Category Archives: 学生

やめますの裏側

11月6日(水)

MさんがP大学に合格したという話を聞いたのは、先週のことだったでしょうか。通常授業で教えたことはありませんが、日本語プラスでは何回か顔を合わせたことがあります。ですから、「あのMさんが受かったのか。よかった、よかった」とひそかに喜んでいました。日本語プラスを受け始めた頃に比べると、だいぶ力を付けました。

そのMさんが、午後の授業が始まる直前ぐらいに、日本語プラスのEJU日本語対策クラスをやめたいと申し出てきました。理由を聞くと、P大学に受かったからだと言います。志望校に受かって、もうそこに進学すると決めたのだったら、EJUも受ける必要はありません。だから、日本語プラスも不要だという理屈もわからないではありません。だけど、今度の日曜日がEJU本番で、日本語プラスのEJU対策クラスもあと1回だけです。無断欠席されるよりはちゃんと申し出てくれた方がありがたいですし、Mさんって義理堅いなと思ったりもしました。でもねえ、せっかくずっと勉強を続けて来たんだから、最後まで出席しようという気にはならなかったんですかねえ。

それよりも怖いのは、Mさんが日本語を勉強する意義を見失ってしまうことです。少なくとも日本語プラスにおけるMさんは、まじめな学生でした。しかし、今まで、まじめな学生が志望校の受かったとたんに豹変した例をいくつか見てきました。Mさんもそちらの道を歩むんではないかと危惧しています。タガが外れると、なかなか元には戻りません。P大学だって、3月の卒業まで5か月ほどの間、日本語力をさらに伸ばすことを前提に合格を出しているかもしれません。にもかかわらず、勉強せずに遊び惚けて、日本語は進歩するどころか退歩してしまったら、大学で専門分野を磨くどころではありません。

学生に進学・就職先で困らないだけの日本語力を付けて送り出すというのが、日本語学校の使命です。しかし、学生側に勉強する気が全くないのだとしたら、日本語学校としては使命の果たしようがありません。Mさんはそんな学生ではないと信じたいです。明日からのMさんに注目していきます。

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合格発覚?

11月5日(火)

「先生、中間テストの後で大阪へ行きたいんですが、いいですか」「受験で?」「いいえ、うちを探すんです」…と、Lさんが授業直後に聞いてきました。Lさんが受験するのでO先生と面接練習をしているのは見かけましたが、どこかの大学に受かったという話は聞いていません。さらに、「先生、2月に京都に引っ越ししたいんですが…」「KCPの卒業式が3月10日ごろにありますから、それまではずっと出席してもらわなければ困ります」…と答えたものの、Lさんはどこの大学に進学するのでしょう。確認を取りたいところでしたが、追試を受けたいという別の学生の世話もしなければならず、また、すぐ次の授業が迫っていましたから、「3月10日ごろですか…」と半分納得したようなLさんの声を聞いたところで見送りました。

夕方、Lさんの担任のH先生にこのやり取りを報告すると、そばで聞いていたO先生が、「えっ、それは大阪のK大学に受かったっていうこと? 私の所には一言も報告がないんだけど」と、やや不満げな表情でおっしゃいました。Lさんが、合格したのにO先生に黙っていたとすれば、義理を欠いていると言わざるを得ません。ちょっと抜けているところのあるLさんのことですから、問い詰めるまでもなく「はい、K大学に合格しました」と言っちゃうんじゃないかと思います。

Lさんに悪気があるとは思えません。O先生に対して感謝の気持ちも抱いていることでしょう。しかし、自分の合格を誰よりも喜んでくださるのがO先生だというところまでには、思いが至っていないのでしょう。“お世話になった”という感覚がないことはないでしょうが、それに対する何よりのご恩返しが合格の報告だとは気が回っていないのです。

そういう気づき方というのでしょうか、気の回し方というのでしょうか、う~ん、学生と食い違っていることがよくあるんですよね。同じことを日本語学校以外でやらかしたら、相当強い風当たりがあることでしょう。そういうことまで教科書に載っていない事柄まで教えるのが、日本語学校なのです。

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決まりました

11月1日(金)

午後の授業が始まるころ、Tさんが職員室へ来ました。就職が決まり、学校をやめるとのことです。だいぶ前からビザを申請していたのですが、入管の人手不足の影響でなかなかビザが下りず、ついこの前ようやくもらえたそうです。私も先学期末までに修了・就職と聞いていたのですが、ずいぶん遅れたものです。

Tさんは「先生方に」といって、季節のおまんじゅうを持って来てくれました。私は栗まんじゅうをいただきました。授業後の疲れた頭に、糖分がしみ込んでいきました。こういう気づかいがさらっとできるあたり、もうすっかり日本の社会人です。

Tさんをクラスで受け持ったことはありませんが、川越小旅行の時、クラスのメンバーからはぐれてしまったTさんを救ってあげたことがあります。クラスの先生に送り届けるまで、川越の中心部を一緒に歩いたのは、もう半年近く前のことなんですね。

夕方、Sさんが職員室の入口で私を呼び出しました。行ってみると、にこやかな顔で「先生、K大学の指定校推薦に合格しました」と報告してくれました。午後、合格発表があったそうです。だから、午前中の私のクラスでは落ち着きがなかったのです。

入試の直前に、数回Sさんの面接練習をしました。最初の頃は指定校推薦入試でも危ないのではないかというくらいのひどさでしたが、入試の直前には、卒業生が教えてくれた「困った面接の質問」から選んだ質問をしてもきちんと対応できるまでになりました。

Sさんはちょうど1年前の10月入学でした。その時から進学に関してとても熱心な学生でした。初級の時から進学の授業には欠かさず出席し、情報を集めたり志望理由を考えたり面接練習を重ねたりしてきました。やはり、早くから動くと進学の成功につながるものです。

TさんやSさんに限らず、進路が決まった学生が出てき始めました。実りの秋です。

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選択

10月31日(木)

「7月の私はバカでした」と、日本語プラス物理の授業が終わった直後にWさんが叫びました。Wさんは理系の学部に進学しようと思っています。6月のEJUの理系科目で思った以上の高得点を取りました。そこで喜んで東京の有名私大への進学を考え始め、資料を集め始めました。「A大学とB大学と、名前を言ったときのインパクトが強いのはどちらですか」なんていうような質問もしてきました。「A大学もB大学も知らない人がいないくらい有名だけど、それは文系の大学としてだから、理系の学部はあまりお勧めしないな」などと答えると、不満そうな顔をしていました。

ところが、最近になって、ようやくそういった有名私立大学は授業料が高いことを知り、また、自分が勉強したいことが勉強できそうもないこともわかり、冒頭の発言に至ったというわけです。「国立のZ大学は書類審査だけですから、6月の点数で合格できるかもしれません」と。すぐにでも出願しそうな勢いだったのですが、結局出願せずじまいでした。それもまた後悔につながっているようです。

「国立のY大学とX大学に出願しようと思っていますが、私の点数で合格できますか」なんていう質問をするようになりました。どちらの大学も、はっきり言って田舎にあります。そういう大学の名前を、決していやそうな顔でなく口にするようになりました。夏あたりは大学に入ってチャラチャラするつもりもあったようですが、このところは堅実な考え方に向かっています。

Wさんの変身の影にはVさんがいます。同じ理系のVさんは、ずっと国立と言っていました。そして、C大学やD大学のようなチャレンジ校のほかに、U大学やT大学のような、自分の勉強したいことが勉強できて、なおかつVさんの成績で手の届きそうな大学を見つけてきています。間近にそんな友人がいると、Wさんも自分の志望校を見直してみようという気になったのでしょう。

2人とも11月のEJUで点数の上積みを狙っています。そして、本当の意味での志望校に挑戦しようと思っています。EJUは、10日後です。

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成長

10月30日(水)

水曜日は、週に1回の初級クラスの日です。週1の初級クラスというと、毎週学生たちの伸びを感じます。先週できなかったことができるようになっていたということがよくあります。

Kさんもそんな1人で、モニターを見ろと言っても教科書から目が離れなかったのが、画面を見ながらオリジナルの会話が作れるようになっていました。まだ完全に教科書を手放したわけではありませんが、教科書に頼らずに歩き出す兆しが感じられました。

Cさんは、テストはよくできるのですが、話す力はイマイチどころかイマサンぐらいでした。担任のN先生があおったこともあるのでしょうが、全体への問いかけに真っ先に答えてくれました。授業の終わりごろには、習ったばかりの表現に関する質問さえしてきました。先週までと比べたら、長足の進歩です。

Jさんはもともとよくできる学生でしたが、それに磨きがかかっていました。今学期受け持っている中級クラスのできない学生よりも、よっぽど気の利いたことが言えます。中級クラスに連れて行って、会話の授業かなんかに入れたら、中級クラスの学生の刺激になるでしょうね。

そんなクラスですから、こちらもうれしくなってついつい力を入れてしまいます。午前中は雨が降って肌寒ささえ感じたのですが、午後クラスの授業の最中にはうっすら汗をかいていました。それだけ力を込めれば全部吸い取ってくれそうな気がしますから、気分が乗ってくるのです。

今週もたっぷり種をまきましたから、来週も豊年満作を期待して教室に入ることにします。

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会話と作文

10月29日(火)

このところ仕事が滞っていて、今頃になって先週の水曜日にやった初級クラスの会話テストの動画を見たり、木曜日にやった中級クラスの作文の採点をしたりしています。

さて、その会話テストですが、2組の学生にやってもらいました。学生の受けがよかったのは、GさんとTさんのペアでした。しかし、私の目で見る(耳で聞く?)と、もう1つのCさんとRさんのペアの方に高評価をつけました。GTペアは動きがあって見た目は面白かったのですが、会話の内容が伴っていませんでした。一方、CRペアは、アクションは乏しかったものの、勉強した表現を使って会話を進めていました。

素人好みと玄人好みとの違いだとしてしまったら言い過ぎかもしれませんが、本当に上手な会話とは何かということぐらいは伝えていきたいものです。そして、その玄人好みを理解してもらえるように育てていきたいものです。私が作文の採点をしている中級クラスの学生がこの2組の会話の動画を見たら、どう判定するでしょうか。CRペアの方が、日本語会話が上手だと言ってくれそうな気がします。学生たちも、そのぐらいの実戦経験は積んでいるはずです。

そして、作文の方です。こちらも、言いたいことは伝わってきますが間違いが多い作文と、ミスは少ないものの薄味な作文のせめぎ合いがあります。後者は、今回の作文のテーマに対して明確な意見・考えを持っていなかったのかもしれません。あるいは、そもそも考えることが嫌いなのではないでしょうか。だとしたら、この先、進学した後で苦労するでしょう。そうならないように、鍛えていくのも、日本語学校の役割の1つです。

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曇り空でちょうどいい

10月25日(金)

朝早くは傘も要らない程度でしたが雨がぱらついていました。しかし、学生がぽつぽつ集まり始めた9時過ぎの葛西臨海公園は、分厚い雲に覆われていたものの、雨はすっかり上がっていました。最近は、下手に日が照ると暑くてかないませんから、考えようによっては、雨が降りさえしなければ曇り空でちょうどいいのかもしれません。しかも、風が弱いですから、BBQにはまさにピッタリです。

クラスの学生が集まってきましたが、見慣れぬ顔が2人ほどいました。声を聞くと、メガネを外したRさんと、マスクをしていないSさんでした。「教室とずいぶん雰囲気が違うね」と声をかけると、そこを狙っていたと言わんばかりの自慢げな顔をしていました。

今までのBBQは立川の昭和記念公園が多かったのですが、今回は葛西臨海公園です。配給される燃料が木炭を四角く成形したもので、今までとは若干勝手が違いました。コンロの空気孔の通りが悪く、そのため炭がなかなか燃えてくれず、火おこしに苦労しました。

Lさんは軍隊でこういうことはやってきたと、火の担当になってくれました。調理はアルバイトで腕を磨いているKさんが中心でした。慣れた手つきで材料を切ったり串を通したり調味料を振りかけたりしてくれました。焼くのは、材料を持ってきたみんなが協力して、ひっくり返したり炭をうちわであおいだりしながら面倒を見てくれました。

今回のBBQの料理コンテストは、ピザがお題でした。それを担当してくれたのが、Jさんでした。生地の上に材料を飾り付けて、焼いてもらいました。チーズとソーセージ、ベーコンなどが絶妙に絡み合って、コンテストの入賞は逃しましたが、おいしくいただきました。

そして、何より感心したのが、CさんとSさんが、焼くときは何もしていなかったのですが、食べ終わった後の器具を洗うのを引き受けてくれたことです。洗い場まで2往復してくれました。ゴミも、誰かが所定の場所まで運んでくれました。私が尻を叩くまでもなく働いてくれた学生たちには感謝しています。

食後は海を見に行きました。晴れていれば富士山がきれいだったろうにと思いましたが、あまり欲張ってはいけません。図らずして、他のクラスの学生たちも含め、ご歓談の時間になりました。授業中には見られなかった組合せでしゃべったりじゃれたりしている姿が見られました。

3時半に無事解散。月曜日はいつも通りに漢字の復習テストがあるんですが、ちゃんと勉強してくれますよね。

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シーズン到来

10月24日(木)

「先生、あと2週間ですよ、EJUまで。緊張します」「うん、緊張するのもわかるけど、Yさんは6月でいい点数取ってるんだから、その点数でどこか出さないの?」「出します。M大学とN大学とD大学に出そうと思っています。M大学は書類審査だけ、N大学とD大学は面接も筆記もあります」「そうか。D大学は独自試験重視だから、面接が大切だぞ」「そうですか。じゃあ、EJUが終わったら面接練習お願いします」

…なんていう会話をする季節になりました。Yさんには6月の成績で受かりそうなところに出願しておけと指示しておいたのですが、結局何もしませんでした。11月はもっと高い点が取れると思っているのでしょうが、Yさんぐらいの成績だと上積みするのが難しくなります。しかも、Yさん、先学期は6月の成績に浮かれてろくに勉強しなかったみたいですから、この期に及んで焦り始めて、それが緊張につながっているのでしょう。

今週はSさんの推薦書も書きました。Sさんは、直接受け持ったことはありませんが、いろいろなところで接触してきましたから、お引き受けしました。「推薦書に何書いてもらいたい?」と本人に直接聞いたら、出席率がいいこととう控えめな答えが返ってきました。でも、出席率が高いだけでは、推薦書は書けません。Sさんの一番の美点は、あふれんばかりの向上心でしょうかね。負けん気の強さと言ってもいいかもしれません。そういった気持ちに支えられて、外部試験でも高得点を挙げてきました。

私だけじゃありません。毎日、校内のあちこちで、T先生もK先生もO先生もH先生も、面接練習や進学相談をなさっています。留学生の入試は、今が入シーズンです。

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暗雲

10月22日(火)

先週の金曜日に行った中級クラスのテストを採点しました。明日が返却日ですから、もう先延ばしにすることはできません。覚悟を決めて採点を始めると、とんでもないことになっていました。

問題1は記号で答える穴埋め問題。最後の空欄に入りそうな言葉が2つありました。1つは記号Bであり、もう1つはFでした。多くの学生がBと答えましたが、正解はFでした。間違えた学生は、Bの言葉を見るや“これだ”と思ってBと書き、C以下は読まずに次の問題に進んでしまったのかもしれません。この問題、図らずして、ひっかけ問題になってしまったようです。

次は空欄を自分の言葉で埋める問題。こちらは接続の形がめちゃくちゃで点を落とした学生が多かったです。また、もうちょっと違った場面を思い浮かべてもらえたら正しい文が書けたのにという答えも目立ちました。学生たちの頭は意外と固いのでしょうかね。

最後の問題は統計資料を見てそれを説明する問題。資料の言わんとしているところを読み取り、それを文にします。まず、根本的にこの読み取りができない学生がいました。ただ単にグラフの数字を羅列しただけで、全く説明になっていませんでした。次に、読み取りはどうにかできたものの、それをうまく表現できないグループがあります。部分点をあげて少しでも救ってあげようとしましたが、救いきれませんでした。そして、読み取りも表現もできた学生たちです。こちらは採点していて気持ちがいいですね。

最後の組に大学や大学院に進学しようと考えている学生が集まっていれば理想的なのですが、残念な結果に終わってしまいました。このテストの成績もさることながら、こんなこともできないようでは、その学生たちの先行きに巨大な暗雲が垂れ込めてしまいます。今学期中にこの暗雲を吹き飛ばせるでしょうか。なんだか不安になってきました。

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作文よりスマホ

10月18日(金)

「先生、できました」と言って、Rさんが作文を提出しようとしました。まだ20分ほど時間があります。他の学生はまだ一生懸命課題に取り組んでいました。「もう一度読んで、間違いを1つでも減らしてください」と言って、原稿用紙は受け取りませんでした。

しばらくしてまたRさんの机まで行くと、原稿用紙を机の上に置いてスマホをいじっていました。原稿用紙を取り上げて読んでみると、1行目から漢字のふりがなに間違いがあり、「ょ」を前の字と同じマスに入れてしまっており、さらに助詞の脱落も発見し、とてもじゃないけどそのまま受け取れる代物ではありませんでした。それらの間違いを指摘して、同じような間違いがきっとあるから読み直して訂正しろと命じました。この時点でまだ10分以上時間がありましたが、読み直した様子はありませんでした。

まだ、Rさんの作文をきちんと読んでいませんが、おそらく細かい間違いが山ほどあることでしょう。文構造や段落構成に欠陥が見つかるかもしれません。となると、減点に減点が重なり、合格点が取れないおそれも十分に考えられます。例文レベルならなんとなくごまかせても、作文となると日本語を書く力の差は如実に現れます。

最大の問題点は、気持ちがスマホに行ってしまっていたことです。作文を書く際は、教科書やノートは見てもいいですが、スマホ禁止です。それに耐えられず、作文はいい加減に書いて、一刻も早くスマホの世界に入り浸りたかったのでしょう。

レベルの採点基準に沿って採点してみます。その結果、減点が多すぎて、赤点どころかマイナスの点になっても、その点数をRさんに突き返してやります。

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