Category Archives: 学生

三日坊主未満

8月27日(火)

朝、教室に入ると、Cさんの姿がありません。昨日の担当だったN先生の話だと「心を入れ替えて頑張ります」と言ったそうですが、早くも挫折でしょうか。Cさん、なんたって、昨日は6時に登校して、私に数学の質問をしてきました。ド派手な色だった髪も染め直し、進学に向けてやる気をみなぎらせているように感じたのですが、たった1日しかもたなかったようです。

前半の授業が終わり、担任のO先生のところに連絡があったかと思って聞いてみましたが、連絡なしとのことでした。教室に戻ってもCさんはいませんでした。出席を取り終えて授業を始めようとしたところに、Cさんが入ってきました。「じゃあ、次のところは、遅刻してきたCさん、読んでください」などといじっても、悪びれる風もなく、あまりよろしくない発音で教科書を読みました。

授業が終わり、遅刻者には朝一でやった漢字の復習テストを受けさせようと準備していたら、Cさんは一瞬のうちに消え去っていました。もう1人の遅刻者Fさんはちゃんと受けて帰ったのに。遅刻の理由も寝坊だし、結局心なんぞ入れ替わってはいませんでした。

漢字の復習テストは、私が担当している午後の化学の授業後に、今度こそは首根っこをとっつかまえて受けさせました。採点してみたら、案の定不合格点でしたが。

生活を立て直すのは誰にとっても難しいものですが、Cさんの場合はもうすぐ受験が控えていますから、喫緊の課題です。寝坊で遅刻などしているわけにはいきません。それにしても、言葉の軽いこと、タガの緩んでいること、この上もありません。6月のEJUの成績がそこそこ以上だったのでいい気になっているのだとしたら、大間違いです。クラスの教師が束になってどつきまわさないと、半年後に泣きを見ることになりかねません。

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試金石

8月16日(金)

台風が近づいてくるという予報が出ていましたから、授業は午前中だけで、午後クラスはお休みとしました。そういうメールを昨日の夕方に学生に送りました。しかし、今朝の教室はスカスカでした。私のクラスも、かろうじて過半数を確保したという程度でした。欠席した学生のうち2名は、一時帰国のために予約した航空便が、台風接近のため出発が早まり、欠席せざるを得なくなったということでした。これはしかたがありませんが、便乗欠席もいました。

CさんやWさんはその典型でしょう。電話をかけると、Cさんはメールを見ていなかったと言いました。スマホで天気予報だけ見て、台風が来そうだから休もうと勝手に決めてしまったに違いありません。地下鉄だけで来られる所に住んでいますから、東京メトロのページさえ見れば通常どおりに運行していることがすぐわかり、登校できたはずです。そもそも、昨日の授業の際に、学校からのメールを必ず見るようにとくどいほど言われていたはずです。休みたいという自分の気持ちに沿う情報だけ見て、登校できるという判断の元になる情報には接触しようともしなかったのです。

Wさんもほぼ同様です。Cさんよりずっと学校に近いところに住んでいますから、もっと楽に登校できたはずです。現にCさんと同じところに住んでいる学生は、普通に登校しました。「のどが痛い」と、素晴らしくきれいな声で理由を言ってくれました。

結局、出席した学生は普段からやる気のある学生、欠席した学生は普段から少しでも楽をしようと考えている学生でした。他のクラスも、欠席した学生は、「やっぱりね」と言いたくなる面々でした。こういうところからどんどん差がついていくんですよね。

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フライング

8月15日(木)

朝、教室に入ったら、昨日学校を無断欠席したという引継ぎがあったZさんがいました。このクラスは、毎朝、前日に習った漢字の復習テストがありますから、普通の学生は、教室に入ると漢字の教科書を広げて、漢字の勉強をします。しかし、今朝のZさんは、机に突っ伏した状態で、勉強していた気配は感じられませんでした。出席を取った後、テストを始めると、Zさんも答えを書いていました。全くやる気なしのYさんよりはましな感じでした。

朝寝ていたからなのか、授業中のZさんは線がつながっていました。指名すると、それなりのことを答えました。最後の会話の時間も、相手の学生と議論を交わしていました。

欠席の理由を聞こうと、授業後Zさんを残しました。お腹が痛かったとか寝坊したとか、しょうもない言い訳を聞かされるのだろうと思いながら、一応聞いてみました。すると、「昨日授業があると思いませんでした」という、想像に輪をかけた救いようのない答えが返ってきました。おとといの中間テストで学校は終わりで、昨日から夏休みになったと思っていたのです。そうじゃないんだと、試験監督の先生が強調しまくったはずなのですが…。

さらに、「学校を休んで何をしていたんですか」と追及すると、「Oさんと海へ行きました」という何とも能天気な行動が発覚しました。「じゃあ、Oさんも昨日休んだんですか」「いいえ、Oさんは出席しました。午後から海へ行きました」。Oさんから夏休みはまだだと聞かされて、今朝は慌てて登校したのでしょう。

半分呆れていると、「海でA大学の女子学生に声を掛けました。会話の勉強、楽しかったです。連絡先を交換しました」と自慢げに付け加えるではありませんか。「その“A大学”は絶対ウソだよ」と目を覚まさせる気も失せました。もはや、心ははるか遠くの世界にまで飛んで行ってしまっているのです。

授業後、Zさんのテストを採点すると、かろうじて合格点はキープしていました。帳尻合わせだけはうまいんだよね、こいつ。

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聞き役

8月14日(水)

Jさんは何かと不満を抱えている学生で、担任のM先生から「どうしても金原先生と話をしたいと言っているので、話を聞いてもらえませんか」と頼まれていました。というわけで、授業後にJさんの話を聞きました。

まずは同級生とのトラブルで、相手との間に若干物騒なやり取りもあったようです。Jさんはその学生とクラスを分けてほしいと訴えました。しかし、諸般の事情でそう簡単にクラスを分けるわけにはいきません。ですから、こちらからの提案として、これから期末テストまで必死に勉強して、もう一人の学生の手が届かないクラスに進級したらどうかというアイデアを出しました。

Jさんは日本での就職を考えています。そのためには可能な限り日本語力を高めておくことが必要です。この意味からも、平常テストで満点を取るくらい勉強に打ち込むことは、Jさんの将来にとっても有意義なことです。

ところが、Jさんはこちらがいくらたきつけても煮え切りません。自分は例文を作るのが苦手だとか、記憶力がよくないとか、日本語の漢字の読み方はわかりにくいとか、あれこれ理由を並べ立てます。つまりは苦労したくないのでしょう。そのくせ、先月受験したN1はたぶん合格しただろうと言います。KCPのテスト例文を書く問題があるから点が悪いけれども、JLPTは4択だから好成績が挙げられるという理屈です。

就職にしても、今のアルバイト先で正社員として雇ってもらいたいという淡い夢を見ています。他の会社を受けるとなると面接があるので、それは自信がないと言います。これまた、楽をしたいのです。

「本当に日本で就職したいなら、専門学校に行くのがいいですよ。専門学校は丁寧に就職指導をしてくれますから」と勧めてみても、乗り気じゃなさそうでした。「Jさんは出席率もいいですから、本当にN1に合格していたら、それだけでほとんど専門学校合格ですよ」と言っても、そちらの方に動く気配はありませんでした。

ひたすら話を聞くというのが私の役どころでしたから、ブチ切れたいのをこらえて2時間余りうなずいていました。Jさんはにこやかな顔で帰っていきましたが、こちらは疲労困憊でした。その私を待ち受けていたのは、昨日の中間テストの答案用紙と原稿用紙でした。

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ワンダーランドを去る

8月13日(火)

7月期の中間テストの日は、アメリカの夏の短期プログラムで勉強してきた学生の修了式があります。テストを終えたばかりの学生が6階の講堂に集まり、修了証書をもらいます。

6月の期末テストの日には、4月期まで最長で3学期、9か月間KCPで勉強した学生たちを送り出しました。9か月ということは去年の10月からということですから、「みなさんは東京の暑い暑い暑い夏を経験しないで帰りますね」と言って送り出しました。しかし、夏の短期プログラムの学生は、その逆です。「今回は暑い暑い暑い夏の東京しか知らないで帰りますが、今度来るときはずっと過ごしやすい時期を選んでください」と挨拶しました。こんな連日の猛暑日・熱帯夜が東京だ、日本だと思ってほしくないですからね。

学生たちも、この暑さは相当強く印象に残っているようでした。自分の生まれ育った町もかなり暑いけれども、東京はそれ以上だという声があちこちから聞こえました。東京の夏は、気温もさることながら、湿度が下がらないので、より一層体に負担がかかります。気象庁のデータによると、最小湿度が50%を割る日がほとんどなく、蒸し暑いことこの上もありません。これが東京だけじゃないんですね、札幌あたりでもからっとした暑さになっていないみたいです。

そんな暑苦しい日本ですが、学生たちは「もっと日本にいたい」と言います。ネットを通してしか知らなかったことが、実物を見てみたいと思っていたものが、目の前にリアルに現れたり、実際に手に取ることができたり、あるいは味わえたりするのですから、ワンダーランドそのものなのでしょう。

大半の学生が、明日帰国します。学生たちがまたKCPを訪れてくれることを、切に願っています。

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時間オーバー

8月9日(金)

中間テスト前の授業日としては最終日なので、私のクラスでは会話タスクを行いました。この1か月半ほど、授業で時間があればたとえ3分でも会話をしてきました。その成果を発表してもらおうというものです。

このクラスの学生たちは、授業中に疑問点をどんどん質問してきます。3分の会話でもおろそかにはしません。まじめに取り組んできたと言っていいでしょう。ですから、こちらも課題に対してどんな会話を繰り広げてくれるか、楽しみにしていました。

課題と採点基準を発表し、ペアで30分かけて会話を組み立ててもらいました。時間が来て、「じゃ、最初にやりたい人」と聞くと、即座に手を挙げたのがLさんとYさんのペアでした。一番よくできるだろうと思っていたペアでしたから、他のペアのお手本になるかもしれません。

やってもらうと、予想通り、他の学生たちにもまねしてもらいたい出来でした。今学期習った表現や語彙を上手に取り込んで、聞き手を引き込むストーリーを形作っていました。

これに刺激されてか、次から次と手が挙がり、あっという間に発表が終わりました…となるかと思ったら、1つの発表が長いんですね。3~4分という設定でしたから、中には2分台のところもあるだろうと踏んでいたところ、3分代後半から4分台が大半で、授業時間を10分もオーバーしてしまいました。こんなに長い会話を作り上げる力が付いていたのかと、ただただ驚くばかりでした。

学生たちは明日から3連休で、連休明けが読解などの筆記試験です。会話テストの前にやった総復習にも真剣に取り組んでいたし、授業後に残って質問してきた学生もいたし、大いに期待できそうです。

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道に沿って

8月7日(水)

「下井草駅南口から、線路に沿って新宿方向に3分ほど歩いてください」と指示されたら、どうすればいいかわかりますね。では、「下井草駅南口から、道に沿って新宿方向に3分ほど歩いてください」と指示されたらどうでしょう。「下井草駅南口から、道に沿ってきれいな花が植えられています」だったら、どういう情景か思い描けますね(本当に花が植えられているかどうかは知りませんが…)。

「道に沿って歩く」というと、私はどぶの中を歩くようなことを想像してしまいます。「道に沿って」と言ったら道そのものは含まれない、すなわち、歩く場所は道の外側であり、だからどぶの中を歩くイメージになるのです。同時に、道に沿って花を植えることは可能です。また、「線路に沿って歩く」とは線路の上を歩くのではなく、線路のわきか高架下の道を歩くのです。

先週の中級クラスのテストに、「○○○に沿ってまっすぐ行くと…」 の“○○○”に適当な言葉を入れるという問題がありました。「道に沿ってまっすぐ行くと…」という答えがかなりありました。私は自信を持って×にしました。しかし、Yさんは自分の例文を先生に「道に沿って…」と直されたと、その実物を出してきました。

とすると、上記の理屈は私だけのローカルなものなのでしょうか。考えすぎでしょうかね。結局、先週のテストは特別に「道に沿って」は認めるけれども、来週の中間テストでは×にするということにしました。

このおかげで再試にならずに済んだZさん、あなたは再試のために勉強し直したほうが良かったと思いますよ。中間の前日まで勉強しないつもりなんでしょ。

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コトバデー

8月5日(月)

予定の時刻になると、学生たちが会場に入場してきました。ざっと見渡したところ、空席が目立ちませんでしたから、ずる休みは少なかったのでしょう。ゲストの方たちもいらっしゃり、コトバデーが始まりました。

最初は音読。どのクラスもマイクの使い方があまりよくなく、残念ながら、練習の成果が十分に発揮できたとは言えない感じがしました。練習の際、学生はもちろん、教師もマイクを通して声を届けるということに気が回っていませんでした。次回はこのあたりが課題です。

続いて創作発表。学生たちが作った俳句が秀作ぞろいで驚かされました。私みたいな詩心を持ち合わせていない者など足元にも及びません。

その次は、授業でやった会話や発表の再現です。最優秀作を集めたからでしょうが、初級でも高度なやり取りをしていました。中級のWさんやEさんよりも、よほどわかりやすい話し方をしています。2人の入試の面接指導は、初級の学生にやってもらった方がいいかもしれません。上級はかなり程度の高い発表をしていました。学内サイトに入れば発表の概略が各国語訳で見られますが、中級当たりの学生でも理解するのが難しかったかもしれません。だからこそ、自分たちも勉強・練習してあのようになるんだという目標にしてもらいたいところです。

お昼の休憩は、みんなそれぞれ思い思いの所で食事をしたようです。だからでしょうか、午後の部開始時の集まりが若干悪かったです。

その午後の部の最初は、KCPで勉強しているいろいろな国の学生が、オリンピックの最中ですから、自国で盛んなスポーツを通して、国の紹介をしてくれました。初めて見るスポーツが多く、昼休憩後で眠くなりかけた目が、再びぱっちりと開きました。

その次が声優にチャレンジです。最初のクラスの出来が素晴らしく、会場全体がひきつけられました。学生たちのどよめきが違いますね。ほかのクラスも努力の跡が感じられ、ゲストのみなさんも関心なさっていたようです。同じ題材でもクラスによって味付けが違うところが面白かったです。

そして余興ですが、私は演劇部のスタンバイのため、見ておりません。その演劇部、練習不足の私を心配してか、私がステージに出ると、学生たちが私のセリフをささやくのです。その優しさ、ありがたく受け取りました。おかげで大きなミスをすることなく役目を果たすことができました。

予定の時間を少々オーバーしてしまいましたが、無事終えることができました。それなり以上ん盛り上がり、学生たちも満足できたのではないでしょうか。

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傘を刺す?

8月2日(金)

「漢字は、みなさん、予習してきましたね。調べてもよくわからなかったことがあったら質問してください」と漢字の授業の最初に声をかけると、何人かの手が挙がりました。「泥棒すると盗むは同じですか」「泥酔すると酔っぱらうは同じですか」「刺すは傘にも使いますか」「殺人的は激しいですか」「棒読みはどんな読み方ですか」「足が棒のようになるはどうなるんですか」「殺菌作用の作用と機能は何が違いますか」「日本は1年に何人ぐらい自殺者がいますか」…といった具合に湧き上がってきました。みなさんはいくつ答えられますか。

このクラスでは、質問したら答えるけれども、質問がなかったことには答えないということにしています。質問しなかったことがテストに出て答えられなかったら自業自得になってしまいますから、学生たちも本気にならざるを得ないのでしょう。少なくとも、知りたいという気持ちのある学生には、手応えを感じてもらっているのではないでしょうか。そういう学生にこそ、伸びてもらいたいですからね。

もちろん、学生が質問しなかったことは全く教えないというわけではありません。学生が気付かなかったこと、知っておいた方がいいことには、こちらから触れます。「泥を塗る」「棒グラフ」「盗難はあうと一緒に使う」「強盗はごうとうであり、きょうとうではない」などということを付け加えました。

このやり方は、毎回想定外の質問が出てきますから、教師も緊張を求められます。上述の質問だと、作用と機能の違いがその例でしょうか。このスリルを味わうのが授業の醍醐味だとも思います。

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教師の天国

8月1日(木)

最上級クラスの代講に入りました。最上級クラスともなれば有名人ぞろいで、以前受け持ったことのある学生は数名もいませんでしたが、ほとんどの学生は顔と名前が一致しました。そういった学生が一堂に集うとどんな様相を示すのか、そちらの方に興味がありました。

今学期教えている中級クラスとは違って、語彙コントロールなしで日本語がバリバリ通じます。授業がサクサク進む感じでした。応用編と思って聞いた質問にもたちどころに正解が返ってくるあたりは、さすがと言うほかありませんでした。課題を与えると、余計なことはせずに黙々と取り組んでいました。これだけの集中力があれば、日本語力も伸びるわけです。

自分で調べたことの発表もしました。そんなに長くかからないという引継ぎだったのですが、いい加減な発表は1つもなく、質問がけっこう出て、気が付いたら後半の授業を全部使ってしまいました。各学生に知識欲があるからきちんと調べてくるのであり、だから発表の質も高く、それゆえ耳を傾けたくなり、本気で聞くから興味を感じ、質問も出てくるという、正のスパイラルが生じたのでしょう。

このクラスの学生たちは語学の才に恵まれ、それに加えて勉強自体も好きなのです。隙あらばスマホに逃げようとするどこかのクラスの学生とは、頭脳の質が違うのです。日本語の習得、もっと言ってしまえば、学問に向いた脳みそを持っているのです。

結局、私は出席を取るぐらいで、学生たちがどんどん進めていったような授業でした。理想的と言えば、実にその通りです。これからも相乗効果を発揮して、高みに上り詰めてもらいたいと思いました。

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