Category Archives: 学生

さわやかな半袖

4月20日(木)

お昼過ぎにいらっしゃった数学のS先生は、いかにも夏という涼しげなスーツをお召しでした。「いや~あ、これでも汗かいてるんですよ」と、暑がりのS先生。日中の最高気温は26.0度で、今年最高でした。春になったと思ったら、もう初夏ですね。

日本語プラス・物理にやってきたLさんは、半袖のTシャツでした。その姿が全然寒々しくなく、さわやかでした。その隣でセーターを着ているPさんが暑苦しく見えました。でも、Pさん自身は汗をかいているわけでもなく、平然と授業を聞き、練習問題を解いていました。

私も冬物のスーツにネクタイですから、Lさんの目には重たい感じに映ったかもしれません。でも、最低気温16.5度を記録したのは、私が学校に着いた頃です。この気温だと、裏地のついているスーツでもおかしくないと思います。この時期は、気温の日較差が大きいのです。

物理では、電気抵抗を取り上げました。オームの法則やキルヒホッフの法則に勉強しました。半袖のLさんは、私の方を見ていないなと思っても、あとで回ると、私の配ったプリントに要点がきれいに書き込まれています。家へ帰ってから見てもよくわかるようにまとめられているのでしょう。いっぽう、Pさんは、腕を組んだまま微動だにせず私の話に耳を傾けています。後から書き込みのないプリントを見て、何か得るものがあるのでしょうか。聞いただけでわかったつもりになってしまうのが、一番怖いです。

明日の予想最高気温も26度です。明日は上着を脱いで教室に入ろうかな…。

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精進料理とは

4月19日(水)

中級クラスの読解のテキストに、“精進料理”という言葉が出てきました。ふりがながついていたので読み方はわかります。「精進料理はどんな料理か知っていますか」と聞くと、「肉がない料理」とか「お坊さんが食べる料理」とか、テキストに書かれている内容や辞書的な意味が返ってきました。

その答えでで「うん、そうだね」と言ってしまってもいいでしょう。でも、学生は「肉がない料理」と言えばサラダという反応をしているおそれがあります。そこは否定しておかなければなりません。

こういう時に便利なのは、やっぱりgoogle先生ですね。精進料理の画像検索をして、その結果をモニターに映し出します。検索結果の最初に出てきたのは、料理が美しく盛り付けられたお椀やお皿が数えきれないほど並んだ超豪華精進料理です。見た感じ、一人前1万円は下らないでしょう。教室内に小さなどよめきが沸き上がりました。でも、これは「お坊さんが食べる料理」じゃありません。

そこで、“永平寺”という検索語を付け加えると、永平寺の修行僧の朝食がモニターに大写しになりました。おかゆと漬物と塩とお菜が少し。「これが、お坊さんが食べる料理だよ」と紹介すると、超豪華精進料理以上の、何とも形容しがたい声が学生から漏れてきました。「それで満腹になりますか」「はい。毎日こういう食事を続けて、仏教のトレーニングをしていれば、空腹は感じなくなるそうです」(“満腹”“空腹”は先週覚えたばかりの単語)なんていうやり取りも通して、学生たちの頭に精進料理が強くインプットされたことでしょう。

このテキストのテーマは精進料理じゃありませんから、ちょっとした脱線なんですがね。1日に1回ぐらい、こんな驚きを味わう時間があってもいいんじゃないかな。

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ナトリウム?

4月18日(火)

今学期は6月にEJUがあるので、日本語プラスの受験科目は、それに合わせて授業を進めています。私が火曜日に担当している化学もそうです。

3時15分になり授業を始めましたが、学生たちが今一つすっきりした顔をしません。化学の受講生は直前まで数学の授業を受けていますから、疲れているのでしょう。…と思ったのですが、大事なことを忘れていたのに気が付きました。今、目の前にいる学生たちは今学期から受講を始めたのです。それなのに、元素の日本語名をまとめたプリントを配っていなかったのです。いきなり水素とかナトリウムとかと言われたって、何がなだかわかりませんよね。すぐに職員室に戻って、プリントを持ってきました。

水素をはじめ気体の元素は、中国語では「气」にいろいろなパーツを入れて表します。「羊」を入れれば酸素、「炎」なら窒素です。水素は、「圣」です。ついでに、元素ではありませんが、「安」だとアンモニアになります。それぞれ何と発音するかわかりませんが、日本語と同じだとは到底思えません。

ナトリウムは、もともとはドイツ語です。英語では「sodium」(ソディウム)です。ですから、英語が話せても、「ナトリウム」からすぐに「Na」を思い浮かべることはないでしょう。

元素名のプリントを配ったら、学生たちはだいぶ線がつながったようです。文法的にやさしい日本語でしゃべっても、水素やナトリウムは言い換えられない場合も多いです。「エイチ原子」なんて言うと、かえってわかりにくいみたいです。

大学の授業は日本語で元素名を言うはずですから、今から覚えてもらいます。

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漢字は苦手です

4月17日(月)

漢字のテストがありました。不合格者が3人いました。その3人は全員中国人でした。先学期の私のクラスも、漢字テストで不合格になるのは中国の学生ばかりでした。中国の簡体字と日本の漢字が微妙に違うことも原因の1つとして考えられるでしょうが、それだけで合格点(60点)にはるかに及ばない成績しか取れないことは説明できません。

ひとことで言ってしまえば、勉強していないのです。「教育」の読みを「きょいく」と書いたというのであれば、きちんと勉強していなかった、正確に覚えていないのだろうと思います。あるいはうっかりミスかもしれません。しかし、全く何も書いてないとなると、勉強してこなかったとしか思えません。空欄が1つか2つなら、度忘れという線もありえますが、解答欄の半分ぐらいが真っ白となると、勉強せずに受けたと結論せざるをえません。不合格の学生たちは、空欄が多かったのです。

この学生たちも、大学や大学院に進学したいと言っています。しかし、こんなにまで勉強していなかったら、進学先の授業についていけないでしょう。漢字の勉強だけでなく、勉強全般が嫌いだとしたら、進学する意味などありません。別の進路を探るべきです。勉強ではなく、努力を厭う気持ちがこの学生の心に巣食っているとしたら、人間として根本から鍛え直す必要があります。ここまでくると、私たちの手に余ってしまいます。

このテストで一番成績がよかったのは、アメリカの学生でした。韓国の学生も押しなべて好成績でした。もちろん、中国の学生だって何名かは高得点を取っています。しかし、かろうじて合格のもう3名も含めて、中国の学生の不振が目立ちました。国で漢字を使ってこなかったアメリカや韓国の学生がどれだけ努力をしているか、不合格の3名と土俵際だった3名は見習うべきです。先学期の私のクラスの漢字テストで不合格常連だった学生の末路を見れば、このままでは明るい将来などなことは明らかです。

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うつむく学生たち

4月15日(土)

聴解系の問題をするときには、メモを取るのが定石です。こちらもそういう指導をしています。また、学生もそれが当然という顔をして問題に取り組みます。大筋でだれが何を言ったかぐらいなら、メモなしでも答えられるでしょうが、細かいところまで突っ込んで聞かれると、メモがなければどうしようもないでしょう。

日本語+で、EJUの聴読解・聴解の過去問をやりました。ダメ押しのつもりで、始める前にメモを取るように指示しました。しかし、メモを取ったのはごくわずかで、大半はうつむいて必死に耳を傾けていました。真剣に問題に取り組んでいる様子は伝わってきましたが、だからと言って問題に答えられるわけではありません。案の定、そういう学生の正答率は半分ほどでした。

EJUの聴読解・聴解は、先生が一方的にしゃべり、その内容について問うというパターンが多いです。大学の講義を意識したものですから、ノート=メモを取るのは当然です。たとえ国の言葉を使ったとしても、メモを取る力も聴解力の一部だという発想でしょう。これはその通りだと思います。学術的な話を聞き取って理解することは、大学生の主たる仕事だと言ってもいいでしょう。これができない留学生が日本の大学に門前払いを食らったとしても、文句は言えません。

今学期のこの授業は、今回初めてEJUを受ける学生が主力です。初級あたりの聴解ならメモなしでもどうにかなったのかもしれませんが、EJUといく大学入試の端くれとなると、そうは問屋が卸しません。メモが取れずにうつむいて聞いていた学生たちは、壁を感じていたのかもしれません。壁を感じていようといなかろうと、あと2カ月で本番です。

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遅れてきた有望株

4月14日(金)

Cさんは、事情があって遅れて入国してきた新入生です。午前のクラスの授業後に、通常の日程で入国した学生たちはすでに済ませている日本語+のオリエンテーションをしました。大学院進学を目指していますから、研究計画書作成など、個別指導に関する説明が主でした。

楽でしたね。まず、こちらの言うことを一発で的確に理解してくれますから、話がトントントンと進みます。言葉のレベルを落としたり、具体的な例を示したり、筆談に及んだりなどということなく、説明が通じました。また、ノートを取っていましたから、要点をつかんでいることもよくわかりました。そして、Cさんが発する質問が実に的を射ているんですねえ。私が次に説明しようと思ったことを聞いてきたり、最重要ポイントを再確認したりという調子で、無駄な質問がありませんでした。こうまでスムーズにわかってもらえると、話すつもりのなかったことまで話してしまいます。Cさんの立場から見ると、理解が早いおかげで、他の学生が得られなかった情報まで手にできたということになります。

Cさんは、物事をてきぱきと進められるという意味で、頭のいい人だと思いました。それもそのはずです。国の大学を出てからしばらく、日本人なら誰でも知っている会社に就職し、最前線でバリバリ仕事をしてきたのですから。その経験から研究したいことが出てきて、日本の大学院に進もうとKCPに入学したという次第なのです。

志望校までは聞きませんでしたが、きっと説得力訴求力のある志望理由書や研究計画書を書くことでしょう。大学院の先生方にも好印象を与えることは疑いありません。来年の今頃は、どこかの大学院で研究を始めているに違いありません。

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どんな勉強?

4月13日(木)

昨日のこの稿で取り上げたHさん、数学のS先生によると、数学に関しては先学期から勉強しているPさんやWさんよりよくできるそうです。理系の数学が難しすぎるのではなく、本当に基礎を再確認したいのかもしれません。私の担当している物理も、解けると思った問題が解けず、前に戻って勉強し直すと言っていました。

学生は、とかく先へ先へと進みたがります。わかったつもりを繰り返したあげく、基礎がガタガタのまま、入学試験のような範囲の広い試験を受け、跳ね返されることがよくあります。「間違えた問題は間違えなくなるまで何度でも解いてみること」と言うと、Pさんは「同じ問題を何回も解きますか」とびっくりしたような顔で聞き返してきました。「日本の受験生はみんなそうしているよ」と答えると、不思議そうな顔をしていました。

Hさんがそういう学生ではなく、やり直しを厭わず勉強していくのなら、今後に希望が持てそうです。6月のEJUに間に合うかどうかは微妙なところですが、確実な前進を積み重ねれば、いずれ大きな力を身に付けるに違いありません。日本語も、過剰に未知への挑戦を続けるようなことがなければ、きっと芽を出しますよ。私たちも、そういう発想でHさんを指導していくことを考えるべきかもしれません。

ただ1つだけ気になるのは、「公式を覚えます」と言っていることです。公式を覚えれば、あるレベルの問題までは解けるようになります。しかし、公式のよって立つ原理や自然現象などを切り捨てて暗記にばかり走ると、それ以上の問題には太刀打ちできませんし、ましてや進学してからの勉強においては戸惑うばかりでしょう。そういうところも含めて、見守っていくつもりです。

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やっぱり日本語力?

4月12日(水)

文系数学の日本語+の授業を終えて一息ついていると、Hさんに呼び出されました。Hさんは今学期から理系の数学と物理、化学の日本語+の授業を受け始めた学生です。昨日の化学は、顔をゆがめながら私の話を聞いていましたから、受講を取りやめたいという相談かもしれません。

出て行って話を聞くと、理系の数学のほかに、数学の基礎の勉強として、文系の数学も受けたいと言います。基礎というと、つい先ほどまでやっていたクラスは、先学期から受講している学生対象ですから、Hさんの意図する授業内容ではないでしょう。かといって、月曜日のクラスは今週から始まったクラスで、基礎の基礎をやっていますから、理系志望の学生にはどう考えても易しすぎます。

そういうことを伝えてみたのですが、どうも伝わり方がよくありません。半分筆談になってしまいました。とりあえず、来週月曜日の授業に出てもらうことにしました。

そんなことがあってからしばらくして、A先生が「この学生は午後のクラスに戻した方がいいと思いませんか、金原先生」と、ある学生の例文ノートを持ってきました。見ると、確かにひどい間違え方です。午後クラスに差し戻すという判断もありでしょう。で、その例文ノートの名前を見ると、Hさんではありませんか。ということは、理系数学のS先生の日本語が難しすぎてわからなかったのかもしれません。昨日私の授業で顔をゆがめていたのも、理解するのに悪戦苦闘していたのでしょう。

理系の授業は数式や反応式など、日本語以外でどうにかなる部分もあります。しかし、根幹をなすのは日本語の資料を読んだり、教師の日本語の話を聞いたりすることです。Hさんの日本語力では難しすぎたのでしょうか。Hさんだって、来年の4月には進学しなければなりません。日本語力を養ってからなどとのんびり構えている暇はありません。

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違いがわかる

4月11日(火)

火曜日は上級のクラスです。顔と名前が一致する学生が半分くらいいましたから、昨日のクラスよりはいくらか気が楽でした。

「みなさんは今学期から上級クラスになりましたが、このクラスの上に、もっと上級のクラスがあります。そのクラスの学生とみなさんの日本語を比べると、読解も文法も会話もすべてあちらのクラスの方が上ですが、何が一番大きく違うと思いますか」と聞いてみました。当然のごとくいろいろな答えが返ってきました。

「知っている単語の数、使える単語の数が一番違います」と言うと、意外そうな顔をする学生はあまりいませんでした。上のレベルの学生たちは、抽象概念を表す単語が自然に出てきます。同じ単語を私のクラスの学生が発すると、気負ってるなとか、ネットで見つけたのをそのまま言ってるなとか思ってしまいます。

同じことが、このクラスの学生と昨日のクラスの学生の間にも言えます。ほんの入り口とはいえ上級クラスですから、日本語学習歴で半年ほど差のある学生に対しては、語彙面で差をつけています。複合動詞などがひょこっと出てくると、中級とは一味違うなと思ってしまいます。1~2分ほどのニュースを聞かせてみたら、大部分が理解できたみたいでした。頭の中に蓄積された語彙が多いからこそ、聞いてわかるのです。まあ、事前に多少種をまきましたけどね。

授業の最後に「んです」を取り上げました。「んです」は初級で勉強する文法事項ですが、定着するのは上級になってからです。「んです」がどのくらい過不足なく使えるかで、その学生の実力が推し量れるとさえ思っています。残念ながら、このクラスの学生の「んです」は、上級とは言いかねます。今学期の強化のポイントは、この辺にありそうです。

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人は第一印象?

4月10日(月)

やっぱり、学期の最初の授業、しかも顔見知りの少ないクラスとなると、緊張するものです。4月期は、顔見知りの大半が卒業してしまっているので、毎年緊張もひとしおです。

月曜日のクラスには、先学期数学や理科を教えた学生が3人います。もう1人、2か月ほど前に説教をした学生もいます。それから、卒業式の演劇部の発表で一緒に練習した仲の学生が1人。顔を知っている学生は5人いましたが、親しく話をしたことがあるのは2人だけです。他の学生たちは、ほぼ初顔合わせです。また、顔を知っているとか、話をしたことがあるとか言っても、日本語力まではわかりません。授業の時に戦力になるかどうかは、全くの未知数です。ですから、全員に対してお手並み拝見というのが、最初の授業です。

学期はじめは自己紹介タイムがありますから、これが各学生の日本語力を推し量るのに役に立ちます。全員のを聞いて、これはと思えたのは、Tさん、Nさん、Cさん、Sさんなど、クラスの半分弱。ちょっとひどいなと思ったのは、Jさん、Zさん、Pさんあたりでしょうか。授業中に書いてもらった例文を見ても、Tさんたちは、間違っているにしても意欲的ですが、Jさんたちは教科書の例文をちょっといじってお茶を濁したという感じです。

初回の授業で、つまりは第一印象でクラスの学生を判断してはいけません。でも、クラスの授業を形作っていくうえでは、そういう情報も必要です。もちろん、この第一印象が学期の最後まで変わらないというわけではありません。「第一印象は悪かったけど…」という学生もいれば、竜頭蛇尾的な学生もいます。

教師の方だってそうですよね。第一印象が「いい先生」でも、だんだん評価が下がっていったのでは、信頼関係は築けません。このクラス、3か月後はどうなっているでしょうか。

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