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一瞬

3月1日(金)

2階のラウンジに、バス旅行の写真コンテストの応募作品が張り出されています。どの作品も「タイムトラベル」というテーマにふさわしく、“江戸”を感じさせてくれます。その中でも入賞作品は、ドシロウトの私が見てもすばらしく、なんだか写真の中に吸い込まれそうになります。

どの写真も、日光江戸村の中のほんの一瞬を切り取ったものですが、その一瞬が実に輝いているのです。よくぞこの一瞬にシャッターを押したものだと感心することしきりです。私は写真を全く撮りませんから、どんなにすばらしいシャッターチャンスが目の前に現れても、それに気づくことすらありません。感激できる瞬間をみすみす見逃しているのです。もったいないなあと思います。同時に、1秒にも満たない輝ききらめきときめきざわめきをがっちり捕らえる、カメラマンたちの反射神経と美的感度の鋭さと構成力に舌を巻くばかりです。

ケータイやスマホでだれでもいつでもいくらでも気軽に写真が撮れるようになりました。そのため、撮ったけど一度も見られることなく消去される写真も山ほど生まれましたが、そうした犠牲の上に頂点も高くなったと言われています。“数撃ちゃ当たる”ではありますが、その玉石混交のなかから“玉”を選び出す眼力も養われているのでしょう。

2階の写真で私が最も瞬間性を感じたのは、M先生の真剣白刃取りです。筋肉の躍動感が伝わってきました。きっと体を鍛えているのでしょうね。学生の前でそれこそ日本の伝統芸能を見せようと思ったんじゃないかな。

さて、月曜日は卒業式。卒業生が見せるKCPで最後の笑顔を切り取った写真を見てみたいです。

あと一歩で

2月27日(水)

卒業式当日を含めてあと4日という段階まで来て、入学以来皆勤だったSさんが欠席しました。腹痛とのことですが、Sさん自身も皆勤を意識していたでしょうから、さぞかし残念だったでしょう。先学期、選択授業で私のクラスにいたときからずっとマスクをしていましたから、体調は決してよくなかったと思います。でも、休んではいけないと言う気持ちだけで出席を続けてきたに違いありません。それがどうにもこうにも行かなくなって、無念の欠席に踏み切ったのだと思います。

この欠席を、Sさんがどう思っているかは現時点ではわかりませんが、一つの物事を完璧にやり遂げることの難しさを痛感しているのではないでしょうか。単純なことでも、単純なことだからこそ、2年間の出席率が99%でも立派なものですが、優秀な人ほど残りの1%に目が行ってしまうものです。その1%を、次は0%にしようという気持ちこそが、向上心を生むのです。今までのSさんを見る限り、Sさんはそういう人だと思います。

でも、現実には、1日休んだら“どうでもいいや”と思ってしまう人が大半です。1日休んだら、2日休んでも3日休んでも同じことだと、ずぶずぶと楽な方へ楽な方へと落ちていくのが普通です。そこから持ち直すのは、100%を続けるより何倍も難しいものです。“明日から“と言いつつ、“明日”がさっぱり来ない学生を、今まで何人見てきたことでしょう。

10年ぐらい前にも、卒業式寸前で寝坊のため遅刻して皆勤を逃した学生がいました。その学生は、遅延証明をもらおうと思えばもらえるところに住んでいましたが、変な言い訳は一切せず、その1コマの欠席のまま卒業式を迎えました。そして、堂々と精勤賞を受賞しました。Sさんも、胸を張って明日からまた学校へ来てもらいたいです。

適度な偏屈者

2月26日(火)

私が担任をしている中級クラスのXさんがI大学の、TさんはH大学の、それぞれ大学院に合格しました。2人とも、今学期は大学院入試を控えて授業中は上の空みたいなところもありましたが、結果よければ全てよしというところでしょうか。入学して1年で志望校に受かったのです。よくやったといっていいでしょう。

XさんもTさんも、ちょっと癖のある学生です。扱いが難しいといえば実にその通りですが、そのくらいとがったところがないと、I大学やH大学のような一流と言われているところの競争には勝てないのかもしれません。でも、ただ特徴があればいいという問題でもありません。コミュニケーションを取ることができる、心に通じ合うものがあるという感覚も必要です。単なる偏屈者では、どこからもお呼びがかかりません。

残念ながら、その偏屈者というか、社会性に欠けるというか、私が面接官だったら絶対落とすだろうなという学生が、このKCPにもいます。能力がありながらどこも決まらなかった学生は、どこかそういうにおいがします。初志貫徹といえば聞こえはいいですが、アドバイスを聞く耳を持たず八方塞に陥ったというのが実情です。

XさんやTさんは、個性の出し方をわきまえていたとも言えるのではないでしょうか。絶対自分を曲げないわけでもなく、かといって押されっぱなしでもない、絶妙の力加減を身に付けていたのです。SさんやKさんは天然ボケの部分があって、受験がうまくいかないというのは、その面が強く出てしまっているのではないかと見ています。絶対受かると踏んでいた学校にも落ちたというのは、多かれ少なかれ唯我独尊に走ってしまったんじゃないかな。

何はともあれ、XさんとTさんです。明日は2人のクラスに入りますから、おめでとうと言ってあげましょう。

前向きに

2月19日(火)

午前の授業を終えて職員室に戻ると、Bさんが私を待っていました。先週末K大学を受け、その試験問題でわからないところを聞きに来たのです。その問題は、先週まで取り組んでいた記号で答える問題ばかりの過去問とは違って、「〇〇字程度で答えなさい」という記述問題がいくつもあり、かなり傾向が変わっていました。去年までの問題も留学生にとっては荷が重いと思っていましたが、今年のは記述が加わった分だけ、さらに難度が上がりました。

そういった問題を、教科書や参考書を見ながら、Bさんと議論しながら解くというのは、私にとっても大いに勉強になります。最近の学問の傾向もつかめますし、EJU対策の受験講座では見過ごしがちになる部分にも目を向けさせられます。筆記問題も制限字数にぴったり合うようにまとめるとなると、知識の整理をしなければなりません。

1時間ぐらいBさんに付き合ったでしょうか。午後の授業の先生方が教室に向かったら、午前のクラスで欠席した学生への連絡です。ところが、最近の学生は留守番電話の設定をしていませんから、一向につながりません。スマホはラインのための道具だといわんばかりです。現に音声通話を全然していない学生が少なからずいます。ここまで来たら、もはや電「話」じゃありませんね。こういう後ろ向きの仕事をすると、なんとなく落ち込みます。

午後の受験講座から帰ってくると、T先生が2人の学生を引き連れてきました。学校の前のホテルの駐車場の脇の喫煙所に無断で入り、タバコを吸っていた学生たちです。学校の喫煙所以外ではタバコを吸ってはいけないといわれていたのに、どうしてわざわざ他人の敷地まで行ってタバコを吸ったのかと聞くと、喫煙所は煙いからだと言います。お前がその原因を作ってるんだろうと突っ込みを入れましたが、初級の学生には通じなかったようで…。

こちらは住居不法侵入ですから、立派過ぎるくらいの犯罪です。2人のうち1人は未成年ですから、罪を2つ犯したことになります。警察に通報されたら、一発で手が後ろに回ります。こういう学生を説教することが校長の仕事だと言われれば実にその通りですが、これまたあまり前向きの仕事ではありません。

悪い学生がいなければ、毎日1時間は早く帰れるでしょうね。悪い学生にむしり取られている時間をいい学生に振り向けられれば、優秀な学生をもっともっと伸ばせるんでしょうけどね。

遅い

2月13日(水)

授業終了直後、Lさんが卒業文集の原稿を出してきました。卒業文集は学期が始まって間もない頃から書き方を説明し、下書きを書かせ、それを添削し、そして清書と段階を踏んできました。それぞれに締め切りがあり、清書の提出期限は先週末でした。それがなぜ今頃になったかというと、Lさんは清書用の原稿用紙の書き方を間違えたからです。もちろん教師は説明しましたよ。Lさんと同じときに聞いていた学生はみんな間違えずに清書を書いたのに、Lさんはどうしようもない間違え方をしたため、書き直しになっていたのです。それでも、毎日学校へ来ていればこちらも尻のたたきようがありましたが、来ないし連絡しても梨のつぶてだし、いかんともしがたいものがありました。

Lさんが出した清書原稿を見てみると、内容よりも先に原稿用紙の使い方が全くできていませんでした。各行の最初のマスに「。」「、」が5つぐらい立て続けに並んでいました。それを見ただけで気持ち悪くなり、どうにかしようという気も失せてしまいました。Lさんは私たちの話を何も聞いていなかったのだなあと思いました。

すでに原稿提出期限を大幅に過ぎているので、恐る恐る文集担当のK先生のところへ持って行くと、案の定受け付けてもらえませんでした。そこを曲げて載せてもらおうという気も湧き起こりませんでしたから、私もあっさり引き下がってしまいました。かくして、Lさんの文章は文集に掲載されないことになりました。

どうして期限とか指示とかを守らないのでしょう。自分のペースでやってもどうにかなると思っているのでしょうか。Lさんにとっては、卒業文集は重要度が高くないのでしょうか。だから、たとえ自分の文章が載らなくてもがっかりはしないのかもしれません。私が受け持っているもう1つのクラスにもLさんのような学生がいます。他の先生方からもそういう話を聞きます。

なんとなく無力感に襲われたお昼のひとときでした。

スーツで授業

2月1日(金)

受験講座の教室に入ってきたSさんは、スーツ姿でした。土日でどこか遠いところにある大学の受験なのかと思って聞いてみると、スーツが好きになったとか。先週は、正真正銘、飛行機に乗って入試を受けにいきましたが、それで癖になったみたいです。

「先生は毎日スーツですよね」と聞かれましたが、私の場合はスーツが制服みたいなものですから、着るのが普段の姿です。学生のSさんと同列に考えるわけにはいきません。KCPへいらっしゃったお客様にお会いするときには、スーツにネクタイが一番無難です。まあ、私はカラーシャツに変わったデザインのネクタイが定番ですから、本当に無難な服装かどうかはわかりませんが。

それから、冬はスーツは意外と暖かいのです。ネクタイで首元をキュッと絞めると、熱が逃げていきませんから、隠れたウォームビズだと思います。そうそう、スーツの布地もウールですしね。だから、教室にエアコンが入っていなくても、私はけっこう平気です。寒そうな顔をしている学生から「先生、エアコンをつけていただけませんか」という声が上がるのを待っています。…こんなことをSさんに話したら、うなずきながら聞いていました。

Sさんからどうしてスーツが気に入ったのかを詳しく聞きだすことはできませんでしたが、スーツを身に付けるとパリッとした気持ちになるなどというのだとしたら、立派なものです。ONとOFFの切り換えができることは、社会人として必要不可欠な才能(?)です。Sさんもスーツに身を包むことで臨戦態勢になれるのだとしたら、そして、そういうピリッとした心理状態に開館を覚えるのだとしたら、大きな武器を手にしたと思います。

Sさんのスーツは、今月、もう何回か活躍することになっています。満開の桜につながればと思っています。

いい迷惑

1月31日(木)

このところ休んでいたMさんが久しぶりに来ました。Mさんは先学期も出席率が悪く、担任のK先生に「次の学期は絶対に休まない」と約束した上で今学期を迎えました。しかし、1月の出席率は50%そこそこで、クラスで最低でした。欠席はいずれも無断欠席で、こちらからの電話にも出ませんでした。

理由を聞いてもはかばかしい答えは返ってきません。K先生との約束で、体調が悪かったら病院へ行くと言っていますから、病院へ行っていない以上、風邪などという言い訳もできません。どうせズル休みなのでしょう。「これから頑張ります」というMさんに対し、「じゃあ、K先生との約束はどうなるんですか。最初から破るつもりで約束したんですか」と迫ると、押し黙ってしまいました。

Mさんは先学期中に進学先が決まりました。だから気が緩んで休みがちになったのかもしれません。しかし、こんな出席率では、進学してからビザが出るかどうかはなはだ怪しいところです。ビザがもらえなかったら帰国せざるを得ませんが、そうなってもしかたがない状況です。こちらからの電話にすら応じなかったというか、あえて無視していたのでしょうから、確信犯です。帰国を余儀なくされたとしても、自業自得です。普段は義理を欠いていながら、困った時だけ学校を頼るようなことはしてほしくありません。

作文の採点をするはずだった1時間を、Mさんの説教に費やさせられてしまいました(これは使役受身、迷惑の受身です)。もちろんMさんのような学生ばかりではありませんが、こういう学生は手間がかかるので印象が強いのです。午後からは、なんとなく重苦しい半日になってしまいました。

緊張感

1月11日(金)

国立大学を狙う人たちはこれからが本番で、ピリピリした雰囲気を漂わせながら新学期の教室に入ってきた学生も少なくありませんでした。街を吹き渡る肌を刺す北風とともに、教室や図書室にこの空気が流れ出すと、私は真冬を感じます。

今年のKCPの冬将軍はMさんでしょうか。昨年末ぐらいから頭が入試でいっぱいになっていることが、手に取るようにわかります。ちょっと飛ばしすぎじゃないかなあ。本番までまだ少し時間があるのですから、1人で10人分の緊張オーラを振りまいていたら、試験日に面接官に向かって発すべきオーラが涸れてしまうじゃないですか。

その点、Sさんはのんきなものです。関西の大学を受験しがてら、3連休は国から来た家族と一緒に旅行だそうです。もちろん、受験した大学に受からなければただの記念受験になってしまいますから、受験までは遊びたい気持ちは抑えてもらわなければなりません。でも、これぐらいのお楽しみがあったほうが、試験勉強にも身が入るんじゃないかな。

どこも行き先が決まらないまま卒業の日が近づいてくるというのは、だんだん追い詰められていくようで、学生にとっては居心地の悪いことだと思います。日本語学校には最長2年までしかいられませんから、3月末までに進学先が決まらなかったら、帰国しなければなりません。そのため、日本人の受験生にはないプレッシャーがかかります。

新学期早々、そんな学生を集めて進学相談会を開きました。ほとんどの学生が最悪の場合に備えて何か考えていましたが、Hさんはそこまでの覚悟がなさそうでした。卒業後も漠然と日本で暮らすことしか考えていないHさんは、根拠のない「大丈夫です」を繰り返すばかりでした。その楽観主義を徹底的にたたきつぶし、どうにかこうにか最悪の想定をさせました。

これから、胃の痛くなる季節が続きます。

モク拾い

1月4日(金)

2019年の最初の仕事は、タバコの吸殻7本とフィルター1個を拾ったことでした。年末年始の休み中に、1日1本ずつぐらい校舎前の道路に吸殻のポイ捨てがなされたことになります。ここは酔っ払いが歩く道ではありませんから、歩きタバコをした人が何気なく道路の端に捨てたのでしょう。しかし、この「何気なく」が問題なのです。本人には犯意も悪意も何もなく、無意識に近い動作ですから、タバコをやめない限りポイ捨ても止まないでしょう。吸殻が落ちていると道や街が汚く見えること、捨てられた吸殻を見ながら踏み越えて建物に入る人の心、新年早々誰が吸ったかわからない吸殻を拾う人の気持ち、そんなことなど寸毫も考えることなく捨てているに違いありません。

セブンイレブンが店の前に置いてある灰皿を全面的に撤去するという記事が休み中の新聞に載っていました。受動喫煙防止のためだそうで、結構なことだと思ってその記事を読みました。しかし、その代わりにポイ捨てが増えたら意味がありません。全てのとは言いませんが、どうして喫煙者は街の美化に無関心、自分の行いに無自覚、他人の気持ちに無頓着、社会に対して無責任なのでしょう。チコちゃんじゃありませんが、“ボーッと生きてんじゃねーよ!”と言ってやりたくなります。

…というような事件もありましたが、いよいよ2019年が始まりました。本当の意味での初仕事は、入学式で在校生代表として挨拶することになっているBさんの原稿チェックでした。さすがBさん、ほんのちょっといじっただけで立派な原稿になってしまいました。その後、担任クラスの学生へのコメント書きもしました。

寝正月に近かった体が、だんだん戦闘モードになってきました。

寝る子は育たない

12月19日(水)

ああ、また寝ているなあ…。初級クラスのTさんは、毎日授業の後半になると居眠りを始めます。指名すると、当然答えられません。隣の学生に教えてもらって、かろうじてつじつまを合わせます。Tさんは口移しで答えるだけですから、勉強にはなりません。教えてもらえるだけの人間関係を作っているのは偉いと思いますが、その人間関係を有意義な形で活用してもらいたいです。

Tさんは早朝ホテルでアルバイトをしています。朝5時からですから、4時ぐらいには起きているのでしょう。ですから、午後授業の後半、3時過ぎは眠い盛りだというのは容易に想像が付きます。朝が早いので、授業後は食事・入浴だけで寝てしまいます。早寝早起きは健康にいいのですが、勉強の時間がほとんどありません。

そんな調子ですから、成績だっていいはずがありません。いや、健闘はしていると思います。でも、合格点には及びません。暗記問題、選択肢の問題はどうにかなりますが、応用問題、筆答問題となると、まるっきりです。現状では次学期の進級は見通しが暗いです。

国のご家族や親戚は、Tさんが日本の大学に進学してくれることを期待して、留学に送り出しました。しかし、Tさんの生活や成績は、それとは反対方向に進んでいます。生活が大変なことはわかりますが、それに流されて勉強をする時間を作ろうとしなくなっています。安易な道に進もうとしています。それを何とか食い止めようと担任のK先生も手を尽くしていますが、壁は厚いようです。

Tさんは、このままでは日本語力も伸び悩み、進学も難しくなるでしょう。現に、今学期は明らかに伸び悩んでいます。どうやら、徹底的な生活指導から始めなければいけないようです。