Category Archives: 進学

書類作成

5月23日(木)

木曜日は初級の学生対象の大学進学授業があります。日本の大学の特徴、大学入学までのロードマップ、EJUの中身、留学生入試には付き物の面接試験の概要などを話してきました。先週は、具体的にどんな大学があるか、画像も交えて紹介しました。

今週は、思い切って出願書類を書いてもらいました。と言っても、まだ具体的な志望校が決まっていませんから、昨年以前の入試の書類を練習用として使いました。予想通り、失敗だらけになりました。

まず、何を書いていいかわかりません。名前だって、漢字で書くのかアルファベットで書くのかカタカナで書くのか、初級の学生にはわかりません。「本国の住所」を「日本国の住所」だと思った学生もいました。履歴書の学歴では、“上段に学校名、下段に所在地”と明記してあるのに、逆に書いてしまいました。所在地にしても、国名しか書ない学生から、番地まで書こうとしたけど番地がわからなくて困っていた学生まで、いろいろでした。職歴にアルバイトを含めるかというのは、上級の学生でも聞いてきます。また、ない場合「なし」と書くというのも、上級の学生もできない人が多いですね。

さらに苦労したのは経費支弁書です。初級の学生には無理なことはわかっていましたが、すぐには書けないこと、親元に送って署名してもらわなければならないので時間がかかることなどを実感してほしかったのです。学生たちは十二分に実感したようです。

志望理由書は、初級の学生の日本語力ではまだまだ書けません。用紙を使わせてもらった大学は1000字を要求していましたが、A4の両面に普通の原稿用紙よりもずっと小さいマス目が印刷されているのを見ただけで、大変さが伝わったようでした。

単に日本語が上手になるのとは別な側面のするべきことが学生たちに見えてきたら、この授業は成功です。毎年、書類不備で書き直させられたり門前払いを食らったりする学生がいますから。

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発掘

5月22日(水)

来月、校内で大学大学院進学フェアが開かれます。それに参加してくださる大学の紹介資料を作っています。学生が知っている大学と言ったら東大と早稲田ぐらいですからね。その東大と早稲田も、名前を知っているという程度で、どれだけ“すごい”大学なのかは、誰も知らないでしょうね。そんな程度の情報しか持ち合わせずに志望校を決めたら、間違いなく後悔します。そうならないように、学生の選択肢を少しでも広げようと、進学フェアを開催するのです。

さて、その紹介資料を作るには、まず、それぞれの大学のページを参考にします。キャンパスの所在地、学部・研究科の構成、学部と大学院の学生数、学部卒業生の大学院進学率など、大学の基礎データを集めます。授業中に毎日1校ずつ各クラスでその日の先生に紹介していただくので、詳しいことまでは載せません。詳細はフェア当日に担当の方に聞いたり、もらったパンフレットで調べたりしてもらいます。

ところが、この基礎データがサイトのわかりやすいところに置いてある大学と、なかなかたどり着けない大学とがあります。A大学は学部と大学院研究科の全体像がつかめず、B大学は大学院進学者数を見つけるのに一苦労どころではなく、C大学はキャンパス所在地を示すわかりやすい地図がなく、…という調子で、思ったより仕事がはかどりませんでした。

ここで精根を使い果たしてしまうと、その大学を学生に印象付けるネタを探してこようという気が湧いてきません。D大学もそんな大学でした。こちらは多少付き合いがありましたからいくらか情報があり、それを基に学生が食いつきそうな画像を見つけ出しました。

私がこんなに苦戦するのですから、学生がある大学について知ろうと思っても、入試日程やせいぜい奨学金ぐらいしか情報が得られないかもしれません。そうすると、その大学は、学生にとってその他大勢の1つに過ぎません。これでは受験生の確保も危ういのではないでしょうか。

私だって、調べた結果興味が深まった大学には、フェアの当日さらにもっと話を聞いてみようと思うでしょうし、学生にも薦めてみようとするでしょう。そうすると、私の口車に乗って、1人ぐらい出願し受験し合格し、入学するかもしれません。

大学のみなさん、お忙しいこととは存じますが、使いやすいホームページを作ってくださいね。

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EJUのもっと先

5月21日(火)

毎週火曜日は、日本語プラスで大学進学のガイダンスのような授業をしています。このところ大学の留学生入試の仕組みを説明してきました。先々週は志望理由書、先週は面接、そして今週は各大学の独自試験の日本語について話しました。

留学入試の日本語試験は各大学でまちまちです。JLPTの言語知識(文法と文字語彙)のような問題を出すところ、日本人の高校生でもハードに感じるだろうと思われる読解をさせるところ、聴解までやるところなど、千差万別です。超級では来学期あたりからこういう問題を授業に取り入れていくというのが例年のパターンですが、私が担当している日本語プラスの学生たちは中級が主力です。そういう問題に触れるのも初めてだったかもしれませんし、予告なしだったこともあり、面食らっているようでした。

小論文のパターンも紹介しました。長文を読んで意見をまとめるのは手に負えないでしょうから、軽めの過去問を紹介しました。それでもすぐに書ける代物ではないと感じているようでした。社会問題について意見を書く問題でしたから、その社会問題についてある程度の知識がないと書きようがありません。そして、今年の入試で取り上げられそうなテーマもいくつか挙げました。能登半島地震は知っていると言っていましたが、どこまで深く知っているのでしょう。そこから防災とか過疎化とか、更なる問題と関連付けて文章が書けるでしょうか。

少なくとも、日本や世界の動きに敏感であってほしいものです。円安だと仕送りを円にした時増えるからうれしいなんていう程度では、どこの大学も拾ってくれないでしょう。これをきっかけに、今から目を外に向けてもらえれば、学生たちの将来は明るくなるでしょう。

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座りっぱなし

5月18日(土)

昨日は川越課外授業でしたが、今学期の次の学校行事は、6月10日の大学・大学院進学フェアです。参加校がほぼ決定しましたから、来週あたりから学生たちに進学フェアがあることを伝え、進学するつもりが少しでもあるのなら必ず出るようにと指導していきます。

教師が口で出ろといくら繰り返しても、学生はそう簡単には動きません。ですから、パワーポイントで視覚に訴える資料を作ることにしました。参加校には、学生誰もが知っている大学もあれば、日本人には有名でも留学生には無名な大学もあります。また、学生たちが知っていると言っても、名前と偏差値レベル程度でしょう。ですから、パワーポイントで各大学のそれ以外の特徴を紹介して、学生たちに具体的なイメージを明確に持ってもらおうと思っています。

そう思って資料作りを始めると、私自身も各大学について特別詳しいわけではないことを痛感しました。例えば各大学の学部卒業生の大学院進学率を調べてみると、意外と高かったり低かったりしました。各大学のウリは何かとなると、かなり気合を入れて調べなければなりませんでした。まず、私がその大学に入りたくならなければならないんですよね。

試行錯誤を繰り返しながらでしたから、参加予定校の3分の1ほどで終わってしまいました。でも、資料作成の要領はつかめましたから、月曜日以降ははかどることでしょう。

昨日は朝から1日中川越の街を歩きつづけましたから、スマホの歩数計が3万4千歩余りを記録しました。しかし、今、歩数計を見てみたら、わずかに3729歩。そうだよね。お昼にちょっと外に出ただけで、ずっとパソコンの前だったもんね。そのぐらい根を詰めて作ったんですから、学生のみなさん、来週の大学紹介、見てね。見なくても10日は必ず出てね。

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聞く力

5月14日(火)

留学生の大学入試には、必ずと言っていいほど面接があります。受験生の日本語力を確かめることはもちろん、勉学に対する意欲や、4年あるいはそれ以上に及ぶ留学生活に耐えられるかどうかも見ていることでしょう。そして、各大学のアドミッションポリシーに合致した留学生を選抜していることと思われます。

いろいろな大学の先生方の話を総合すると、面接試験はコミュニケーション能力の試験でもあるようです。日本語でコミュニケーションが取れない学生は、指導のしようがないので入学させないという考えの大学もあります。志望理由や将来の計画など王道的な質問だけでは、暗記してきた模範解答でかわされてしまいます。それ以外に、受験生の人となりや社会性を見る質問もなされます。

さて、コミュニケーションとは何でしょうか。自分の気持ちや考えを相手に伝えられればコミュニケーションは完了でしょうか。いいえ、相手の気持ちや考えを理解することも含まれます。受験生はとかく前者に力を入れがちですが、後者がなければそれは自分の思いの押し付けに過ぎません。

そうならないためには、相手の話をきちんと聞いて受け止める力が重要です。しかし、この力は上級になれば身に付くといったものではありません。日頃からスマホではなく人間に向き合わなければ、この力は伸びません。翻訳ソフトの助けを借りてばかりでは、うわべだけの理解しかできません。その言葉に込められた重層的な意味など、想像の埒外でしょう。

日本語プラスの進学授業で、面接試験の大学側にとっての意義を訴えました。今のうちからそういう意識で準備していってもらえば、文字通り実りの秋が迎えられるはずです。天皇陛下も田植えをされたとのことです。今から秋を楽しみにしていましょう。

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明るくなりました

5月8日(水)

Dさんは日本語プラスの理科系の科目に出ています。しかし、数学も理科も難しいと言います。確かに、物理や化学の授業中の様子を見ても、わかっているような顔はしていません。数学のS先生も、Dさんは苦しそうだとおっしゃっていました。そのDさんが、暗い顔をして、重い足取りで進学相談に来ました。

Dさんは大学で建築か機械を勉強したいという希望を持っています。建築と機械では分野がだいぶ違います。まだはっきり決められないというのが本音なのだと思います。とはいえ、6月のEJUで運命が決まってしまうケースが多いのが留学生入試です。その運命の6月16日まで39日。のんびり迷っている暇はありません。

機械工学を専攻するなら、数学や物理はかなり力を入れなければなりません。AIを搭載したロボットが作れたらいいなあといった夢や憧れだけでは勉強できません。一方、建築は、耐震構造とかという方面は数学や物理をハードに駆使します。しかし、デザインに重きを置いた建築なら、そこまでのハードさは求められません。その代わり、多少なりとも絵の素養は必要でしょうが。

Dさんに聞いたところ、デザイン系の建築も大いに考えているとのことでした。それなら、A大学はEJUの指定科目は日本語だけです。S大学は数学コース1(文科系)で受験できます。K大学は体験入学に参加すればEJU不要で合格証を手にすることができるかもしれません。K大学には、3月までKCPにいたDさんの国の先輩が進学していますから、その先輩から情報やアドバイスが得られるでしょう。

そんな話をすると、Dさんは先月からずっと感じていたストレスが消えたと、笑顔を見せてくれました。自分でも調べてみると言って、雨の中を帰っていきました。こうして早いうちから騒いでいる学生が、結局受験に勝つものです。Dさん、一歩前進かな。

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目標に向けて

4月22日(月)

昼休み、Dさんが日本語プラスについて相談に来ました。先週1週間理科系の科目に出席して、理科の選択科目を物理と化学にしたいと言います。Dさんは機械工学に進みたいと言っていましたから、妥当な選択です。さらに、その機械工学よりも、建築に進みたいとも言ってきました。

建築には、大きく分けて、デザイン系と構造系があります。デザイン系は、その名の通り、外観や内装などのデザインを専門とします。構造系は耐震建築など、建物の建て方の根本を学びます。そのどちらかと聞くと、Dさんはデザインをやりたいと言います。デザインと言っても、ただ絵を描けばいいというわけではありません。使いやすい建物、住みやすい家を設計することが主たる仕事です。そのためには、人間工学、建築物の素材、地質や気象に至るまで、幅広い勉強が必要です。おそらくDさんはそこまで考えていないでしょう。

志望校を聞いてみました。すぐにT大学の名を挙げました。超有名校ではありませんが、手堅い感じがします。誰かから教えてもらったのかもしれませんが、Dさんにとっては手の届きそうな目標になるでしょう。今後、もう1校か2校付け加えておいた方がいいです。Dさんは出席率がいいですから、指定校推薦という目もあります。そのあたりは、私も相談に乗るつもりです。

Dさんのほかにも、進学先をどうするか、いい意味で悩み始めている学生が出てきました。学校全体が6月のEJU、さらにその先の入学試験に向けて動いているのだとしたら、今年の学生たちには期待が持てそうです。

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運命の61日後

4月16日(火)

6月のEJUまでちょうど2か月――と進学指導の時間に言ったら、授業に出席していた学生たちは、一様に驚いた顔をしていました。6月16日(日)が試験日ですから、61日後です。

この学生たちは、ほぼ全員、来年4月の進学を目指しています。確かに、大学に入学するのは1年後です。しかし、入試は秋ごろ行う大学が多く、年内に合格発表のところは、ほぼ11月のEJUの成績は利用できません。ということは、6月のEJUがラストチャンスだとも言えます。61日後に運命が決まってしまいかねないのです。

こちらも、3月になっても進学先探しに右往左往したくはありません。早く安心したいものです。でも、1年後のことが2か月後に決まってしまうとなると、腕組みをしたくなります。

大学進学を目指す多くの留学生は、日本の高校3年生よりいくらか年上です。その分大人だということにもなりますが、それは数字の上の話に過ぎません。留学生は、未知の国へ来て、生活に慣れるのにも時間を費やしています。もう少し迷う時間を与えてもらってもばちは当たらないでしょう。志望理由書や面接練習などでそれらしい学修計画や将来設計を書いたり話したりさせていますが、どこまでが心の底からの声でしょう。

学校推薦型入試などによって、日本の高校生の進路決定が早まってきたという話をよく耳にします。大学や学部や学科をどこまで理解して受験するのでしょう。学生の確保は大学運営の至上課題だとも言われています。そんなことが起点になって日本の将来を担う若者の人生が歪められたとしたら、本末転倒です。

ほかの国はどうなのでしょう。もっと余裕のある留学生受け入れスケジュールのような気がします。走りながら考えることも必要でしょうが、走る前に目標を定めて見据える時間も欲しいです。

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入学式挨拶

みなさん、ご入学おめでとうございます。世界の各地から有為の若者がこのKCPに集まってきてくださったことをとてもうれしく思います。

新入生のみなさんの多くが、日本での進学を目標としていることかと思います。“A大学のB先生のもとでこういう研究がしたい”――大学院進学を希望している方は、このぐらいまで考えが進んでいるかもしれません。しかし、大半の方は、東大に行きたい、早稲田大学で勉強したいといったような、漠然とした夢ないしは憧れを抱いているだけではないでしょうか。

残念ながら、日本の大学・大学院は、夢や憧れだけで入れるほど甘くはありません。それを現実のものにするには、具体的な行動が必要です。それ以前に、みなさんは日本の大学についてどのぐらい知っていますか。日本には大学が何校あるか知っていますか。約800校あります。その中でいくつの大学の名前を知っていますか。東大と早稲田の2つしか知らないとしたら、日本での進学希望者としては大いに研究不足です。美術系志望の方で、知っているのは東京芸大と多摩美、ムサビだけだとしたら、見通しは暗いですね。美術が学べる大学は、少なく見積もっても30校はあるでしょう。

みなさんもご存じのように、日本は少子化が進み、大学を受験する18歳人口も減る一方です。大学は、何もしなくても学生が集まる時代ではなくなったので、それぞれの特色を打ち出すことに懸命です。今までにない教育をする学部学科を創設したり、世の中のニーズを先取りしたプログラムを始めたり、カリキュラムを根本的に改めたりと、どの大学も受験生に選ばれる大学、社会から求められる大学になろうとしています。

それと同時に、入学試験も変わってきました。知識量の多寡を問うのではなく、考える力や創造する力、さらには学問に対する姿勢を見ようとする試験を課す大学が増えてきました。入学してからの伸びしろが大きい学生、何か光るものを持っていそうな学生、学問に対して強い探求心を持ち、真理に向かって突き進んでいく意欲のある学生を見極めようとしています。

東大や早稲田にしても同じです。日本の中でさえ、「わざわざ東大に行かなくても、地元のC大学でもグローバルな人材になるための勉強ができる」と考える、地方の優秀な高校生が増えてきました。偏差値だけで志望校を決める時代は過ぎ去りつつあります。それゆえ、一昔前の有名校も安閑とはしていられないのです。

東大や早稲田大学の卒業証書が欲しかったら、何が何でも東大や早稲田大学に入らなければなりません。しかし、みなさんが真に入るべき大学は、みなさんが世界の将来を背負って立つ人材へと成長していける大学です。みなさんが抱いている夢や憧れ、あるいは将来構想を形にできる大学です。じっくり調べて考えた結果、自分の人生を実りあるものにする大学は早稲田大学をおいてほかにないとなったら、必死に勉強して早稲田大学に入ってください。私たちも全力で応援します。ろくに考えもせずに有名だからという理由で大学を選んだら、みなさんは人生において大きなチャンスを逃してしまうことになります。

では、日本の大学を知るにはどうしたらいいでしょうか。とっかかりはインターネットです。ネットで見て興味が持てたら、できれば実際にキャンパスを見に行くことをお勧めします。その大学に博物館があったら、そこもぜひ見学してください。大学院進学希望の方は、むしろ必須ですね。博物館の学芸員の方と質疑応答・議論ができるくらいになっておいてもらいたいです。

志望校を研究すると同時に、自分自身も研究してください。大学も大学院も、必ずと言っていいほど入試に面接があります。面接とは、単に面接官の質問に答えるだけではありません。面接官に、大学に、自分を売り込む場なのです。商品を売り込むには、その商品について熟知していなければなりません。すなわち、みなさん自身が自分を知ることこそ何より肝要なのです。大学院入試だったら、「私は先生の御研究にこんな貢献ができます」というところまで訴える必要があります。

KCPには、こうした大学や大学院が求める学生像に近づいていける授業や活動が数多くあります。私たち教職員一同も、総力を傾けてみなさんがそんな学生へと成長していくお手伝いをします。

みなさん、本日はご入学、本当におめでとうございました。

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明るい声で

2月15日(木)

中間テストの試験監督から職員室に戻って来ると、Pさんがいました。「先生、A大学に合格しました」と、いくらか暗い声で報告してくれました。私は深々と頭を下げました。

入学当初、Pさんは絶対東大に進学すると語っていました。A大学だって誰でも入れる大学ではありませんが、さすがに東大と比べられたら霞んでしまいます。それが暗い声の原因です。

Pさんが東大に入りたい理由は、偏差値が高いからです。こういう勉強がしたいからとか、こういう学生生活を送ってみたいからとかというのはなく、偏差値の高さが魅力なのです。

東大がそう簡単に入れないことは、入学後しばらくしたらわかってきました。その次に出してきた志望校は、東大の次か次の次ぐらいに偏差値の高い大学でした。偏差値が0.1でも高いところがお望みのようでした。

ですから、そういった大学もあきらめてA大学に出願したことは、Pさんにとっては屈辱的なことだったかもしれません。H大学やK大学はだめかなどと、最後まで粘りました。偏差値至上主義ですから、EJUの点数など数字で無理だというと、渋々納得しました。A大学で素晴らしい成績を挙げれば、大学院でH大学でもK大学でも東大でも行けると希望も持たせ、A大学受験に目を向けさせました。

Pさんから報告を受けた時私が深々と頭を下げたのは、こういった葛藤にけりをつけたことに対してよくぞ決断したと敬意を表したかったからです。これから入学金を振り込みに行くと言って、コンビニに向かいました。

Pさんにはテストには現れにくい日本語のセンスがあります。これを活かせば、A大学で充実した学生生活が送れることでしょう。そうすると、大学院もA大学に進みたいということにもなるでしょう。卒業式には、明るい声で「先生、お世話になりました」と言ってくれることを期待しています。

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