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時代を画す

10月11日(木)

仕事の合間に見たインターネットのニュースによると、来年の2月から丸ノ内線に新車が導入されるそうです。新型車は丸ノ内線のラインカラーである真っ赤な車体で、伝統のサインカーブをまとっているそうです。連結器の近くの窓は、四角ではなく丸窓です。今までの丸ノ内線の車両とはかなり趣が異なるようです。

今走っている丸ノ内線の車両は、もう30年にもなるそうです。私はもう1代前の車両も知っていますから、いまだに“新型車両”という気がしていましたが、30年といえば減価償却はとっくの昔に終わっていますよね。そして、30年といえばちょうど平成の長さです。平成を走り抜けたのが、今の丸ノ内線の車両なのです。そうすると、来年登場する新型車両は、現皇太子さまが天皇として在位している間じゅう走り続けるのでしょうか。

私のうちの近くを走っている日比谷線も、去年あたりから新型車両が走り始めました。来年ぐらいまでが端境期なのでしょう。こちらの車両も、1988年から走り始めたとのことですから、やはり30年です。また、沿線の築地から市場が移転するのと同時期に車両が入れ替わるというのも、1つの時代が終わったことを象徴するようで、感慨深いものがあります。

一般家庭のクルマは10年も乗らないでしょうから、このような形で時代を感じることはないと思います(個人的な思い入れは別ですが)。それに比べると、電車という公器がそれにかかわる人たちに与える影響力は大きなものです。だから、どんなに乗る人の少ないローカル線でも廃止となると反対運動が起きるのでしょう。

KCPだって、これにかかわった人たち、すなわち卒業生やかつての教職員のみなさんの心に何がしかの痕跡を残してきたはずであり、今後も残し続けていくでしょう。責任重大だなあと思います。

朝の一騒動

9月12日(水)

朝、ようやくパソコンが立ち上がった頃、電話が鳴りました。学生からの欠席連絡かと思ったら、「Dタクシーです」というではありませんか。「お宅の学生さんがうちの車に忘れ物をしたんですが、どうしましょう?」「ああ、わざわざご連絡ありがとうございます。本人に伝えますので、学生の名前を教えていただけませんか」「すみません。学生の名前はわからないんですが」「え? じゃあ、どうして私どもの学生だとわかったんですか」「試験の成績通知書が入っていましてね、そこに学校の名前と電話番号が書いてありまして…」。どうやら、EJUの成績通知書に書かれた電話番号を見て、電話を掛けてくださったようです。

いろいろやり取りをして、学生のアルファベットの名前を聞きだし、システムで検索すると、上級クラスのBさんだということがわかりました。思うに、Bさんはアルバイトの帰りか飲んだ帰りかにタクシーを使い、降りたときに落としたか座席に置きっぱなしにしたかだったのでしょう。Bさんの住所と、Dタクシーの事務所はさほど遠いところではありませんから。

それから、Bさんにメールを送り、Dタクシーの事務所へ忘れ物を取りに行くように指示しました。在留カードが入っているとのことでしたから、ほったらかしにはできません。メールを送ったのが6:10ごろ。

その後は1日中授業や面接などで忙しかったのですが、Bさんのことはどこか気になっていました。でも、Bさんからは何の連絡もありません。クラスの授業には出ていたようですが、私には何も言ってきていません。在留カードやらEJUの成績やら、Bさんにとっては大切なものも入っているのに、どうしたのでしょう。明日の授業が終わったら、明日の先生に聞いてみましょう。

欠席メール

9月10日(月)

8時過ぎにXさんから、エアコンをきかせすぎて熱を出したので休むというメールが届きました。熱があるときに休むのはしかたがないことですが、Xさんは最近休みがちで、今月の出席率は60%。このまま休むと50%になってしまいます。そういう意味のメールを送ると、数分後に「じゃあ行きます」という返信が来ました。

Xさんのクラス担当のF先生によると、Xさんは9時には教室におり、ごく普通に授業を受けていたとのことです。Xさんのうちは学校まで歩いて10分ほどですから、私からのメールを見てからうちを出ても、始業には間に合います。9月の出席率に驚いて泡を食って学校へ来たことは明らかで、要するにずる休みしようと思ったのです。

Yさんは毎月出席率が80%を切っているため、事務所で来学期の授業料を受け取ってもらえそうにありません。私のところにどうしましょうと相談に来ましたが、私が言えることは、期末テストの日まで休まずに来いというだけです。Yさんもまた、なんとなく行く気がしないからとかという程度で気安く休み、ここに至ってしまいました。しかも、授業料を受け取ってもらえないのは、今回が初めてではありません。学習しないというか、期末テストまでの2~3週間だけ必死に通えばあとは適当でよいという悪知恵だけつけたというか、困ったものです。

Xさん、Yさんのほかにも休み癖がついてしまった学生が少なくありません。大志を抱いて留学してきたはずなのに、それをすっかりどこかに置き忘れています。Xさんは今学期の新入生ですが、これではさきがおもいやられます。Yさんは高い潜在能力を持っていながら、それが「潜在」のまま終わりそうです。一番残念な思いをするのは、私たち教師ではなく、当の本人なのですがねえ。

災害授業

9月6日(木)

課外授業で、有明にあるそなエリアとパナソニックセンターへ行ってきました。パナソニックセンターは去年の水上バス旅行の際に行きましたが、そなエリアはまるっきり初めてでした。

課外授業における教師の役割は、まず、学生の見守り役です。解散時まで学生の安全を図るのが最大の職責です。しかし、そなエリアの展示物はそれを忘れさせる迫力がありました。ネタバレになりますからあまり詳しくは書けませんが、大震災に見舞われた直後の東京(と思しき街)を再現したり、防災の心掛けや災害に遭ってしまってからの心構えが説かれたり、避難所で使うこまごまとしたものの準備方法が実地で学べたりしていて、思わずのめりこみたくなってしまいます。

そなエリアは首都圏が大きな災害に見舞われたときに対策本部が置かれるところで、その司令室も階上から見学できました。屋上ヘリポートは見に行きたかったのですが、本務を思い出してとどまりました。仕事を離れ、個人的にじっくり見学したいと思いました。

学生もけっこう夢中になっていて、タスクシートの質問の答えを真剣に探していました。中には友達の答えを丸写しする学生もいましたが、じゃあ展示物や体験コーナーに興味を示さなかったのかといえばむしろその逆で、そっちに熱中しすぎて答えを見つけに行くのが面倒くさくなってしまったようです。

今朝ほども北海道で震度7を記録する地震がありました。そなエリアのスタッフも盛んにそれを話題にしていました。学生たちが、日本にいる間にそういう目に遭わなければ幸いですが、その保証は全くありません。不幸にも被災してしまった時に、その傷口をできるだけ小さくし、一刻も早く立ち直れるように、というのがこの課外授業の主旨でしたが、学生たちは感じ取ってくれたかな…。

予算5000万円

9月4日(火)

「先生、東京のマンションはどちらがおすすめですか」と、Tさんから突然聞かれました。一瞬どういうことかわからなくてあれこれ聞き返してみると、Tさんのご両親がTさんのために東京でマンションを買ってくれると言っているのだそうです。ですから、都区内で買うとしたらどの辺のを買うのがいいかという質問でした。

「予算は?」「5000万円ぐらいです」「5000万あればこの近くでもいいのが買えると思うよ。富久クロスは億ションだっていうけど」…ということで、諸費用込みで5000万円ほどの物件を探しているようです。Tさんは大学院に進学して、もしかすると研究員として日本に残るかもしれません。そう考えると、5000万円で子どもにしっかりとした生活の場を与えるというのも、親としては妥当な投資のような気もします。Tさんが日本で仕事を続け、家庭を持ち、生活の基盤を築くのならそのマンションを持ち続けてもいいし、帰国するのならその時点で売り払っても子どもの充実した留学生活に寄与したとして、よしとするのでしょう。

富久クロスの億ションの話をしたらちょっと目つきが変わりましたから、Tさんの親御さんはもしかすると5000万円どころかもっと出すかもしれません。バブルの頃の日本人も、アメリカあたりでこんな勘定をしていたのでしょう。これが国の勢いの違いかなあと思います。先進国の中で日本だけがこの20年ほどの間で経済成長がほとんどありません。低成長といわれているヨーロッパ各国でさえ、経済規模が1.5倍ぐらいになっているそうです。

Tさんが5000万円か1億円のマンションで学生生活を送ってもいいですが、学生の本分と親御さんへの感謝は忘れないでもらいたいです。根がまじめなTさんならそんなことはないと思いますが…。

甘い生活

9月3日(月)

最近、財布をなくしたといって事務所へ来る学生が増えたように思えます。また、忘れ物として財布が届けられることも何件かあります。授業後、教師や日直が教室を点検して机の中に置きっぱなしになっている財布を見つけることもあります。残念ながら、「なくした」のほうが出てくる件数よりも多いため、なくしたと訴えてきた学生全員の手に財布が戻ってはいません。

詳しく話を聞いてみると、鞄のファスナーなどを閉めずに、口が開いた状態で教室やラウンジなどに置いたという例も見られます。確かに盗るやつが一番悪いですが、これなんかは盗られた方も重大な不注意を犯しているといわざるを得ません。誰もいない部屋に貴重品の入った鞄を置いたままどこかへ行ってしまうというのも、いかがなものかと思います。自分の国でも同じようなことをしてきたのでしょうか。

日本は治安がいいとよく言われます。しかし、それは程度の問題であって、悪人が全くいないという意味ではありません。本屋やコンビニなどでは万引きが増えているといいます。人ごみではスリに用心するのが常識です。もちろん、置き引きに遭わないように自己防衛しなければなりません。KCPの学生は、無邪気というか、無防備というか、そこのところの脇が甘いんじゃないかなあ。オリエンテーションでさんざん注意はしているんですけどね。

最大限の注意を払ってなおかつこうなってしまったのならともかく、抜け落ちがたくさんある状態で不愉快な目に遭ったとしたら、だから日本は暮らしにくいとか、想像とは全然違ったとか言ってほしくありません。冷たい言い方ですが、そこでなくしたお金は授業料です。授業料は1回払えば十分です。

留学生活を楽しみたかったら、必要最低限の身を守る姿勢ぐらいは身に付けておいてほしいです。

しまっていこうぜ

8月29日(水)

超級クラスで漢字のテストがありました。9時に出席を取ってテスト用紙を配ろうとすると、Mさんが「あれっ?」とも「しまった!」ともつかない顔で周りの友達に何か聞いていました。Cさんはテスト用紙が配られても問題に取り掛かろうとしません。2人とも、テストがあることをすっかり忘れていたのです。Mさんは無理して受けましたが結局不合格、Cさんは棄権扱いで0点。後日再試験を受けてもらうことになります。

テストは学生の仕事みたいなものです。予定は学期の最初に発表されています。それにもかかわらず忘れたとは、学生にあるまじき姿勢です。夏休みで緊張感が失われてしまったのでしょうか。2人とも自分が悪いと思っているようですから、追い討ちをかけるようなことはしませんでしたが、十分に反省してほしいです。

Yさんは来年進学の予定です。もう間もなく志望校の出願が始まります。国の高校の書類も取り寄せているようですし、併願校の出願期間や試験日なども予定表に記されています。しかし、夏休みはうちでごろごろしていたそうです。1日ぐらいはのんびりしたいという気持ちはわかりますが、それがだらだらと1週間も続いてしまったに違いありません。こちらも、切迫感のなさがにじみ出ています。

最近Kさんに会っていません。今月初めに夏風邪で休んでから、すっかり休み癖がついてしまったようで、心配しています。授業後、ちょっときつめの警告メールを送りました。このままでは冗談抜きで、ビザの要件に合わないということで、帰国してもらわねばなりません。優秀な学生だけに、こんな形で挫折させたくはありません。

灰色の学生生活を強要するつもりはありませんが、なんだか緩んじゃってるなあ…。

旅館の作法

8月17日(金)

朝、パソコンを立ち上げると、私のクラスの新入生Yさんからメールが来ていました。Yさんは日本文学に興味を持っており、夏休みに伊豆の踊子を追って天城山へ行きたいと書いてありました。ちょっと待って。伊豆の踊子なら天城山ではなく、天城峠です。あのトンネルは、苦労して天城山に登ってもありません。

それから、「日本のお風呂(温泉)と食事のルールがわかりません」と書いてあります。想像するに、修善寺かどこかの温泉旅館を予約したけれども、和風旅館に泊まるのは初めてで、館内でどうすればよいかわからず、不安になっているのでしょう。でも、温泉のルールと言われても、湯船に入る前にかけ湯をするくらいしか思いつきません。お湯の中で泳いだり石鹸を使ったりしてはいけないというようなアドバイスが欲しいのでしょうか。Yさんは髪が短いですからお湯の表面に髪が広がってしまう心配はないし、日本の温泉は素っ裸ではいるものだというのは世界的な常識になっているし、ほかに何があるでしょう。まさか、湯上りには腰に手を当てて瓶に入った冷たいコーヒー牛乳を飲み、卓球をすることなどという、なつかしの映画の一場面みたいなことを求めてはいないでしょうね。

食事のルールとなると、さらに難関です。部屋に食事が運ばれてくるのなら、自分のペースで勝手に食べればいいし、いわゆるお食事処で供せられるのなら、普通の食堂と変わる所はないでしょう。お見合いの席での会席料理や会社の接待なら緊張の一つもすべきでしょうが、そうではないのですから、刺し箸をしたところでとがめられはしません。移し箸はどんな場合でもいけませんが、一人旅のようですから、その心配もありません。

どうアドバイスすればいいかわからないので、本人を呼び出しました。天城山と天城峠は気づいていませんでした。山登りだから、絶壁があったらどうしようと思っていたようです。お風呂と食事のルールも、自分の知っている範囲で十分だというお墨付きが欲しかったようです。時に授業中居眠りをするくらいの図太さを持っているYさんですが、学校の外では不安をいっぱい感じているのでしょう。意外な繊細さを見て、驚きました。

私も明日から夏休みです。明日は、徳島県阿南泊。ちょっとマニアックな旅をしてきます。

夏ノ暑サニモマケヌ丈夫ナカラダ

6月28日(木)

今朝の最低気温は25.2度で、このまま24時まで25度を割らなければ今年初の熱帯夜です。昨日の朝の最低気温も24.9度で、ほぼ熱帯夜でした。学期中、去年の10月期以降の入学で、これから初めて東京の夏を経験する学生たちには、東京の夏は夜でも蒸し暑く寝苦しいと脅しをかけておきました。その脅し文句が現実のものとなりつつあるようです。

こうなると気になるのが、学生たちの健康状態です。エアコンをつけっぱなしで寝て風邪をひく学生が山ほど出てきます。風邪をひいても、その後きちんと節制して新学期が始まるまでに体調を戻しておいてくれればいいのですが、無反省にエアコンの中で暮らし続け、始業日になっても休み続けてしまうのが、ダメな学生の典型パターンです。

出だしでつまずくと、気力がそがれるものです。しかし、7月期は主要大学の出願期でもあり、一部の大学・大学院は入試の時期でもあります。受験生はこれから年内いっぱいぐらいまでは、気を緩めている暇などありません。それなのに鼻づまりや熱のために頭がぼんやりしていたら、ライバルに差をつけられる一方です。

そういう暑さにもめげず、アメリカの大学から来た学生たちは勉強に励んでいます。フロリダみたいなところから来た学生は、この程度の気温ならへいちゃらですが、シアトルあたりの学生にはこたえるようです。

私が昨日入ったクラスの学生たちも、促音はしっかり身に付けてくれたようですが、「おくにはどっちですか」は困ります。している単語を書けと言ったら、息抜きのつもりだった「かっぱ」は出てきたのに、他の覚えなければいけない単語はどこかに忘れてきちゃったようで…。

大きなスーツケース

6月22日(金)

中間テストと期末テストの日は、いつもより朝早く来る学生が増えます。2階のラウンジを開けておくと、7時台の前半にはテーブルがサラッと埋まります。校庭が使えるのが9時からですから、午前クラスの学生たちが勉強するとなると、ラウンジになるのです。

期末の日は、それに加えて、大きな荷物の学生が出現します。スーツケースを転がしながら学校へ来て、テストを済ませたらその足で空港へ向かう学生たちです。一刻も早く一時帰国したいのでしょう。日本で必死に孤独との戦いを続けてきたのですから、家族や友達と会って心を癒やしてもらおうと思うのも不思議ではありません。

Yさんもそんな学生で、お土産がたくさん詰まっていそうなスーツケースをロビーの柱のところに置いて教室へ行こうとしますから、事務所に預けておくように言いました。荷物は物々しいですが、服装はいたって軽装で、ちょっとコンビニへでも行くような感じでした。

Yさんは、先学期末も帰国していて、しかも戻ってきたのが新学期開始数日後という、確信犯的な行動を取っています。そのとき厳しく指導され、「休まない」と言っていたのに、じわじわと休みが増えました。学校側から指導が入らないぎりぎりのラインを保っていたというだけで、決してほめられる出席率ではありません。そんなわけで、本当は一時帰国など認めたくないのですが、日本語学校には学生の一時帰国を止める術はなく、私の目の前でスーツケースを引きずるに至っています。

血の汗を流しながら勉強して大きな進歩を遂げているのなら、3か月に1度のご褒美も認めてあげたいです。でも、Yさんはそういう感じがまったくありません。面倒なことや苦しい思いはしようとせず、おいしいところをつまみ食いしてきたように見えます。

そんなYさんも、来学期は本格的に受験の準備に取り掛からなければなりません。3月まで充電しなくてもいいくらい、フルチャージで戻ってきてもらいたいです。