、家並みは途切れることはないのに、子どもはいないんですね。

午後は仕事が立て込んで、お昼が4時半になってしまいました。近場で済ませてもよかったのですが、何となくふらふらと3丁目のほうまで遠征しました。食べ終わって店を出たのが5時ちょっと過ぎ、学校へ向かって靖国通りを歩いて帰っていると、私の顔を見てあわててぴょこたんと会釈する人が数名。どうやら、授業を終えた午後クラスの学生たちが、西武新宿駅方面に向かうのにぶつかったようです。西武新宿線沿線に住んでいる学生は、大半が西武新宿からKCPまで歩きます。明治通りや職安通り付近に住んでいる学生たちも、ほとんど徒歩通学です。

西武新宿駅からだと1.4キロほど、大久保からだと2キロ弱。Hさんのお孫さんの通学距離より短いです。往復で3キロか4キロなら、運動不足にならなくてちょうどいい距離なんじゃないでしょうか。幹線道路を歩きますから、おいしい空気を吸いながらとはいきませんが、留学して足腰まで丈夫になれば、言うことなしじゃありませんか。